第83話 黒い剣士……その名はザルヴァ!(前編)
メタルノイド出現の知らせを聞いて、さやかとミサキは急いで現場へと向かう。
変身を終えた二人が街中に駆け付けると、一人の男が彼女たちを待ち構えていた。
背丈4mで忍者のような外見をした男は、自らソードマスター・ザルヴァと名乗った。
「ザルヴァ……だとぉ!?」
相手の名を聞いた途端、ミサキが声に出して驚く。そして困惑の表情を浮かべながらも、警戒するように刀を手にして身構えた。それは明らかに敵の素性に心当たりがある者の取る行動だった。
「ミサキちゃんっ! アイツの事、何か知ってるの!?」
そんな仲間の反応を見て、さやかが不安そうな顔で問い質す。
「ああ……直接会ったのはこれが初めてだが、ウワサには聞いていた。バロウズ屈指の剣の使い手と呼ばれた、二人の男がいると……。その内一人はエッジマスター・ガイル……私に剣術を教えた師匠だ。そして残るもう一人が……師匠とも互角に渡り合ったとウワサされる男……そいつの名こそ、ソードマスター・ザルヴァッ!!」
ミサキが敵の素性について詳細に語る。彼女の知っている情報は決して多くは無かったが、それでも今彼女たちの前にいる敵が恐るべき実力の持ち主だと理解するには十分だった。
『フッ……ガイルの弟子か。まさかここで会う事になるとはな……だが俺が戦いたい相手は、貴様ではない』
ザルヴァはミサキの方を一瞬だけチラ見しながら、小馬鹿にするように鼻で笑った。まるで彼女の事など眼中に無いと言わんばかりだ。
『俺がここに来た目的は、赤城さやか……いやエア・グレイブッ! 貴様だッ! バエルを倒したという貴様と、一度戦ってみたかった! 俺はいずれ宇宙最強となるために、バエルをこの手で倒さねばならん……そのためにも、まずは貴様を殺してステップアップを図らせてもらうッ!』
背中の鞘に挿さった二振りの刀を引き抜いて二刀流になると、左手に握った刀の剣先をさやかに向ける。そして自身がここに来た目的を告げながら、彼女に対して宣戦布告を行った。
「宇宙最強だか何だか知らないけど、上等じゃないっ! アンタもバエルと同じくボコボコにブチのめして、地獄に叩き落としてやるわっ!」
さやかは売られたケンカを買うように気の強い言葉を吐きながら、興奮気味にフンフンと鼻息を荒くする。相手の実力の高さを仲間から知らされても、恐れを抱く様子は無い。むしろ一人の戦士として挑戦状を叩き付けられて、やる気が高ぶったようにも見える。
そして高いテンションのままに、敵に向かって猛スピードで走り出した。
「どぉぉりゃぁぁあああああっっ!!」
勇ましい雄叫びと共に、全力を込めた右拳が放たれる。
『セェェヤァァアアアアアッッ!!』
ザルヴァも負けじと大声で叫ぶと、少女がパンチを放ったのとほぼ同時に、左手に握った一本の刀で斬りかかった。
少女の拳と金属の刃とが激しくぶつかり合い、鈍い金属音が天にも届かんばかりの大きさで響き渡る。
「うわぁぁああああっ!」
その直後、さやかは悲鳴を上げながら、凄まじい力で後方へと弾き飛ばされる。そしてゴムボールのようにバウンドして、何度も全身を地面に叩き付けられた。
相手を力で押し切れずに、衝突による反動が彼女自身に返ってきたかのようだ。
一方のザルヴァは、衝突時の構えのまま、しっかりと大地に立っている。少女の拳を受けた刀は、微かにビリビリと震えていた。
『なるほど……大した力だ。これまで数多くの同胞を屠ってきただけの事はある。だがその程度では、まだ俺の求める力には到底届かん』
男は相手の力を認めながらも、こんなものか、と拍子抜けした言葉を吐く。
『エア・グレイブ……今のお前の力では、この俺には勝てん。パワー、スピード、防御力、戦闘経験、技量……全て俺の方が上回っているッ! バエルを倒したという、強化形態になりでもしない限りはなッ!』
