第十二話 ゲルファウスト
第十二話 ゲルファウスト
アロン、トマや他の重い武器を持つプレイヤーたちは遅れて戦場に到着する。現状はきわめて厳しいものであった。軽い武器はそれ自体が小さい武器であるため攻撃力が低い。そのため複数のモンスターを相手にした場合、各モンスターを倒すまでに時間がかかってしまう。そのため、攻撃をした複数モンスターに追われるプレイヤーも少なくない。
アロンたちは、まるでモンスターが壁と化した現状を見て動けなくなっていた。
「さてと、出番だな。」
大砲を持つプレイヤーたちはそれぞれが自前の大砲に玉を込め、壁のように並ぶモンスター達に標準を合わせる。
誰かが指揮を執るわけではないため、準備が出来た順に放っていった。
至近距離で聞こえる爆発音、飛び出した玉が目標に命中したときに聞こえる爆発音が戦場に響く。すると、モンスターの壁が少しずつ崩れていく。その中から数人のプレイヤーたちがこちらに向かって出てきた。
「行くぞ。トマ。」
アロンはモンスターの間から出てくるプレイヤーたちに向かって走り出した。
モンスターの間から出てきたプレイヤーたちと交差する際、アロンはその中にリッツの姿を確認する。
「後は任せろ。」
アロンはひとりでに言っていた。後続のプレイヤーの中にも同様に彼らに言っている者も居る。
アロンは一番近くに居たモンスターへと近づき手持ちのハンマーを思い切り振り上げた。彼の攻撃を受け、硬そうな皮膚を持つ形容しがたいモンスターは後方へと倒れる。近くに居た別の方向を見ているモンスターにもハンマーを振る。水平に振るハンマーの衝撃によりモンスターは衝撃を受けてよろける。しかし、倒れない。そこへ見ず知らずの剣を持つプレイヤーが切りかかり止めを刺した。アロンは新たなモンスターを探して周りを見渡す。すると倒れたモンスターが今まさに起き上がろうとしていた。彼は早速近づき、倒れたモンスターへと追い討ちをかける。振り上げたハンマーに全体重をかけて叩きつけた。その間に彼を攻撃してくるモンスターは他に居なかった。プレイヤーの数が増えたために一人に対するモンスターの数が少なくなっているのかもしれない。もしくは、襲ってきたモンスターのほとんどを倒してしまったのだろうか。
トマを見れば槍でモンスターにとどめを刺していた。モンスターに刺さった槍を足で抑えて無理やり引き抜く。
アロンの近くで大砲とは違う爆発音がする。音がした方向を見ると、砂埃の舞う中から黒く大きなモンスターがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
「ボスが来たか。」
直後ゲルファウストは戦場へと咆哮した。高音では無いものの大音量であるため耳を塞ぎたくなる。アロンは腰を落とし、音が消えるまで耐えた。音が消えると、彼は手持ちのハンマーを肩に担ぐ。
「大丈夫か。」
トマがアロンの傍に来た。反対側からはリッツが来る。袋が異様に大きいのはなぜだろう。聞く暇など無さそうなので聞かないことにした。
砂埃から姿を現したゲルファウスト。真っ黒く丸い体をしており、体のところどころが青白く光っている。そのゲルファウストが直後体を前に倒した。すると、背中に火山の噴火口のようなものが見える。戦闘開始時から存在した思うが、開始時に見た映像の中では一瞬しか背中を写していないために気が付かなかった。ゲルファウストは体を膨らませたままじっとしている。
「いまだ。行くぞ。」
攻撃してこないために自ら攻撃をしかけようと、アロンたちや同じフィールドで戦うプレイヤーたちはゲルファウストへ向かって走った。大砲や弓を持つプレイヤーは遠距離からゲルファウスト本体へと攻撃を開始する。
すると、突如ゲルファウストの噴火口から複数のモンスターが飛び出してきた。そして、アロンたちプレイヤーに着地していく。それとともにゲルファウストの体はしぼみ通常の大きさへと戻っていく。
「味方を作るのかよ。」
アロン、トマとリッツは目の前に着地したモンスターによって急停止する。モンスターは人型で両手に持った剣を振りながら近づいてくる。まるで忍者のような身のこなしだ。アロンたちも急な登場に防御することがやっとで反撃することができない。忍者のようなモンスターはゲルファウストとプレイヤーたちとの距離を少しずつ開けていく。
