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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第一部 「序」
25/227

第23話 絶望に生きた女(後編)

「ぐっ……ぐぁぁああああああっっ!!」


 戦いの最中ミサキが突然全身をガタガタと震わせ、悲鳴を上げて苦しみ出す。体中の皮膚に血管が強く浮き上がり、目は充血して真っ赤になり、汗が滝のように流れ出す。それがゼル博士の助手が言っていた薬切れの症状である事は一目瞭然だった。


「ミサキっ!」


 そのあまりに苦しげな様子に、さやかは思わず心配になって駆け寄ろうとする。たとえ直前まで殺し合っていた敵だとしても、目の前で苦しむ少女を放っておけないという思いがあった。


「寄るなぁっ!」


 ミサキはそう叫んでさやかを制止すると、急いで右腕の装甲にあるボタンを押した。


「んんっ! ……んっ……」


 プシュッと音が鳴ると、ミサキの全身が一瞬電気ショックを与えられたようにビクンッとのけぞった。

 右腕の装置からドクッドクッと注入された鎮痛剤が全身に行き渡って痛みが引いたのか、体の震えはすぐに止まり、体中の皮膚に浮いていた血管もスゥーーッとわずか数秒で引いていく。


「……ふぅ」


 痛みが引いて少し気持ちが落ち着いたのか、ミサキは一息つきながら体をぐったりさせている。まるで禁断症状が収まった薬物中毒の患者のようだ。とても今すぐ戦いを再開できる空気ではない。


 ……さやかはそんなミサキを、あわれむような目で見ていた。彼女を救ってあげたいという、どうしようもない気持ちが胸の内に湧き上がる。


「どうして……どうしてそんな体になってまで、戦おうとするのっ!? 自分の体がボロボロに傷付いて、壊れかけてるって分かってるんでしょっ! そんなになってまで、一体何を成し遂げたいのっ! 復讐なのっ!? 弟を殺された復讐を、博士にしようとしてるのっ!?」


 自分の体を酷使してまで戦おうとするミサキの姿にいたたまれなくなったのか、さやかは目にうっすらと涙を浮かべながら必死に問いかける。

 そんな彼女の態度に思う所があったのか、ミサキは顔をうつむかせたまま答えた。


「……復讐の為などではない。むろん、組織への忠誠心でもない」


 ……そんな本音らしい言葉が、彼女の口から漏れた。

 それはさやかにとっては、あまりにも意外な答えだった。


「そんな……っ! 復讐の為でも組織の為でもないなら、一体何の為にっ! 何の為に……そんな体になってまで、戦おうとするのっ!? おかしいよっ! 全然意味分かんないよっ!!」


 ミサキの意図が理解出来ないあまり、とうの如く疑問の言葉を浴びせる。頭の整理が追い付かないあまり、パニックにおちいっているようにすら見えた。

 さやかの真剣な問いに、ミサキはフッと自嘲気味に微かな笑みを浮かべた。


「……かつて私は兵器としての自分の生き方に疑問を抱いた。そして人として当たり前の幸せを求めてしまった。だがそれが間違いだったんだ……」



 ……かつて私はイルマという一人の少年と出会った。

 お互い血の繋がりは無くとも、私達は姉弟のような間柄だった。

 イルマと過ごした時間は決して長くはなかったが、それでも私にとっては幸せな日々だった。

 ……求めていた人としての幸せを、やっと手に入れられたと……そう思ったんだ。


 だが……それが間違いだった事に私は気付かされた。


 私のそばにいた為に、イルマは私と一緒に焼き殺される事になった。

 紅蓮の炎に焼かれて死んでいくイルマを抱きかかえながら、私は泣いた……。

 そして……思い知ったんだ。

 私はしょせん兵器として生み出された存在……血塗られた女。

 そんな私が人としての幸せを求めてはいけないのだと……。



「……そして最後に私が辿たどり着いた答え……それは私自身の死を願う事だった」


 ミサキはそこまで語ると、地面に落ちていた刀を拾い上げた。遠くを見つめるような、少しはかなげな表情を浮かべながら……。


「エア・グレイブ、エア・ナイト……お前達を殺すための刺客として、バロウズは私を生き返らせた。お前達が生きている限り、連中は何度でも私を生き返らせようとするだろう。例え私が自ら命を断ったとしてもな……。だから私はお前達を殺す。殺した後で、自ら命を断ち……私は唯一私に許された死という名の安息を得るっ!」


 ……少女の口から語られたのは、願いと呼ぶにはあまりにも空し過ぎる、未来無き選択だった。もはや生きる事にいちの望みも見出せなくなった少女は、死して永遠の虚無に還るという、破滅的な結論に辿り着いてしまったのだ。


 ついに戦いの目的を明かすと、ミサキはその覚悟を示すようにさやかに刀の切っ先を向けた。

 悲壮な決意を聞かされて、さやかはなおも悲しげな顔をする。彼女を心から救いたいと願うさやかが、その言葉に納得など出来るはずも無かった。


「おかしいよ……そんなの絶対おかしいっ! 死んで安息を得ようなんて、そんなの絶対間違ってるっ! そんなの、ただヤケを起こしてるだけじゃないっ! 自殺願望と何が違うのっ!」


