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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第三部 「新」
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第78話 天昇!その名はエア・ライズ

 使命をやり遂げた満足感に包まれながら、安らかに息絶えようとした時……。


「ニャァアアーーーーッ!!」


 突如けたたましい猫の叫び声が響き渡り、薄れかけた少女の意識が覚醒する。

 声が聞こえた方角へとアミカが顔を向けると、視線の先に一匹の猫がいた。猫は少女を守るようにヘルザードの前に立ちはだかり、全身の毛を逆立ててフゥーーッと威嚇するようにうなり声を上げている。

 むろんその猫は言うまでもなく、アミカが箱型機械にかくまったはずのエルミナであった。


「エルミナ……なんで来ちゃったの……絶対来ちゃダメって、言ったのに……」


 猫の姿を目にして、アミカが悲しそうな顔をする。

 少女にとって、エルミナはこの場に決していてはならない存在だった。人類の未来のためには、どんな犠牲を払ってでも守り抜かねばならなかったのだ。彼女を守るためならば、自分の命など惜しくないとまで考えていた。

 だが自己犠牲的な覚悟を固めてまで守ろうとしたにも関わらず、彼女はここに来てしまった。その事に深い悲しみを覚えずにはいられなかった。

 自分を助けるために駆け付けてくれたという本来喜ぶべき状況でありながら、喜びよりも、大切なものを守れなかったという失意の方が大きかった。


『エルミナ……よくぞ来てくれた。これで……これでようやく、バエル様から与えられた使命を果たせるというものだ……俺様の未来には、輝かしい栄光が待っているッ! ケェーーッケッケッケェッ!!』


 悲しみに打ちひしがれたアミカとは対照的に、ヘルザードはお目当てのものを見つけられた事に気を良くしていた。猫に威嚇されても恐れる様子は全く無い。彼からすれば、エルミナなど象に逆らおうとするアリにも等しかった。

 少女に騙された失態をこれで帳消しに出来るという喜びのあまり、今にもスキップしたくなる衝動に駆られていた。


『フッフフフーーーン、フッフーーーン』


 そしてヘルザードは湧き上がる喜びのままに、笑顔で鼻唄を歌いながら、エルミナを素手で捕まえる。


「ニャッ! ニャニャッ!」


 トカゲ男の巨大な手に掴まれたまま、猫が必死にジタバタとあがく。爪を立てて引っ掻いたり、噛み付いたりして拘束を振りほどこうとする。だがそんな小動物の抵抗など、ヘルザードからすれば痛くもかゆくも無い。核の直撃にも耐えられる装甲が猫の爪などで傷付けられるはずも無く、ただ可愛くじゃれているだけだ。


『さて……バエル様からは捕獲でも破壊でも、どちらでも構わないと言われている。だったら基地に連れて帰るのも面倒だから、このまま握り潰してしまおうか』


 ヘルザードは気だるそうに独り言を呟くと、猫を握った手に力を入れだす。


「ニャァァアアッ!!」


 プレス機に挟まれたように物凄い力でギリギリと締め付けられて、エルミナが苦しさのあまり悲痛な叫び声を上げる。内部の機械がメリメリと砕けそうになる音が鳴り、猫がとても苦しそうにもがき暴れている姿は、見るからに痛ましかった。天にも届かんばかりの大きな声で鳴り響く悲鳴は、彼女を冥土へと送り付ける葬送曲のようですらあった。


「ああっ……エルミナ……」


 エルミナが巨大な手で握り潰されそうになる光景を目にして、アミカが悲嘆に暮れる。何としても彼女を助け出さなければ、という思いに駆られる。だが今のアミカには、立ち上がる力さえ残っていなかった。いくら立ち上がろうと頭で念じても、足がそれに答えてくれない。ただ念じた思いが空回りするだけだ。


(まただ……結局、こうなるんだ……昨日もそうだった。私に何の力も無いから、お姉ちゃんを助けられなかった。そして今日も……やっとかけがえの無い大切な家族を得られたのに……いつも誰かに守られてばっかで、私に誰かを助ける力が無いから、大切なものを守れないんだ……)


 目の前でエルミナが殺されかかっても、何も出来ない自分に苛立つあまり悲しみが止まらなくなる。目からは大粒の涙がとめどなく溢れ出し、地面へと零れ落ちて血と混ざり合う。口からはうっうっとか細くすすり泣く声が漏れ出す。己の無力さに対する嘆きと怒りで、少女は泣かずにはいられなかった。


(悔しい……悔しすぎる。ミサキさん達みたいな力が、私にもあれば……大切な誰かを守れるのに……こんなの、絶対悔しいよ……)


 深い悲しみの奈落で、少女が絶望しかけた時……。



 ――――あきらめるなっ!



