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第九話  レベル下げ

   第九話  レベル下げ


 さくらが自分の部屋に移動すると画面に幾つかの情報が表示された。内容としては今日の夜九時からターゲット戦を行うとの事だ。公式サイトを確認して居なかった事とメンテナンス後にログインしていなかったためか気が付かなかった。

ターゲット戦。それは不定期に行われる巨大モンスターを相手にした戦闘である。このターゲット戦は戦闘開始の十分前までかターゲット戦が行われている間に門番に話しかけると通常のフィールドへの転送とともにターゲット戦への参加登録が選べる。戦闘開始五分前までに登録を済ませた上で広場もしくは自室にて待機していると自動的に専用フィールドに転送され戦闘が開始する。戦闘開始後に登録した場合は登録後すぐにフィールドに転送される。なお、戦闘開始前に参加登録をしても戦闘開始五分前までにプレイヤーが広場もしくは自室に待機していない場合は参加登録が無効となる。この場合、参加するには戦闘開始後再度登録する必要がある。また、ターゲット戦の戦闘フィールドは現在一種類のみである事、戦闘に参加している間は脱出アイテムが使用不可である事とターゲット戦である旨が画面の右上に常時表示される事が通常とは異なる。

参加プレイヤーが多い場合は各プレイヤーレベル別に複数の専用フィールドに転送される仕組みである。この場合レベルの違うプレイヤーと一緒に戦えない。また、同じレベルのプレイヤーでも同じ専用フィールドとなるとは限らない。そのため、一緒に戦いたい場合はパーティを組む必要がある。

なぜこのような戦闘がターゲット戦と呼ばれるのかはわからない。しかし、フィールド上に存在するモンスターの親玉であると言う事が公式サイトに記載されているため倒すべきターゲットである事は確かである。

晶はヘッドマウントディスプレイを外して時間を見る。七時を少し過ぎた頃だ。登録しても時間がある。通常フィールドで戦ってこようか。

さくらは自室を出て広場に出た。そして、念のため登録した友達がログインしているか確認する。しかし、誰も居ないようだ。やはり一人で行こうか。彼女はそう考えながら画面を閉じようとした。

閉じるのボタンを押そうとしたとき、友達の一人がログインした状態になる。ケンだ。彼はどのくらいまでレベルが上がっているのだろうか。

さくらは既にレベル四まで到達していた。同じレベルなら面倒は無いけどどうだろう。

さくらはケンにメッセージを送る。内容は広場に居る事とこれから一緒に戦わないかというお話である。返事はすぐに来た。もうすぐ広場に出て来るらしい。

さくらが自室への扉を見ると、何人かのプレイヤーと一緒にケンは出てきた。

「こんばんは。久し振り。」

 お互いが挨拶を交わす。ゲーム世界でも一応挨拶は必要だと思う。

「ケンってレベル幾つになったの。」

「三だよ。これでもなるまで長かったんだよね。」

 さくらの言葉にケンは応える。ケンの言葉からさくらとは一レベル差のようだ。彼はしきりに自分の武器と防具を見ている。まだ使い始めて間もないのかもしれない。

さくらにとってはこのままパーティを組んで遊んでも良いが、ここは一つ同じレベルになったほうが良いと思った。ケンと初めて会ったときのようにレベル差があるとレベルが高いほうのプレイヤーばかりが活躍することになる。

「私もレベル三になってくる。ちょっと待ってて。」

 さくらは引きとめようとするケンをかわして自室へ戻った。すぐに武器と防具が置かれている場所へ行き、現在着ているレベル四からレベル三の武器と防具に交換する。

このゲームの面白い所は武器と防具でレベルが決定する点である。そのため装備を変更すればすぐに対応したレベルに変更される。

下位のレベルにして何が良いのか。このゲームの場合はほぼ全てのモンスターが各レベル限定で出現するため、敢えて下位レベルのモンスターと戦いたい時に良い。この点が上位のレベルこそ凄いという従来のレベルシステムとは異なる点である。

さくらは装着し終えるとすぐに広場へと戻った。

「なんで、レベル下げたの。弱くなっちゃうじゃん。」

 ケンはレベルを下げた意味が良く分からないようだ。まさか、レベルが上がる毎に下位レベルの武器と防具を売っているのだろうか。もし、そうだとしたら勿体無いとしか言えない。

「レベルを下げたからって相手モンスターとの力の差は変わらない。ただ、出現するモンスターが変わるだけよ。それに、同じレベルなら前回のようにレベルの低いほうの出番が少なくなる事も無いわ。」

