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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

チェスト名作劇場

ヘンゼルとグレーテル―薩摩の魔女斬り兄妹―

 むかしむかし、薩摩国あるところに貧しいお侍が、おかみさんと、ヘンゼルとグレーテルという二人の子供と一緒に住んでおりました。おかみさんは後妻で、血の繋がらないヘンゼルとグレーテルを疎ましく思い、いつも意地悪ばかりしていました。
 お侍は外城衆中とじょうしゅうじゅうと呼ばれる下級の士分ゆえに禄は低く、日々の暮らしにも事欠くような様でありましたが、ある年のこと、桜島が大噴火を起こしてお国を飢饉が襲いました。
 食べるものがなくなった一家は、朝から晩まで揃って焼酎ばかり飲んでいたのですが、あるときお侍は、

(おいたちは、こいからどげんなっじゃろう。おいの食べる分ももうねぇのに、子供に何を食わせればいいのじゃろか)

 と考えました。しかしいくら考えても答えは出ず、お侍はやけっぱちで焼酎を呷りました。それを見ていたおかみさんは、

「子供を森に捨てたら、食い扶持が減って良か」

 と言い出しました。お侍は流石に困って、

「そげなことでけん。おはんは鬼か」

 と言いましたが、おかみさんは、

「ばってん、こんままだと共倒れじゃ。他にやりようが無か」

 と言って聞きません。挙句の果てには、

「もし子供を捨てんと言うんなら、おはんをチェストして食い扶持を減らしもす」

 と言って刀を持ちだしたので、お侍はしぶしぶ承服しましたが、

(かわいそなことじゃ、おいは捨てたくなか)

 と内心では思っていました。
 その話を、ヘンゼルとグレーテルはこっそりと盗み聞きしていました。

「おいはもう終いじゃ、死ぬほかになか」

 と泣くグレーテルをヘンデルはなだめて、

(おいとグレーテルは捨てられっのか。ばってん、ただ捨てられて死ぬんは武家者ぼっけもんの恥じゃ。備えをせんといかん)

 と思い、こっそりと外に出て半年前に叩き斬った無礼者の骨を庭先から掘り出して、懐に忍ばせました。





 翌日の朝早く、お侍はヘンゼルとグレーテルを起こし、

「今日は森に行っど」

 と言って、それから家族は四人揃って森に行きましたが、ヘンゼルはその途中で、持ってきた人骨を目印の代わりに落としていきました。
 森の真ん中に着くと、お侍は、

「たきぎにすっで、小枝を集めてけ。おいはここで待っちょっから」

 と言ってヘンゼルとグレーテルを送り出し、おかみさんと二人でこっそりと家に帰ってしまいました。
 ヘンゼルとグレーテルが戻ってきたときには、すでにお侍とおかみさんの姿はありませんでした。二人は何度も、

親父おやっどん、かかどん、どこにおるんじゃ?」

 と呼びかけましたが、何の返事もありません。心細くなったグレーテルは泣き出し、

「とうとう捨てられてしもた、もう終いじゃ」

 と嘆きましたが、ヘンゼルは、

「おいに良か考えばある、月が出るまで待っちょれ」

 と言いました。しばらくして月が昇ると、目印に落としてきた人骨が、月明りにきらきらと輝き始めました。二人がそれを頼りに家に帰ってくると、お侍もおかみさんも大変驚いて、

「大した武家者ぼっけもんじゃ、よう戻ってきた」

 と言いましたが、心は穏やかではありません。焼酎と僅かばかりの米の他に食べ物はありませんし、おかみさんは、

(ないごて戻ってきた、死んでおりゃ良かった)

