005話 眠れる森の吸血姫 前編 (同行二人と一匹)
水と食料を確保して一安心した一行だったが・・・
水を飲んだ後ミウは、スライムの向かった方向で果物を発見した「丁度良いわね、小腹が空いたところだわ」独り言を言う様に呟くと手を伸ばして囓ってみた。
味見をする様に咀嚼すると毒は感じられず飲み下した「悪く無いわね」呟くと次に手を伸ばす。
ミウの中に居る美優は・・・
この子は凄いわ、お姉さんなら先ず様子見だわよ、色も紫で縦に緑の縞がある果物を平気で囓るなんて到底出来無いけど、食べられる事を事前に知っていたのかも?
何とか意思疎通が出来ない物かしらね、見て居るだけでも飽きないけど、ヤッパリ楽しむなら自分で操作したい物だわ、全く話しと違う、と又もや美優はぼやく。
隣では身体の触手を伸ばしたり、斜めと横や縦半分を開く形でバクバク食べているスライムを見て「アンタも良く食べるのね」「少しと言ったが、後を考えると取れるだけ取って確保して置こう」「分かったわ、取り敢えず飢えないからね」「そうだな」拓斗が答えると胡散臭そうな顔をして「如何にも慣れないのよね、アンタのその口調」と伺いながら此方を見る・・・
不味いと思い「成人もした事だし、此からは口調も変えようかなと僕、思ったんだけど駄目かい?」「慣れないだけで、悪くは無いわよ」少し照れ加減で此方を見て来るので「此からは、男らしい口調を目指す事にするよ」態と胸を張ると、ミウは嬉しそうに「良いわよ」と答えてくれた。如何やら認められた様だ。
時折り的確に命令して来るタクトの姿に頼もしさを感じて「頼れるのも良いわね」呟くと「何か言ったか?ミウ」「何でも無いわよ」ヤバイ、声に出てたわ・・・
作業を続けていると、何時の間にかスライムが消えて居た。
少し探すと辺り構わず色々な物をバクバクと食べている姿を見付けて「呆れたわ、未だ食べているわね」ミウが言うと「腐った物まで食べているぞ」「此、毒草じゃない?」拓斗も思い出して「確かに毒草だな、此方は薬草か・・・一応採取して置くか、ミウ」「了解だわ」言って俺に手渡して来る薬草の数々「面倒だな、自分で直接袋に入れてくれよ」
驚いたミウが「何言ってるの?」「何がだよ?」「その袋はタクト専用でしょ?」「そうなのか?」「そうなのよ」「それじゃぁ、其方の袋に入れれば?」「こんな時だから使用したけど、一度使ったら売り物に成らないじゃない」「汎用出来無いのか?」「何言ってるの?」と言われて思い出した。
アレ?又変な事を言い出したわ・・・未だ屹度ショックが残って居るんだわ。
マジックバッグは、最初の使用者専属に成るのだが、解除して汎用性を持たせると極端に容量が減少するのだ。
それを理解してミウは、その使用を控えていた様だ「そうだったな、悪い、此方に渡してくれ」「それでは、此の袋と水筒も、一緒に入れて置いて」と手渡された。
未使用品は、高額で取引されるのが、常識だった模様だ。
「テントも中に入れているが、使うのが躊躇われるな?」「そうも言ってられないじゃない」「だよな」此も汎用性を持たせると、極端に容量が減るのを既に拓斗は思い出していた「専用にするならタクトよね、魔力もアタシより多いんだからさ」「分かっているよ、思いっ切り魔力を込めて、特大のテントにしてやる」「ウフフ期待してるわ」少し目を輝かせて返事をして来た。
武具の選別を終えた夕方、封印の指輪を外す許可を父親から貰った。
その時に聞かされた内容は「タクト、今からお前ももう、大人扱いだ。此れ迄は、魔法の力を抑える指輪を与えていたが返して貰うぞ」「分かった」言って手渡すと「お前ももう分別が付いている頃だろうから、多くは言わねえがな、自分を守る時以外は、人に向けて魔法は打つな、今迄のような半端な威力じゃねえからな・・・明日より威力を抑える訓練だ」アビスは満足そうに笑った。
そして今朝、訓練場で撃った時に驚いたのだ「此は、凄い・・・」「子供の喧嘩で打っていれば、死人が出ていたな」後ろからやって来た親父が「此で良く分かっただろ」頷く事しか出来なかった。
ミウの父親、ロランも見ていた様で「娘に教えてやったら彼奴喜ぶぞ」「いいよ」「何でだ?」「ミウの楽しみが減るじゃない」「お前さんは、優しいな」
それ以降は、一度も魔法を打っていなかったが、あの時スライムを打っていれば、事態は変わったのかも・・・イヤ、咄嗟のことで駄目だったろうな。
何故かタクトの気持ちが、拓斗に伝わった様に感じられた。
〔戻れないだと~~~!何て事だよ・・・滅びろ運営ぇ~~~!!!〕
AIの話しでショックを受けた美優ことスラさんが混乱している・・・
