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第六話  弓使いの少女

   第六話  弓使いの少女


 さくらは広場から自分のフィールドに転送された。

波の音が聞こえる海辺。ここは周りを海に囲まれた島。太陽が元気良く照らしている。

コンピュータで作られたニセモノだから暑くは無い。本物だったらこのまま海に飛び込みたいくらいである。

ここから他のフィールドへの移動手段は橋だけ。しかも、不自然に海の上にある出口へと橋が伸びている。

このフィールドはカニや魚が変形したような生物が辺りを徘徊している。さすが海だと思う。

プレイヤーが移動できる範囲が狭いために、モンスターは海から突然出現する形になっている。そのため、モンスターが出現しても発見されなければ無駄な戦闘は起きない。

この手法、人を選びそうだ。しかし、アップデートでこのフィールドに変更が加えられていないという事は受け入れられているという事なのかもしれない。

適度に配置された岩が隠れ場所となり、出現したモンスターの視線から逃れる事が出来る。

今も全身に光沢を持った半魚人が砂浜に上がってきた。さくらはすぐに近くの岩に隠れる。

他のプレイヤーなら突進していっても良いだろう。しかし、さくらの武器は弓だ。面と向かって戦っていたら負ける。離れた距離から少しずつ攻撃を与えて倒したほうが良い。

岩陰に隠れながら、彼女とは違う方向を向く半魚人へと弓を引き狙いを定める。

矢を放つと、勢い良く半魚人へと飛んでいく。さくらは自らの手から離れた矢を目で追いつつ岩の陰に隠れた。

矢は半魚人に見事に当たり、低いうめき声が聴こえた。

半魚人はすぐに辺りを見回す。そして、矢が飛んできたほうへ歩き出した。

その間にさくらは新しい矢をつがえ、岩の反対側から再度半魚人へ向かって弓を引く。素早く狙いを定めると矢を放った。しかし、移動した先が今居る岩の反対側である。そのため、矢はあたったもののこちらの姿が見られてしまった。新たな攻撃にうめく姿を横目に走り出す。

目標を捉えた半魚人はさくらに向かって走り出した。

さくらは走りながらも弓に新たな矢をつがえる。少し引いた状態にして背後を見た。半魚人の移動速度はさくらほど早くは無い。走れば走るほど差が出る。武器が軽いから速いのかもしれない。

さくらは立ち止まり、少し引いておいた弓を一気に引く。そして、半魚人に狙いを定め、矢を放った。さくらの手を離れた矢は勢い良く飛んでいく。そして、半魚人の体に刺さった。低いうめき声とともに反動で立ち止まる。しかし、すぐにさくらに向かって走り出した。

さくらはすぐに新しい矢をつがえると近くにあった岩に向かって走る。隠れるためでは無い。一瞬でも半魚人の視界から逃れればいいのだ。

さくらは岩に隠れると、すぐに半魚人を見た。相手はこっちの場所が分かっている。ゆえにまっすぐこちらに向かってきている。

そろそろ良いだろうか。さくらは大きく息を吸い込むとゆっくり吐いた。息を吐き終わるとすぐに岩の反対側に向かう。そこから半魚人を見た。半魚人はさくらが先ほど居た場所に向かって走り続け、岩に隠れて見えなくなった。

半魚人が岩に隠れて見えなくなると、さくらはすぐに半魚人の背後を取るように岩伝いに移動する。

さくらは岩に張り付き、先ほど自分が居た場所を見た。

案の定、半魚人はその場で辺りを見回している。さくらを完全に見失ったようだ。

さくらは岩から離れて、わざと半魚人に見える位置に移動する。そして、弓を思いっきり引いて、半魚人に狙いを定めた。

「あなたの負けよ。」

さくらは矢を放つ。半魚人は声に気が付いて、振りかえようとするが時既に遅し。さくらが放った矢が見事に命中すると、半魚人はうめき声を上げながらその場に倒れた。半魚人の上にポイントが表示される。