 ありったけの感情をぶつけるように、のどつぶれんばかりの大声で叫んだ。その瞳にはうっすらと涙が浮かび、興奮のあまり顔を真っ赤にして小刻みに震えている。まさに剥き出しの感情をそのまま表に出した形だ。


「そうだっ! ヤケクソだっ! 自殺願望だっ! それの何が……いけないというのだっ! 私にはもうこれしかないんだっ! 私はしょせん兵器……いやただの人殺しだっ! 人としての幸せを得る事など出来はしないっ! そんな私がつかみ取れた、たった一つの幸せ……それは死んで安らかに眠る事だけだったんだっ!」


 ミサキもまた自身の抑えきれない感情を、全てぶちまけるように早口でまくし立てた。その顔はどうしようもない、やり場のない悲しみと苦悩に満ち溢れている。


「ミサキ……っ!」


 彼女の言葉を聞いて、さやかは顔をうつむかせたまま胸を強く押さえ付ける。ミサキをかわいそうに思う気持ちで胸が強く締め付けられて、息が苦しくなり、目からは涙がとめどなく溢れ出す。


「ミサキの……ミサキの馬鹿ぁっ! どうしてそこまで自分を追い詰めるのっ! どうして自分を大切にしないのっ! たとえ死んだって……幸せになんてなれるわけじゃないじゃないっ! 生きて幸せになってよっ! 生きて幸せになるのを……諦めないでよぉっ!」


 さやかは溢れ出る感情を全て吐き出すように大声で叫んだ。彼女の瞳からほほを伝ってこぼれ落ちる大粒の涙が、採掘現場の乾いた大地をにわかに潤す。その姿からは、ミサキを心の底から気遣っている意思が十二分に伝わる。


 ……そんな彼女のひたむきさが、ミサキには再び亡き弟イルマと重なって見えた。


「……」



 また……そんな目で私を見るのか。

 イルマ……お前も、私が生きて幸せになる事を望んでいるのか。

 もう生きて掴み取れる幸せなどないと、必死に諦めようとしているのに……。

 だがもう良い……もう良いんだ……。



「……エア・グレイブ、いや赤城さやか。お前がいくら私を気遣おうと、私の血塗られた運命や生き方は決して変わる事はない。光を求めれば求めるほど、この手からこぼれ落ち、より深い絶望の奈落へと突き落とされるだけだ。だからこそ、終わらせる……この呪われた苦痛の生に、終止符を打つッ!」


 語っている最中、ミサキはさやかの方を見ながら一瞬だけ優しく微笑んだ。それは大切に思う人に対して向けるような、とても穏やかな笑みだった。


「赤城さやか……私は無意識のうちに、お前に亡き弟イルマの面影を重ねていた。お前は私がもう一度だけ掴み取る事の出来た幸せだったのかもしれない。だがもう何もかも遅すぎた……ここでお前を殺し……私は幸せへの未練を完全に断ち切るッ!」


 ミサキは気持ちを切り替えるかのように真剣な顔付きになると、刀を手にして再び臨戦態勢に入った。その闘争心溢れる姿からは、相手を手にかける事への迷いや葛藤を感じ取る事は出来ない。内心、一緒に死ねるなら本望だという思いがあったのかもしれない。


「終わらせない……っ! たとえ力ずくでも、押し付けても……貴方の死を思いとどまらせるッ!」


 さやかもまた負けじと涙をいて拳を構えながら、戦いの決意を新たにした。どんな手を使ってでもミサキに死を思いとどまらせる覚悟を固めたようにすら見える。


「エア・グレイブっ! せめて私の手で、安らかに眠るがいいッ!」


 ミサキがそう叫びながら天に向かって刀を掲げると、彼女の全身から見るからに邪悪そうなドス黒いオーラが放たれて、それが刀身へと寄り集まっていく。そして黒いオーラを刀身にまとい、刀全体が怪しげに漆黒の光を放つ。それはまさに『暗黒剣』と呼ぶに相応しかった。


「これが私の全身全霊を賭けた最終奥義……喰らえっ! ストーム・ブリンガァァーーーーーッッ!!」


 技の掛け声と共にさやかに刀を向けると、刀身に宿っていた黒い光のオーラが剣先に集中し、一筋の巨大なビームとなって高速で放たれた。

 そのあまりの速さに、さやかは避けるひまもなく食らってしまう。


「うわぁぁあああああっっ!!」


 体がビームに触れた途端、凄まじい破壊力の爆発が起こり、その爆風をまともに受けたさやかは悲鳴と共に空高く打ち上げられた。

 ……それは山積みのダイナマイトに点火した後の火力に匹敵する、恐ろしい威力の爆発であった。


「ぐうぅっ……」


 落下して地面に叩き付けられて、全身を駆け回る痛みにさやかがうめき声を漏らす。

 その技の威力は凄まじく、全身が高熱の炎で焼かれたように火傷まみれになっていた。体中あちこちから鼻につくような肉が焼け焦げた臭いが漂い、もくもくと天に向かって白煙が立ち上る。遠くから見たら、山火事が発生した事を疑われるほどだ。