さくらが少し前まで使っていたレベル三の武器と防具。腕を動かしながらその装飾や形を見る。レベル四になってからいくらも経っていないが、レベル三の武器と防具がかなり昔に使っていたもののように思えた。

「合わせて貰うなんてなんか嫌だな。自分が弱いみたいで。」

 ケンは不満そうにさくらを見る。ケンにとってはこのゲームでも上位レベルこそが到達すべき場所なのだろう。さくらはケンと目を合わせず弓をじっと見た。

「確かに各レベルで攻撃力や防御力は違うけど。レベル三のモンスターにレベル四の武器で攻撃する事は出来ない。だって、自分のレベルに合ったモンスターしかフィールドに出現しなくなるから。もし、パーティを組んでいる場合はパーティのレベルの平均で出現するモンスターと強さが決まるわ。」

 さくらは弓から目を離すとケンを見た。

「つまり、レベルを下げたからといって楽しめなくなるわけじゃないわ。一方通行のレベル上げするよりは良いと思うけどね。」

言い終えるが早いか、さくらは歩き出した。

「お、おい。何処いくんだよ。」

 さくらはケンの言葉に振り返り彼を見る。

「ここにずっと居ると邪魔になるから。戦闘前だし、買い物に行きましょう。」

さくらはそれだけ言うと、店が並ぶ場所へと歩き出す。ケンもさくらに追いついて並んで歩いた。

「ねえ、ケンって今日のターゲット戦に出るの。」

さくらは歩きながらケンに聞く。視線は前を向いたままだ。

「ターゲット戦か。誰か一緒に出る人が居れば出るかな。」

さくらは目の前に薬屋が見えると走りより、薬をいくつか選んだ。彼女はお金と交換で品物を受け取るとゆっくりと振り返る。背後にはケンが居るはずだ。そして、実際さくらの背後にケンは居た。

「一緒に参加してあげよっか。」

さくら自身目一杯かわいい仕草を加えて言ってみた。

ケンの反応を待ったが、すぐには返答が来ない。さくらはケンに近づく。

「ん。どうしたの。」

さくらがある一定距離まで近づくと、ケンは生き返ったかのように体を動かした。

「あ、ああ。じゃあ、よろしくね。」

ケンは薬屋に向かって歩き出す。さくらがケンを目で追うと、彼も彼女を見た。

「ちょっと待ってて。僕も薬買ってくるよ。」

ケンが薬屋から戻ってくると、二人は門番の居るゲートへと向かって歩いた。

二人がゲート前に着くと、早速ケンが門番に話しかけようとした。

「待って。」

さくらはケンとパーティを組んでいないことにいまさらながら気がついた。このまま通常フィールドに入ったらバラバラになるし、ターゲット戦の参加登録も別々になってしまう。彼女はメニューからパーティ申し込みを選び、対象をケンにした。するとすぐに承諾されパーティが成立する。

「パーティ組まないと一緒に戦えないわよ。私も忘れてた。」

さくらはケンよりも門番に近づき、ケンを見る。

「私が参加登録とフィールドへの転送をするから。」

さくらは門番に話しかけ、ターゲット戦の参加登録を選ぶ。すると画面に「参加登録が完了しました」というウィンドウが表示された。そのウィンドウを消すと、再度門番に話しかけて通常フィールドへの転送を選んだ。

目の前が真っ白になり、次の瞬間にはケンと共にフィールドに立っていた。

「ここは、島。海に浮かぶ島か。」

ケンがあたりを見回す。しかし、さくらにとっては何時も見るフィールドだ。

「ここは私のフィールドよ。

さくらはケンを見る。ケンもさくらを見ようとこちらを向く。

「パーティの場合は参加者のフィールドの中からランダムで初期フィールドが選択されるの。今回は私の所みたいね。」

さくらはあたりを見回す。いつものように太陽があたりを照らしている。地面の光の反射から本当に暑そうだ。そこでさくらははっとする。こんな所に立っていたら危ない。

「こっち来て。」

さくらはケンとともに近くの岩に移動する。すぐに近くで波の音がした。モンスターが出現した音だ。さくらは矢を番え少し引いた状態にしたまま岩から音の聞こえたほうを見た。現れたのは大きなヤドカリのようだ。さくらやケンの身長とほぼ同じである。さくらはこのモンスターと前にも戦ったことがあった。触れただけでもダメージを受ける殻は外との関わりを拒んでいるようにも見える。