 と心の底で苦々しく思い、次こそ確実に捨ててきてやろうと思いました。





 それから数日後、お侍はヘンゼルとグレーテルに僅かばかりの米を持たせ、再び森の奥に家族四人で向かいました。また捨てられるのだろうと予想をつけていたヘンゼルは、持っていた米粒を少しずつ道に落としていきました。
 ところがこれはうまくいきませんでした。落ちていた米粒を、近くに住んでいた貧農たちが食べてしまったのです。薩摩の年貢は八公二民、農民たちは生きていくだけで必死なのです。
 ヘンデルとグレーテルは、とうとう迷子になってしまいました。
 そのまま一晩中歩き続け、夜が明け始めたとき、グレーテルは甘い匂いがすることにふと気づきました。奄美名産の黒砂糖、百姓が一口でも舐めれば死罪は免れない代物です。持ってきた僅かな米も食べ尽くし、お腹を空かせた二人はその匂いに引き寄せられました。
 外城衆中とじょうしゅうじゅうの家に生まれた二人は、それが黒砂糖の匂いだということは知っていましたが、口にしたことなどありません。期待に胸を躍らせて匂いを辿っていくと、目の前に大きな家が現れました。
 驚いたことに、その家は全てがお菓子で出来た家だったのです。石垣は黒砂糖、壁は南蛮舶来の「かすていら」、屋根瓦は煎餅といった代物で、二人は夢中になってお菓子の家をむさぼりました。
 そうしていると、突然扉が開き、

「おいの家を齧っちょるんは誰じゃ?」

 と、歳を取ったおばあさんが現れました。
 ヘンゼルはその場に平伏して、

「とんでんなかことをしてしもうた、ごめんなせぇ。おいは腹を切って詫ぶっで、いもっじょだけは見逃したもんせ!」

 と言って、腰に提げていた薩摩の名工、宮原正清作の刀を抜き放って腹を切ろうとしましたが、おばあさんは、

「そげなことせんでも良か、腹ば減っちょったんじゃろう、上がりやんせ。『かすていら』も焼酎も、好きなだけやっど」

 と言って、二人を家に招待して、たらふくお菓子を食わせて焼酎を飲ませました。焼酎が回って眠ってしまった二人を眺めながら、おばあさんはにやりと笑って、懐に隠していた短刀の柄に触れました。

(美味そうな子じゃ、どちらから食もってしまおうか)

 なんとおばあさんは、人を食べる魔女だったのです。お菓子の家を餌に、森で迷った子供たちをおびき寄せては、罠に掛けて食べていたのでした。





 あくる日、ヘンゼルが目を覚ますと、彼は刀を取り上げられて座敷牢に押し込められていました。太い格子の向こうでは、おばあさんの企みを聞かされたグレーテルがしくしくと泣いています。
 その日からグレーテルはおばあさんの命令で、ヘンゼルのために料理を作るように言われるようになりました。ヘンゼルを太らせて食べてしまおうというおばあさんの企みによるものです。
 それからしばらくの間、グレーテルは料理を作り続けました。ある日、おばあさんは、

(そろそろいい頃合いじゃ、ヘンゼルを食もってしまおう)

 と思い立ちました。ヘンゼルを煮る鍋の近くで湯を沸かしていたグレーテルに、

「おはんは火の加減を見ておれ」

 と言いつけました。おばあさんに隙があると見て取ったグレーテルは、

「いけんやって火の加減を見ればよかのかわからん、試しにやってみてほしか」

 と言いました。おばあさんは、

「簡単じゃ、こうしてかまどを覗き込めばよか」

 と言って、火の入ったかまどを覗き込みました。まさに千載一遇の好機――グレーテルの内に眠る、武家者ぼっけもんの血が目を覚ましました。グレーテルは素早くおばあさんの後ろに回り込み、

「チェェェエエエエエエエストオオオォォォオオオオオオ!!」

 と猿叫を上げておばあさんの首根っこをむんずと掴み、頭をかまどの火の中に突っ込んだかと思うと、腕をねじ上げて押さえ込みました。見事な柔術です。
 突然頭をかまどに突っ込まれたおばあさんは顔面に火傷を負って、あまりの痛みに悶絶しましたが、おばあさんも同じく薩摩の武家者ぼっけもんです。そう簡単に負けはしません。
 すぐにグレーテルを振りほどき、焼け爛れた恐ろしい顔を歪めて、今度はグレーテルを同じく柔術で組み伏せると、懐に入れていた短刀を抜いて振りかざしました。
 それを座敷牢から見ていたヘンゼルはぎり、と歯噛みして立ち上がり、両の腕に力を込めて、頑丈な鉄格子を握りしめました。そして――

