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第十五話  白い悪魔

   第十五話  白い悪魔


アロンたちは通常フィールドにてモンスターと戦っていた。軽い武器を持つリッツとルイが先制攻撃を与え、敵が隙を見せた瞬間にアロンとトマが同時に攻撃を仕掛ける。複数人で戦うがための戦術。この攻撃方法がアロンを含め、全員が良いと感じている。

「さてと、次に行くか。」

アロンは重いハンマーを背負って走り出す。それでも、後から走り出したリッツやルイに追い抜かれるのは必然だ。武器とはいつも良い面と悪い面を持ち合わせるものである。

四人はそれから何体かモンスターを倒すと、フィールドの出口から出る。洞窟に入り、次のフィールドに入った。

そこは雪山だった。風と共に雪が舞い、視界を白く染める。ゲームの中なので寒くは無いが、実際にこんなところに居たら寒さでどうかしてしまうだろう。

「今日は特に荒れてるみたいだ。」

ルイが一人つぶやく。視界が悪いために、背後からモンスターに襲われてもおかしくない。面倒な状況である。それでも、四人ともここで引き返す気は無い。武器を構えて、白く染まった世界に突入する。地面も山肌も、すべてが白い。どこからが地面で何処からが地面でないのかも分からない。

アロンが前に足を出したとき、足が地面に吸い込まれていく感覚を味わう。慌てて反対側の足に体重を移動させつつ両手でバランスをとった。突然のことだったためかびっくりして声を上げてしまう。その声に気が付いたほかの三人が彼の傍に来る。

「危なかったな。落ちてりゃ先に広場行きだぞ。」

リッツがアロンの腕を持つ。反対側をトマが持ち、彼を立たせた。彼は立つと、今自分の足が吸い込まれた地面を見る。よく見なければ分からないほど地面とそれ以外の差が無い。彼はここではあまり敵と戦いたくないと思った。

四人は走ることをやめて歩き出した。走って崖からダイブは面倒である。歩けば崖からの転落もある程度防げるだろう。しばらく歩くと、白い中から突然何かが現れた。四人とも、何かにぶつかり地面に転がる。起き上がれば、白い中に真っ白いモンスターが居た。ライオンのような姿で、毛が沢山ある。

「ふざけやがって。」

アロンは敵に近づき、ハンマーを振り下ろす。すぐに反撃を受けるが、彼は気にしない。四人が同時に攻撃するからだ。その通り、すぐに他の三人も攻撃を始める。攻撃を受けたモンスターの体が赤く染まっていく。それは白い世界の中で一際目立った。その赤い体を目印に、四人は少しずつ、確実に攻撃を加えていった。数回の攻撃の後、敵は絶叫とともに倒れ、消えてしまった。四人それぞれが突然現れた敵に勝利したことを安堵した。視界の悪さのせいで、通常倒せる敵も倒せないということも起こりそうである。四人が再び歩き出すと、目の前に何かが見えた。さらに近づくと、洞窟の入り口のようだった。ここから中に入れるようだ。中にモンスターが居るだろう。しかし、白くて何も見えない状態よりは格段に楽になる。四人は洞窟の入り口に向かって走った。

洞窟に入ると、先ほどよりも周りが見えるようになり、安心感が生まれた。やはり、雪が舞う日に外を出歩いてはいけないと思う。

洞窟内は広く、誰かが掘った形跡が所々にある。そして、まっすぐに伸びた道には横道がいくつもあった。今彼らが居る道はまっすぐ伸びているわけではなく、見える距離に丁字路がある。

「丁字路ね。あんまり良い思い出が無いな。」

アロンはそう言いつつ歩き出す。中を歩き回れば反対側に出られる道があるかもしれない。ゲームならばなおさらその可能性が高い。他三人も後に続いた。丁字路を右に曲がり、さらに歩く。途中でモンスターにあったが、先制攻撃とアロンの一撃でなんとか倒すことが出来た。幾つかの角を曲がり、歩き続けると、出口が見えた。ルイが他三人を抜いていち早く洞窟の出口に到達する。

「出口だよ。これで出られる。」

ルイはうれしそうである。他三人も出口に到着し、洞窟を出た。外は風の無い晴れた雪山だった。先ほど洞窟に入る前の場所とは大きく違う。視界は晴れていて、どこまでが地面なのかも分かった。早速、敵がこちらに向かってきた。敵は先ほど視界の悪い中戦った白いライオンのようなモンスターである。四人は慌てることなく仕留める。視界さえ晴れていれば倒すことも難しくは無い。それに四人なのだ。簡単に倒されては困る。

「おい、あれって出口じゃないか。」

リッツが指差す先にフィールドの出入り口が見えた。あそこから出れば次のフィールドに行ける。四人ともこのフィールドに長居する気は無い。彼らはすぐにフィールドの出口に向かって走り出した。

四人が走るほど出口は近づき、あと十数歩で到達するところまで来た。しかし、そこで彼らは立ち止まる。聞いてはいけない咆哮を聞いてしまったからである。彼らは振り返る。先ほど彼らが出てきた洞窟の出口付近に白く大きなモンスターが居た。その姿にアロンは言葉を失う。目の前の状況を必死に否定しようとした。

