第三話 誕生と訓練と
第三話 誕生と訓練と
健一がログインボタンを押すと、画面が四方を森に囲まれた草原に移動する。そこで、ゲーム側に新しいキャラクターを作れと言われた。男と女、どっちでも作成可能のようだ。ユーザー登録時の性別による制限は存在しないらしい。男が女キャラクターを作っても良いというのか。
「女キャラなんてやだな。」
健一は性別を男に選択した。仮に女キャラでゲームをやっても、ずっと女として遊ぶ必要がある。だったら、男らしいほうがいい。
それから男の体格、肌の色と武器を選んだ。身長の高い筋肉質の男が完成する。武器は複数あるうちから大剣を選んだ。体格の良い男には大きな剣かハンマーと決まっている。それに、昔読んだ漫画にも大剣を振り回すかっこいい男が居た。片手剣や弓などと言うものは女キャラクターに任せておけばいい。
名前はケンにした。名前の一部という安易な命名だが、後悔しなければそれでいい。
決定ボタンを押すと設定された項目一覧が表示される。軽く目を通すと決定ボタンを押した。
すると、画面が変わりどこか家の中に移る。キャラクター設定後に移動した場所なので、多分プレイヤー専用の部屋なのだろう。周りを見回しても何も無い。これから引っ越す部屋を下見しているような気分だ。
作成したキャラクターを見ると、先ほど選択した武器は持っている。ひとまず、出入り口から外に出てみよう。
ドアを開いて外に出ると、少し処理が遅くなった。ケン以外の沢山のプレイヤーが画面内に出現したからだ。目の前に広場がある。その中を沢山のプレイヤーが走り回っている。
広場を歩き回るためにキャラを動かそうとすると動かない事に気が付く。
「あれ。」
すると、前から老人が歩いてきた。
「おぬしは、わしらと共に戦いたいのか。ならば、おぬしの力を見せて貰う事にしよう。準備が出来次第ゲート前に居る門番に話しかけるが良い。」
老人はそれだけ言うと去っていった。オンラインゲームで良くある本番前の訓練らしい。特にする事も無いので早速ゲートへ向かう事にした。しかし、初めてなので土地感覚が全くない。なので、全体マップを見て目的地を探す。目的地を見つけると、すぐに動き出した。
通り過ぎるプレイヤーが身に付けている服はどれも異なり、かっこよく見える。あんな服を着る日が来るのだろうか。
ゲートの門番に話しかけると、早速訓練が始まる。画面が変わり、小さな村の前に転送された。
「なんだ、ここ。」
村は荒れていて、人が住んでいるようには見えない。村の中を歩くと、何処からか鳴き声が聞こえる。聞こえる方を向けば、三頭のライオンのようなモンスターが居る。
「相手はあいつらか。」
ケンは剣に手をかける。すると、獲物を見つけたライオンがケンに向かって走ってきた。
「やってやんぜ。」
ケンもライオンへ向かって走り出した。ライオンは一定距離まで近づくと、ケン目掛けて飛びかかってきた。タイミングを計って剣を振る。最初に襲いかかってきたライオンの顔面に直撃する。攻撃を受けたライオンはその場に倒れた。そこへ次のライオンが横から襲ってくる。その攻撃に対応できずに引っ掻かれてしまう。なんとか離れると、勢いに任せて剣で突いた。見事に刺さるが、血らしきものは見えない。未だ無傷の一頭は一定距離をとってこちらを見ている。そちらに注意を向けながら、起き上がろうとする二頭に再度剣を振る。二頭が動かなくなるのとほぼ同時に無傷の一頭が襲ってきた。剣を振ろうにも振り切った直後なので、なんとか攻撃を交わすだけとなった。再び一頭とにらみ合う。ケンは剣を構えた。
ライオンがこちらに向かって走ってくる。ケンはそれと同時にライオンに向かって走った。ぶつかる直前でライオンに向けて剣を振る。振り切るとすぐにライオンを見た。ライオンは倒れていて、今立ち上がろうとしている所であった。ケンはそこに追い討ちをかけた。
