第十六話 テストプレイヤー
第十六話 テストプレイヤー
菅谷は大塚の研究室に入る。彼は大塚の研究室にてゲームのメンテナンスとテストプレイを行っている一人だ。彼は室内に居る大塚や同僚への挨拶を済ませると、自分の席に座る。そこへ大塚が近づき、新種のリストを渡した。
「来てすぐに悪いけど。このモンスターたちでテストをしてくれないかな。」
菅谷は大塚に頷くと受け取ったリストを見る。リストには発見された日、攻撃対象と予定のレベルが記載されている。彼はリストをデスクに置くとヘッドマウントディスプレイを被った。ディスプレイに表示される画面にテスト用のログイン画面を呼び出す。見た目は通常のログイン画面とさほど変わりないが、専用のユーザー名とパスワードを必要とする。
菅谷がログインすると、ゲーム内の自室に転送される。彼のキャラクター名はケイト。当初はテストといういかにもテスト用の名前が付けられていた。名前が変わったのは現行のゲーム内で見回りを出来るようにしたためである。ケイトは剣を持っている。見た目は剣士か騎士といったところだ。この辺りは現行のゲームと変わらない。彼は受け取ったリストの先頭に書いてあるモンスターレベルを確認する。そのレベルに合わせて装備を変更して自室を出た。すると、自室を出た先には青く四角い部屋がある。その中央には今回テストされるモンスター。ここはテスト用のフィールドである。
「さてと、始めますか。」
ケイトは剣を構え、モンスターへと向かう。孤独な戦闘の始まりだ。
菅谷は順調にリストの各モンスターを確認しながら倒していった。倒せないということは無い。代わりに倒すまでの攻撃回数が重要になる。攻撃の回数から今のレベルに合っているかの確認をするのである。
菅谷は最後のモンスターを倒し終えるとケイトを自室に戻す。今回のテスト結果をまとめると大塚に提出する。それを終えると、今度は同じキャラクターを用いて現行のゲームにログインした。
ケイトは見回りを目的としているため、どのモンスターにも勝てる装備をしていく。ゲームマスターがゲーム内で倒されては笑いものだ。自室から広場に入りしばらく歩くと、門番から通常フィールドへの転送を行ってもらう。このとき、コンピュータ側で操作することにより、転送先のレベルを変更できる。運営・開発だからこそ出来る事だ。とりあえずレベル1から順に入る。とは言っても、各レベルのフィールド数はおかしいぐらいに多い。それにそのフィールドにプレイヤーが居るとは限らない。あまり意味のない行為のように思えるが、何かあったときに困るのでやらないよりはましである。ケイトは各レベル数フィールドずつ移動していく。低レベルはあまりよくは見ないが、高レベルのフィールドは良く見るようにしている。特にホワイトブラスターが出現するレベル九以上のフィールド。ホワイトブラスターを発見した上で、あまりにも沢山のプレイヤーを倒していた場合は自ら倒す事もある。そのモンスターがイレギュラーな存在に近いためだ。何故このようなモンスターを加えたのか分からない。強力なモンスターが今もどこかに居るという緊張感が欲しいのだろうか。
ケイトはレベル七のフィールドに入り、幾つかのフィールドを見て回る。そして、砂漠のフィールドに入った時、そこでホワイトブラスターを発見してしまった。初めはレベル七のため、似ているモンスターだろうと考えた。しかし、近づけば近づくほどホワイトブラスターだと理解せざるを得なくなる。モンスターは一人のプレイヤーを追いかけている。レベルが合っているのならばニレベル差の相手である。そう簡単に倒せるものでは無い。追いかけられているプレイヤーから叫び声が聞こえてくる。助けなければすぐに戦闘不能になるだろう。
ケイトは剣を抜くと、ホワイトブラスターに向かって走り出した。しかし、ホワイトブラスターの一際大きな咆哮の後、追いかけられていたプレイヤーは戦闘不能になってしまう。
ケイトはすぐに残ったホワイトブラスターを倒した。このまま野放しにしておくと、さらに戦闘不能になるプレイヤーが増えると考えたためである。何故ホワイトブラスターがレベル七のフィールドに居るのか。そのことについて追いかけられていたプレイヤーに聞こうとしたが、既に強制帰還をしていた。一刻も早くその場から離れたいという気持ちはわかる。しかし、理由を聞けなかったのは残念である。
ケイトはそれから上位レベルのフィールドを順に見ていき、最高レベルのフィールドを確認するとフィールドを抜けて自室に帰還した。
菅谷はゲームをログアウトすると、ヘッドマウントディスプレイをデスクの上に置き、深呼吸をする。見上げた天井は妙に現実味を帯びていた。上に報告することは色々ありそうだ。
菅谷は大塚の前に立ち、先ほどゲーム内で起こったことを伝えた。それから、佐々木にも伝えてくると言って研究室を出ようとする。その彼を大塚が引き止める。佐々木は明後日に研究会があるために、発表準備で忙しいそうだ。
「今回の事は私たちで対処しよう。」
菅谷は大塚の言葉に頷くと、自分の席に戻って作業を再開した。