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第3話 「「・・・ずっと、一緒・・・」」

「ただいま」

「おかえりー、おにーちゃん」

「お帰りなさい、兄さん」


 玄関では小春と木陰が待ちかまえていた。

 小春は頭を下げるだけだが、木陰は全力で抱きついてくる。


「帰ってくるのが遅いよー。待ちくたびれたよー」

「悪いな」


 俺は木陰をやや強引に引き離してから自分の部屋に向かい、私服に着替えた。

 そしてダイニングに行けばテーブルの上に豪勢な料理が並べられている。

 外食に行く必要もないくらいのレベルだ。

 小春はつい最近まで包丁を怖がっていたというのに、上達する速度が半端じゃない。


「どうぞ兄さん」

「ああ」


 全員が定位置についてから俺たちは食事を始めた。

 やはり家族とこうして食事できるというのは素晴らしい。


 しばらくして、たわいもない話で盛り上がっていた俺たちだったのが、小春のわずかにトーンが落ちた言葉を聞いて俺の表情は強ばってしまった。


「時間に正確な兄さんが今日はいつもより23分ほど遅れて帰宅されましたが、部活が終わった後に何があったのですか?」

「それは・・・」


 俺はしゃべり始める前に一旦はしを置き、木陰にも話を聞くよう言った。


「今日、俺は・・・告白された」

「へー。そーなんだー」

「告白なんて兄さんからすれば日常茶飯事じゃないですか」


 木陰と小春はいたって冷静だった。


 確かに今までもたびたび告白されたことを報告してきた。

 しかもそれらをすべて断ってきたため、二人の中ではそれほど動揺するようなことにはなっていないのだろう。


 だが、今回は違う。


「もちろんお断りしたんですよね」

「・・・いや、断ってない。俺は付き合うことにした」

「「えっ・・・」」


 二人の顔は鳩が豆鉄砲を食らったようになり、そして、蒼白となった。

 俺はそれ以上何も言わずに黙々と食事を続けたが、二人は固まったままであった。


 願わくはこれで二人が俺の元から少しでも離れるようになってくれれば良いのだが。


「ごちそうさま」


 依然として茫然自失の二人を置いて俺は一人自室に戻った。


 しばらくしてから再びダイニングに向かうと、二人は依然としてボーッとしたまま席に座っていた。


「そろそろ片付けたほうがいいんじゃないか?」

「「・・・」」


 小春と木陰は焦点の定まらない瞳をただ天井に向けているだけで、なんの返事もしてくれない。

 仕方なく俺は二人の前に並べられた食器を片付けていった。


「俺は風呂に入って寝るからな」


 いつもの二人なら一緒に入ろうとするが、今日に限ってはそんな様子を全く見せない。

 なんだか不気味に思いながらも、俺は二人を置いてダイニングを後にした。


 *


 深夜。

 これまでにない殺気を感じた俺は急に目を覚ました。

 身体も起こそうとしたが全く動かない。

 だが原因は明白だ。


「お前たち・・・」


 小春と木陰が俺の上に乗っているのだ。


「おにーちゃん、おにーちゃん、おにーちゃん、おにーちゃん、おにーちゃん、おにーちゃん!!!」

「どうした」


 木陰は泣きじゃくりながら俺の胸元にすがりついてきた。

 涙もろいやつではあるが、今までに見たことも聞いたこともないような泣きっぷりだ。


「おにーちゃん、いっちゃやだー!」

「一体なんのことだ」

「兄さんがいけないんです!兄さんは私たちの兄さんなんですから、他の人のところになんか行っちゃダメです!」


 いつも冷静な小春までもが声を荒げている。


「ここから出て行くなんて一言も言ってないだろ」

「でもおにーちゃん、今日帰るの遅かった。木陰たちのことなんてどうでもよくなったんだ!」

「そうじゃない。ただ・・・二人にはもっと自由に、俺に頼らない生活を送ってほしいんだ。もちろん俺はいつまでも小春と木陰の家族で、二人の元を離れたりしない。だが、俺たちも大人になれば一人で生きていかなくちゃいけない時が来るんだ。そんな時のために二人にはもっと自立的になって欲しい」

「そんな時は絶対に来ません!私たちは一生兄さんのそばにいたいんです!」


 小春は木陰以上に涙にむせながら大きな声を出した。

 二人がこれほど動揺するなんて、一体何年ぶりだろう。

 両親を亡くした時だってこんなにも取り乱してはいなかった。


「俺はいつまでもお前たちのそばにいる。だから、泣き止んでくれ」


 それでも二人は泣き続ける。

 そんな二人を前に、俺は呆然とするしかなかった。


「・・・ダメなんです。私たちは兄さんがいないとダメなんです。兄さんがいなくなったら私たち、消えちゃうんです。だから、遠くに行かないでください・・・お願いです・・・」


 小春の声はいまにも消えてしまいそうなくらい弱々しかった。


「もっといい子にするから。おにーちゃんの言うことなんでも聞くから。木陰たちを見捨てないで!」


 木陰は俺の手を強く握りしめる。

 もはや今の二人に何を言っても俺の言葉は届かないのだろう。


 こんなはずじゃ・・・


「私に至らないところがあれば何でも言ってください。すぐに直しますから・・・」

「小春は完璧だよ。何も直すことなんて・・・」


 まずい。


 急に近付けてきた小春の綺麗な顔を見て、俺はやってしまった。

 抑えていたものが湧き上がってしまった。


「・・・女の人とエッチなことがしたいのでしたら私たちがお相手をします」


 気付かれた。

 ばれてしまった。

 俺の気持ちを。 最低な感情を。


「違うんだ!そういうことじゃないなんだ・・・それに、俺がお前たちに手を出せるわけがないだろ。俺たちは兄妹。家族なんだから・・・」

「私たちは構いませんよ。ね、木陰」

「うん・・・」

「お、おい・・・」


 小春と木陰は息を合わせたようにパジャマのボタンを外し始めた。


 やめさせなければ。

 頭ではわかっているのに身体が思うように動いてくれない。

 二人に抑えられているからだけじゃない。

 これは・・・俺の願望、なのか・・・


「・・・どうぞ、兄さん」

「脱いだよ、おにーちゃん」

「・・・」


 俺は絶句した。


 小春と木陰の裸体は今まで散々見てきたというのに、今回は別格だった。

 暗くてよく見えないからこそ、二人の幻想的なまでの美しさが溢れんばかりに感じられてしまったのだ。


 腕を伸ばせばすぐに手が届く。

 大人になり始めながらも瑞々しいまでの絶対美に。

 これが、俺の望んだこと・・・


「ダメだ。やってはいけないことなんだ。俺はこれ以上お前たちを縛りたくない。わかってくれ」


 俺は顔を横に向け、二人の姿を見ないようにした。

 これ以上見たら俺はもう俺ではなくなってしまうような気がしたからだ。


「「・・・」」


 沈黙。

 沈黙。

 沈黙。

 ・・・


「おにーちゃん・・・」


 震える木陰の声。再び大声で泣き出すことが見なくてもわかる。


「兄さん・・・」


 魂が抜けたような小春の声。まるで世界の全てに絶望してしまったかのようだ。


 木陰と小春が、俺の愛してやまない双子の妹が俺を呼んでいる。

 それでも俺は振り返らない。


 沈黙。

 そして・・・


「「・・・ずっと、一緒・・・」」

「うっ」


 猛烈な痛みに襲われた俺はとうとう二人に目を向けないまま意識を失った・・・

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