第十話 謎のフィールド
第十話 謎のフィールド
通常フィールドから出ると二つのフィールドを繋ぐ洞窟に入るはずである。しかし、ケンとさくらはそこを通らずに次のフィールドの中に入っていた。さくらは自分が洞窟の部分を見ていなかっただけなのかもしれない。そう思ってケンに聞いてみるが、彼も洞窟を見ていないらしい。仮にモンスターに発見された状態で出口から出ても洞窟に入ることになっている。先日のメンテナンスで何か不具合でも起きているのだろうか。そして、もうひとつ気になることがある。
「こんなフィールド、今まで見たこと無い。」
新たに入ったフィールドは、縦横一メートルの青い正方形のタイルが敷き詰められた遺跡のようなフィールド。入ってきた場所から見ると、目の前にはまっすぐ伸びた通路があり両側に別の通路もしくは部屋の入り口が見える。二人の位置からまっすぐに伸びた通路も途中で丁字路になっている。そのため、左右に伸びた道の先はこの位置からは見えない。
「とりあえず先に進んでみよう。」
さくらはケンの言葉に頷き、フィールドの奥へ向かって歩き出した。
一定間隔ごとに置かれた照明が辺りを照らしている。照明に照らされた体が影を作り、得体の知れない大きな生物に見えてくる。天井は光が当たらず真っ黒い世界を作り出していた。
両側にある部屋もしくは別の通路を覗きながら丁字路へ向かって歩く。今のところ何も出てこない。通常のフィールドならばこの辺りで一体ぐらいは出てきてほしい所である。しかし、なかなか現れない。まるでこのフィールドにはモンスターが存在しないのではないかと思えてしまう。そして、二人は丁字路に着く。
「左右。どっちにする。」
ケンが尋ねてくる。さくらにとっては正直どっちても良かったので左を指差した。彼女が左利きだからである。
「左ね。」
さくらはケンに聞かれたために答えたが、特に考えて答えては居ない。
ケンが左の道を歩き出すと、さくらもその後に続いて歩きだした。するとすぐに右へ曲がる道を発見する。覗いてみるとその奥には広い部屋が見える。二人はその部屋に入り込んだ。等間隔に置かれた照明が照らす部屋は正方形で広い。その奥にはこの部屋から別の部屋もしくは道とを繋ぐ出入り口らしきものが見える。
二人は部屋の中心に立つ。辺りを見ても特に何も無い。
「もうちょっと、進んでみましょう。」
さくらは部屋の中心から歩き出した。その後をケンが歩く。二人は先ほど見つけた反対側の出入り口から部屋を出た。
部屋を出るとそこには左右に伸びたまっすぐの道があった。道の途中には部屋もしくは別の道への入り口が無数に見える。
「なんか、迷いそうだ。」
ケンが左右を何度も見ている。左右どちらの道も直線の後丁字路によって二手に分かれている。どちらも同じように見える点が厄介だ。
さくらが歩き出そうとした時、どこからか空気の漏れる音が聞こえる。
「な、何。」
二人は辺りを見る。しかし、特に変わったところは無い。さくらは気のせいかと思い再び歩き出そうとする。
そのとき、何か大きなものが地面に落ちる音がした。ほんの少し地面が揺れる。さくらが歩き出した方向には何も無い。そこで、自分の右腕がつかまれている事に気が付いた。掴んでいるのはケンだろう。そこでさくらはまさかと思いすぐに振り返った。すると、怯えた目でさくらを見るケン。彼女は彼が指差すほうを見ると体が固まった。
まっすぐに伸びた道の奥。そこに、大きな蛇が居た。とにかく大きいという印象で、体長数十メートルはあるのではないかと思えた。蛇の口から長い舌が出たり入ったりを繰り返している。すぐに自分たちでは倒せないと思った。これまで見た中で一番大きいからだ。
そして、蛇はケンとさくら目指して動き出した。さくらはその光景を見ても動けず立ったままだ。その腕を強く引っ張るのはケンだ。
ケンが強くひっぱることでさくらの足がゆっくりと動き出し先ほど通った部屋へ再び入る。さくらはケンになおも強く引っ張られながら背後を見た。まっすぐ伸びた道から蛇が部屋の中を覗いている。その目に恐怖を覚え、叫びそうになった。そして、蛇は部屋の中に入ってくる。二人はすぐに部屋を出て来た道を戻った。その頃にはさくらも自分の足で走れるようになっていた。走らなかったら死ぬ。だったら走る。単純な話だとさくらは思った。ケンの手を離すと自力で走り出した。二人は角を右に曲がりフィールドの出入り口へと向かう。今はこのフィールドから出るしかない。
