問題が発生しました
さて、どんな問題が発生したのでしょうか!?
アルブラム領の水路が使えるようになって二ヶ月が過ぎた。
耕作地域の土は思いのほか土壌が良かったようで、作物がスクスクと育っていく。
今まで育たなかったのが嘘みたいだ。
何してたんだ、親父は?
ま、作物が取れるっていう目処が付いたお陰で、先行きは少し明るくなった。
今の取れ高からいけば、今年の冬はなんとか過ごせそうだとバイゼルは言う。
それは本当に何よりだ。
毎年、冬場は行商の買い付けで凌いできたというし、それも結構ふっかけられて、値段釣り上げられてたから財政もかなり厳しかったらしい。
全部が全部解決した訳ではないが、取り敢えず食料については当面の問題はクリアーといったところか。
課題といえば、貯水池の底にある魔力結晶に月一回、魔力の補充をすることかな。
何とか自動で補充ができないものか。
それか、動かずして補充……
おいおい考えるとしよう。
「民が喜んでおりますぞ。水路の復活は、積年の願いでもありましたからな」
「それなら、どうして親父は解決しようとしなかったんだ」
「……リチャード様は面倒くさがりやでございましたからな」
あのクソ親父!
領民が苦しんでるってーのに、何してたんだよほんとに!
バイゼルも、執事のくせにどうしてほっといたんだ!?
「ご当主、色々と憤りはお察ししますが……」
俺がそう言おうとすると、途端にバイゼルの目つきが鋭くなった。
ちょっと怖い……
俺に話し掛けるバイゼルの声色は、バリトン調の渋い低音ボイス。
それだけに雰囲気出過ぎてかなり怖いんだが……
それでも俺は食って掛かるがね。
親父の尻拭いなんて、ゴメンだからな。
「リチャード様にはリチャード様の理由がございました。それだけはお忘れなきよう」
「確かに理由はあるんだろうが……、でもそれと領民は関係ないだろう!?」
「このアルブラム領を守るためでございます。いずれ、ご当主にもご理解できましょう」
そう言われたって、何が理解出来るだろうか。
領主ともあろうものが、領民そっちのけで領地優先?
ありえない!
親父は一体何を考えていたんだろうか?
うーむ……
俺は執務室の椅子に座ったまま、ギイと背もたれにもたれかかり、首を傾げた。
バイゼルなら何か知ってるか?
いや、知らないか。あぁ見えて親父は自分に都合の悪いことに関しては全て既読スルーだったからな。
バイゼルが知らないことも多いかもしれん。
まぁ何はともかく、聞いてみるとしよう。
「バイゼル、どうして親父は領地を優先したんだろう?」
「と申されますと?」
「こんな領地だから、何もしなければこの有様だ。少し手を加えるだけで住みやすくなるのに、親父は何も手をつけなかった。結果、領地は荒れた。人は減り、領地の土は枯れて作物も育たない、不毛の地となった。それでも何もしなかった。それが領地を優先する?」
そこまで言って、俺はまた首を傾げた。
「やっぱり理解出来ねぇわ」
「いずれでよろしいかと」
「いずれって、いつだよ?」
「いずれ……でございます」
「俺が知る前にお前が死んだらどうするんだよ?」
「それでも……、いずれでございます」
ふむ、バイゼルの返事は「いずれ」の一点張りだな。
バイゼルも親父然り、領民には興味がないってことか?
それとも何かあるのか、この領地に?
俺だけじゃなくて、例えば帝国が知ったらマズいことになる何か……とか?
それも、またいずれ、か。
うまく誤魔化されてる気がしてならないなぁ。
よし。ここは話題を切り替えよう。
同じ話題だから、話が平行線なんだ。
何事も、メリハリが大切だぞ。
「そう言えばバイゼル。兄上たちから連絡はあったか?」
「ございましたよ、お二人ともお元気そうでございました」
「そうか、そりゃ良かった。元気そうなら何より何よりーーいや、良くねぇわ! あの二人! 早く顔出しに来いって何度も催促してんのに、どうして来ねぇんだよ!」
「お二人とも、なかなかお時間が取れないのでしょう。お忙しい身でございますから」
「それにしたって、実の親父が死んでるのに、それすら顔をーー!」
その時だ。
執務室の扉が勢いよく開け放たれ、一人の男が姿を見せた。
あの酒場で知り合ったトム君だ。
「どうした、トム君? そんな血相変えて」
「ーーはあ、はぁ……、あ、兄貴、大変だ!」
「だから何があったんだ?」
「み、水が……」
そうかそうか、あんまり走ったんで喉が渇いたか?
もう身体強化の魔法はかけてないからな。
喉が渇いた当然だよ。
今すぐ持って来させよう。
さぁ、飲みたまえ。はっはっは〜!!
「貯水池の水が枯れちまった!」
はっはっはー!
はっはっ……
……
は?
水が枯れちまった?
俺は目を泳がせた。
「は? 今何と?」
「だから、貯水池の水が枯れちまったんだよ! 貯水池の!」
「セイセイセーイ、トム君。いいかい? 冗談ならもっとまともな冗談を言ってくれ。例えば、アンジェリーナと酒場のマスターは前からデキちゃってるとかだなー」
「そんなもん、とっくの昔にくっついとるわ!」
マジか……?
あの女……
何が俺のために尽くすだ。
既にハゲの為に尽くしてんじゃねぇか!
ーーって、えぇぇぇぇぇぇ!?
「う、嘘だろ!?」
「嘘なんかついてどーすんだよ! ババアがチャンネェになっちまったから、マスター毎日鼻息荒くて……て、んなもん、どーでもいいわ! 兄貴、今はハゲとババアは置いといて! 水だ、水!」
「よし、分かった。バイゼル、今すぐグラスに水を注いでトム君に……」
「だから違うつってんだろ、ちゃんと話聞け、このクソ領主! 貯水池の水が枯れちまったってさっきから言ってんじゃねぇか!」
「…….ちょ、す、いち…….」
トム君の言葉の威力が強過ぎて、俺は暫くの間、カチンと固まってしまった……
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