始まった改革
「おらー! そこー! 手ぇ止めんなぁぁぁぁぁぁぁ!」
フランの声がこだます。
「よっしゃー、棟上げんぞぉぉぉぉ! 気合い入れろ、テメェルァぁぁぁぁぁぁ!」
「「「はい! 親方!!」
もはや怒号にしか聞こえないフランの怒鳴り声に、見事なシンクロで答える作業員たち。
フランたち建設部隊は、ちょうど冒険者の宿舎を建てているところだ。
手際よく進めてくれるお陰で、工事の進捗状況に問題はない。
あとひと月もすれば、内装も完了するだろうとフランは言っていた。
それに、材木は小早川殿が持ち前の剣術を活かして加工をしてくれている。
加工するたびに、
「またつまらぬ物を斬ってしまった……」
と言うのは、もはや口癖のようだ。
「いやぁ、面白い連中がこの領地にはいるんだねぇ」
俺は現場を見渡せる小高い丘に座り込んで、その様子を眺めていた。
現場は迷宮の入り口周辺の、開けた場所だ。
ここを中心に、今使っている宿舎に冒険者ギルドが入る官舎。
商店などがメインになってくる。
そこを一望できる場所に踏ん反り返って座っていると、背中から声を掛けられた。
最近よく耳にする声だ。
俺は振り返った。
「また来たんですか? 皇子様」
そう俺に声を掛けられた主。
ナザール帝国第三皇子のユリシーズが、そこに立っている。
「そんな言い方ないじゃないか。工事の進捗状況の確認は私の責務でもある。何せ、私が父上に話を通したんだからね」
俺の余計な一言にユリシーズは肩を竦め、ニヤリと笑みを浮かべていた。
「そうですね、そうでしたね。あなたのおかげでしたね」
俺は彼の言葉にぶっきらぼうな返事した。
「ジェド、どうしてそんな不愉快そうな態度を示すんだい? 私が何か気に触ることをしたかな?」
「不愉快って、ねぇ! 皇子様! 自分の胸に手を当てて聞かれたらどうです?」
「ふむ、自分の胸……、んー……………」
そして皇子は考える。俺はそこで気がつく。これ、ダメなやつじゃんって……
「 ダメだ、何も思い浮かばないぞ?」
と、涼しい顔でそう言う皇子様。
くはーー、やっぱりか……
「まぁ、そんなことより」
「そんなことよりって、どんなことよりですか!?」
「そうイキむなよ、ジェド。たまにしか来れないんだ。羽を伸ばさせてくれ」
と、空に向かって気持ち良さそうな体を伸ばすユリシーズ。
たまにって……、今回で三回めじゃないか!
ひと月に三回も視察に来るって、アホじゃないか!?
俺は涼しげな表情で作業現場を眺める皇子を睨みつける。
が、当の本人はそんなことは気にせず、ただただ、その光景を眺めているだけ。
何考えてんだか……
「なぁ、ジェド」
うわーっと!
し、しまった! もしかして心を読まれたか!?
慌てて皇子から顔を背けると、皇子はハニカミながら話し掛けてきた。
「君は、ワクワクしないか?」
「……は?」
「私はワクワクするんだよ。この辺境の、それも最果ての地が、我々の想像を超える発展を遂げようとしている。いや、まだまだ発展するに違いない!」
「……皇子?」
すると、ユリシーズ皇子は目の前に広がる、いずれ大きな街になるであろう建物の偶像たちを指差した!
「見ろ、ジェド! 君たちが切り開いたんだ! この最果ての地を、最高の領地にするための道筋を!」
「え、あ、あぁ、……はぁ(なんだ、このノリ? ちょ、ちょっとついていけねぇ……)」
「さぁ、行くぞ! このアルブラム領の未来を、共に切り開こうではないか!」
……て、手を差し出されてもさぁ。
もう切り開いちまってんだけどなぁ。
なんか面倒くせぇノリだな、この皇子様は。
あ、そうか。
第三皇子っていったって、皇位継承権はないのか。
てことは、地力で未来を切り開くしかないってことか。
ん?
ちょっと待てよ。
てことはだぞ。
俺たちはこの皇子様の将来を安泰させるために担がれたってことか?
……そうなのか?
どうしよう?
大して強くなさそうだから、今のうちにバイゼルに頼んで殺っとくか?
あのバイゼルなら、多分できる。
殺れる。
そうすれば、きっとーー
ーーきっと。
バイゼル。
君だけが頼りだバイゼル……
「って、バイゼル!」
「はぅあ! ご当主!?」
「人の考えてることを勝手に想像して変なふうに捻じ曲げないでくれるかな? それも、耳元で!」
「な、何のことでございましょう?」
「間違っても皇子だからな? 殺っちゃわないからな?」
「このバイゼル、ご当主のことを少しばかり見損ないました」
「見損なわなくていい! 皇子は協力的じゃないか! このまま仲良く付き合っていけばいいことあるに違いない!」
「……面倒くせぇ奴って、思っていましたのに?」
「そ、それは言わない約束だ……」
「ジェド! 今日は祝杯だ! 帝都から酒はたらふく持ってきた! 領地の民たちと飲み明かすゾーーー!!」
こうして始まった、アルブラム領の大改革。
迷宮周辺の開発を終え、迷宮探索を解放すると、領地はあっという間に栄えていった。
迷宮はその難解さと宝物、魔物のドロップしたアイテムの品質が良く、金も稼げる。
なんて口コミが広がって、連日の大盛況だ。
もちろん色々な問題も浮上してきたが、その都度解決してきたから、ノープロブレム!
何より、この領で飢えに苦しむ者はほぼいなくなった。
民が食いっぱぐれないってのは、良いことだ!
だけど、まだまだ俺の理想とする発展には程遠い。
もっともっと、領地を発展させるぞーー!
改革は始まったばかりだ!
ーー
ーー三年後。
アルブラム領はナザール帝国随一の領地へと発展を遂げる。
さらに言えば、この発展がきっかけでナザール帝国との戦いの火蓋を切ることになるのだが、この時は誰もそんなことを考えもせず、ただ、領地の発展を喜ぶのであった。
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