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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第一部 「序」
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第4話 強襲!ブラック・フォックス

 突如現れたメタルノイドに誘拐されて、とらわれの身となるゆりか。

 さやかは彼女を救うべく装甲少女アームド・ガールに変身する。


覚醒トランスッ! アームド・ギア、ウェイクアップ!! 装甲少女……エア・グレイブッ!」


 そして彼方に飛んでいったメタルノイドを、すぐさま走って追いかける。


「ハア……ハア……待ってて、ゆりちゃん……必ず助けるっ!」


 そうして辿たどり着いた場所は、メタルノイドが指定した第七倉庫であった。

 そこは今は使われていない無人の廃倉庫だった。かつて大型車両が出入りしていたと思しき入口のシャッターは、力ずくでこじ開けられて破壊されている。

 その倉庫の前に立ち、建物の上の方を見上げるさやか。



 ……間違いなく、この中に敵が。

 ……そしてさらわれたゆりかがいる。



 ゴクリとつばを飲み、戦いの覚悟を固めると倉庫に足を踏み入れる。

 電気の通っていない倉庫は、窓からわずかに光が差すのみで、昼間とは思えないほど濃い暗闇が広がっていた。

 辺り一面には、中身の入っていない金属のコンテナがまるで迷路を形作るかのように綺麗に並べられて、天井に近い高さまで積み上げられている。


 ……そんな倉庫の中を一歩ずつ慎重に歩いていると、コンテナが置かれていない中央の広場のようなスペースに大きな黒い影が待ち構えていた。


『待っていたぞ……エア・グレイブ』


 そう言葉を掛けてきたのは、まぎれもなく街中でゆりかをさらったメタルノイドだった。全高はブリッツと同じ6m、重武装タイプだったブリッツと異なり体型は幾分スマートになっている。

 全身は黒く塗装され、背中のバックパックには片手用の斧が二丁搭載されており、投擲用と思しきグレネードを腰に装着している。そのシルエットは両足立ちする狐のようにも見えた。


「ゆりかは何処っ!」


 さやかが大声で叫びながら、メタルノイドを腹立たしげに睨み付ける。


『フフフ……そう慌てるな。貴様の友達なら、あそこだ』


 彼が指差した先を見ると、猛獣を入れる鉄のおりにゆりかが監禁されていた。

 彼女は檻の中に入れられていたものの、特に拷問を受けた様子は無かった。

 もし彼女の身に何かあったら、さやかは正気ではいられなかっただろう。


「さやかっ!」


 ゆりかが声を上げながら、鉄格子を必死に両手で揺らす。

 さやかはすぐさま檻に駆け寄っていく。


「ごめんね、ゆりちゃん……嘘ついてた。私、やっぱりエア・グレイブだったよ」


 さやかは変身した姿のまま、弁解もせずに謝る。こんな事になるなら、最初から素直に話すべきだったと内心後悔していた。


「うん、知ってた。私の方こそごめん……」


 ゆりかもそれに応えるように謝り返す。さやかが危険を顧みずに自分を助けに来てくれた事を申し訳なく思うあまり、肩身が狭そうに身を縮こませていた。もう彼女が秘密を隠していた事について、とがめる気は完全に無くなっていた。


「待っててね、ゆりちゃんっ! 今ここから出してあげるからっ! ……ふんぬぬぬっ!」


 檻を力ずくでこじ開けようとするさやかだが、いくら腕に力を入れても鉄格子はビクともしない。その様子を眺めていたメタルノイドが嘲笑う。


『ククク……無駄だ。その檻は外からも中からも、力ずくでは開けられん。その檻を開ける鍵を持っているのは俺だけだ。俺を倒す以外に友達を助ける手段は無い。そして貴様が死んだら、友達も死ぬ事になる……』


