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信長の猫  作者: ギリギリ伯爵
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悪魔と契約者

 明智光秀の娘・珠子は、宮津城主・細川忠興の妻である。

 十五歳で名門 細川家に輿入れし、子供も産まれ充実した生活を送っていた。

 順調だった珠子の人生は、父・光秀の起こした本能寺の変によって一変する。

 夫である忠興によって、丹後に幽閉されたのだ。

 逆臣の娘として、世間からの誹謗中傷、織田家臣団からの縁戚処罰要求から、妻の珠子を守るための避難的措置であった。


 孤独で不自由な幽閉生活の中で、珠子の心を慰めたのは、侍女・清原イト(後の清原マリア)の存在であった。


 イトは話上手な才女で知識が豊富。特に西洋の文化について詳しかった。

 話術の巧みなイトとの語らいで、珠子の心は見知らぬ異国を旅していた。

 珠子の中で西洋文化への憧れは日に日に大きくなり、キリシタンの教えに傾倒していくのは当然の帰結であっただろう。


 ――ある日。


 イトの紹介で、秘かに一人の宣教師が珠子の幽閉されている屋敷を訪れる。

 彼は、自らを“フェレス”と名乗った。


 ――宣教師・フェレス。その正体は“悪魔大公・フェレス”。

 彼は言葉巧みに人心に取り入り、甘い誘惑で“悪魔との契約”を持ちかける。

 

 ――細川珠子(洗礼名:細川ガラシャ)は父娘二代“契約者”となり、破滅の人生を送ることになるのだ

 


 ――――



 悪魔公女・タルテは、信長の猫に祟る悪霊・怨霊を統括していたが、今は完全に信長の行方を見失っている。

 海で八十姫とともに溺れた時、信長の猫は死ぬ寸前であったはずだ。だが、その魂は地獄に堕ちず、第六天魔王 他化自在天・ハジュンの人界への降臨は成らなかった。

 現在、信長の猫の魂は自ら意識を閉ざし、思考レベルを一般的な飼い猫にまで落としている。

 そうなると、精神の波動によって対象を認識する悪霊・怨霊は、その存在を感知する事が出来なくなるのだ。

 黒い猫などは特に珍しくも無く、そこら辺何処にでもいる。

 特定して探し出す事など不可能。

 もし信長の猫が自然死した場合、儀式は成就しない。必ず呪殺しなければならない。

 そこでタルテは管轄する悪霊・怨霊を人や獣の死体に憑依させ簡易的インスタントに魔物化して目についた黒い猫をことごとく殺して回っていた。


 短絡的なタルテは、フェレスのように心理(ゲーム)で人の心の隙にけ込み“契約者”に仕立て上げるような緻密な立ち回りは出来ない。その代わり、妖艶な美貌で男をたぶらかしニッで骨抜きにして“契約者”になるようにねだる。そうして人界での活力を得ていた。

 

 ――契約者は、魂の苦悩が深い者ほど質が高く、悪魔はより強い力を得られる。


 フェレスは、そうした者に取り入り、寄り添い、同情し、信頼を得た上で“契約者”に仕立て、最後には地獄にとす。一連の手間ややり取り自体をたのしむ量より質のタイプ。

 一人に関わる時間が長く、数は多く無いが質の高い力を得る事が出来る。


 対して、一時の肉体の快楽に溺れてホイホイ魂を差し出すような思慮の浅い者の魂は、質が低く得られる力も弱い。だが、タルテの強みはその数にある。

 手当たり次第に男と関係を持って、マシンガンのように使い潰す。質より量のタイプ。


 こうして、二人の悪魔は力を蓄えながら“人界侵略作戦”の準備を整えていた。



 ――――



 一方、二人の上司である悪魔代皇・バエルは魔界に戻っていた。今回の事の顛末を悪魔皇帝・ルシフに報告するためである。

 

「……なるホド。せっかく良き牲贄を見付けたと思ったラ、思わぬ邪魔が入ったト?」

「ハっ! さようにございマス。つきましては、天狗ドモを血祭りに上げるべく戦力の追加を要求(お願い)いたしたく……」


 ルシフの片眉がピクッと上がる。

 バエルの青白い肌はさらに蒼くなり、額に冷や汗が一筋流れる。

 小刻みな震えは止まらず、平伏した顔を上げる事も出来ない。


「暴竜アバドはどうしタ? 余ノ()()()()()()達を、その“天狗”とか言う下賎な妖怪を相手にするため、さらに差し出せト?」

「ハハーっ! 申し訳ありませヌ。今回ノ不手際、全てワタクシの力不足。ドウかお許シ下さりませ!」

「……まぁ良い、好きなのを持って行け。ソレより、()()()魔獣ペットを人界に呼び出すタメの魂は足りるのか?」

「ソレに関しては、人界は常に争いノ絶えぬトコロ。死者ノ魂に事欠くコトはありませぬ」

「ソウか、分かった。引き続きソナタに任せる。次は良い報せを期待してオルゾ?」

「ハハハーっ! 次コソは必ずや!!」 


 今回の“人界侵略作戦”の計画を立案し、実行の許可を皇帝・ルシフに具申した責任者は代皇・バエル本人である。

 失敗した場合、その責任は全て自分が被らねばならない。


(おのれ天狗ドモめ! 次コソは殲滅してくれる!!)


 ――バエルは思い違いをしている。 

 天狗は悪魔の邪魔をしただけで、信長の命は救っていない。今回、天狗は()()()助けたに過ぎなかった。

 今まで信長を護ってきたのは蘭丸であり、海で怨霊を退けたのは平手政秀や浅井長政と言った、信長にえにしの有る亡霊達であった。

 つまり、悪魔の()()()は“他者を護ろうとする強い意思を持った人間とその魂”である。


 人間とその魂を、悪魔や魔獣の餌か儀式や契約の道具にしか思っていないバエルがその事に気付く事は無かった。

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