 突如何者かの声が頭の中に鳴り響いた。

 謎の声に驚いたアミカが慌てて周囲を見回しても、声の主らしき姿は見当たらない。エルミナやヘルザードに声が聞こえている様子も無い。声はアミカだけに聞こえているらしかった。


(私は第四の……金色のアームド・ギア)


 謎の声が姿を見せぬまま自らの素性を明かす。

 声を発しているのは、ゼル博士が完成を終えたばかりの新型アームド・ギアに搭載された人工知能だった。


(どんな大きな困難にぶち当たっても、決して諦めるなっ! 心が折れない限り、必ずや道は開けるっ! 最後まで希望を捨てず、絶望に抗い続ける強い意思があるなら、私は喜んでそなたに力を授けようっ! さあ星月ほしづきアミカよ……立ち上がれっ! そして、大声で私の名を呼ぶのだっ!)


 声は少女に向かって強く訴えかける。機械とは思えないほど熱意の篭った言葉は、心折れかけた少女に奮起を促させるには十分だった。


「そうだ……こんな所でなんて、終われないっ! たとえこの身が砕けようと、心が砕けない限り、私は何回でも……何百回でも、立ち上がれるっ!」


 アミカはその目に闘志の炎を宿すと、死にかけとは思えないほど力強く立ち上がる。そして残された力を全て出し切るように、天に向かって大きな声で叫んだ。


「第四のアームド・ギアよ……私に、力をっ!」


 少女の声が轟いた瞬間、天が眩い光に包まれる。それから数秒後、遥か空の彼方から一筋の光が凄まじい速さで飛んできて、彼女の右腕に絡み付いて金色のブレスレットへと姿を変えた。

 アミカは自身の右腕に装着された『それ』を目にして、なすべき事を理解したように凛々しい顔付きでコクンと頷くと、迷う事無く変身の構えを取る。


覚醒トランスッ! アームド・ギア、ウェイクアップ!!」


 そう叫んだ瞬間、彼女の体が金色の光に包まれる。


『なっ……なんだぁぁぁあああああっっ!!』


 少女の身に何が起こったのか理解出来ず、ヘルザードが思わず声に出して困惑する。突然の出来事に驚いたあまり、エルミナを握っていた手をつい緩めてしまう。


「ニャアッ!」


 指と指の間にわずかな隙間が生じたのを見て、エルミナがすかさず脱出する。本来かなりの深手を負っていたはずだが、それでも逃げようとするのに必死だった。

 だがアミカの変身に気を取られていたヘルザードには、もはや猫に逃げられた事を気にかける余裕すら無かった。

 そしてエルミナもまた、少女が変身した事実にただただ驚かされていた。


 少女から発せられる光は辺り一帯を覆い尽くすほど眩く輝き、そして熱い。まるで人工太陽が目の前にあるような熱さのあまり、ヘルザードは近付く事も出来なければ、直視する事も叶わなかった。

 やがて辺りを覆う金色の光が消えて無くなった時、少女は以前とは違う姿へと変わっていた。


 肌に密着したレオタードに機械の装甲という、変身後のさやか達と同じような外見をしている。装甲はキラキラと夜空の星のように輝いており、見るからに華やかだ。ただサイズは十二歳の少女の体に合わせて縮小されていて、その分重量は軽そうに見える。

 さやか達には無い特徴として、右腕の装甲に三つのボタンが付いている。それがどんな効果を及ぼすのか、現段階では分からない。

 そしてヘルザードから制裁で受けた傷も、変身を終えたと同時に完治していた。


『なっ……何だその姿は……何なんだ、その姿はぁぁぁあああああーーーーーーッッ!!』


 少女の姿を目にして、ヘルザードは驚くあまり喉が枯れんばかりの勢いで叫んだ。全く予期せぬ出来事に対して理解する思考が追い付かず、半ばパニックに陥りかけていた。

 想定外の事態に慌てるヘルザードとは対照的に、アミカはとても落ち着いた様子で口を開く。


装甲少女アームド・ガール……その未来を照らす星の光、エア・ライズッ! ヘルザード……未来も栄光も、貴方には決して掴み取れないッ! 貴方の手に掴めるのはただ、地獄への片道切符キップのみッ!」

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