 その言葉に反応するかのように、さやかが後ろを振り返る。


「許せない……っ!!」


 ……その時、彼女の心は怒りで爆発寸前だった。

 彼女にとって、自分が危険な目に遭う事は何でもなかった。何度も痛い思いをして死にかける事も、覚悟はしていた。

 だが大切な身内が巻き込まれる事だけは、決して許せなかったのだ。


 ゆりかをさらった凶行に対する怒りで、さやかは仁王像のような顔になっていた。


「私を狙うのはまだ良い……でもゆりちゃんを巻き添えにした事だけは、絶対に許せないっ! ここでアンタをブッ倒して、ゆりちゃんを必ず助け出すっ!」


 怒気を含んだ口調で叫ぶと、さやかは猛然とメタルノイドに飛びかかっていった。

 それに応えるようにメタルノイドも彼女に向かって突進していく。


『フハハハハッ! 勝負だ、エア・グレイブッ! 俺は No.002 コードネーム:ブラック・フォックス! 階級はブリッツと同じ少佐だ! とむらい合戦はガラじゃないが、貴様の首を斬り落としてブリッツの墓に添えてやるとしよう!』


 そのメタルノイド、ブラック・フォックスはバックパックに搭載された二丁の斧を引き抜いて左右それぞれの手に握ると、それをさやかに向かって一直線に振り下ろす。


『その首、頂戴っ!』

「でぇぇゃぁぁあああっっ!!」


 さやかも負けじとパンチを繰り出し、斧と拳とが正面から激しくぶつかり合う。金属がぶつかるような鈍い音が倉庫に鳴り響き、その衝撃で両者が共に後方に弾き飛ばされる。双方のパワーはほぼ互角のように見えた。