さくらは一呼吸おくと周りを見た。モンスターばかり見ていたので気が付かなかったが、ここからフィールドの出口までそれほど距離は無い。

さくらはフィールドの出口に向かって走った。途中で小型のモンスターが幾らか出現したが、特に足止めされることも無く倒していった。

さくらは周囲にモンスターが居ない事を確認すると、島と出口の間に架けられた橋を渡る。橋が木製であるため、橋に足がつく度に軽い音が聞こえてきた。

さくらがフィールドから出ると暗い洞窟の中で広場に戻るか否かの選択を迫られる。さくらは否と選択しウィンドウを消した。一度選択を否としても、洞窟内に居ればメニューから何時でも広場に戻れる。

さくらは次のフィールドが見えるように洞窟の奥へ進んでいった。

すると、フィールドの出口付近で今まさにモンスターと戦闘をしているプレイヤーを発見した。相手は狼男らしい。ということはここはレベル2以上のフィールドなのか。

相手のプレイヤーは狼男に一撃を与えるも、すぐに攻撃を受けてしまう。

プレイヤーは狼男から逃げるように離れるが、すぐに追いつかれ攻撃されている。

「なんて、かっこ悪いんでしょ。」

さくらはすぐに洞窟を抜けて次のフィールドへ入った。



狼男と戦っていた男はケン。戦士で大剣を持っている。しかし、レベル1。

さくらは狼男を倒した後、その場から立ち去ろうとした。しかし、歩き出すと、すぐに面白い事を思い付いてしまう。

ケンとパーティを組めば、弱い男キャラを助ける女キャラになれる。男キャラからして女キャラに助けられるのはどうかと思う。さくらにとっての理由はそのようなものである。

結果、さくらの提案にケンが応じたためパーティを組む事になった。

そして、二人は森を抜けて、別のフィールドの出口へ入った。

「帰還しないでよね。」

モンスターに見つからずに洞窟に入ると必ず帰還するかどうか聞いてくる。パーティを組んでいてもそれぞれに聞いてくる。ちなみに、パーティの誰かが帰還とした場合はその人だけ帰還するという仕様になっている。この辺りは改善して欲しいが、パーティは存在してもその中にリーダーという役割は存在しないため仕方ないとも思える。ようはパーティを組むときにリーダーを決められるようにすれば良いだけだったりする。

さくらは広場に戻るか否かについてのウィンドウを消すと、次のフィールドへの入り口付近へ向かって歩いた。ケンはさくらの後ろから付いてきている。

次のフィールドは沼地だ。地面が他のフィールドよりも柔らかく動きづらい。こんなフィールドに割り当てたれたプレイヤーを少し気の毒に思う。

さくらは新たなフィールドへ入った。遅れてケンもフィールドに入る。

辺りは霧がかかっているためか視界が悪い。一歩進むにも地面に沈んだ足を引きぬくため、他のフィールドよりも移動速度が遅くなる。

所々に出来た水溜りと枯れた木が幾つかあるだけだ。周りは身長の三倍以上の岩で囲まれている。

「とりあえず。行きましょう。」

さくらは沼地の奥へ向かって走り出した。ケンもその後を追って走り出そうとする。

「ちょっと待って。あれ。」

さくらはケンの言葉に立ち止まり彼を見る。彼はさくらの前に立ち剣に手をかけた。彼が見る先、霧の中にうっすらとモンスターの姿が見える。こちらには向いておらず、さくらたちから見て左に向かって動いている。

さくらは新しい矢をつがえると、弓を引く。そして、未だ全体像の見えない霧の中のモンスターへ狙いを定めた。

そこで、ケンはモンスターに向かって歩き始めた。来ないならこっちから行こうという考えなのか。

「ちょっと待って。」

さくらの言葉にケンは立ち止まり彼女を見る。その奥、霧の中から猛スピードでこちらに向かってくるモンスターが見えた。

霧から出てきたモンスターは茶色い猪だ。

「来たよ。」

さくらは狙いを定めると、矢を放った。矢はこちらに向かってくる猪に当たる。しかし、勢いは止まらず二人に突進してきた。

さくらは素早く避ける。弓使いにガードなんて無い、避けるしかないのだ。

さくらは猪を避けると、すぐに矢をつがえ弓を引き狙いを定めた。

ケンは猪に剣を振るも、猪への対応が遅れた。そのため、十分に剣を振る事が出来ず、猪の突進の力で背後に飛ばされてしまう。一瞬の空中滞在の後、水分を多く含んだ土の上に投げ出された。