「――チェエエエエエエイィィィストオォォォォオオオオオッッッッ!!」

 と頑丈な鉄格子をまるで飴細工のように捻じ曲げたかと思うと、鉄砲玉のように飛び出して、おばあさんの脳天に痛烈な飛び蹴りを叩き込みました。
 おばあさんは三間半ほど吹き飛ばされて壁に激突し、たまらず目を回しました。ヘンゼルはおばあさんに詰め寄って首を掴み、恐ろしい声で言いました。

「ようも、ようもやってくれたのう、こん外道が」
「うぐ……」

 おばあさんは苦しみのあまり言葉も出ません。ヘンゼルは飢えた虎のように目を光らせて、おばあさんの首をさらに締め上げました。めきり、と音を立てて首の骨が軋み、おばあさんは生まれて初めて「恐怖」という感情を知りました。
 おばあさんはヘンゼルから奪った宮原正清の刀を抜こうとしましたが、ヘンゼルの左手はおばあさんの右手首をしっかりと掴み

「おいの刀じゃ、返せ」

 と手首を握り砕いて、あっさりと刀を取り返しました。
 次の瞬間、ヘンゼルは恐るべき膂力でもっておばあさんを床に叩きつけたかと思うと、奪い返した名刀正清を神速で抜き放ち、

「――チェェエエストオオオオオォォォオオオ!!」

 とおばあさんの腹に斬りつけ、傷口に手を突っ込んで生肝を掴み出しました。
 おばあさんが息絶える直前に聞いたのは、

「――ひえもんとりもした!」

 と叫ぶヘンゼルの声でした。





 持ち主の居なくなったお菓子の家には、悪事を働いてこしらえた大判小判が山と詰まっておりました。ヘンゼルとグレーテルはたいそう喜んで、

「分捕り品じゃ! 取れ、取れ!」

 と手当たり次第に財宝を奪い、最後におばあさんの首を掻き取って懐に収めると、何日もかけて自分の家に帰りつきました。扉の前で二人は目配せして、

「チェストォォォォォォォオオオオオオオ!!」

 と扉を蹴破り、ヘンゼルは腰に差していた刀を抜き放ちました。中にいたお侍とおかみさんは仰天しました。死んだはずの二人が帰ってきたのです。
 グレーテルは一歩前に進み出ると、くわぁっ、と目を見開き、お侍とおかみさんを睨みつけて、

「おはんら、ようも捨ててくれたのう?」

 と、怒りを露わにしました。ヘンゼルは蜻蛉の構えをとりながら、震えるお侍とおかみさんに詰め寄ります。するとお侍は、

「堪忍しゃったもし! よめじょが捨てろと言うて刀ば持ち出しやって、おいは仕方なく手伝うたんじゃ、おいはおはんらを捨てたくなかと思うちょった! 堪忍しゃったもし、堪忍……」

 平伏して頭を下げるお侍を見て、ヘンゼルは小さく頷き、

「良か。許す」

 といって、今度はおかみさんに向き直りました。幼いながらも薩摩の武家者ぼっけもん――何をするかわかったものではありません。おかみさんは震えながら、

「おいもおはんらを捨てたくなかと思うちょった! ばってん、食べ物が無ぇから、仕方なかと思って……」

 と言いましたが、ヘンゼルは刀を握りしめたかと思うと、

「――チィィィエエエストォォォォオオオッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 と猿叫を上げて、おかみさんを脳天から股下まで一刀両断に斬り下しました。正真正銘の薬丸自顕流――稲妻より疾いその刃は、まさしく雲燿に達した神速の一閃でありました。
 おかみさんを成敗したヘンゼルとグレーテルは笑みを浮かべて懐から大判小判を掴み出し、

親父おやっどん、これで良か暮らしを始めっど! 魔女ん家からの分捕り品ぞ!」

 と言って、魔女の家から持ち帰った財宝を次々に取り出し、最後に机におばあさんの首をどんと乗せました。お侍は表情を明るくして、財宝を持ち帰った二人を、

「魔女ん首級くび取ったか! おはんらは大した武家者ぼっけもんじゃ! 良か! 良か!」

 と褒めたたえました。それから、お侍の家の暮らし向きは大いによくなり、親子三人仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


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