第四話 初陣
第四話 初陣
ケンが動けるようになると、早速手に入れたお金を元に必要なものを買う事にした。
地図に従って店を回っていく。武器屋、防具屋、雑貨屋、薬屋と家具屋があることがわかった。家具屋については購入することで部屋に配置できるのだろう。今はそんな余裕は無いのでそれ以外の店を順に見ていった。
まずは武器屋だ。ここでは武器の購入、強化や武器のグラフィック変更が出来るらしい。武器一覧を見ると購入出来る武器は無い。名前の後ろにはレベル1や2といった記述があり、レベルが上がれば使えるのではないかと思う。レベル1すら購入可能になっていない。つまり、今持っている武器はそれ以下だということだ。戦闘を重ねればレベルの付いた武器も使えるようになるのだろうか。
防具屋でも武器屋と同様にレベルの付いた防具が置かれている。やはりこちらも今のレベルでは購入する事が出来ない。では、このお金は何処で使えというのか。
雑貨屋に寄れば、指輪や腕輪、ネックレスといったものがある。どれもお金さえあれば購入可能のようだ。それぞれ攻撃力、防御力や体力が上がるという説明がある。
体力については自分のものを見ると、初めから沢山ある。その量からこれ以上増えないのでは無いかと思えてしまうほどである。そういえば、レベルに関係無く体力の量が同じゲームが何処かにあったような気がする。だけどタイトルが思い出せないのでいいだろう。
値段ごとに効果の程度が違うのでちょっとずつ買い変えて行くようだ。とりあえず今のお金で買える腕輪を購入。攻撃が最大の防御とは言うもののあまりに防御力が無ければその言葉も通用しないと思う。
早速装着してみると、防御に関する数値が少し上がる。あとは腕輪を着けたのでキャラクターのグラフィックが少し変化した。
他のものも買いたかったが、既に貰ったお金の半分以上を使っているためにこのままでは薬屋なんて行けなくなる。なので、時には我慢も必要だと自分に言い聞かせた。
薬屋へ行くと一覧で沢山の薬が置かれている。体力回復から一時的な攻撃力などの能力アップ薬が並んでいた。その他に戦闘不能からの回復薬やフィールドからの脱出アイテムが売っていた。脱出アイテムの値段は今回貰ったお金の四分の一だったため止めておいた。
ケンはとりあえず一番安い回復薬を残りのお金ぎりぎりまで買い込んだ。
そのままゲートへ向かい門番に話しかける。訓練時とは違う会話となり、会話が終わるとそのまま画面が変わった。門番からはフィールドからの帰還方法を教えられた。
フィールドから出てこちらに戻る方法は脱出アイテムを使う、今居るフィールドからモンスターに見つからずに出る、モンスターに倒されるのどれかである。今回は脱出アイテムを持って居ないのでなんとか別のフィールドに向かわないといけないようだ。
そして、見慣れた場所に転送される。訓練時同様こちらが転送先を選択することは出来ないようだ。
「ここは。」
ケンは辺りを見回す。そう、ここはログイン時やキャラクター作成時に背景として登場したフィールドだ。ケンは森に囲まれた円形の草原に、ただ一人立っている。周りの森を良く見ると何本かの道が伸びている。これらの道が何処へ繋がっているかは分からないが、森以外のフィールドに繋がっているものもあるだろう。森だけしか戦闘エリアが無いなんてゲームとしては問題ありだ。
ケンは体を一回転すると、複数ある道の一つを選んで歩き出した。
道は舗装されているわけでは無く、所々に大きな石が転がっていて通行の邪魔をする。
ケンはそのまま草原を抜けて森の中に入った。
何処からか鳥の鳴き声が聞こえてくる。音でどの辺りから聴こえてくるかはわかったが、気にせず前に進んだ。
すると、大きなねずみの集団に出くわす。
その姿にケンは小さく悲鳴を上げる。一匹の大きさは良く見るねずみの三倍はあるだろう。一匹のねずみが赤い目をこちらに向ける。悲鳴に気が付いたのだ。
逃げても仕方が無いので、ケンは剣に手をかけた。
ねずみ達が一斉にケンに向かってくる。ケンはねずみ達を十分に引き寄せると、自前の剣を大きく振った。
振っている最中にもねずみはケンに襲いかかり、それを払うように無理矢理剣を振る。
それでも攻撃を仕掛けるねずみたちを振り払いながら一匹ずつ仕留めていく。すると、その都度ねずみの上にはポイントが表示されていく。これがその敵を倒した報酬らしい。
最後の一匹が動かなくなったとき、ケンも攻撃を受けて体力が少なくなっていた。とは言っても、ほんの少しである。
早速購入した回復薬を使ってみる。すると体が光りだし、体力が回復した。
ケンが再度ねずみたちを見ると跡形もなく消えていた。剣をしまうと再び道を歩き出す。
すると、小さな川を見つける。川の反対側に道が続いているのが見えた。浅いのでそのまま渡って反対側に行けそうだ。そう思いつつ川に入ろうとすると、反対側の森の中を何かが動いている事が確認出来た。しかし、何かは分からない。黒くて大きな何かである。葉を揺らす音だけがこちらに聴こえてくる。
しかし、それ以外の音がどこからか聞こえてきた。
「健一。ご飯よ。早くいらっしゃい」
母親の声だ。しかし、どうする。このままではすぐに行けない。
「もうちょっと待って。」
健一が大声で言うと、母親は早くしなさいと言いながらドアを閉めた。
ケンは見えない敵に注意を向けながら、別の場所から反対側に渡った。
反対側に渡ると、さらに葉を揺らす音が近くなったと感じた。葉の音から複数では無く単体のようだ。複数では無い事はありがたいが今はさっさと逃げるべきだ。それに、別の方向からも動物の鳴き声が聴こえる。
ケンは周りから聴こえてくる葉を揺らす音や動物の鳴き声に注意を向けながらフィールドの出口を探した。
相手が何処に居るのか、何時見つかるかわからない。健一は自分の息が荒くなっていることを感じながらも、気にせずケンを動かした。
すると、虹色に光洞窟のような入り口を見つける。
「まさか、ここが出口か。」
ケンは辺りを注意深く見るとその中へ入った。
入ると、目の前には洞窟の出口が見える。その先には海があり島がある。後ろを見れば先ほど居た森が見えた。
そこで、広場に戻るか否かの選択を迫られる。夕食もあるので帰還を選択する。
すると、世界が真っ白になり、次の瞬間にはケンの部屋に戻っていた。全く何も無い部屋だ。
ケンはそのままメニューからゲーム終了を選択し、ゲームを終了した。デスクトップ画面に戻ると、ディスプレイの電源を落とした。
健一は電源が落ちた事を確認すると、夕食を食べに部屋を出た。
一階に向かうと、既に夕食は出来ていて、母親はテーブルにあるおかずを食べていた。
「遅いから先に食べてたわ。早く食べちゃってよ。」
健一は母親の言葉に何度か頷くと椅子に座って夕食をとった。
今日は母親と二人だけだ。父親は仕事で遅いらしい。
健一は出てきたものを早々に平らげた。
「ごちそうさま。」
健一は席を立ち、汚れた食器を台所に置く。それから二階へと戻ろうとすると母親が話しかけてきた。
「遊びも良いけど。勉強もしっかりしなさいね。」
健一は母親の言葉に応えると、自分の部屋に戻った。椅子に座り、ディスプレイの電源を入れる。そして、「ネットワークレジスタンス」を起動した。
健一は再び母親が部屋を訪れるまで、ゲームをし続けた。