二人は力の限り全力で走った。背後からは蛇が近づいてくる。必死に走る先に誰か居る。近づくと、ハンマーを持ったプレイヤーのようだ。その後ろに三人のプレイヤーがいる。さらに近づくと相手もこちらに向かって走り出した。
「俺たちが倒してやる。」
男四人はケンとさくらの代わりに蛇に向かっていった。ケンとさくらは立ち止まりその光景を見る。四人はそれぞれハンマー、槍、双剣、弓を用いて蛇に攻撃している。数ある横道を利用して別の位置から攻撃をしたりと、一人では出来ない攻撃を繰り出している。
さくらはケンを見る。彼は地面に座り四人が戦う姿をじっと見ている。彼は攻撃しないようだ。ケンの武器は近距離専用であるために近づいたら蛇に攻撃されておしまいかも知れない。その点でさくらの武器は弓なので遠距離から攻撃できる。彼女は弓を引き蛇に狙いを定める。そして、矢を放った。ここから矢を放ち続けることが今さくらが出来る唯一の事である。
蛇はさくらからの矢に何度か気をとられながらも四人のプレイヤーの相手をした。しばらくして蛇の鳴き声は聞こえなくなり動かなくなった。
さくらはその場に座り込み蛇が消えていくさまを眺めた。そして、蛇に攻撃していた四人がこちらに向かって歩いてくる。
「大丈夫だったか。」
ハンマーを持った男がさくらに手を差し出す。さくらはその手を掴み立ち上がった。そして、彼はケンを見る。
「お前は自分で立ちな。」
彼の背後の三人が笑っている。ケンは自分で立ち上がった。
さくらは四人にお礼を言う。しかし、ハンマーを持った男はさくらよりもケンを見ていた。
「だらしないな。これじゃ彼女を守れないぞ。」
ケンはその言葉に返す言葉も無いようで黙って視線を地面に落とした。
「最初から守りきれるとは思ってませんから。」
さくらの言葉に四人が笑う。ケンはさくらを守りきれない。けど、一部は守れた。
「あれ、この弓ってレベル三じゃないかな。」
四人のうちの一人。弓使いの男がさくらの弓を見て言った。その言葉を聞いたハンマー持つ男は驚く。
「はぁ、どんな仕様だよ。二レベル差のプレイヤーが一緒のフィールドに居るなんてよ。」
さくらは彼の言葉で気が付いた。二レベル差。彼の言葉が正しければ彼らはレベル五なのだろう。
ハンマーを持った男は首を横に振るとケンとさくらを見た。
「まあいい。今度は気をつけな。じゃあな。」
ハンマーの男はそれだけ言うとフィールドの出口に向かって歩き出した。
「あ、あの。」
さくらの声でハンマーの男は立ち止まり振り返る。そして、何も言わずさくらを見た。
「名前。あなたの名前、何て言うんですか。あの、私はさくらです。こっちはケン。」
彼は目を閉じて少し笑うと再度さくらを見た。
「俺はアロン。あとは右からルイ、トマとリッツだ。」
ハンマーの男が言うには彼がアロン、槍使いがトマ、双剣使いがリッツと弓使いがルイである。
「それじゃ行くか。」
アロンの言葉で四人はフィールドを出て行く。さくらとケンは何も言わずその後姿を見つめた。さくらは四人の姿が消えるとケンを見た。
「とりあえず、ここから出ましょう。」
二人はすぐに今居るフィールドから出た。すると、その先には全く別のフィールドがあった。先ほどのフィールドから戻ったのならばさくらのフィールドに入るはずである。しかし、今目の前にあるフィールドには橋も砂浜も無い。右手には岩山、目の前には大小様々な岩が転がっている。
「ここ、岩山だわ。前に入った事ある。」
さくらは言い終えると、はっとしてすぐにフィールドを出た。すると、今度は洞窟に入ることが出来た。広場に戻るか否かのウィンドウを消すとそのまま次のフィールドに向かって走った。次のフィールドを見たが先ほど入ったようなフィールドでは無く、海と島が見えるだけだ。つまり、先ほどの空間はもう既にここには無いということだ。少し遅れてケンが来る。
「さっきのフィールド。もう無いわ。なんだったんだろう。」
少し次のフィールドを見るとさくらはケンを見た。
「とりあえずサポートに連絡しておくわ。」
さくらはメニューからサポートの問い合わせを選択する。表示された問い合わせフォームに今さっき起こったことを伝えた。仕様であるというのならば仕方が無い。しかし、運営側が気づかなかったバグならば言っておいたほうが良いだろう。このゲームの今後ためにも。
さくらは一通り伝えるべきことを記述すると送信をクリックして画面を閉じた。
「連絡したわ。とりあえず広場に戻りましょう。ターゲット戦の開始時間も近いから。」
ケンが同意すると、二人はそれぞれ帰還を選択して自分の部屋へと戻った。