やっちまったぜ、バイゼルさん
iPhoneで入力してますが、文字変換が不便です。
思ったとおりに変換しねぇし!
バイゼル、頑張れ!
「勘違いしないで頂きたいものですな。あの迷宮は帝国のものではなく、このアルブラム領のものであるということを」
バイゼルの目がピカーンと輝いている!
そして、とんでもないことを口走ってないか?
いやま、たしかに迷宮はこのアルブラム領にあるのだけれども……
けれどもだな。
バイゼルはどうしたんだ?
帝国と喧嘩でもしたいのか?
そんな物言いしてたら、奴らも黙っていないんじゃ……
「だが! どの領地でも出土した迷宮の権限は帝国へ譲渡しているのだぞ!」
「そうだ! 我々は前例に則って交渉を進めているのだ!」
「そちらこそ、自分勝手な物言いを慎まれたらどうか! 我らの言葉は皇帝陛下のお言葉でもあるのだぞ!」
あぁ、ほらやっぱり……
どいつもこいつも、口火を切ったらやいのやいのと騒ぎ始めやがった。
烏合の集ってのは凄いなぁ。
一人じゃ何も出来ないくせに数が揃うと騒ぎ始める。
バイゼルが焚きつけたってのもあるけど、どう治めるつもりなんだこれ?
「ふん、何が前例ですか。どうせ、あれこれ言って口答えした者たちを権力で縛ってきただけでしょう」
そして、バン! とバイゼルは机を叩いた!
「権力など笑止千万! 所詮はただの付け焼き刃! 我らと交渉したければ、それなりの具体案を持って来なさい!」
おぉー! バイゼル、すごいなぁ!
乗ってるねぇ、けど、ちょっと向こうさんの顔色がヤバくないかなぁ?
大丈夫? この状況?
「言わせておけば……、この老害が!」
ひとりのハゲ散らかした貴族が立ち上がった。
バイゼルの目に負けないくらい、ペカーンと光ってるぜ!
「貴様! 我らに物申すと言うことがどう言うことか分かっておるのだろうな!」
ハゲの横の痩せっぽちが立ち上がってそう言ってきた。
すると、それにならって、他の貴族もやいのやいの言い始めた。
こ、これはかなりマズイんじゃないの!?
「先程からの発言は皆、皇帝陛下を侮辱するものとなるぞ!」
「失礼千万! 我々は皇帝陛下の命を受けてこの場に馳せ参じているのだ!」
「皇帝陛下の、この国を良くしたいというお気持ちが分からぬのか!」
「辺境の地の領主ごときが、皇帝陛下の命に逆らうとは、何事かぁぁぁぁぁ!」
虎の威を借る何とやら。
二言目には「皇帝陛下」か?
言ってて恥ずかしくないのかね、こいつら?
しかし参ったな、これは。
これもバイゼルの計画のうちなんだろうけど。
「なぁ、バイゼル……」
俺はさりげなくバイゼルを見上げてみた。
「……!?」
バイゼルはカッとその細い目を見開き、不動の姿勢のままだ!
さすがだ、バイゼル!
いや待て、バイゼル!
ーーその、その汗はなんだ?
額から首から、強いて挙げれば握った拳もプルプル震えているじゃないか?
拳だけじゃないぞ、体も僅かながらだが震えている?
これはどうしたことだ!?
は!
ま、まさかバイゼル!?
これはもしかして……
「バイゼル、もしかしてウ◯コしたいのか?」
行かせてやりたい。
だが、今は大切な交渉の場に俺たちはいる。
俺も領主のはしくれ、TPOはわきまえなければならない。
それにお前がいなきゃ、俺は何も出来ない。
我慢の限界を超えて仮にだが漏らしてしまったら……
その時は俺がなんとかするよ。
「ご当主……」
「どうした、バイゼル?」
「未だかつて、これほどご当主の頬を張り倒したいと思ったことはございません」
「バイゼル、せっかくだがそれはノーサンキューだ」
「付け加えれば、これほどまでに狼狽えたこともございません」
「ん?」
バイゼルの言葉に、俺は首をひねった。
「狼狽えた……って? どゆことかな?」
「申し訳ございません、私の準備が足りませんでした。まさか、これほどの騒ぎになるとは……」
バイゼルはそう言いつつ、目の前の光景から目を離していなかった。
俺たちの目の前では、今まさに、帝国の腐れた貴族どもがギャースカ喚いている。
その凄まじいことと言ったら……
まるで怪物のごとく、か。
冒険者ギルドには、こいつらの討伐依頼はないのだろうか?
