表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第三部 「新」
68/227

第66話 悲しみの姉妹(中編-1)

「何ぃぃっ!! その人型の何かというのは、メタルノイドではないのかっ!?」


 敵の襲来を知らせる言葉に、博士は思わず大きな声で聞き返した。助手の発した第一報がメタルノイドと明確に言及しなかった事に、強い疑問が湧き上がったからだ。


「分かりません……メタルノイドのようにも見えるのですが、そうでないようにも見えるのです。とにかくいつも襲ってくる個体とは、明らかに雰囲気が違うのです。そして何より違うのは……そいつはブラックホールを使わずに、突然街中に現れたのですっ!」


 うまく言い表せずにもどかしさを感じるように助手が困った口ぶりをする。


「分かった……さやか君、ゆりか君、ミサキ君っ! とにかくも君たちは現場に向かって、そいつの破壊活動を止めてくれっ! 我々は研究所のモニター室から、君たちをサポートするっ! くれぐれも、命を粗末にしないでくれっ!」

「はいっ!」


 博士にうながされて、さやか達は威勢の良い返答と共に、部屋から早足で出て行った。


(何だろう……なんだかとても、嫌な予感がする)


 ゆりかの胸に、言い知れぬ不安がよぎった。


  ◇    ◇    ◇


 研究所からそれほど遠く離れていない街中の交差点……装甲少女に変身済みのさやか達が駆け付けると、人型の何かは待ち構えるように立っていた。


 その者は背丈3m、美しい人間の女性のような体つきをしており、全身を金属の装甲で覆われている。女性型アンドロイドのようにも見えるが、全身を覆うタイプのパワード・スーツにも見える。助手が戸惑うのも無理は無かった。


「なんだコイツっ! メタルノイド……なのかっ!?」


 『彼女』の姿を一目見て、ミサキが驚きの言葉を発する。得体の知れない敵を前にして警戒するあまり、思わず二歩ほど後ずさった。

 困惑するミサキとは真逆に、さやかは物怖じせずに威嚇するように睨み付ける。いつものメタルノイドなら自ら名乗りを上げる場面で、無言のまま押し黙っている相手に内心では腹を立てていた。


「ちょっとアンタっ! 何者だか知らないけど、名を名乗りなさいよっ!」

「……」


 強い口調で素性を問い質すものの、相手がそれに答える気配は無い。まるで声を聞かれたら都合が悪いかのように、沈黙を貫き通している。そして一言も喋らないまま、突然さやかへと殴りかかった。


「くっ!」


 奇襲に驚いて一瞬反応が遅れたものの、さやかは素早く後ろに下がって相手の一撃をかわす。彼女が立っていた地面が強い衝撃で殴り付けられると、地震のような揺れが起こってコンクリートの破片が飛び散る。

 得体の知れぬ存在ではあるが、その腕力は十分にさやか達を殺し得るものだった。そして『彼女』がさやか達に明確なる殺意を抱いた敵である事が、行動によってはっきりと示される事となった。


 ゆりかは機械の付いたメガネのような装置を顔に掛けて、ボタンに手を触れる。それはかつてバエルが引き連れた十三人のミサキをロボットだと見破った解析用のマシンだった。


「うっ! 何重ものプロテクトが……」


 だがすぐには見破れずに、思わず焦る言葉が口をついて出た。

 解析されては困ると判断したのか、人型の何かは標的を切り替えたようにゆりかの方へと振り向いて、一直線に走り出す。

 パンチを繰り出そうとした瞬間、『彼女』の前にさやかが立ちはだかり、両腕を盾のように構えて相手の拳をガードしていた。


「ゆりちゃん! コイツの相手は私たちに任せて、中身の解析をお願い!」


 さやかは防御の構えを崩さぬまま、後ろを振り返らずに仲間に声を掛ける。

 彼女に促されて、ゆりかは無言でコクンと頷いて解析を続行する。


「……ッ!!」


 人型の何かは、拳を受け止めた相手の両腕を力ずくで押しのけようとする。あえて言葉は発しないものの、拳に込められた力には怒りの感情が表れているように見えた。


「どぉぉりゃぁぁああああっっ!!」


 さやかに気を取られていた『彼女』に向かって、ミサキが勇ましい掛け声と共に斬りかかる。

 人型の何かは咄嗟にジャンプして避けるものの、ミサキは自分のターンとばかりにそのまま追撃をかける。何度も刀を振り回して斬り付けようとするが、『彼女』は体の大きさからは想像も付かないほど軽快な身のこなしで全ての斬撃をかわす。その動きはまるでダンスを踊っているようであった。

