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第十三話  反逆児の言葉

   第十三話  反逆児の言葉


 祐樹は研究室の扉を開く。

「おはようございます。春間さん。」

研究室に入ればサーバー音と共に後輩の声が聞こえてくる。

春間は情報系の大学院に通う学生である。彼は挨拶をしつつ自分の席に荷物を置いた。

キーボードを軽く叩くもパスワード画面が出てこない。そこで春間は昨日帰宅時に電源を落とした事を思い出す。しゃがみこんで電源のスイッチを押した。しばらくするとBIOS起動画面の後自動的にLinuxが起動する。数十秒でログイン画面に到着するとログイン名とパスワードを入力して入った。そして、コンソールとブラウザを開いて作業を始める。作業といっても既存のプログラムの変更と報告書の作成ぐらいである。

春間はしばらくして作業を中断し、自分のコップを洗って冷蔵庫の中にある天然水を注いだ。

「春間さん。これ見てくださいよ。」

隣の席に居る後輩の声に、春間はコップに入った水を飲みながら彼のディスプレイを見る。そこには掲示板が表示されていて、マスコミのどうしようもない印象操作、捏造、やらせ、偏向報道や放送事故を装った真実の隠蔽に対する突っ込みが書かれていた。所々で反論があるが如何せん事実らしいので仕方が無い。反論されたくなかったらきちんと放送する事である。ゴミと呼ばれる所以がここにあるといえよう。

春間はため息まじりに何度か頷くと自分のディスプレイの前に戻った。コップに残った水を飲み干すと中断していた作業を再開する。

春間は作業をしながら、先ほど見た掲示板について考えた。

あのような事は国内だけでは無いのだ。海外からもこの国を文化侵略しようとする国が存在する。取り合わない事が最善の策ではあるが、他国文化の起源主張を始めると正しい資料を提示しない限り海外の人間はその情報を鵜呑みにしてしまう。厄介だ、実に厄介である。

それを避けるために人々は各掲示板、動画投稿サイトにて主張している場合は英語でコメントを残しソースを提示するように求めている。春間自身もたまに突撃することがある。その行為自体が面白いからだ。しかし、ソースを提示せよと言ってもそれらは出てこない。ただ言葉だけで反論するだけだ。何故ならば初めからそんなものは存在しないのだから。攻めれば攻めるほどぼろを出すかコメントを拒否する。コメントを拒否するなんて反論出来ませんと言っているようなものである。反論出来る資料が在るのならば拒否する理由がわからない。

しかし、それをこの国の民は何も知らない。ネットワークを介して攻撃されているというのにおめでたい事である。しかも世間ではあの国と「仲良くね」と言う流れを作っている。相手国に不利な事件があれば音声だけ切って放送事故にするなんて常套手段だ。そのような事をしている暇があったら親しい国ともっと仲良くなることである。

政府に関しては人口の減少、既に無理な年金問題、老後の福祉、やると言いながら決定打が打てない政策なんていくつもある。所詮自分の任期に特に何も起きなければ良いという考えなのかも知れない。自分のした罪から逃れるために自ら死を選ぶ政治家なんて、困ったら逃げろの考え方である。それをマスコミがあまり放送しない事に問題がある。タチが悪い。都合の悪い事は全部闇の中だ。

ネット上ではそんな馬鹿な人間たちに抵抗しようとする人たちも居る。しかし、人生長く生きたほうが偉いという考えから年配の人たちはテレビ、ラジオ、新聞で得た情報を信じて春間たちに押し付けてくる。この国は何時か内側から崩壊するだろう。いや、既に始まっているのかもしれない。

春間は大きく深呼吸をして立ち上がると冷蔵庫に入っている天然水を自前のコップに注いだ。水を一口飲むと体の中に冷たい液体が流れていく感触を感じる。水を飲み干すと窓から外を見た。太陽が西に沈み始めていた。

春間は再度コップに水を注ぐと、自分のPCの傍に置いて作業を再開した。

いよいよ外も暗くなり、研究室内の後輩たちもいつの間にか少なくなっていた。

 春間はきりの良いところで作業を終了させ、荷物をまとめた。

「じゃあ、お疲れ様。」

 荷物を持って研究室を出る。

「おつかれさまです。」

 春間の背後から後輩たちの声が聞こえる。彼はその声を聴きながらそのまま研究室を出た。大学を出て自宅への道を歩く。前を見れば会社帰りのサラリーマンや大学生に見える男性が歩きながらタバコを吸っている。すぐにタバコの煙が彼の喉に侵入した。同じ方向を向かって歩いている場合、相手が前に居ると、ずっと煙を吸うことになってしまう。春間は早足で歩きながらタバコを吸う輩を追い越して歩いた。春間はタバコが嫌いである。煙を吸い込んだだけで気持ち悪くなるほどだ。研究室内の人間の中にはタバコの煙が駄目と言っただけでかわいそうな発言をする人間が居る。春間に言わせればタバコが嫌いで何が悪いというのだろう。今や電車や新幹線も全車両禁煙である。タバコは個人で楽しむ分には良いと思う。しかし、吸うときに広がる煙によって気持ち悪くなったり体調を崩す人間が世の中に居る事を理解してほしいところだ。そんなこともしらず我が物顔で歩きながらタバコを吸う人間に良い印象は持てない。

春間はタバコの煙から遠ざかり通常の空気が吸えるようになると落ち着いた。彼は自宅に戻ると食事を作り一人で食べる。一人暮らしを始めて長いが寂しさは感じない。

そして、彼はパソコンを起動し、「ネットワークレジスタンス」を起動する。何故このゲームをするのかは自分にも良く分からない。名前にレジスタンスが入っているからだろうか。レジスタンスとは権力や侵略者などに対する抵抗運動もしくは抵抗という意味である。今の春間にぴったりな単語だ。つまり、タイトルはネットワーク上の抵抗もしくは抵抗運動という意味だろうか。このゲーム自体がネットワーク上の抵抗なのか、それとも抵抗運動を行うソフトウェアなのかは分からない。ただ一つ言える事は、ゲーム内でも春間たちは何かに抵抗しているのである。

「さてと、今日も戦ってきますか。」

 そしてアロンは自室へと転送された。その姿を見て、春間はふと思う。

この国は今守るべき相手、戦うべき相手が誰なのか本当に分かっているのだろうか。

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