忍者のようなモンスターがアロンに剣を振り下ろす。彼はハンマーの柄を使って剣を受け止めた。
「アロン離れろ。」
アロンはその声に従いモンスターから離れた。すると、直後モンスターが爆発する。周りを見れば、手投げ爆弾を持ったリッツが居る。リッツの行動から袋の中に入っていたものが爆弾であった事がわかる。アロンがそのように考えている間にトマがとどめを刺した。周りのモンスターも複数人が同時に攻撃を与えることでこちらのペースになり、やがて地面に倒れた。
全員が消えていくモンスターを踏みつけながらゲルファウストに近づく。ゲルファウストは再度体を丸めて新しいモンスターを出そうとする。しかし、プレイヤー側の攻撃力の合計が高いのか体を丸めようとしても攻撃によって動作をキャンセルされモンスターを作り出すことが出来ない。せいぜい長い腕を振り回してプレイヤーを攻撃しながら飛ばすぐらいである。何度も何度も腕でプレイヤーたちを払いのけすくい上げ弾き飛ばすものの、ゲルファウストはプレイヤーたちの的となり集中攻撃を受けた。
アロンたちもゲルファウストの腕をよけながら本体へと攻撃を仕掛けている。リッツに関しては袋に入った爆弾を小出しで本体へと投げている。爆発音とゲルファウストの悲鳴に近い咆哮がフィールドに広がる中、勝負がつくまで集団で攻撃を続けた。
その中で攻撃を受けて開始地点に戻されるプレイヤーも沢山居た。目に見えて戦場から減っていくプレイヤーの数。減れば減るほど残ったプレイヤーたちの攻撃は増していった。
しばらくすると、ゲルファウストの動きが鈍くなりついにはその場に倒れて消えてしまった。
ゲルファウストが消えると、すぐに勝利の音楽が流れ画面上に勝利したことが表示された。そして、自動的に帰還までのカウントダウンが始まる。カウントがゼロになると画面が真っ白になり次の瞬間には自室に戻っていた。アロンはすぐに自室を出て広場にて仲間を待った。アロンたちは毎回ターゲット戦後に必ず集まるようにしている。
その時、突然外部から携帯電話の着信音が聞こえてきた。
「なんだよ。こんな時間に。」
祐樹はアロンの操作をやめるとヘッドマウントディスプレイをはずして相手を確認する。相手は母親のようだ。彼は通話を開始した。
「こんな遅くに悪いけど。今度学生証のコピー送ってくれない。」
祐樹の耳に入ってきたのはそんな言葉だった。そして、ある事を思い出す。学生証のコピーは毎年この時期に送っている。何時も通り年金関係の事だろう。二十歳を越えた学生も大変である。しかも相手はお役所だ。気が進まない。しかし、送らないと面倒ごとが起きる。
「明日コピーして送るよ。」
祐樹はそれから最近の現状を説明して通話を切った。息を吐きながら座椅子寄りかかる。祐樹は通常の椅子では無く座椅子に座っている。何故ならPC本体が足の短いテーブルに載っているからである。背伸びをすると再びヘッドマウントディスプレイを装着した。
ゲーム内では既にトマ、リッツやルイが集まり何度かアロンを呼んでいた。祐樹はすぐにアロンを操作した。
「悪い悪い。親から急な電話があってね。」
アロンは三人を見る。彼らの動作から三人とも理解したようだ。
「まだログアウトしないなら、これから通常フィールドで戦わないか。」
トマが今後の行動を提案する。時計を見ればまだ眠る時間では無い。今からなら幾つかフィールドを回れるだろう。
「俺は付き合うよ。ただし今日中にログアウトするからな。」
アロンはトマの隣に立ちリッツとルイを見る。
「僕は明日早いからこれで終わりにするよ。」
ルイはアロンとトマに言った。そしてリッツを見る。つられてアロンもトマもリッツを見た。リッツは三人の顔をそれぞれ見る。残りはリッツだけなので無言の圧力が彼にかかり始めているのかもしれない。そして、彼は首を横に振る。
「今日はやめとくわ。」
リッツとルイは不参加となり、四人はその場で別れた。
アロンとトマは二人を見送ると、ゲートへ向かって歩き出した。