ケンは動かなくなった三頭と周りを見た。
「これで終わりかな。少ないな。」
訓練終了ならば、ここで終了の告げるウィンドウなどが表示される。もしくは画面が変わるだろう。しかし、変化は見られない。
剣をしまうと、再び村の中を歩いた。訓練用のフィールドのためか、外部への通路は大きな門で閉ざされている。
少し歩くと、突然開けた場所にでた。しかし、何も無い。それ故に嫌な予感がする。
開けた場所の中心に向かって歩くと、突然空からモンスターが振ってきた。モンスターと地面がぶつかる音、地面が揺れる感覚。健一は思わず声を漏らす。反射的に剣に手をかけた。
先ほどのライオンをそのまま大きくしたモンスターのようだ。ケンに咆哮を浴びせてくる。
大きなライオンは前足を用いて、ケンに攻撃を仕掛けてきた。ケンは距離を取って隙をうかがう。すると、ライオンはケンに向かって突進してきた。
ケンがその突進をかわすと、すぐに大きなライオンを見る。ライオンはすぐにこちらを向くわけではなく。ゆっくりとこちらに向いた。ここは攻撃すべきタイミングのようだ。
ケンは大きなライオンと距離を保ちながら、次の行動を待った。
すると、大きなライオンは両前足を上げて地面に叩きつけた。直後地面が大きく揺れる。立っているのもやっとな状態だ。揺れが収まる前に、ライオンはケンに突進してきた。動かない標的のためか見事にぶつかり、後方に飛ばされる。地面に落ちると勢いが収まるまで地面を転がった。
「くふ。やさしくないな。」
ケンは立ち上がると、ライオンの様子を見た。今よりも少し離れる。
大きなライオンは再度地震を起こす。しかし、今度は自分が居る地面が揺れていない。それに、自由に動ける。ライオンを見ると、先ほどよりも離れていることがわかった。離れれば地震の影響も無いのかもしれない。これなら直後に攻撃できそうだ。
大きなライオンがまた突進してきた。パターンはもう出尽くしたのかもしれない。ケンはかわすと、ライオンの背中に向けて剣を振り下ろす。衝撃でライオンの体が揺れた。すぐに剣をしまって離れる。狭い範囲ならば剣を出したままでもいいが、広範囲を移動するには邪魔になる。
それから、突進と地震の直後に出来た隙を使ってライオンに三度ほど攻撃を加えた。すると、動きが鈍くなり攻撃も当てやすくなる。そして、さらに二度攻撃を加えるとその場に倒れる。そして、一度大きな鳴き声を発すると動かなくなった。
すると、画面に訓練が終了した事が表示された。これで終わりらしい。
「これで訓練なのかよ。」
相手は少ないものの、ボス級と思われるモンスターが居たために、アクション初心者にこの面は辛いと思う。それとも、大剣を選んだからこのモンスターたちだったのだろうか。どちらにせよ、さすが無料なのかもしれない。
数十秒後に画面は変わり、自分の部屋に戻った。やはり何も無い。特に部屋の中でする事はないので外にでた。すると、訓練させた老人が目の前に居た。
「おぬしの力を見せて貰ったよ。なかなかの腕だ。わしらと共に、この町に被害を与えるモンスターたちを倒してもらいたい。」
そこで老人の頭の上で1000Pという文字が浮かんで消えた。
「この町で使えるお金を少しあげよう。これで必要なものを揃えると良い。店の場所は地図に載せておく。準備が出来たら、ゲート前に居る門番に話しかけるが良い。」
そして、老人は体を反転させて何処かへ向かって歩き出した。しかし、すぐに立ち止まりこちらを向く。
「言い忘れていたよ。お金はモンスターを倒せばその都度貰える。頑張りなさい。」
老人はそれだけ言うと何処かへ行ってしまった。
空を見ると、日が傾き始めていた。