『ほう、なかなかやるな……ならばっ!』


 フォックスは一度後ろに下がって体勢を立て直すと、バーニアを噴射させてそのまま後退し、コンテナの陰に隠れてしまった。


「待てっ!」


 そのすぐ後を追うさやかだが、コンテナの後ろに回り込んでもフォックスの姿が見当たらない。まるで煙にでもなって消えたかのように影も形も無かった。

 敵が姿をくらました事に戸惑いキョロキョロと周囲を見回していると、二人の戦いを見ていたゆりかが突然大声で叫んだ。


「さやか、上っ!」


 その言葉に反応してさやかが上を見ると、彼女目がけて大量のグレネードが放物線を描くように投げつけられる。


「うわっ!」


 思わず声に出して驚きながらも、さやかは咄嗟とっさにジャンプして直撃を避けた。

 グレネードは地面に落下すると次々に爆発していき、その衝撃で周囲に炎と破片を撒き散らす。

 もしゆりかが知らせてくれなければ、さやかは避ける間もなく爆発に巻き込まれていただろう。

 だが安心している余裕は無い。敵は間髪入れずにグレネードをコンテナ越しに放り投げてくる。


『フハハハハァッ! 貴様には俺の居場所は掴めまい! 逆にこちらからは、貴様の姿が丸見えだぞ! いつまで避けていられるかな?』


 姿を見せないまま、フォックスの高笑いだけが倉庫内に響き渡る。

 彼はコンテナの向こう側から、一方的に攻撃を仕掛けてきている。

 わざわざ倉庫を戦場に選んだのは、彼なりに計算があっての事だった。


「くっ……」


 狡猾な戦いぶりを見せる敵に、さやかが悔しさをにじませる。性格も能力も典型的なパワータイプである彼女にとっては、何とも戦いにくい相手だった。

 それでもこのまま何もせずに、ただ逃げ回っている訳には行かない。さやかは意を決したように立ち止まると、腰を深く落として全身に力を溜める。


「飛び道具なら……こっちにもあるッ!」


 大声でそう叫ぶと、両肩にビームキャノンが出現する。ブリッツとの戦いでミサイルを全弾迎撃した、彼女にとっては唯一の遠距離攻撃だ。


「うらららららぁぁあああっっ!!」


 さやかの雄叫びと共に両肩のキャノン砲が火を噴いた。

 フルオートで連射されるビーム砲は、コンテナ越しに投下されるグレネードを次々に撃ち落としていく。

 やがてグレネードの投下が止むと、さやかはビーム砲の照準をコンテナの方に向けてひたすらに撃ちまくる。

 ゆりかに当てないように細心の注意を払いつつ、倉庫中のコンテナを蜂の巣にする。


 やがてエネルギー切れを起こして、ビーム砲の連射が止まる。


「ハァ……ハァ……」


 弾を撃ち尽くして、さやかは息を切らしていた。

 ……ブラック・フォックスの気配は無い。

 倒したのか、逃げられたのか、それとも何処かでじっと息を潜めて待ち伏せしているのか……。


 倉庫内の空気は静寂に包まれ、聞こえるのは彼女自身の荒い息遣いだけだ。心の中には焦りばかりが募っていく。



 ……このままじっとしてても、らちが明かない。

 コンテナが視界をさえぎってるから敵の姿が見えないんだ。

 ……だったらっ!!



「どぉぉおおおりゃぁぁぁああああっっ!!」


 さやかは大声で叫ぶと、目の前のコンテナを力任せに蹴り飛ばした。

 天井近くまで積まれていたコンテナが弾き飛ばされて辺り一面に散乱し、遮られていた視界が開ける。

 彼女の狙い通りに事は運んだかに見えた。だが……。


『クククッ! それも計算の内よっ!』


 突如背後に現れたブラック・フォックスが、猛然と彼女に襲いかかる。

 敵は彼女が体力を消耗し、渾身の一撃を放って隙だらけになる瞬間を狙っていたのだ。


『エア・グレイブっ! その首、もらったぁっ!』


 フォックスの斧が、さやかに向かって一直線に振り下ろされるっ!

 もはや回避する余裕は無いっ!


4th(フォース)ギア解放ッ! デルタ・ストライクッ!」


 さやかは咄嗟に右肩のリミッターを解除すると、眼前に迫ってきた斧に向かって全力のパンチを叩き込んだ。鈍い金属音と共に弾き飛ばされた斧が宙を舞い、天井に勢いよく突き刺さる。

 だがフォックスの斧は二刀流……片方の斧を弾き飛ばしても、後から来たもう片方の斧が、技を放って無防備になったさやかをザックリと切り裂いた。


「ぐぅぁぁぁあああああっっ!!」


 その瞬間、真っ赤な鮮血と共に悲痛な叫び声が上がる……肩から脇腹まで鋭く切り裂かれて、さやかは大量の血を吹きながら地面に倒れ伏した。

 重傷を負った彼女を、フォックスが勝ち誇ったように見下ろす。


『致命傷は避けたか……だがそれだけ深い傷を負えば、もう満足に戦えまい。クククッ……馬鹿な女だ。友達など見捨ててしまえば、痛い目を見ずに済んだものを……』


 むろん彼女がそうするはずが無いと分かりきった上で、フォックスはあえて挑発するように声に出して嘲笑う。

 それはあたかも、友達を助けに来た行いを馬鹿げた愚行と断ずるかのようであった。

 狡猾なるフォックスにしてみれば、友情など守る価値の無いゴミに等しかった。


 それでもさやかは、全身血だらけになりながらも力を振り絞って立ち上がろうとする。その両足は、もはやゆりかを助けたいという一心によって支えられていた。


「友達を見捨てたりなんて……しない」


 顔まで真っ赤な血に染まりながらも、決して救出を諦めようとはしない。

 そんな彼女の健気な姿が、ゆりかにはかえって痛ましかった。


「さやかっ! 私の事なんていいから、貴方だけでも逃げてっ! このままだと……さやかが殺されちゃうっ!」


 深い傷を負ってボロボロのさやかに向かって、ゆりかが檻を揺らしながら大声で叫んだ。だがさやかがその提案を聞き入れる気配は無い。友達の救出を諦めて自分だけ逃げ延びる事など、彼女の選択肢には最初から無かった。