そしてバイゼルの気になる発言。
狼狽えている。
それすなわち、想定外ってことね。
ははは……
合掌……
「バイゼル……?」
「申し訳ございません。今しばらくお時間を」
「俺は待てるけど、こいつらは待ってくれなさそうだぜ?」
「そうでしょうな……、この際、こやつら全員の首を掻きましょうか? 多少血を流せば、血の気も失せて大人しくなるのでは?」
「大人しくなる前に死ぬからやめて。物騒なこと言わないで。ただでさえ収拾付かなくなってるのに」
「うむむ……」
マジでガチの想定外。
まさかバイゼルが詰まるとは……
と言うより、バイゼルが勝手に煽った結果なんだけどな。
何とかしろよお前。
それにしたって、正直、俺もこんな場を収める術は知らないしなぁ……
もしかして、これは帝国側の手法なんじゃない?
シノゴのゴネられて行き詰まったら倍返しにするとかさ。
ありえるな、どう見ても頭悪そうだもん、こいつら。
能のない烏合の集だと思ってたのに、頭数を揃えりゃ、馬鹿みたいに騒ぐってか。
皇帝陛下って名前だして喚き散らせばどうにでも収められるってか?
そうやって権力を見せつけて相手の動きを封じるってことか?
参ったね、こりゃマジで迷宮を封印するかなぁ……
なんて俺なりに色々考えている時。
「待て待て、皆落ち着け」
喚き立てる貴族たちの後ろから、パンパンと気持ちの良い手拍子が、数回挙がった。
この騒動の中でそれは蚊の鳴くような声音にも関わらず、貴族どものどよめきがあっという間に引いていった。
「ん?」
「これは?」
俺は眉をしかめ、バイゼルは吹き出す汗を拭った。
て、どんだけ汗かいてんだよ?
きったねぇ! ピチャピチャ飛沫が飛んでんじゃんねぇ!
俺たちの前にひしめき合っていた貴族どもの声が止み、その奥からひとりの男が姿を現した。
やや癖っ毛の赤みがかった髪質は、整った顔立ちを幼く見えさせる。
かと言って子供というわけではない。
背は恐らく俺より少し高いくらいか。
良く通る、澄み切った「いい声」をしているな。
悔しいがこの男。かなりのイケメンだ。
彼は俺たちの前に立つと、右手を自分の胸に起き、僅かに頭を下げた。
「恥ずかしい姿をお見せしてしまった。お詫び申し上げる」
彼がそう言うと、また貴族どもが騒ぎ始めた。
だが、様子が変だ。
連中、何かあせっているような素振りに見えるぞ。
「静まれ、皆。我らは皇帝陛下の命によってこの場に赴いている。これ以上の醜態は陛下はおろか、目の前の領主殿にたいする侮辱ともとれる」
その良く通る、澄み切った「えぇ声」で彼がそう言うと、潮騒が引くかのように静かになった。
なんだ、こいつ?
何者だ?
「申し遅れました。私の名はユリシーズ」
俺たちに振り返り、彼は爽やかスマイルでそう名乗った。
ユリシーズ、はてユリシーズ?
どっかで聞いたことあるな。
「ユリシーズ・フォン・クスリナーダと申します。よろしく、ジェド・アルブラム殿」
そう言って差し出された手を、俺は慌てて立ち上がって握った。
何だろう、この自然なまでの威圧感は?
こいつから感じるのは、滲み出ているのは一体何だろう?
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
バイゼルーー!
いきなり大声出すな! 耳が痛いぞ!
「あーーー! あなた様わぁぁぁぁぁぁぁ!」
だーかーら、騒ぐなぁぁぁぁぁぁ!
耳が痛いわぁぁぁぁぁぁぁ!!
「お、お、お、お、お、おうおうおう!」
バイゼルは彼を指差しながら雄叫びをあげている。
て、何の真似だよ、それは? オットセイかお前。
大袈裟な……、狼狽えすぎて頭がおかしくなったのか?
「お、お、お、皇子様ぁぁぁぁぁぁ!」
ん? 皇子様?
俺はバイゼルに走らせた視線を、未だ握手している彼に戻した。
うん、相変わらずニコニコしてる。
「あ、バレちゃいました? 偽名つかったのになぁ」
あ、そうなんだ、偽名なのか。
ところで、バイゼルの言葉が気になりますよ。
皇子様って、何かな?
「バレたら仕方ないですね。私の名はユリシーズ・フォン・ナザール。ナザール皇帝の三男です」
偽名とたいして変わらねぇ本名だな、おい。
三男か、皇帝の……
ーー三男!?
「第三皇子の、ユリシーズです。以後、お見知り置きを」
そう言って握手しつつ、第三皇子ははにかんだ。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
これからもどうぞ、よろしくお願い致します!




