アルブラム領の漢(おとこ)たち
昨日の話しがどえりゃーことになっとります。
そして翌日の朝。
うっすらとまだモヤがかかっている時間。
俺は久々の早起きに、眠い目をこすりつつ、待ち合わせの場所へ向かった。
メイドであるサーニャが、慌てて朝食を作ると言い出すから、取り敢えずパンだけかじって出てきたのだ。
サーニャ、明日はしっかり食べるから。
多分……
屋敷を出て二十分ほど歩くと、町の門が見えてきた。
以前はあまり気にしていなかったが、自分がいざ領主になると、メチャクチャ気になって仕方がない!
なぜ、門がこんな貧相な丸太で組んだだけなのか!
町を守る為の塀なんて、ただ丸太を土に刺して組んだだけの、至ってシンプル、その場にあるだけの塀だ。
こんなんじゃ、有事の際には一瞬でやられてしまうぞ。
決めた。次は町の門と塀の整備だ!
なんて考えていると町の門が近くになってきた。
と同時に、異様な光景が目に入って来る。
「な、なんだ、こりゃ?」
俺は目を疑った!
門の前には、なんと十数人はいるであろう人だかりがあるのだ!
もしや、まだ寝ぼけてるのかと目を擦ってみたが、間違いない!
ぱっと見、十五人くらいはいるんじゃないのか?
昨日、バイゼルと計画を練ったあと、町の酒場に行き、例の三人に仕事の話を持ち掛けたのだが……
町の門で待ち合わせした人数は確か、あの三人のはず。
それがどうしてこんな大人数に?
「はぇ? どうしたこった?」
一人そんな素っ頓狂な声を出して、呆然としていると、皆、俺を見つけるとゾロゾロと寄ってくるではないか!
な、何だ!?
これは何かの仕打ちなのか?
そ、そうかあの三バカ共め!
数を集めて報復かぁぁぁぁぁぁ!?
「領主さまだ!」
「領主さま、俺たちも仕事させてくれ!」
「いやん! まだ子供だと思ったら、割といい男じゃなぁぁぁい!」
ちょっと何言ってるか分からないのもあるが……
聞いた感じ、報復ではなさそうだ。
集団のフレンドリーな感じに安心し、ちょっとだけ胸を撫で下ろしたが、それよりこれは一体なんなのだ!?
「おはよ、領主の兄貴」
例の黒髪リーゼント君が集団の中から、俺に向かって歩いて来た。
ところで、聞きたいことがある。
俺はいつから君たちの兄貴分になったのだ?
「おはよう、黒髪リーゼント君。色々聞きたいことはあるが、これは一体どうしたんだ?」
「その前に、その黒髪リーゼントってのはやめろよ。俺にはトムって名前があんだよ。あっちの細いのはジェリー、太いのはジュリーだ」
と簡単に自己紹介してくれたが、名前と容姿が全く合っていない。
覚えやすいのはとても助かるんだが。
しかし、フランクな態度だな。
俺は一応領主なんだが……
まぁいい。あまり肩肘張るのは好きじゃないからな。
これがきっかけで理解し合える間柄になれるなら、領主の肩書きなんざ安いもんだぜクソッタレ!
俺は肩をすくめつつ、トム君に笑顔を見せた。
「あぁ、そりゃすまない。名前を聞いていなかったからな」
「けっ、全くよぉ。領主なら住んでる奴の名前くらい覚えとけよ」
とトム君は悪態を吐く。
その口のきき方……、バイゼルに命じてしつけをし直してやろうか?
ちょっとムカッときたからな、正直。
だが、言われてみればそうだ。
領主たるもの、領民の顔と名前が一致するのは、最低限のマナーだろう。
領民の多い領主なら難しいだろうが、我が領地は人口が少ない。
努力すればできるかもしれない。
よし、今後の挑戦材料として検討しておこう。
っと、それは置いといて。
この集団だ! 俺はこのトム君率いる3バカトリオに依頼したのだが、どうしてこうなった?
「それはともかく、これは……?」
トム君の言ったことは一旦置いといてだな。
問題はこの人数だ。
「とぼけんなよ、兄貴が昨日酒場で大声で怒鳴ったんじゃねぇか。報酬は酒代だって」
「い、いいい、いやあれはお前たちに……!」
「みんな、それ聞いて協力しようって気になったんだってよ。良かったじゃねぇか、人手が増えて。ま、何するか知らねぇが!」
と朝っぱらからガッハッハ! と笑うトム君。
ま、まぁ、トム君の言う通り、人手が多いに越したことはないか。
それに、俺はまだ君たちに話していない。
ーー今から何をするのかを。
取り敢えず、眉間を指で押さえて困ったフリでもしておこう、困ったフリ……
「まぁそれもそうだな、この人数がいれば……そうだなそうだな……」
「お? なんだ、何ブツブツ言ってやがんだ? 兄貴も困ってんのかよ?」
「考えてるんだ、どうするか……」
「考えてる?」
「よし!」
実は考えてるフリだったけどな。
こんだけ人数が揃ってれば、仕事も早く終わるだろ!
その前に挨拶だ!
「諸君! 朝早くからすまない! よく集まってくれた!」
そこで俺は皆にこう言ったのだ。
「今から諸君には身体強化の魔法を施す! その上である場所まで移動を開始してもらいたい! 何をするかの説明はそこで行う!」
さて、アルブラム領改革計画の第一弾を始めますか!
にしても、酒代の奢りがこの人数とは……
退職金、足りるかな……?
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
これからもどうぞ、よろしくお願い致します!




