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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第三部 「新」
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第80話 四人目の戦士(中編)

 任意の能力を五倍に引き上げるエア・ライズの力によってヘルザードを圧倒して追い詰めたアミカだったが、油断したすきを突かれて超重力に囚われてしまう。窮地に追い込まれた少女を救い出したのは、装甲少女に変身済みのさやかだった。


「……さやかさんっ!」


 彼女に肩を借りて助け起こされながら、アミカが名前を呼ぶ。その顔には安堵の色が浮かび、絶体絶命のピンチに駆け付けてくれた先輩に対し深く感謝する気持ちが湧き上がり、胸の奥がジーーンと熱くなる。

 それと同時に自分一人で勝てるという考えが、素人の思い上がりに過ぎなかったのだと強く後悔する念に駆られていた。

 どれだけ強い力を手にしたとしても、やっぱり人は一人だけでは強大な敵には勝てないんだ……そんな思いが少女の心を駆けめぐった。


「アミカっ!」


 さやかの後に続くように、ゆりかも空き地へと駆け付ける。彼女も既にエア・ナイトに変身済みだった。


「変身……したのね」


 アミカが金色に光る戦士ヒーローに変身した姿を見て、何とも複雑な表情を浮かべる。戦力の増強という本来喜ぶべき状況でありながら、過酷な戦いに彼女を巻き込みたくなかったという思いがあり、とても素直に喜ぶ気にはなれなかった。

 これが運命だというなら、神はなんて酷い仕打ちをしたのだろう……そう思わずにはいられなかった。たとえそれが、アミカ自身が望んだ事だとしても……。


「ミサキさんは……どうなったんですか!?」


 苦悶の表情を浮かべるゆりかに、アミカが心配そうに問いかける。自分を逃がすために重力の餌食となった仲間の身を案じずにはいられなかった。


「ミサキなら大丈夫……心配ないわ。あの後すぐに私たちが駆け付けて、傷を治しておいたから。ただ怪我が治っても意識は戻らなかったから、今は博士がそばにいてあげてる」


 仲間の置かれた状況について、ゆりかが冷静に説明する。


「……良かった」


 ミサキの無事を知らされて、アミカはホッと一安心したように胸を撫で下ろす。その表情はこれまで抱えていた不安が吹き飛んだように晴れやかだった。


「ニャニャァーーーーッ!!」


 その時三人のやり取りを見守っていたエルミナが、突然鳴きながら走り出す。そして助走を付けてジャンプすると、さやかの顔にしがみついた。まるで自分の事も構ってくれと言わんばかりだ。


「おーーよしよし、ママですよーー。こんなにボロボロになっちゃって……ルミナも必死に頑張ったんだね。良い子だね……よしよし」


 娘の労をねぎらうように、さやかは優しく言葉を掛けながら猫を両手でだっこして、首筋をコチョコチョとくすぐるように指で撫でる。エルミナも嬉しそうにニッコリ笑いながら、首を撫でられてリラックスしたように喉をゴロゴロと鳴らす。

 黒服の男やヘルザードに痛め付けられた傷跡は見るからに痛ましかったが、それでも元気そうに走った姿を見て安堵せずにはいられなかった。


『……』


 さやかに蹴り飛ばされて地面に倒れていたヘルザードが、無言のままゆっくりと体を起こす。あえて言葉は発しなかったものの、ギロリと邪悪に見開かれた目は、敵に不意を突かれた事への怒りをにじませていた。


「ルミナ、戦いが終わるまで安全な場所に隠れてて。大丈夫……あんなヤツ、私たち三人で力を合わせてパパッと片付けるから」


 さやかは落ち着いた口調でさとすように言い聞かせると、猫をそっと地面に置く。


「ニャアッ!」


 エルミナは分かった、とでも言いたげに元気に一声鳴くと、タタタッと早足で地面を駆ける。そしてさやか達やヘルザードから遠く離れたトタン板の陰に隠れると、塀から顔だけをニュッと出して覗き込んだ。


