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気持ちのこもった落書き

よろしくお願い致します。

 アルブラム領の北側にある山々が連なった尾根。

 特に名前が付いているわけではなかったと思うが、取り敢えず『アルブラム山脈』とでも言っておこう。

 人の足で普通に移動すればおよそ半日はかかる行程を、身体強化を施した総勢十五名はおよそ一時間程度という、聞けば耳を疑うような速さで踏破した。

 これはすごい!

 恐らく新記録に違いない!


 ……これまでの時間を記録していれば、の話になるが。


 しかし、大の男たちが揃って移動する様は、側から見れば異様な光景に映るに違いない。

 ていうか、恥ずかしい。

 ここが最果ての地で良かったと、胸を撫で下ろさずにはいられないな。

 帝都の近くでこんなことしたら、多分一生笑い者になるという十字架を背負って生きなければならない……

 なんてことを考えながら移動を続け……


 到着したのは山脈の中腹、山中でも開けた場所だ。


 眼下には我々の……というか俺の町が見える。


 小さい、ほんと小さい。

 握り潰そうと思えば簡単に潰せる程に小さい。


 あの町をまずは大きく、住みやすい場所にしなければ!


 俺は震えるこころを必死で抑えながらも、皆の方を振り向いた。


「さぁて! やりますか!」


 そう言ったところで、皆からドヨメキが始まった。


「やりますかって何を?」

「そういや、俺たち何も聞かずに来ちまったよな」


 なんて声があちこちから聞こえる。


「おい、兄貴。始めるって、何をだよ」

「よくぞ聴いてくれた、トム君。今からな、皆でここに穴を掘る」


 俺はニカッと笑いながら、足元の地面を指差した。

 途端、「はぁぁぁ?」って声がそこかしこから聞こえて来る!

 そして、トム君が俺にギャーン! と噛み付いてきたのだ!


「何言ってんだ、兄貴? どうしてこんな山奥に穴掘る必要あんだよ?」

「ふっふっふ、まぁ話を聞きたまえ!」


 俺はドヤ顔でそう言うと、皆を集めてその場に腰を下ろし、バイゼルに話したことをそのまま、かいつまんで、分かりやすく、噛み砕いて話してみた。


「へぇ、貯水池ねえ」


 分かってるのかいないのか、ともかく、トム君を始め、集まってくれたメンバーは俺の説明に一応同意はしてくれたようだ。


「こんなに人数が集まるとは思っていなかったからなー。でも、おかげで貯水池の工事は予定より早く終わりそうだ」

「予定って、どんくらいだったんだよ?」

「ん? 一週間だな」


 トムの質問に俺がそう答えると、メンバーからはドヨメキの声が上がってきた。


「いや、一週間なんて無理だろ!」

「一ヶ月は掛かる工事だぞ!」

「あふぁん、貯水池が出来る前にアタシが枯れちゃうわ!」


 だから何言ってるか分かんないって!

 どーでもいい発言は無視だな。

 まぁ、皆の言うことが当たり前だ。

 どう見繕っても、貯水池の工事は、普通は一ヶ月以上掛かるのがが妥当だろ。

 普通はな……


「心配するな、ちゃっちゃと終わらせる」

「どうやってだよ? どう考えても終わらねぇぞ!」

「終わるさ。魔法を使うからな」


「「「へ?」」」


 まさか、魔法を使うとは思ってなかったのだろう。

 皆が驚く中、俺は一人ドヤ顔で説明を始めた。


「まず、皆に掛けた魔法。これは身体強化の魔法なんだけど、全ての能力値を通常の二〜三倍は上げることが出来る」


 戦場でも有効とは思うんだが、あまり重宝されなかったのよね。

 俺、補助系以外は苦手だからあまり戦場に行かなかったし。

 そう言えば、伝令があるとかで帝都に戻る兵士に同じ魔法かけたら、一週間かかる行程をたった一日で、それも全く疲労の色もなく駆け抜けたと、あとで教えて貰ったなぁ。

  多分、ありゃ偶然が重なった起こった出来事だな。

 だって、ありえないっしょ。

 一日で帰り着くスピードとかさ。


 さて、話は戻して……


「トム君は既に経験あると思うが、今のみんなの体は鉄並みに硬い。カッチカチだ」


 と俺が言うと、半信半疑なのだろう。

 誰かが誰かを軽く小突いた。

 すると、ゴン! という、金属特有の鈍い音が、辺りに響いた。

 そして起こるドヨメキ……、いや、歓声か?


「こ、これなら帝都の喧嘩大会で勝てるんじゃねぇか!?」

 

 どんな大会だよ? 聞いたことねぇよ。ていうか殴ったら死ぬだろが!


「いやいや、大砲の弾代わりに発射されて、敵陣で見事に散ってみせるでござる!」


 ござるじゃねぇよ! ていうか、死ぬんじゃねぇよ!


