第11話 訓練の成果
「ところでニシキは妹さんたちも王都に連れていくのかい?」
「そのつもりです。俺たちは絶対に離れられないんですよ」
ビアンカさんの家から訓練場に戻る道中、レナータさんが話題をふってきた。
俺は迷うことなくはっきりと答えたのだが、どうやらレナータさんが予想していた答えとは違ったようで、少し困惑した表情を見せた。
「確かに君は強いかもしれないが、その・・・コハルさんとコカゲさんだったか」
「木陰でいいよ、お姉さん!」
「私も呼び捨てにしてもらって構いません」
「そうか。ごほん。コハルとコカゲは戦うことができるのかい」
「それは・・・難しいかもしれません」
「ならかなり危険だろ」
レナータさんの言う通り。
俺がいくら小春と木陰を守るといっても、この世界はまだわからないことだらけだ。
想定外の窮地に二人を守りきる自信はない。
やはり無茶だったのか・・・
「もしよければなんだが、私が二人の稽古をしてもいい」
「えっ。本当ですか。でもどうして?」
「まあ・・・同じ女として見過ごせないといったところかな」
レナータさんは少し目線をそらす。
恥ずかしがってるのか?
「それは助かりますが、小春と木陰はどうだ?」
「木陰強くなりたい!」
「私も兄さんの足を引っ張らないように頑張りたいです」
どうやら木陰も小春もやる気満々のようだ。
二人を支えると誓った立場からすれば複雑な気分だが・・・
「小春と木陰のこと、よろしくお願いします」
「承った」
「ところで、俺より強いレナータさんが王都に行くという話にはならなかったんですか?」
「そういうわけにはいかない。私は副団長だからね。私兵団の指揮を取らねばならない」
それもそうか。
「それに、この領地は国境に近いから私たちが一丸となって市民を守らなければならないのだ」
誇らしげに語るレナータさんを見て、俺は納得した。
この町に住む人々を心の底から大切にしているんだろう。
俺も私兵団の一員として覚悟を決めて王都に向かわなくては。
* * *
訓練場に戻った俺たちは早速訓練を開始した。
他の私兵団メンバーと模擬戦を重ねて実践的な経験を積んだ。
やはりスポーツと戦いは違う。
一番の違いは命がかかっているということだ。
その違いを実感するたびに手が震えてしまう。
それでも、俺の闘志は自然と湧き上がってくる。
自分の命を守るためならなんだってしてやる。
なぜなら俺の命はもう俺だけのものじゃない。
小春と木陰の命もかかってる。
二人を守るためにも俺は何倍も強くならないといけないんだ。
一方、小春と木陰はというと、レナータさんから武器の使い方や身体の動かし方を習っているようだった。
正直に言えば、二人にあんな凶器を握っていて欲しくない。
人殺しの道具なんて・・・二人には似合わないから。
バスールさんの依頼をこなしたらどこか小さな町に引っ越すべきかな。
殺し合いなんて無縁の場所へ。
三人で仲良く暮らすことができるだけで俺は幸せなのだから。
「まだまだだなぁ!俺様がちっとギアを上げただけでついてこれなくなってるじゃねぇか!」
俺がまだ肉体ギアを使いこなせていないのをいいことに、ラバズは徹底的いじめてきた。
セカンドになるだけでこれほど違うのか・・・
ほとんど瞬間移動といってもいいような速度と車にでもはねられたような衝撃だった。
俺はただラバズのサンドバックになるしかなかった。
だがそれも今だけだ。
自分の中でも肉体ギアがどういったものなのかを体感できるようになってきた。
あとは時間の問題だ。
覚えてろよ・・・
* * *
「いっぱい動いて疲れちゃった」
「私もクタクタです」
「二人ともよく頑張ったな」
副団長や他の団員に夜まで散々しごかれた俺たちはバスールさんの屋敷に戻ってきてすぐお風呂に入った。
俺もものすごく疲れた・・・
「おにーちゃんすごかったね!速くて力強かった!」
「もう異能が使えるようになるなんてやっぱり兄さんはすごいです」
「まだファーストまでだがな」
試行錯誤の結果、俺はなんとかファーストギアまでの発動が可能となった。
とは言っても、レナータさん曰く、ファーストに至るよりもセカンドやサードに至る方が格段に難しいらしいので浮かれてばかりはいられない。
俺が使う肉体ギアはいたってシンプルな異能で、筋力や体力、動体視力や思考力など、全体的な能力が上昇する。
ただ、まだ慣れていないからなのか、発動できる時間が限られているようだった。
まだまだ鍛錬が必要だ。
「小春と木陰は訓練してみてどうだった?レナータさんは何か言ってたか?」
「レナータさんは私に短剣を、木陰に弓を勧めてくれました。私の場合は瞬間移動を有効活用するために俊敏な攻撃が効果的だということです」
「木陰はねぇ、千里眼のおかげで命中率が上がるんだって」
さすが副団長。
二人に適した武器を早めに見つけて、それを集中的に特訓した方が上達も早いのだろう。
「でも、私はまだ異能が使えないんです。木陰は少しずつ遠くのものが見えてくるようになったって言ってるのに・・・」
「小春なら大丈夫だよ。初めは包丁を怖がっていたのにすぐ料理ができるようになったじゃないか。小春が頑張り続ける限りできないことなんてない」
「兄さん・・・ありがとうございます!」
「ああ小春だけずるい!私の頭も撫でて撫でて」
「木陰もどんどん上達していくよ」
「「えへへ」」
頭を撫でてやると、小春と木陰はとても嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
可愛い・・・
俺はいますぐにでも強く抱きしめたいという衝動を必死に抑えつつも二人の肩を軽くこちらに引き寄せた。