猪はケンが居た後ろ、ちょうどさくらが居た所で停止する。

さくらは停止した猪へと矢を放つ。ここで何もしなければ、猪は倒れたケンに向かって再度突進を開始するだろう。それはケンにとってもさくらにとっても避けたい事だ。猪は矢が当たるとすぐにさくらのほうを向き突進を始めた。さくらは余裕を持って突進を避ける。猪から十分離れると弓を引き、停止した猪へと矢を放った。ゆっくりとさくらのほうへ向き直る猪。そこへケンは猪の背後から剣を振り下ろした。

衝撃で猪の体は揺れ、そのまま地面に倒れる。二、三度体を揺らすと動かなくなった。猪の上にポイントが二回表示される。

「倒したわね。」

さくらはケンの傍に走り寄る。その間に猪は消えてしまった。

「なんで二回ポイントが表示されたんだ。」

ケンは今先ほどまで猪が居た地面を見つめながら言った。

「パーティを組んだからね。パーティの場合はポイントが均等に配分されるの。」

さくらは霧のかかった何も見えない所へ目をやる。

「もっと奥のほうへと行ってみましょう。」

さくらの言葉にケンは頷き、さくらとともに歩き出した。

奥に進むと蜂のような昆虫が近寄ってきて、二人の邪魔をする。

「邪魔なんだよ。」

 ケンは我慢の限界を突破したらしく、大剣を蜂に向かって振っている。しかし、剣自体が大きいためになかなか当たらず逆に集中攻撃を受けてしまっている。

さくらは自分に近づいてきた蜂に対処しつつ蜂に苦戦するケンを見て笑った。武器にもそれぞれ長所と短所がある。長所を伸ばし短所を補わないと一人で戦うには大変かもしれない。

そこで、ゲーム外から声がする。

「晶。ご飯にするから下りてらっしゃい。」

声は母親のもののようだ。そうか、現実世界の時間なんて気にしてなかった。

ヘッドマウントディスプレイを装着しているためか外部が見えない。母親の声がしたあたりを向く。

「もうちょっと待って。今行くから。」

晶の声の後に、母親の声がしたが聞き取れなかった。ドアを閉めた事を耳で確認すると、ゲームに戻った。

「どうしたの。動かないけど。」

ケンは心配そうにさくらを見ている。

「そろそろゲームを止めないといけないの。」

さくらはケンにそう言いつつ辺りを見回す。近くにフィールドの出口があれば助かる。しかし、見える範囲に出口は存在しない。さくらは脱出アイテムを一応持っている。しかし、ここで抜けるとあとに残ったケンが可愛そうだと思った。それに、脱出アイテムがもったいない。

「そっか。じゃあ、早く出口を探さないとね。とりあえずあっちに行ってみようよ。」

ケンは一人で歩き出す。さくらはその後を追って歩き出した。

しかし、出口はあるはずなのになかなか見つからない。動き回っているためか、何度かモンスターと戦闘をすることとなってしまった。

ケンは岩の壁に背中を預けて空を見上げた。

「駄目だなぁ。これだったら来た道を戻ればよかった。」

「そうね。そうすれば……。」

さくらがふと辺りを見ると、霧にかかってはいるがフィールドの出口が見えた。

「見つけた。あそこ。」

さくらは見つけた出口を指差す。ケンも指し示す方向を見て理解した。

「よし、早く行こう。」

ケンは早速出口に向かって走り出す。ここで見つかったらどうするんだろうか。倒すのか。

近づくにつれて霧が薄れフィールドの出口であることが再認識された。それとともに、出口直前に十字路があることがわかった。左右にモンスターが居るかもしれない。迂闊に走りぬける行為は出来そうも無い。