「こ、こんな、鉄なんて……、あはん! きっと壊されちゃうわ! 鉄みたいにカチカチなのよ!」


 カチカチなのよじゃねぇわ! ていうか、卑猥に聞こえるから喋んな!


 んだー! どいつもこいつも頭おかしいんじゃないの!?

 一向に話しが進まねぇぇぇぇぇぇ!!


「黙れ! 兄貴が説明してんだろが! ちゃんと聞けぇぇぇぇぇ!」


 おぉ、トム君の一喝で静かになった!?

 やるな、トム君!


「で、兄貴? 取り敢えず掘ればいいんだな? 道具は?」

「道具はない。けど、君たちの体はさっきも言ったが鉄同然だ。その指先がスコップ代わりになる」


 試しにトム君が土に指を突っ込むと、簡単にズブズブと埋まっていく。

 そして、手のひらを返せばガバッと土が掘れて、穴が生まれた。


「おぉー!!」


 トム君もちゃんと驚いているな!


「体力的な問題だが、この魔法は全ての基礎能力(ベースアビリティ)を上昇させるから、ちょっとやそっとでは体力も減らない。安心して掘りまくってくれ!」


 そう言うと、皆が手を上げて「おぉー!!」と声を揃えて叫んだ。

 いや、むしろ雄叫びか!

 総勢十五名の雄叫びは思いの外腹にズンズン来るんだな。


「それと、せっかくの大所帯だからグループを分けたいと思う! 土木経験者はいるか?」


 と声を掛けると、一人のマッチョマンが名乗りを上げた。


「少しなら経験あるぜ」

「よし、名前を教えてくれ!」

「フランだ」

「フラン、では俺の方に出て来てくれ。軽く打ち合わせをする」

 

 そう言うとフランはのっしのっしと皆を掻き分けて俺の前に出て来た。

 俺は胸元から一枚の紙を出して広げた。


「これを見てくれ」


 俺が広げたのは、貯水池の図面だった。


「何だこりゃ。ガキの落書きか?」


 だが、フランには落書きに見えたらしい……


「あ、あぁ、いや……一応図面なんだが……」

「……な、なかなか個性的な図面だな……」


 フランは複雑そうな表情で俺と図面の間で視線を泳がせている。


「い、一応、貯水池はすり鉢状をかんがえている。深さはそれなりに取っているつもりだ」

「そうだな、一般的な方が後々もメンテしやすいからな。だが、ただ掘っただけじゃ、土肌が残って後々、水が壁を侵食して崩していくぞ?」

「その辺は考えてある。間知石けんちいしを積めば問題ないんじゃないか?」

「ほう、間知石か……」


 フランは落書きと言い捨てた図面を見て、顎に指を添えた。


 ここで読者の皆さんに説明しよう!

「間知石とは?」

 六つ横に並べると一間(約一八〇cm)になることから名付けられたことから、短辺が三〇cm前後の大きさであることが特徴。

 石垣や土留の表面は正方形~長方形であるが、背後に控え部分を持ち全体的に角錐型となっている。積み方によっては六角形の部材や野球のホームベースのような五角形の部材(矢羽)を上下端に使うこともある(引用:ナザール帝国建築家辞典より)。


「間知石を積むなら、ある程度しっかりした貯水池になるぜ。だが、数が多い」

「問題ない。身体強化の魔法を施していれば通常の何倍もの速さで作業を進めることが可能だ」

「そうか、だがいいのか? 自分の手の内を見せるような真似してもよ」

「逆に手の内を見せなければ疑われるだけだよ。俺はこの領地を変えて見せると決めた。そのためなら出し惜しみはしないよ」


 それを聞いて、フランはニヤリと笑った。

 いやらしい笑い方じゃなく、なんというか、俺を認めてくれたような笑い方だ。


「面白ぇ。正直、領主の息子なんざただのボンボンかと思ってたが、あんたは違うようだな。出し惜しみは無しか。いいだろう、貯水池は俺に任せな。遣り方から仕上げまで仕切ってやるよ」

「助かる! 正直、建築は苦手なんだ」

「この図面見りゃ分かるぜ! だが、あんたの心意気がよく分かる図面だ! こんな気持ちがこもった図面、久々に見たぜ!」


 そんな消しゴムで何度も擦って書いた図面をそんな風に言ってくれるとは……


 フラン! 君は(おとこ)だな!! なんていい奴なんだ!


「お前ら、この現場は俺が取り仕切るぜ! 領主の旦那とアルブラムのために、力貸してくれや!」


 フランが皆を振り返り大声でそう怒鳴ると、また皆から「ウォォォォォ!」と雄叫びが上がった!


 すごいな、これは!

 それを見ているだけで、胸の奥に熱いものが込み上げてくる!


 さぁ、工事を始めるぞ!!


悲しいかな、絵を描くのも才能がないジェドでした……


ここまでお読みくださり、ありがとうございます!


これからもどうぞ、よろしくお願い致します!


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