この人、だぁれ?
誰かな、誰かなー?
「ご当主。いい加減イチャつくのはおやめください」
「いや、だって、俺も好きでこうしてる訳ではだな……」
「いやん♡ ジェドォォン、早くベッドに行きましょうよぉん♡♡」
何故だ。
何故、朝っぱらからこんな、変な女が執務室に乙してくるんだ?
そして抱き着いてくるんだ?
「女、下がりなさい。ご当主は執務中であるぞ」
「なぁにぃ、執務中って? ジェドは私としつするのよぉん」
「いや、マジで邪魔だから。て言うか、お前誰だよ?」
かなりいい女だってのは認める。けど、誰なんだ、この女は?
何故俺のことを知っている?
そして、どうしてそんなに迫って来るのだ?
「あたしかい? あたしはあたしだよ? アンジェリーナさ♡」
と『うっふん』と妖艶極まりない表情で投げキッスされた。
あたしはあたしだよって、だからどこの誰だ?
あ、アンジェリーナ?
「ちょっと待て、アンジェリーナって……確かそんな名前の婆さんがいたぞ」
「ふむ、確かにいましたな。酒場に」
「バイゼル、あの婆さん、いつからここにいるんだ?」
そう、あの婆さん。
俺がまだ帝都に出る前には、確かいなかったんだよ。
「確か……、ご当主が進学された後にフラフラとやって来ましたな」
「フラフラと?」
「そうでございます。ちょうど、このアルブラム領に流れ者たちがはびこるようになり始めた頃でした」
「じゃぁ、アンジェリーナって婆さんも……」
「そうさ、あたしも曰く付きの流れ者さ」
「いや、あんたには聞いてない。婆さんの話をしているんだ」
全く、この女は。
どこから降って湧いて出たのか知れないが、酒場の婆さんと同じ名前とはね。
「だから! あたしがあの酒場の婆さんだってば!」
と声を荒げながら美女は俺に迫ってきた!
う、くく!
な、なんなんだ、この良い匂いは……!?
……フ、フェロモンが半端ねぇ!
「あたしが、あの酒場にいたアンジェリーナ! あんたが昨日、あたしに魔法をかけたじゃないか! 若返りの魔法を!!」
すごい剣幕で俺にそう迫るアンジェリーナ!
た、確かに、昨日、酒場で婆さんに魔法はかけたが……!
「ご当主! わ、若返りの魔法とは!?」
「し、知らねぇよ! お、俺は補助魔法は得意だが、回復系はからっきしなんだ!」
そう! 俺は回復系魔法の初歩すらまともに使えない、規格外な魔法使いだったのだ!
て、何度も言われたことを繰り返してるだけなんだが……
「そ、それにしたって、これはおかしいです! あのアンジェリーナがこんなアンジェリーナになってしまうとは! やはりご当主の魔法のせいなのでは!?」
「だから、俺がまともに使えるのは補助魔法なんだって! そりゃ、昨日は婆さんの手から血が出てたから回復魔法を使ったけど……!」
使った、けど……
けど?
あれ?
なんか前にもこんなことがあった気がする?
「とにかく、ジェド! あたしはあんたに尽くすからね! あんたがどんだけあたしを拒んでも……!」
アンジェリーナは俺の耳元にフッと息を吹きかけた。
「あたしはあんたのものだからね……♡」
そしてニヤリとその唇を捻じ曲げるアンジェリーナ。
何故だ、俺の背中に悪寒が走る……
こいつはややこしいことになりそうだ……
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