気が付くと一匹だったので辺りを見渡すと拓斗が捜し当て「オッ!居た、居たよ」見付けると「ひたすら喰っているな?」拓斗がぼやく様に問い掛けると「アンタも良く食べるのね」とミウも呆れ顔をした。
そんな二人を無視してスラさんはアッと言う間に近辺を食べ尽くした「一体何処に入っているんだ?」「何処だろうね?」体積の変わらないスラさんを二人は眺めるだけだった。
〔こうなったらヤケ食いじゃ~~~!〕
それまでに大量の薬草や毒草、腐った果物などを食べていたので、美優は全く気にせずに食べ始める、すると・・・
【規定量をオーバー致しましたので、毒耐性LV1が付きました】
【規定量をオーバー致しましたので、腐敗耐性LV1が付きました】
〔ん?何で?〕
【解答、規定以上を摂取致しましたので、新たにスキルを獲得致しました】
〔レベルが1とは?〕
【解答、スキルにも、レベルなどと同様に段階が存在致します。捕捉致しますと、最高がスキルの場合では、LV10 レベルの場合では、99と成ります】
〔成る程ね、他には何が有るのよ?〕
【解答、種族固有の胃袋・強酸消化・物理耐性・聞き耳・分裂・魔力吸収が標準で備わっています】
【余剰の内容物を消化なさいすか?Yes/No】
〔ノーなら如何成るの?〕
【解答、必要な時に出し入れ出来ます】
〔劣化は?〕
【解答、亜空間で時間を制止して収容をしている為に劣化は致しません】
〔スライム収容と言うやつかな、ゲームでの存在は、知っていたけど、真逆自分で体験するとは・・・ん?スライム便利かも?〕
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ひと休憩の後に行動を開始したのだが、見通しの悪さで歩みが鈍い、そしてミドリ色した小鬼、ゴブリンが時折り襲撃して来るのだ。
大人なら腰辺りに成る背丈でも、子供の俺達では、胸辺り迄ある強敵で、棍棒やら劣化したした剣などを所持しているから、中々油断も出来ない「ミウ、上には気を付けろよ」「分かっているわよ」木の上から猿の獣魔、フライングモンキー(フライングと言っても実際は、木の間を跳んでいる)達が、石や木片を投げつけて来るので気が抜けない、体格もゴブリンよりも大きく木の上に攫っては、餌としている模様だ。
下草の多い場所では、草の化け物が足を狙って、傷口からの血液を狙っていたり、樹木に近付くと蔦が襲って来る・・・
中には樹木自体が、枝を振り回して捕まえようと、狙っているから油断大敵だ。
今は近道を避けて成るべく道沿いを進んでいるが、徐々に日も暮れかかって来た。
テントを張る場所を探しながら進むと、丁度良い具合で、小川沿いに開けた場所を見付けた。
「今日は、此処までかな」「そうね、賛成だわ」「了解した」
返事をしながらテントに魔力を込めると、見た目に反して驚く程、中は広々とした居住空間に成っていた。
やや驚きながらミウも「見た目はチャチイ、二人用なのに流石はタクトね、10人以上は入れるわよ」大凡16人、2パーティーが十分過ごせる広さに成っていた。
テントの入口上部、屋根辺りにある魔石に魔力を通せば、対人を含めた獣魔除けの結界が発生した「入れよ」作業を見物する為に出て居た二人に拓斗が許可すると、ミウとスラさんが入りかけたが、出入りを拒絶された。
結界を起動する迄は出入り自由だったのだが、他の者が入れない状態なので結界を抜ける際に拓斗が手を添える事で、登録された模様だ「有り難う」手を繫いだ時、ミウが大袈裟なほど照れていた。
タクト君の記憶では何時もはミウの方が、積極的に抱き付いたり、手を繋いだりの接触を好むのだが、どうにも調子がお互いに狂っている模様だった。
勿論スラさんは抱き抱えて入ったのだが、その時身体の色が、ややピンク掛かっていたのは、目の錯覚だろう・・・因みに此の作業は一度だけで済んだ事を報告しておく。
この世界の武具や道具の類には、魔石を使った高性能な物と、魔核を使った生きた道具と言われる物が有る・・・魔核を使った道具の代表格では、転移陣に有る柱、転移柱の中にそれぞれ入っていて、現在では失われた技術らしく、換えの利かない物だそうだ。
因みに魔核や獣核は、魔族や獣魔が死ぬ時に魔力や血が圧縮されて、魔石或いは、獣石に成ると、現在考えられているのだが、本当の所は不明な部分が多い。
そして特殊な技術を使って、魔石や獣石に生成されるその前に取り出せば、核石は手に入るらしい、当然持ち運びにも特殊な容器が必要だが、道具に加工出来れば、その限りでは無く、魔力供給がなされれば、半永久的に使用が出来る物なのだ。
しかし、魔力枯渇が長引けば、核石が壊れて使えなくなるらしい・・・
