貯水池が枯れた原因を探れ!
貯水池の枯れた原因は、果たしてなんだったのでしょうか?
「マ、マジか……?」
俺はトム君に連れられ、例の貯水池に足を運んだのだが……
目の前に広がる光景に愕然としてしまった。
「な、水がねぇだろ?」
トム君は腕組んでため息つきながら、目の前の光景を眺めている。
「朝起きてから水路の様子を見に行ったんだ。そしたらよ、水が流れてねぇもんで、兄貴が月一回のアレをサボったと思って貯水池を見に来たらこの有様よ」
ちょっと、トム君。
人聞きの悪いことを言うな。
月一回のアレって、ちょっと表現がアレじゃないか?
その、何というか、良くない表現に聞こえるぞ。
っと、その前に、だ。
どうしてこうなった?
「一体何がどうして? ……んん?」
干上がった貯水池の底を見ると……
「うっそ!? マジかよ!?」
と俺は叫びつつ、貯水池の中へと飛び降りた!
「おおぉ、ちょっ、まーてーよ兄貴!」
トム君も慌てて俺を追いかけて来たようだ。
二人揃ってなだらかな貯水池の壁を滑り落ち、底に着く。
着くなり、その中央に向かって猛ダッシュだ!
俺とトム君が向かった先は、貯水池の中心。
魔力結晶が鎮座している台座である。
「おいおい、兄貴! これはなんなんだ?」
「これはなんなんだって言われても……」
トム君は驚いているようだが、俺は困惑している。
だってあり得ないんだ。
魔力結晶が砕け散っているだなんて……
「なぁ、兄貴。これって結構あることなのか?」
トム君は足元に飛び散っている結晶のカケラを拾いつつ、俺に聞いて来た。
俺は首を横に振った。
「あり得ない! 魔力結晶は魔力を貯めておくものだ。普通の使い方をしていて、こんな風に砕け散るなんてことは、まずない!」
「不良品だったんじゃねぇか? 元からヒビでも入ってたりとか?」
「それもない! 俺が使う魔力結晶は、帝都でもトップクラスの魔道具屋から仕入れているんだ! あそこの店長が粗悪品なんて取り扱うわけがない!」
俺はそう言い切るが、トム君は半信半疑と言った表情をしている。
「なぁ、兄貴。なにごとにも間違いはあるだろ? その魔道具屋だって完璧じゃねぇ。粗悪品の一つや二つ、棚に並ぶことだってあるんじゃねぇか…….?」
「そんなこと言ってたら信用されないだろ。商売は信用が第一だ。俺がいつも行く魔道具屋の店長は、扱う商品の品質にはとりわけ厳しい性格だ。こんなこと言ったら、すぐにでも首吊っちまう」
とは言っても、実際に魔力結晶は粉々だ。
これを目の当たりにしたトム君の言うことも、強ち間違いではないだろう。
だがなぁ……
「しかし……、あの店長に限って……」
俺は腕組んでうな垂れた。
長年の付き合いがあるからなぁ。
出来れば、粗悪品とかあって欲しくはないんだがなぁ……
「そんなことはなぁ……」
「だったらよ、他の可能性はないのかよ? 粗悪品だけが理由じゃねぇんだろ、これは」
そう言って、トム君は足元に散らばるカケラに目を向けている。
粗悪品だけが理由じゃない。
確かに、トム君の言う通りだ。
他にも考えられる理由はある。だが、可能性としてはかなり低いものだ。
「あるにはあるんだが……、果たしてどうかってところだなぁ」
「どんな理由だよ?」
「キャパオーバーだ」
「キャパオーバー?」
「そう、魔力結晶は、確かに魔力を貯めこむことはできるが、その量には限りがある。ランクで変わるんだが、今回俺が用意したのはそんなに多くは貯められないタイプの魔力結晶だ」
「よく分かんねぇよ」
「よし。じゃぁ、コップだ。コップに酒を注ぐだろ? 入れ過ぎたらどうなる?」
「バカでも分からぁ。酒が溢れるじゃねぇか」
「魔力も同じだ。本来、器に入るべき量を越えて入ってきた。収まり切らず、バーン!」
俺は大袈裟に両手を広げてみせた。
しかし、トム君にはそれでしっかり伝わったようだ。
にしても、だ。
魔力結晶には確かに総量があり、そのランクに応じて変わる。
だが、常に消費し続けている魔力が、いきなりポンと上がってキャパオーバーで破裂するものだろうか?
魔力結晶に欠陥がないとすれば、魔力結晶が砕け散った理由としては、それが挙げられるが……
粗悪品だったなんて、砕けちまったら調べようにも調べられねぇしなぁ。
「行き詰まっておりますな」
「おわ!? ま、またか、バイゼル!」
俺が一人考え込んでいると、いきなり横にバイゼルが現れた!
あぁ、チクショウ!
ビックリして、少しだけちびっちゃったじゃないか!
「バ、バイゼル! 現れる時には事前に教えてくれよ!」
「事前に教えておいたら、サプライズで登場できないではないですか」
「むしろ、普通はサプライズしねぇだろ……変わったジジイだな」
「うおっほん。トム様、でしたな。言葉遣いには気を付けた方がよろしいかと」
「あいにく、学校なんて行ったことねぇからな。生まれも育ちも荒んでんだよ、悪かったなクソジジイ」
あー、トム君。そこまでにしとこうか。
バイゼルー、今にも殺しそうな目で口周りのヒゲをピクピクさせんのはやめとこうかー。
「トム君、バイゼル。その辺にしとけ。それよりバイゼル、なぜか貯水池の魔力結晶が砕けたんだ。どう思う」
「どう思うも思わまいも、理由は簡単でございます」
「簡単? 全然簡単じゃねぇぞ?」
「恐らく、蓄積できる魔力の許容量を大幅に超えたんだしょうな」
おぉ、恐らくというよりも、その通りだバイゼル!
けど、おかしい。
魔力の補充は俺がしてたはずなんだが?
「ご当主、何故魔力結晶が砕け散ったか。それだけの量の魔力を、誰が送ったのか、その辺りが引っかかっているのでしょう?」
「その通りだ。考えにくいんだよ、俺以外の誰が魔力を補充したのかがな」
「それは恐らく人間ではございません」
「……は?」
「人間の仕業ではないということです。魔力結晶は元々、魔力を吸収する性質を持った水晶を磨いたもの。魔力の根源が近くにあれば、独りでに吸収するものなのです」
「じゃ、バイゼルの仮説だと、この近くに魔力の根源が?」
俺の言葉に、バイゼルは大きく頷いた。
だが、その後に続く彼の言葉に、俺は絶句してしまったのだ。
「仮説ではありません。何せ、このアルブラム領には、巨大な地下迷宮がございますからな」
だってさ……
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