 そして大振りの一撃を空振って隙を見せたミサキに向かって、この時を待っていたかのように『彼女』が鋭い貫手を放つ。


「ぐぅっ!」


 ミサキはすんでの所で相手の一撃をかわすものの、脇腹をかすってしまう。研ぎ澄まされた刃のような切れ味の貫手がかすめた傷口からは、真っ赤な血がとめどなく流れ出す。


「なかなかやるな……だが」


 痛みを堪えるように脇腹の傷口を手で抑えながらも、ミサキがニヤリと不敵に笑う。

 その時『彼女』の背後から、さやかが猛然と迫ってきていた。


「でぇぇやぁぁああああっっ!!」


 気合の篭った雄叫びと共に、右拳による全力の一撃を繰り出す。

 回避が間に合わないと悟ったのか、人型の何かは迎え撃つように自らもパンチを放った。

 互いの拳と拳がぶつかり合い、ダイナマイトが爆発したような衝突音が、振動と共に辺り一帯に響き渡る。そして……。


「ウッ……グゥゥワァァアアアアアッッ!!」


 次の瞬間、人型の何かはたまらずに悲鳴を上げながら後方へと弾き飛ばされる。力で一方的に打ち負かされた『彼女』の体は、まるで時速300kmの新幹線にねられたように強い衝撃で吹っ飛んでいき、全身を何度も地面に叩き付けられた挙句、最後はだらしなく仰向けに横たわったまま死にかけたセミのように体をヒクつかせていた。

 いくら『彼女』が強いと言っても、オーガーやブリッツのような重量型のメタルノイドでも無ければ、パワータイプであるさやかと正面から力でぶつかり合って勝てるはずが無かった。


「グゥゥ……」


 辛そうにうめき声を漏らしながらも、必死に気力を振り絞って体を起こそうとする。本来なら体を動かせないほど大きな痛みを受けたように見えるが、何としても負けられないという執念が、『彼女』に敗北する事を許さなかったのか。


 不屈の闘志を抱いて立ち上がろうとする『彼女』の前に、見下ろすようにさやかが立ちはだかった。その顔は力勝負で勝った事に対する強い自信に満ちている。


「アンタが何者かなんて知らない……けど、私たちはアンタなんかに絶対負けないっ! 負けられない理由がある……私たちには、この命に代えても絶対に守りたい大切なものがあるっ! それを壊そうとするなら、私はアンタを絶対に許さないっ!」


 腰に手を当てて男らしく仁王立ちすると、強い決意を秘めた眼差しで挑戦的な言葉を吐く。これ以上手出しするなら、もう容赦しないという彼女なりの意思表示をしているようでもあった。


「……」


 さやかに警告の言葉をぶつけられて、人型の何かは言い返せないように押し黙っていた。だが……。


「……守りたい大切なものなら、私にだってある」


 『彼女』なりに思う所があったのか、覚悟を決めたように口を開いた。


「……ッ!!」


 人型の何かが発した声を聞いて、さやかは驚くあまり言葉を失う。

 彼女が驚いたのは、今まで一言も喋らなかった相手が突然喋りだしたからではない。相手が発した声に、聞き覚えがあったからだ。


 その時、装置による解析を行っていたゆりかが、ふいに大きな声で叫んだ。


「さやかっ! ミサキっ! そいつ、メタルノイドじゃないわっ! 全身をパワード・スーツで覆っただけの、生身の人間……それも、私たちと同じくらいの背丈の女の子よっ!」


 解析が完了した事により得られた事実……それは目の前にいる敵が、パワード・スーツを身にまとった人間の少女であるというものだった。

 さやか達はこれまでかよわい少女と死闘を繰り広げていた事になる。だがその事にショックを受けるひますら、今のさやかには無かった。


 聞き覚えのある声……スーツの中身が、人間の少女であった事……その二つは、彼女の中にとてつもなく恐ろしい、しかし極めて現実性の高い一つの推論を浮かび上がらせる事となった。


「マイ……な……の?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