ステラ村で発見された転移陣も此の迷宮入口も、ギリギリの線だった模様だ。
中に入って寛ぐと「不思議な物だな」「何がよ?」「此のテントやバッグ、それに水筒」「あ、それね」「預かっているミウの水筒とバッグは、普通に俺のバッグに入るが、使用中の水筒は入らない」「当たり前じゃない」「如何して?」「空間の中に空間を入れるのだもの」「成る程な、此も使用すれば、互いに入らないのか」「そうなるわね」「それならテントも明日から担ぐのか?」「たためば良いんじゃない」「成る程、明日試して見るよ」少し嬉しそうに「そうすれば」
余談だが、全く二人の勘違いだった。
テントは、その使用方法の為に拡張空間内でも、同様の拡張空間を使用して、その効果が有るバッグや水筒、その他も入るのだが、拓斗の水筒とバックは、その魔力に馴染むまで、イヤ、拡張が終了するまで、偶々バックに入らなかっただけなのである、普通はそんな事態には成らず、一度の魔力供給で拡張は止まり、入るのだ。
異空間の中に異空間が入らないので有れば、迷宮にも転移陣にも影響を与える事に成りかねない、冒険者達は、通常の装備で潜る事に成るが、其処は魔法の魔法たる所以だと考えれば、強引にでも納得が行く、しかし、異常な事だが現在もテントを初め、バッグと水筒にも魔力を吸われ続けている、只拓斗とミウは、その事を知らなかった。
因みに水筒なら別に所持している方が、何かと便利だと言う事も否めない。
今日一日を振り返り「ミウが洞窟で迷ったお陰で必要な道具が或る程度揃ったな、有り難う」「素直じゃない、感謝しなさいよ」少し笑いながら拓斗は「そうだな、しかし不思議だ」「何が?」「テントは一つだが人数が分かっている様にバックと水筒は二つ・・・最初から準備していた様だな」「それは聞いた事があるわね」
少し驚いて「そうなのか?」「ええ、初回挑戦者は、私達のように突然引き込まれたりするでしょ、だから必需品が初級階に一度だけ出現するらしいのよ」「成る程な」「次ぎ来れば、一階にあんな良い物は出ないわよ」「納得したよ、欲を言えば毛布も欲しかったな」「贅沢ね」「果物で腹も膨れたし明日に備えてもう休もう」
少し恥ずかしそうな仕種をして「其方に行っても良いかな?」ミウが問い掛けて来た「何でだ?」「或る程度暖かいけど一緒に寝れば、更に暖かいはずだわ」拓斗は別で良いだろうと思ったが、良く考えればお互いに10歳の子供同士なら間違いも起こるまいと「良いよ、一緒に寝よう」不安なんだなと二人並んで就寝した。
その頃、大人達は、転移陣の近辺で野営の準備を済ませて「アンタ」「大丈夫だ。タクトの指輪も昨日で外してある、本当に正解だったぜ」「そうなの?」「ああ、初級のF級なら安心だ。今朝の威力を見せたかったぜ」「そんなに強力だったの?しかし、初心者のF級でも初回は、想定外の事があるものよ」「大丈夫、あの二人なら乗り越えるさ、俺達の子供だぞ」
態とか本人も不明だが、余裕のある様子で「儂の子でも有る」ロランも会話に入る「そうよね、ミウちゃんは、シッカリしているしね」「儂は、タクトの方にこそ、期待して居るよ」「食料と水の確保が出来れば、安心なのだがな」「チャンと私達が教えたもの大丈夫、屹度大丈夫よね」自分に言い聞かせる様にリズが、最後には呟くと無情にも日が暮れた。
明けて二日目、スッカリ抱き枕に成っている拓斗が目を覚ますと、育ち掛けた胸がミウを主張する様に拓斗の左腕を(フニャ)巻き込み、ミウの左足が上から絡んで居る状態だった。
朝の弱いミウを起こさない様に立ち上がると、小川に向かって出て行く・・・
其処にはスラさんが居てピョ~ン、ピョ~ン!跳ねながら胸へと飛び込んで来た。
ああ、癒やされるわ・・・私はショタコンとは、無縁だと思っていたのだけれど、ご主人様は別腹の様だわね、絡みついて魔力を吸い始める「オイ、スラさん朝の食事なのか?」拓斗が問うと返事をする様に触手の一部が、お出でお出でをする様に折れ曲がった「ウンウンと言う事か?」同じ動作をすると、拓斗は撫でてくれた。
通じた!ヒャホー!通じちゃったよ、感動の余り、心の中で泣き崩れると(ポテ)降ろされた。
タクト君朝の洗面タイムだね「お早う・・・」未だ寝ぼけ眼のミウも洗面にやって来た「直ぐに出発なの?」「テントをたためば、直ぐにでもだな」「食事は如何するの?」「果物なら行儀は悪いが、歩きながらだな。それに親父達が心配しているだろう」「そうだわよ、パパは心配しているわね、分かったわ」心配したテントもバックに収めて出発した。
ムムム!スラさんパワーを見ろ!ヒャッハー!ご主人様から頂いた魔力全開だぜ!