そして初期形態の彼女では自分は倒せないと、自信に満ちた声で挑発した。まるで強化変身しないと俺は満足させられないぞと煽っているかのようだ。
「まだだ……私の力は、まだこんなモノじゃないッ!」
さやかは気迫に満ちた言葉を吐くと、体を起こしてゆっくりと立ち上がる。その目は何としても負けまいとする闘志の炎に燃えている。それでも強化変身しようとはしない。
意図的に変身できない事も理由の一つだが、彼女にとって強化変身はあくまでイレギュラー要素であり、可能な限り初期形態で戦い抜きたいという思いがあった。
「私の本気の力……見せてあげるッ! 最終ギア、解放ッ!!」
彼女がそう口にすると、右腕の装甲に内蔵されたギアが高速で回りだし、凄まじい速さでエネルギーが溜まっていく。そして限界までパワーが溜まり切ると、前方の敵に向かって駆け出していた。
「……オメガ・ストライクッ!!」
大声で技名を叫びながら、少女の全てを賭けた拳の一撃が繰り出される。
ロケットランチャーの砲弾のように突き進む剛拳を、ザルヴァは二本の刀をX字に交差させて、刀が重なり合った一点を盾にして受け止めようとする。
拳と刃が再びぶつかり合い、さっきよりも数段大きな爆音が振動と共に鳴り響く。
『ムゥゥオオオオオッ!!』
ザルヴァは刀を構えた姿勢のまま気合の篭った掛け声を発しながら、相手の一撃を力ずくで耐え凌ごうとする。彼の体全体が直立不動のまま後ろへと押されていき、足元からズザザァーーッと音を立てて砂埃が空へと舞い上がる。
「いっ……けぇぇええええええっっ!!」
さやかは腹の底から絞り出したような声で叫びながら、拳に力を入れて、一気に相手を押し切ろうとする。このまま刀をへし折ってやるつもりでいた。
だが……。
『……ムゥンッ!!』
ザルヴァが一声発しながら二本の刀をグイッと前方に押し込むと、さやかはまたしても後方へと弾き飛ばされてしまう。
「ああぁぁっ!!」
さっきよりも一段と強い力で押し返されて、少女の体が悲鳴と共に宙を舞う。そして物凄い速さで地面に激突すると、全身を駆け巡る痛みに悶えるように体を丸まらせた。
「そん……な……」
少女の口から困惑する言葉が漏れ出す。地面に打ち付けられた体の痛みよりも、力で一方的に打ち負けたという事実の方が、彼女の心を深く抉った。
今の実力では勝てないという男の発言を否定したかった少女にとって、発言の正しさを証明したに等しい結果になった事は、戦士としての自信を失わせるには十分だった。
「……なんてヤツだ」
敵の強さを見せつけられて、ミサキが思わずそう口にする。
それなりに強い事は覚悟していたものの、今目の前でさやかを圧倒してみせたザルヴァの強さは、彼女の予測を遥かに上回っていた。
それでも、ここで引き下がる訳には行かない。
「ザルヴァ……今度はこのエア・エッジ、霧崎ミサキが、一人の戦士として貴様の相手になろうッ!」
恐れる感情を必死に押し殺すと、選手交代だと言わんばかりにザルヴァとさやかの間に割って入り、敵に対して宣戦布告を行う。
そして一本の刀を両手で握って技を放つ構えを取ると、大地を強く蹴って駆け出した。
直後少女の体は吹き抜ける突風のように速くなり、ヒュンッと音を立てて弾丸のように突き進む。
『何ぃっ!?』
瞬間的に異常な速さになった彼女に、さしものザルヴァも驚きを禁じえない。
咄嗟に二本の刀で横一閃になぎ払って相手を斬り捨てようとするものの、刃が届くよりも彼女が懐に飛び込むタイミングの方が速かった。
「我が剣、その身に刻み込めッ! 冥王秘剣……烈風斬ッ!!」
そう言い終えるや否や、ミサキは通り抜けざまにザルヴァの脇腹に、刀による全力の一撃を叩き込む。そしてそのまま一気に彼の背後へと走り抜けた。
「……ッ!!」