「嘘だろ。なんでここに居るんだよ。」

トマの震えた声が聞こえると同時に、モンスターは四人に向かってきた。彼らは二人ずつに分かれてモンスターの横をすり抜ける。モンスターは急停止し、こちらを向く。それは真っ白い毛をまとった大きな猿。その名はホワイトブラスター。ゲーム内では白い悪魔とも呼ばれているモンスターである。

「どうなってんだよ。馬鹿野郎。」

四人はそれぞれ武器を構えてホワイトブラスターと対峙する。彼らは全員レベル七。ホワイトブラスターの出現レベルは九以上。通常会うはずの無いモンスターが、目の前にあるフィールドの出口を塞いでいる。倒すか、倒されるか。道は二つしか無い。

 ホワイトブラスターは前方に飛びながら前足を振った。四人はそれぞれかわして攻撃を始めた。ルイについては遠くからの狙い撃ち。他三人は至近距離からの攻撃。攻撃を受けながらも反撃を繰り返す。たまに思い出したかのように放つ咆哮は行動取り消しおよび一定時間のコントロール不能を引き起こす。その間に狙いを定めて攻撃をしてくるホワイトブラスター。

アロンは相手に勝てるかどうかでは無く、勝つという気持ちで武器を振った。体力が無くなった者は後退して回復薬を使う。隙が大きい回復動作は、一人で行う戦闘では重要な問題になる。しかし、今は四人のパーティだ。誰かが回復をしている間に他のプレイヤーが敵に攻撃を加えれば、敵から攻撃されることも無い。

四人それぞれがホワイトブラスターに攻撃を加える。しかし、相手は攻撃を受けている最中でも前足を振り下ろして攻撃してくる。敵の攻撃を受けて後方に飛ばされる仲間。体力が減ってきたためか凶暴化するモンスター。回復薬を切らして、戦闘不能になるトマ。アロンも思い切りハンマーを振り下ろした後、吹き飛ばされて戦闘不能になってしまった。すぐに画面が自分を後方から写す視点に変わる。この視点になったときはもう戦闘できないということである。春間は表示された帰還ウィンドウを画面の横に追いやって、未だ続くホワイトブラスターとの戦闘を見た。残っているのはリッツとルイだけのようだ。

ホワイトブラスターはルイに向かって飛んだ。ルイはすぐに逃げようとしたが、間に合わず。そのまま一撃を受けて戦闘不能になってしまった。残りはリッツのみ。

良く見ると、ホワイトブラスターがルイに近づいたためにリッツのほうがフィールドの出口に近い。

リッツは立ち止まり、ホワイトブラスターを見る。その姿にアロンは何か嫌な予感がした。リッツは動き出し、出口に向かう。

「おい、逃げるな。」

アロンは無意識のうちに叫んでいた。仲間三人が倒されたのだ。ここまで来たら逃げずに最後まで戦ったほうが格好いいと思う。しかし、リッツは逃げた。そして、出口からフィールドを出た。

「ふざけんな。戻って来い。」

トマも叫んでいた。モンスターを恐れて逃げていく姿は今まで見た中で一番格好悪いものだった。その後ろをホワイトブラスターが追いかける。

「相手がフィールド外に出たのに。追いかけられるのか。」

トマの言葉を認識している間に、ホワイトブラスターは出口からフィールドを出て行った。モンスターもフィールド移動が出来るということらしい。初め見る光景に説明しがたい感覚を味わう。

「俺たちは広場に集まろう。」

アロンの言葉で、彼を含む三人はそれぞれ自室へと帰還した。



リッツはフィールド間の洞窟を走っていた。洞窟に入っても帰還ウィンドウは表示されない。それはモンスターに見つかっているからである。彼はそのまま次のフィールドに入った。

リッツが新たに入ったフィールドは砂漠だった。彼は砂にバランスを崩しながらも必死に走る。彼の背後から咆哮が聞こえる。ホワイトブラスターが追いかけてきたのである。彼は前方を見る。すると、一人のプレイヤーが見えた。

「助けて、助けてくれ。」

リッツは叫ぶ。前方に見えるプレイヤーがこちらに気づいて近づいてくる。リッツは安心したのか速度を落としてしまう。直後彼の背後から一際大きな咆哮が聞こえる。彼は驚き振り向こうとする。しかし、振り向くよりも早く、その背中にホワイトブラスターの腕がぶつかる。彼は衝撃で空を舞い、砂の中に落ちた。そして、動かなくなる。

ホワイトブラスターの前に一人のプレイヤーが居る。砂漠には暑苦しい黒い鎧を着けた剣士だ。ホワイトブラスターは目の前に居る剣士に威嚇した。彼はすぐに剣を抜き、構える。

「お前は何人戦闘不能にしたんだ。」

剣士がそう言った直後、ホワイトブラスターは前足を彼に振り下ろす。しかし、それよりも早く彼の剣がモンスターの体を斬っていた。モンスターは倒れ、すぐに消えてしまった。彼は先ほど倒れたリッツを探した。しかし、既に帰還したらしく、そこには居なかった。

「聞きたいことが幾つかあったのに。」

剣士は残念そうに、辺りを見回した。

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