凄い勢いでゴブリンを駆逐していく「凄いな?」「そうね、負けそうだわ」言ってミウも楽しそうにゴブリン無双をしている・・・偶にだが、ゴブリンアーチャーやメイジ、少し強い個体なども混じるが、戦闘その物は凄く安定している。
驚いたのは、スラさんが分身して三体に成った事だ。
時折り、一体に成ったりしていたが、通常で三体いる事から前衛を任せて、中段をミウ、最後に後衛の俺で隊列を組みながら進む・・・
所々で道が分岐して、行きつ戻りつをしていたが、宝箱なども発見しているので、遠回りも苦にならない、しかも待望の毛布を二枚も手に入れて、他にもスプーンやフォーク、お揃いのコップと皿を手に入れた。何故か非常にミウが喜んで、時折り顔を赤くして此方を見ると、お尻を振っているその姿が可愛かった。
水筒からミウが、直接飲めなかった(チッ!チッ!何故か舌打ちをしていた)注ぐ事も自分では出来ずで、拓斗が注いで何回もキャップで飲んでいたのだが、コップに注ぐだけなら回数も減って、面倒が少なく成った。
木の実が手に入る樹木が、少し点在していて、俺達は採取をしながら先へと進んだ「気分はもう、二人共冒険者だな」「そうね、楽しいわね」
日頃からでも幼い時から一緒に遊んでいたのに(何だ?此の変わり様は・・・)
タクト君の記憶では、お転婆で世話焼き、一度言い出したら引かない、我が儘娘と言う印象だったのだが、此処に来て少し変わったのかも知れないな、などと考えていると、スラさんが器用に身体を一部笛に変形させてピュイ~!と吹き鳴らした。
それは、別行動をしていた二体が森の中で何かを発見したらしく、此方から見える様にピョ~ン、ボョョ~ン!二体が交互で飛び跳ねている「何か有ったらしいな」「その様ね」二人は示されている場所へと向かった。
合体したスラさんを撫でながら「何だ此は?」「棺桶ね」見ると西洋風の黒い棺桶が少し森が開けた場所でポツンと存在していた「棺桶は分かるが怪し過ぎるだろ」「そうね」時折り前の様にぶっきら棒でミウは話すが、どうやら緊張している時に戻る様だ。
棺桶を見ると日本語で『王子様のアッツーイ、キスで目覚めます。ベロチュウ可』などと驚く事に書いて有った。
不思議そうに「何て書いて有るのよ?」ミウには読めない様子だが更に『当方ピチピチの小女です。少し痛い格好をしてますが、ド変態では有りませんよ♪沢山可愛がってね、ウッフン♡』「何だこりゃー」読んで驚きの余り、迂闊にも声に出して仕舞った。
ミウは不振顔で「タクトは此、読めるの?」不思議そうに見るが、何と説明したら良いんだ?何で日本語何だ?此は絶対罠だろう・・・巡る考えも纏まらずで、拓斗は「ウン、無視しよう」声に出すと、棺桶がガタガタと揺れて、ポルターガイスト状態に成っていた。
拙作ですがご辛抱の程をお願い申します。
当面の間、ストックの続く限り毎日更新致しますので楽しんで頂ければ幸いです。
細かな部分の言い回しやその他で気が付いた間違い等を随時訂正しています。
拓斗とミウのスキル獲得状況は、現在不明だが目覚めつつ有り。
スラさんの固有スキルと追加スキル
【種族固有:胃袋LV1・強酸消化LV1・物理耐性LV1・聞き耳LV1・分裂LV1・魔力吸収LV1】
【新規獲得:毒耐性LV1・腐敗耐性LV1】