その直後、彼女は戦慄した。斬り付けた瞬間刀越しに彼女の腕に伝わった振動は、相手に致命傷を与えていない事を明確に悟らせたからだ。
彼女が恐る恐る後ろを振り返ると、冷酷な現実を突き付けるように、ザルヴァの脇腹の装甲にはカスリ傷しか付いていなかった。
『懐に入り込めば、傷を負わせられるとでも思ったか? 言ったはずだ……防御力も、上回っているとッ! お前たち程度の力では、俺の体に傷を付ける事は出来ん……絶対にッ!!』
ザルヴァが当然の結果と言いたげに息巻く。こうなる事をあらかじめ予測したのか、装甲の硬さをアピールするように誇らしげにふんぞり返った。
「ぐっ……!!」
ミサキは彼の言葉に反論出来ず、心の底から悔しがるように下唇を噛んだ。
刀さえ掻い潜れば深手を負わせられるという計算を狂わされたショックのあまり、深い焦りの感情が胸の内に湧き上がる。
あれこれ思案を巡らせるものの、どれも今一つ決め手に欠けており、敵を倒す解決策にならない。まさに八方塞がりの状態だ。
『さて……お前たちの技を見せてもらった所で、今度はこちらから行かせてもらうぞ。我が剣の真髄……とくと目に焼き付けて、死ぬがいいッ!!』
苦悩するミサキを嘲笑うようにザルヴァが挑発的な言葉を吐く。そして彼女の方を向いたまま、二本の刀を天高く掲げる。
『天王秘剣……斬鉄閃ッ!!』
大声で技名を叫ぶと、正面にX字の軌道を描くように、全力で刀を振り下ろした。
直後彼の足元の地面が突然爆発し、そこから巨大な衝撃波が放たれる。
龍の姿をしたオーラをまとった衝撃波は、マッハを超えた速度で大地を走りながら、前方にいる少女に襲いかかろうとする。
「くっ! ……うぁぁああああっっ!!」
ミサキは咄嗟に横っ飛びして衝撃波をかわすものの、衝撃波が通り抜けた瞬間に爆風のようなものが吹き荒れて、空高く打ち上げられてしまう。風の勢いは凄まじく、ザルヴァの背後にいたさやかまでもが一緒に吹き飛ばされてしまう。
「うわぁぁああああっ!」
そして二人して仲良く落下して、地面に叩き付けられた。
「グッ……なんて技の威力だ」
全身を駆け巡る痛みに耐えながら、ミサキが急いで体を起こす。
先ほど自分が立っていた大地に目をやると、衝撃波が通り抜けた部分が、巨大な龍の爪で抉られたような跡になっていた。
あと一瞬でも避けるのが遅れたら、確実に死んでいただろう……そんな考えが彼女の頭をよぎり、背筋が凍り付いた。
『かわした事は素直に褒めてやる。だがこれで分かっただろう……お前たちではどうあがいても、勝ち目が無い事が』
ザルヴァが敗北を突き付ける言葉を口にしながら、ミサキに向かって歩き出す。技を避けられた事を気にかける様子は無い。
力強く前へと踏み出す足は、揺るぎなき勝利への確信に満ちていた。
「ふざけるなッ! まだ勝負は着いていないッ!」
ミサキは言葉で張り合いながら、すぐに体勢を立て直そうとするものの、地面に叩き付けられたダメージが残っていた為わずかに動作が遅れる。
少女がもたついている間に、ザルヴァが目の前まで迫って来ていた。
『終わりだッ! 死すべし、エア・エッジ!!』
死を宣告しながら、男が刀を振り下ろそうとした瞬間……。
「ヤァァアアアアアッ!」
勇ましい雄叫びと共に、何者かが彼の背後に飛びかかる。
『ムゥゥウウンッ!』
ザルヴァは咄嗟に振り向きながら刀で斬り払おうとするが、その者は男の一撃を先読みしてかわすと、一直線にミサキの元へと向かう。そして彼女を両手で抱きかかえると、すぐに敵の間合いから離れた。
「……ゆりかッ!」
ミサキが感激した表情で名を呼ぶ。彼女を救出しに駆け付けたのは、他ならぬエア・ナイトに変身したゆりかだった。
後に続くように、エア・ライズに変身したアミカも現場へとやってくる。
『……四人揃ったか』
その時ザルヴァが待ち構えたように、ニヤリとほくそ笑んだ。




