俺と奥様と、紙切れと
よろしくお願いします。
「あー、どうすっかなー……」
部屋に戻り、取り敢えずいそいそと荷物を纏めていた俺だったが、ふと今後のことが気になり、手が止まった。
思い返してみると、これまで自分で選択して決めてきたことってあるだろうか?
大した素質もないのに半ば強制的に魔法学校に入れられて。
素質がないから成績なんて下の下だったし。
ギリッギリだったが、なんとか単位を取って魔法学校を卒業して。
意気揚々と田舎に帰ろうと思ったら、父親が今後の肩書きのために宮廷魔導士になれって言い出してさ。
嫌だって言っても、もう申し込みはしたとか言われて試験を受けさせられるはめになって。
落ちるつもりで受けたのに、まさか合格するとはねぇ。
受かったのが奇跡かって思うくらいの難問だらけ。
なりたくてなった宮廷魔導師じゃないけど、やっぱそのネームバリューは凄かったなぁ。
宮廷魔導士の制服は特徴のあるものだから、それ着て街に出るだけで一目置かれたしなぁ。
どっかの飯屋なんて、
「お代はいらねぇ!」
なんて……言い過ぎか。でも、代金を結構割り引いてくれたし。
何人かで歩いてると、女の子たちにキャーキャー騒がれたこともあったし。
仕事は厳しい分、給料は良かったしなぁ。
ーーあれ? そもそも俺は何で解雇にされたんだ?
そりゃー、多少は素行が悪かったのは認めるけれども。
女風呂覗いたり、女性の更衣室を覗いたり、階段を見上げてスカートの中を覗こうとしたり……
魔法術式の解読に時間を費やして「遅い!」てどやされたり、街でナンパしたらそのまま路地裏に連れてかれて囲まれたり。
あれ?
思い返すと、思い当たる節って結構あるのか?
それにしても、いきなり呼び出しといて「お前はクビだー!」なんて、どこのブラック企業だよ?
そういや、先輩に出身を聞かれて、親父が最果ての地の領主やってるって言ったら、すげー白い目で見られたよなぁ。
あれって、言わない方がいい類の話題だったんだな……
まぁ、もうあの先輩には会わないからいいか。
しっかし、明日からどうするかなぁ?
部屋も新しく決めないといけないし、仕事だってなぁ。
ギルドでも行ってみるかなぁ。でも、攻撃魔法も回復魔法も碌に使えないヘッポコ宮廷魔導士が冒険者なんて、どこのパーティが拾ってくれるやら……
唯一まともに使えるのが補助魔法だからなー。
我ながら、あまりの素質の無さに笑えてくるわ。
なんて考えるうちに、ベッドに横になった。
ギシリとマットレスが音を鳴らす。
乾いた音が、寂しい室内に響き、一層虚しくなった。
「はぁぁぁ……」
もうため息しか出てこない。
取り敢えず、僅かな貯金と退職金(まさか出るとは思ってなかったが規定らしい)があるから当面は宿屋暮らしだなー。
なんかいい仕事あるかな?
このまま野垂死にはやだなー……
ーーコンコン。
あれ? 誰か来たのかな?
ノックの音がしなかったか?
俺はベッドから体を起こすと、部屋のドアまで行ってドアを開けた。
「あらん、ジェド君、いたらお返事してよぉん」
ドアの向こうには管理人の奥さんが立っていた。
この奥さん、いい年なんだけどフェロモンがぱネェのよね。
いっつも、胸元バーン! て開いたワンピースしか着ないから谷間見放題だし。
付け加えると、ニップなパッチも浮かんでる。
足元なんてスリット入ってるから太ももめちゃ見えてるし。
それに、やたらと良い匂いがする。
なんて言うの? オンナの香りとでも言いましょうか。
仕草にしてもいちいちクネクネしてるし、エロいし。
もう、誰彼構わず誘ってるとしか思えない。
年代が被ったら正直自我を保つのは難しかったかも。
そんな奥様は、クネクネしながら何やら俺に差し出してきた。
「はぁい、ジェド君」
渡されたのは一枚の封書だったのだが、どうしてそれが豊満な谷間から出てきたのだろう?
と言うよりも、何故そこに仕舞う必要あったのか?
……これはミステリーだ。
「あ、ありがとうございます」
「いいぇ〜、明日には出て行くのよねぇ、寂しいわぁ」
と投げキッスと共に奥様はクネクネと去って行った。
奥さんの背中を見送ると、俺は扉を閉め、封書に視線を落とした。
確かに俺宛で、しかも速達と書かれている。
封書の蓋には、実家の印が押されていることから、リターンアドレスが見当たらないが、どうやら実家から送られてきたようだ。
俺は封書の封を切り、中身を取り出した。
フワリと奥さんの香りが漂ってきたのは言うまでもない。
そして、中から現れた一枚の紙切れを開き、俺はそれにサッと目を通す。
途端、俺は身体中の力が抜けていくのを感じた。
「ーーう、うそ……だろ?」
そこにはこう記されていたのだ。
チチ、キトク。ーーと。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
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