ケンも理解したようで、十字路に近づくと、ゆっくりと辺りに注意を払いながら歩いた。

十字路に着くと、道の片方の岩の壁に体をくっつけ、ケンが角から覗きこむ。

「何も居ない。こっちは大丈夫だ。」

ケンは顔を戻すと反対側の岩の壁へと向かった。

再びケンが角から覗きこむ。すると、すぐに首を引っ込めた。

「居る。しかもとびっきりでっかいトカゲだ。」

 ケンは再び角から覗いている。

「本当に。」

さくらは信じられないという気持ちのままケンと位置を交換して角から覗いた。するとすぐに顔を引っ込める。

「本当に居るわね。しかも大きい。」

さくらは再度角から大きなトカゲを見る。見ている限りではこちらを向いている時は無い。横を見ているか。さくらたちに背中を向けているだけだ。だとしたら通り抜ける方法はある。

さくらは顔を引っ込めるとケンを見た。

「ケン。あいつが背中を見せたら向こうまで走って。」

 さくらはフィールドの出口を指差す。

「ええ。やだよ、そんなの。」

 ケンは本当に嫌なようだ。目の前に出口がある。そして、さくらには時間が無い。それならば、了解せざるをえない状態に持ち込もう。

「じゃあ、私だけここで脱出アイテム使用で帰還するか、一緒に出口で帰還するか今すぐ決めて。」

 さくらはケンに二択を迫る。さくらにとってはどちらでも良い。彼が一人でこのフィールドを抜けられるのならばである。

「うっ。ずるいよ、それ。」

 ケンは嫌そうにさくらを見る。彼の言葉から脱出アイテムは持っていないようだ。

「じゃあ、よろしく。」

さくらの言葉に押されて、ケンは角からトカゲが居るほうを恐る恐る見る。

それから、十秒もしないうちにケンは走り出した。出口側の壁に張り付いて角からトカゲを見ている。さくらも角からトカゲを見たが、見つかっては居ないようだ。

さくらもトカゲが背中を向けた時を狙って走った。そのままケンの居る場所に突っ込む。

さくらは壁に張り付くと動かなくなった。ゲームでこんなに緊張するなんて久しぶりだ。

ケンはさくらが出口側に到達した事を確認すると、角からトカゲを見た。一度頷くと顔を引っ込める。

「よかった。見つかって無いよ。」

さくらはケンの言葉に大きく頷く。さくら自身も見つからずに通る事が出来るのか分からずに恐かった。

「フィールドから出ましょう。あとはそれから。」

 さくらとケンはフィールドを出て二つのフィールドを繋ぐ洞窟へと入る。すぐに帰還するか否かの選択ウィンドウが表示されるが否として消した。ケンも同様に否と選択したようだ。まだ、パーティを解散していない。

「じゃあ、ここで解散しましょう。私がするね。」

さくらはメニューからパーティの解散を選択する。すぐに解散した事がウィンドウに表示された。

「じゃあ、お疲れ。」

 ケンはそれだけ言うと次のフィールドへ向かって走り出した。彼はまだ続けるようだ。

さくらはその後姿を見て、ある事を思いだした。

「ねえ、ちょっと待って。」

 さくらの声にケンは立ち止まり振りかえる。

「折角だから友達登録しておかない。そうすれば時間が合ったときにまた一緒にフィールドを回れるから。」

 友達登録をしておけばお互いがログインしているかどうかわかる。また会ったときに一緒に遊ぶ事が出来るだろう。

ケンはさくらの所に駆け寄る。

「友達登録ってどうするの。」

 さくらの指示でお互いが相手を友達として登録する。

「ありがとう。お疲れ様。」

 ケンは頷くと次のフィールドへ向かって走りだした。

さくらはその後姿を少し見ると、メニューから帰還を選択して部屋に戻る。そのまま、ゲーム終了を選択した。

晶はヘッドマウントディスプレイを外すと大きく息を吐いた。

そこへ勢い良くドアを開けて入ってくる人物。見れば少々お怒りの母親である。

「早く食べなさい。何時だと思ってるの。」

 晶はこれ以上母親が怒らないように対処しつつディスプレイの電源を切る。そして、すぐに食事へと向かった。

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