シュナイダー博士のレポート
※注釈
これは3話ではありません。
すぐに3話を読みたい方は
→https://ncode.syosetu.com/n9570ec/5/
……私はゼル・シュナイダー。アームド・ギアと装甲少女を開発した者だ。
装甲少女とメタルノイドの戦いは記録に残り、いずれ後世の人々が目にする事だろう。
今、こうしてその記録を目にしている人々のために、現在日本が置かれている状況に付いてこのレポートで詳細に記述する事にする。
このレポートは、これまでの状況説明だけでは不十分だと感じる人々に向けて、その不満を払拭するために書かれた補足の内容に過ぎない。
興味が無ければ読み飛ばしてもらっても一向に構わないし、読み飛ばしたとしても、本文を読み進める上で差支えは無いだろう。
暇な時や、気が向いた時に読んでおく程度に記憶の片隅に留めてもらっても構わない。
繰り返すが、これは戦いの記録ではない。そうした記録の間に差し込まれた、私自身による解説の文章だ。メタルノイドの侵略開始から、現在の状況まで一連の流れについて説明したい。
地球人が認識する所の2079年4月29日、ヤツらは要塞母艦メガ・フォートレスに乗って東京上空にワープして現れた。そして地上に降り立ち、破壊の限りを尽くしたのだ。
この時自衛隊は直ちに駆け付けて応戦したが、ヤツらには全く歯が立たなかった。
メタルノイドは核の直撃に耐える装甲を標準搭載している。その装甲は強酸にも耐え、機械である以上猛毒も効果が無い。
地球人の技術では、ヤツらに致命傷を与える事は不可能だ。東京は瞬く間に蹂躙され、焼け野原と化してしまった。
この時東京が負った被害は甚大であり、100万人以上の死者が出たとされている。後に『血と鋼鉄の惨劇』と呼ばれる忌まわしい事件だ。赤城さやかも、この惨劇で両親を失っている。
さやか君はその後親戚に預けられたが、あまり良好な仲では無かったようだ。親族の家を何度かたらい回しにされており、中学卒業後は寮のある高校に通いながらアルバイトして暮らしている。本人は今の暮らしに不満は無いようだが……。
話を戻そう。東京が陥落した時、生存者の大半はバスによる陸路か飛行機による空路で、西日本へと避難している。
この時、メタルノイドの襲撃を直接には受けていない関東地方や中部地方の住人も、襲撃を恐れて西日本へと大移動している。
その多くは大阪・京都・奈良に流れ着いたようだ。政治家と皇室も京都に避難しており、京都には暫定政府が置かれる事となった。
無論メタルノイドはそれをただ黙って見ていた訳ではない。彼らは東京を徹底的に破壊し尽くした後、逃げた住人を追いかけるように西へと大移動を始めた。
彼らは……メタルノイドは、地球とは別の星からやってきた。その目的は地球人を皆殺しにする事だ。対話や融和・共存などという生温い言葉は彼らには通用しない。
彼らは人間を、殺せば点が入るゲームのザコキャラ程度にしか思っていないのだから……。
私、ゼル・シュナイダーは彼らと同じ星の住人だ。地球人を皆殺しにするという彼らの計画を阻止すべくやってきた。
地球人はメタルノイドに対抗する技術を持ち合わせていないが、彼らと同じ星からやってきた私ならば、それを有している。
メタルノイドが西に向かって大移動を始めた時、私は彼らが西日本に侵入するのを防ぐため、電磁バリアを設置した。
このバリアには連中のワープをも遮断する仕掛けが施してある。その仕組みはここで説明すると長くなるので、割愛させてもらう。
バリアの設置により、ヤツらの侵入を阻止する事には成功した。だが全ての日本人がその中に逃げ込めた訳ではない。バリアで覆われていない土地はヤツらの領土となってしまった。
逃げ遅れた住人がどうなったのかは分からない。ヤツらに皆殺しにされたのか、奴隷として使役されているのか……だが今は打って出る事は出来ない。
バリアの外には、今も十何体ものメタルノイドが徘徊しているのだ。だがいつか必ず……。
バリアによる平和は永久に保障されたものではない。彼らの目的が地球人の殲滅である以上、いずれバリアを突破する手段を獲得するであろう事は容易に想像が付いた。だからこそ私もそれに備えて、アームド・ギアを開発したのだ。
だが残念な事に、私の独力による調査ではギアの適合者を見つける事が出来なかった。そうしている間に、メタルノイドの一番手ミスター・ブリッツがバリアの中にテレポートしてきた。東京が陥落した『血と鋼鉄の惨劇』から実に十年が経過した日の出来事だ。
ブリッツが町で暴れていた時、私は研究所に戻っていた。助手にデータを解析させつつ、私は暴虐の限りを尽くすブリッツをモニター越しに見ている事しか出来なかった。ヤツが攻めてくる前に適合者を見つけられなかった事を悔やみつつ……。
その時、テーブルの上に置かれていた三つのアームド・ギアのうちの一つが……赤のギアが独りでに宙に浮いて、窓ガラスを突き破って何処かへと飛んでいったのだ。
赤のギアはさやか君の思いに答え、彼女を装甲少女エア・グレイブへと変身させた。その後に起こった出来事は、諸君らが知っている通りだ。彼女は瀕死の重傷を負いながらも、ブリッツを見事に撃破した。
ヤツらはバリアの中にワープする手段を獲得したが、バリアの守りが完全に失われた訳ではない。
もし失われたならば、ヤツらは十数体ものメタルノイドを一気に西日本になだれ込ませただろう。
戦力の逐次投入という愚を、ヤツらが好き好んで犯すはずはない。
事実、東京はヤツらの総攻撃によって壊滅したのだから……。
これは憶測に過ぎないが、バリアの中へのワープにも何らかの制約があるはずだ。私の見立てでは、ヤツらはバリアの中にメタルノイドを一日に一体しか送り込む事が出来ない。だから『戦力の逐次投入という愚』を、『仕方なく』やっているのだ。
むろん本来なら、メタルノイドを一体投入するだけで西日本は壊滅状態になったはずだ。装甲少女という想定外の要素さえ無ければ……。
これはミスター・ブリッツが死んだ直後に書いたレポートだ。この先どうなるかは分からない。
さやか君は装甲少女を辞退するかもしれないし、しなかったとしても決して順風満帆と言える状況ではない。
メタルノイド一体の戦力は、装甲少女一人分のそれを大きく上回っている。二人揃ってほぼ互角、三人揃えば多少余裕が生まれる程度だ。
我々がこの先ヤツらとの戦いに敗れ、地球人が皆殺しにされれば、このレポートも抹消されるだろう。
このレポートが無事に誰かに読まれているのなら、我々人類はヤツらとの戦いに勝利したと……そう信じたい。
今このレポートを読んでいる君がメタルノイドでなければ、の話だが……。
――――ゼル・シュナイダー。