「待っててね、ゆり……ちゃん……今助けるから。そしたらお家に帰って……二人で一緒にゲームして遊ぼう……ね……」


 そう言ってゆりかに悲壮な笑顔を向けながら、よろよろとフォックスに向かって頼りなく歩き出す。とても敵と戦う力が残っているようには見えない。

 そんな非力なさやかを、無情にもフォックスが踏み潰した。


『馬鹿めぇっ! そんな死にかけの状態で、一体どうやって俺様に勝とうというのだぁっ! 貴様はここで死ぬっ! 死んで、ゲーム・オーバーだぁっ!』

「ぐあああぁぁっ……!!」


 巨大な足に押し潰されて、全身の骨がメキメキと豪快に砕けたような音が鳴り響き、さやかの悲鳴が倉庫内にこだまする。


「いやぁっ!」


 その光景からたまらずに顔を背けるゆりか……目からは大粒の涙が溢れ出す。親友が目の前で無惨に殺されかかっているのを見るに耐えなかった。


『クククッ……俺の勝利が確定した記念に、良い事を教えてやる。今日バリアの中に入ってきたばかりの俺が、こうも自分に都合の良い戦場を用意できた事が不思議でならないだろう? 我々バロウズには協力者がいるのだよ』


「協力……者……?」


『そうだ。人間でありながら、我々に協力する者……我々はエージェントと呼んでいる。まぁお前達からすれば、スパイであり裏切り者だ。連中には我々が攻めてきた時の殺害免除の権利と、それなりの金を握らせてある。奴らにはブリッツが侵攻を開始するよりもずっと以前から、情報を収集させていたのだよ』


 ……フォックスの語った事実はそれなりに衝撃的な内容であったが、さやかにはそれを気にかける余裕すら残されていない。今の彼女は、もはや意識を保っているだけで精一杯だった。


『さて、話は終わりだ。そろそろ貴様には死んでもらうとしよう。クククッ……何も寂しがる事は無いぞ? 貴様の友達にも、すぐに後を追わせてやる。親や友達と、あの世で仲良く暮らすがいい……あーーっはっはっはぁっ!!』


 語り終えると、フォックスはさやかを踏んでいる足をさらにグイッと下に押し込んだ。


「がぁぁぁあああああっっっ!!」


 更に強い力で押し潰され、さやかの全身の骨も内蔵も、バラバラに砕け散る。

 口からは悲鳴と共に大量の血が吐き出され、彼女の倒れている床一面が真っ赤な血の海と化した。

 このままフォックスが足を押し込めば、彼女は間違いなく……死ぬっ!!

 さやかが今にも殺されそうになっているのを目の当たりにして、ゆりかがたまらずに叫んだ。


「いやぁぁああっ! さやかぁぁあああっ!!」


 そして悲しみのあまりひざをついて、ボロボロと大粒の涙を流しながらえつを漏らす。


「うぅ……さやか……死んじゃやだよぉ……」



 ……私のせいだ。

 こんな事になると分かってたら、もっとちゃんと話してたら良かった。

 さやかがこんな目に遭ってるのは私のせいなんだ。

 私のせいで、さやかが死ぬ……。

 さやかが死ぬなんて、そんなの嫌だ。

 さやかが死んだら私、生きていけない。

 さやかを絶対に死なせたくない。

 いや、絶対に死なせないっ!

 神様……仏様……いっそ悪魔でも良い……誰でも良い。

 誰か、さやかを助けて……。

 いや、さやかを助ける力を私に……私に……。

 さやかを……。



 ――――大切な人を守れる、力をっ!





 ……その頃、研究所にいたゼル博士はさやかとフォックスの戦いをモニター越しに見ていた。


「くっ……こんな時に私だけ何も出来んとは……」


 そう口にしながら、下唇を噛んで悔しさを滲ませる。

 今から走って現場に向かったとしても、彼女が殺される前に辿り着けるとは到底思えなかった。

 殺されかかっている少女の姿を見せつけられながら、博士は何も出来ない自分の無力さに打ちひしがれる。


「博士、大変ですっ!」


 背後にいた助手の男が突然大声を上げた。

 その声に驚かされて、モニターを食い入るように見ていた博士がげんそうな顔をしながら振り返る。


「一体何だね。こんな時に」

「博士っ! ブレスレットが……」


 助手が指差した先に目をやると、テーブルの上に置かれていた二つめのブレスレットが青い光を強く放っている。それは博士が直視できないほどまばゆい光だった。


「これは……まさか……二人目の戦士が誕生するというのかっ!?」

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