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解雇宣告は突然に

息抜きのつもりで別作品書いてみました。

「ジェドォォォォォォォ! 貴様は解雇(クビ)だぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺の名前はジェド。

 ナザール帝国で、宮廷魔導師として働き出して五年目。

 世間一般的に言えばベテランの域になるのだろうが、お生憎様。

 俺は無能の宮廷魔導師と皆から蔑まされている。


 その理由は、俺が補助魔法しか使えないから。


 一応、魔力も人並みにあるんだが、攻撃魔法と回復魔法はすずめの涙にも匹敵する程の威力。

 過去に数回戦場に立ったが、前述した通りのため、常に後方待機という名の雑用係がメインだったりする。

 皆が戦ってる間、ひたすら炊き出しを作るか、テントの掃除に洗濯、書類の整理や印鑑付きエトセトラ。

 あー、時には大将の肩揉みとかあったなぁ。

 あんまりしつこいから誰かにチクったら、どっか地方の国境に飛ばされてたわ!

 って、誰にチクったんだっけか?

 まぁいいや。

 とにかく、俺は補助魔法しか使えない。

 いや、違う。得意なのが補助魔法なんだ!

 だからと言って、普段の仕事をないがしろになんてしていない。

 むしろ真面目に取り組んでいたつもりだ。

 膨大な仕事量を前に、ナイーブで繊細な俺のハートが打ちのめされそうになる時もあるが、そこは我慢だ。根性だ。辛抱だ!

 紆余曲折あってようやく掴んだこの仕事。

 今更ながら、手放すつもりもない。


 ところが、である。


 俺なりに粛々と、忠実に、誠実を持って与えられた職務をこなしていたつもりだったのだが……

 宮廷魔導師の師長であるマイケルに呼び出された俺は、いきなり「解雇」を言い渡されてしまったのだ。

 その意味が理解できず、俺はマイケルの顔をボーッと眺めつつ、その場でしばらく呆然としていた。

 が、マイケルの「ウォッホン!」という大げさな咳払いでハッと我に帰り、そこでようやく、俺は解雇の理由を尋ねることができた。


「あ、えーと……それはどういう?」

「ーー自分の胸に手を当てて考えてみろ。思い当たる節はあるはずだ」


 えーと。

 思い当たる節は全くないんだが……


 まぁ、仕方ない。マイケルがそうしろと言っているのだから。

 本当、何に置いても口うるさい奴だよ、マイケル(こいつ)は。

 その彼に言われるまま、俺は自分の胸に手を当て、()()()()()()()()を考えてみた。

 すると不思議なもので、もしやこれではないかという理由がポツポツと浮かび上がってくるではないか。

 さっすが師長だな! 尊敬する! 一応は。


「師長! 分っかりましたぁぁぁ!」

「よし、言ってみろ」

「人気ナンバーワンメイドのアリサ! 彼女のスカートの中を覗いたことですね! あれは出来心であり、下心はなかったのですが、風属性の魔法を行使するにあたり、注ぎ込む魔力の制御テストを兼ねて……」

「……お前はバカなのか?」


 ーーあれ?

 マイケルのコメカミに青筋が浮き上がり……ピクピクしているぞ?

 あ、あー、こ、これは違うのか?

 そしたら、あれか?


「ち、違いましたか? じゃぁアレですね! 始業前点呼の際に居眠りしてしまいましたが、あれは前日の魔法術式の解読に時間がかかり……!」

「い、居眠りだとぉぉぉぉぉ!?」


 やばい! マイケルの顔色が変わった!


「あれ!? 違う? そしたら、あ! わ、分かりました! 新人時代に、朝の掃除で陛下の銅像を倒して首が取れてしまったので、慌てて魔法でくっつけた件ですか!? 中々取れないから、このままやり過ごせると思ってたんですけど、バレましたか!?」

「き、ききき、貴様ぁぁぁぁぁぁ! そんなことをしでかしていたのかぁぁぁぁぁぁ!!」


 えぇぇぇぇぇぇぇ!?

 これも違うのかーー!?

 マイケルはドン! と机に手を突くと、勢いよく立ち上がった!

 その顔はもう、怒りで真っ赤だ!

 マイケルは俺をビシッと指差すと、あらん限りの声と唾を浴びせかけてきた。


「いいかジェド! 貴様の解雇理由はそのだらしなさだ! 何度も何度も指導役から生活態度その他諸々を改めよと注意を受けただろうが!?」


 あー、そう言えば……

 あの口やかましい年増の女魔導士が何か言ってたな。


「言われましたよ、年増に。確か、レイチェル? だったかな? 名前と年齢と体型が全く合わないから思わず『どこのおばさんだよ?』と思ってましたけど。ほんと、すっごい体型だったんですって! こう、横にボヨヨーンと……」

「レイチェルは私の愛する妻だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 ギャァァァァァァァァ!!








 ーーお願い!






 ……時間よ、戻れぇぇぇぇぇぇぇぇ……






「ジェド! 宮廷魔導師たる者、いついかなる時も気を引き締めて皇帝陛下の身の回りのことを考えて動くことを第一とする! 貴様にはその自覚と心得が全くなっていなぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 ヤバイ!

 マイケルの魔力がグングン上がる!

 ついでに言えば、顔の赤さも増している!

 これは下手すりゃ、ガチで殺されるレベルだぞ!


「し、師長! 落ち着いて! き、気を確かに! 可愛い部下を殺す気ですか!?」

「ふざけるな! 何が可愛い部下だ、この大馬鹿者がぁぁぁぁぁぁ!」


 マイケルの叫びと共に放出された魔力(怒り)は俺にぶつけられ、部屋の扉と共に廊下へと吹き飛ばされてしまった。


「ジェド……!」


 モウモウと立ち込める煙の中から、この世のものとは思えない程の形相をするマイケルが現れ、廊下に寝そべる俺の前で仁王立ちした。


「今すぐ荷物をまとめて消え失せろ!! この穀潰しが!」


 かくして俺は、五年間頑張って勤め上げたナザール帝国の宮廷魔導師を解雇(クビ)にされたという訳である。


 

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