『パパッと片付ける……だとぉ? 今の言葉は聞き捨てならんぞ、小娘……このヘルザード、悪党と罵られようともバロウズの戦士である事には誇りを持っている。その誇りを侮辱した事、貴様の死を以て償ってもらおう』


 ヘルザードは腹立たしげに吐き捨てると、売られたケンカを買うように、さやか達の方へと歩き出す。エルミナを無力化するという使命を与えられた彼であったが、今はアミカを含む三人の装甲少女を抹殺する事こそが、自らが果たすべき役目であると考えていた。


「さやかさんっ! ゆりさんっ! ヤツの力は……」


 アミカが不安そうな表情を浮かべながら、敵の能力を伝えようとする。もし知らないまま挑んだら、あっさりと重力の餌食になるのではないかという懸念が心の内にあった。


「大丈夫、ヤツの能力はもう知ってるわ。これまでの映像を博士がデータにして送ってくれたから。それに対策はもう……考えてあるッ!」


 さやかはそう口にしてニヤリと笑うと、地を蹴ってアミカから離れるように駆け出す。すぐ後に続くように、ゆりかも彼女とは真逆の方角へと走り出す。

 そして三人は、それぞれ等間隔に距離を開けて三角形を作るように立ち、ヘルザードをその中心に取り囲んでいた。


『こっ……これはッ!?』


 三人の少女に三方を囲まれて、ヘルザードが声に出して困惑する。内心では相手の真意を測りかねていた。


『ええいッ! 何を企んでいようと無駄な事だッ! どのみち貴様ら程度の実力では、俺様には太刀打ち出来んのだッ! あのミサキとかいう女同様、ブザマに地べたを這いつくばるがいいッ! ひざまず……』


 精一杯強がるような言葉を吐きながら、さやかに狙いを定めて重力を掛けようとした瞬間……。


「やぁぁああああっ!」


 彼の背後に立っていたゆりかが勇ましい掛け声と共に飛びかかり、トカゲ男の背中に槍の先端を突き刺そうとする。

 男は術の使用を中断し、少女の一撃をすんでの所でかわすものの、左腕をかすってしまい鈍い音と共に緑色の金属片が宙を舞う。


『おのれぇええッ! よくも邪魔してくれたなぁッ! ならば貴様の方から先に、ひざま……』


 技の発動を邪魔された事に、ヘルザードが声を荒らげて激昂する。そして今度はゆりかに狙いを変えて重力を掛けようとする。


「どぉぉおおりゃぁぁああああっっ!!」


 だがゆりかと位置を入れ替えていたさやかが背後から飛びかかり、トカゲ男の後頭部に全力の蹴りを叩き込んでいた。


『ブゥゥオオオオオォッッ!!』


 ヘルザードが奇声を発しながら、頭から突っ込むように前のめりに地面に倒れ込む。とてつもない力が頭に加わったあまり、脳震盪のうしんとうと目まいを起こしながら手足をピクピクさせていた。

 それでもどうにか上半身だけを起こしてキョロキョロと周囲を見回すと、さやかとゆりかは彼を挟み込むように再び等間隔に距離を開けて立っていた。


『貴様ら……ッ!!』


 悔しさのあまり、ついそんな言葉を口走る。彼はその時になって初めて理解した。これが彼女たちの言っていた『対策』なのだと……。


 二人は男が技を使おうとするたびに、同じタイミングで飛びかかって攻撃を繰り出す。重力は一人にしか掛けられないから、必ず片方はガラ空きになる。男が攻撃を受けるにしろかわすにしろ、重力の発動は阻止される。二人は相方が元いた場所に着地して、ジャンプするたびに互いの位置を入れ替える。それを敵が消耗するまで延々と繰り返すというのだ。


「一人にしか術を掛けられない制約がある限り……アンタに打つ手は無いっ!」


 さやかが得意げにしてやったり顔を浮かべながら、フフンッと鼻息を吹かす。自分たちの勝利は揺るがないという、強い確信を胸に抱いていた。

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