「私が注意を引くから、ケンはその間に攻撃して……。」

ケンのほうを見ても彼は居なかった。さくらはまさかと思いヤドカリのほうを見る。案の定、ケンはヤドカリに向かって走っている。

「ほんといいわよね。」

さくらは岩から離れると、ヤドカリに狙いを定め弓を思いっきり引いた。ヤドカリはケンを発見しこちらに向かって来ている。

「近距離は。」

さくらが矢を放つ。矢はケンに攻撃を仕掛けようとしたヤドカリに命中し、一瞬動きが止まる。そこへケンは大きな剣を振り下ろした。剣が重たいためかヤドカリに当たった時の衝撃は大きくヤドカリの体が縦に揺れる。

さくらはヤドカリに近づきなが矢を番える。一定距離までつめると立ち止まり、ヤドカリへ狙いを定め弓を引いた。

 再び動き出したヤドカリはお怒りのようで通常よりも早い速度でケンを追いかけ始めた。ケンは逃げることしかできず、攻撃する事ができない。しかも、ケンがヤドカリに攻撃しようと振り返り立ち止まると、その体にヤドカリは真正面からぶつかってきた。一人でヤドカリと戦うには攻撃を受けてもそのまま戦うしかないということである。

さくらは動き回るヤドカリを良く見ると、狙いを定めた。狙いはヤドカリではなくヤドカリが次に居るだろう位置に定める。

さくらが矢を放つ。矢が目的の位置に到達するころにはヤドカリもその位置に移動しており見事に命中した。

ヤドカリは矢が当たると目の前の獲物を追う事を止め、すぐに矢が放たれたほうに体を向ける。矢を放ったさくらを発見するとこれまで以上に素早く一直線に彼女に近づいてきた。

さくらはすぐにその場を離れて走ったが、ヤドカリの足が速いためにすぐに彼女との差が詰まっていく。

その時、さくらの背後で爆発音と共にヤドカリの悲鳴が聞こえた。彼女が振り返ると、ケンは動きが鈍くなったヤドカリの背中に剣を振り下ろしている。ヤドカリは動かなくなり、二回ポイントが表示された。パーティの人数が二人なので二回である。

「持っててよかった手投げ爆弾。」

ケンは黒い球を持っている。さくらは手投げ爆弾が使えることは知っていたが必要であるとは思えず購入していなかった。こんな所で助けてもらうとは予想外である。やはり何個か持っていたほうが良いのだろうか。ケンの手の中で跳ねる球を見ながらさくらは思った。

「ありがとう。おかげで助かったわ。」

さくらはケンに礼を言いつつ辺りを見回す。すると、口を勢いよく開け閉めする貝が海から何個も現れた。

「次はあいつだな。」

ケンも貝の存在に気が付き剣を構えて突進していく。さくらもその後に続いた。貝は先ほどのヤドカリの三分の一程度の大きさであるため遠くから弓で狙うのは難しい。

二人が貝に近づくと、貝は二人に向かって跳ねながら近づいてくる。さくらは狙いを十分に定めずに素早く弓を引き矢を放っていった。ケンも何度もケンを振って貝が早く消えるようにしている。しかし、さらに海から援軍が来る。

「きりが無い。逃げるぞ。」

二人は貝たちの視線から逃れるように逃げた。幾つかの岩を通り過ぎ、山と山の間を越えて反対側の海に出る。反対側の海は静かでモンスターも居ない。そこへ先ほど居た方向から何個か貝がやってくる。しかし、逃げる前よりも少なくなっていた。やはりあの場所を離れたことは正しかったのかもしれない。

ケンは武器を構えると貝に向かって走っていく。さくらは貝に近づきつつ弓を引いた。近づいてくる貝に対して近距離で矢を放つ。貝がちょうど飛び上がったときに矢が当たったため後方に転がっていった。再び弓を引こうとしたとき横から別の貝が攻撃してきた。体の肉を勢いよく挟みこむ攻撃方法は見るからに痛い。本当の痛みを感じることができるのなら相当な痛みだろう。体に付いた貝を引き剥がすと、一個ずつ倒していった。

二人とも夢中で貝への攻撃をしていると、いつの間にか貝はすべて消滅していた。

「倒したのか。厄介なやつだったな。」

ケンはその場に座り回復薬を使う。そして、空を見上げた。さくらも回復薬を使いながら辺りを見る。出口があるのなら、すぐにでも他のフィールドに移りたいところである。ちょうど二人の近くに出口はあった。走ればすぐの距離にある。彼女はいまだ座っているケンのそばに寄ると出口を指差した。

「あそこの出口から出るよ。」

ケンはゆっくりと立ち上がり出口を見る。さくらは彼を見て続けた。

「出口まで走るよ。」

さくらはそれだけ言うと、出口に向かって走った。留まっていればまたモンスターと戦闘になりかねない。

二人は走って今居るフィールドから出た。

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