「これが私の最終奥義……バイド粒子を刀身に込めて、闘気で燃焼させて、荷電粒子砲となって前方に放つ技……ストーム・ブリンガーだっ!」


 ミサキが自身の技について得意げに語り出す。決して技が破られる事など無いのだという、揺るぎない勝利への確信を覗かせていた。


 一方技を食らって全身に大火傷を負ったさやかであったが、それでもまだ勝利への執念を捨ててはいない。何としてもミサキを救いたいという強い意志が、彼女を奮い立たせたのか。


「まっ……まだだ……ぁ……」


 呻くようにつぶやくと、既に満身創痍になっているはずの体を、気力を振り絞って立ち上がらせた。気を失いかけた自身に喝を入れるためか、下唇をバリバリと強く噛み締め、じわりと血がにじみ出している。


「初撃に耐えた事は褒めてやる……だが二発喰らえば、いくらお前でも命は無い。さあ……とどめを刺してやるっ!」


 一発食らって生きていた相手の打たれ強さに素直に感嘆すると、ミサキは再び刀にオーラを溜め始めた。


「これで終わりだっ! ……ストーム・ブリンガァァーーーーーッッ!!」


 掛け声と共に、再び刀から漆黒のビームが放たれる。

 初見では対応出来ずに食らってしまったさやかだが、今回は慌てる様子もなく冷静にビームの前に立ちはだかった。その表情には少しの迷いも無い。まるで死ぬ決意を固めたかのようだ。


「観念したかっ? 死ねぇっ!」


 全く避けるそぶりを見せないさやかに、ミサキは勝利を確信して大声で叫んだ。

 そして……さやかにビームが直撃する。


「……っ!?」


 次の瞬間起こった出来事に、ミサキは思わず目を丸くさせた。

 さやかが右手をかざすと、まるで掃除機に吸われたかのように、彼女の右腕にビームが吸い込まれたのだ。

 ビームを取り込んでエネルギーが充填されたのか、エア・グレイブの右腕がギラギラと赤く光りだす。まるで心臓の鼓動のようにドクッドクッと脈打ち、内部からはまばゆい光が許容量を超えたかのように溢れ出ている。


「ばっ……馬鹿なぁっ!!」


 状況が全く理解できず、ミサキが声に出して狼狽する。冷静さを失うあまり、ひたいからは汗が滝のように流れ出す。

 最大の奥義が相手に吸収される事など、彼女にとっては全く想定の範囲外であった。トライヴンの戦いの事は話には聞いていたが、それが自分の身に降りかかるなどとは思ってもみなかった。


 一方さやかは形勢逆転とばかりに闘志をみなぎらせている。その表情は揺るぎない勝利への確信に満ち溢れていた。


「たとえどれだけ威力があろうとも、それが荷電粒子砲でさえあれば、必ず吸収できる……それがこの右腕の力っ! さあミサキ、今度はこっちの番だよっ! 私の全て……今、貴方にぶつけるっ!」


 そう言って右手にググッと力を込めると、溜め込んだエネルギーを全て吐き出すかのように、前方に向かって駆け出した。


「……ブーステッド・キャノン・ストライクッ!!」


 気合の篭った叫び声と共に、さやかの全身全霊を賭けた拳の一撃が放たれる。


「ぐぬぅぅぅうううううっっ!!」


 ミサキも負けじと気合の入った言葉を口にしながら、咄嗟にその一撃を刀でガードしてしのごうとするものの、拳が叩き付けられた箇所から白い大きな爆発が起こって、その爆発に呑まれてしまう。


「うわぁぁぁああああああーーーーーっっ!!」


 辺り一帯を覆わんばかりの眩い光に呑まれ、ミサキは悲鳴を上げながら空の彼方へと吹き飛ばされた。




 ……意識が戻った時、ミサキは仰向けに地面に倒れていた。

 既に日は沈み、空はだいぶ暗くなり、空気はひんやり肌寒くなる。遠い空の彼方で、カラスの群れがカァカァと寂しく鳴いている。


「ううっ……」


 爆発に呑まれた衝撃で、全身の骨がきしむように痛み、ミサキは思い通りに体を動かす事が出来ない。わずかに首の向きを変えて手足の指先を動かす事が出来ただけで、体全体を起こそうとしても、腕や腰に全く力が入らない。体が言う事を聞かないあまり、自分の体ではないのかと錯覚すら起こしていた。


 ミサキが自分が倒れている地面のすぐ真横を見ると、そこには彼女の愛刀ムラマサが落ちていた。


「むっ……ムラマサ……我が手に……」


 刀さえあれば、まだ戦える……そう考えたミサキが力を振り絞って、呻くように呟きながら右手をかざすと、ムラマサは一瞬ピクリとだけ動いた。


(やった……っ!!)


 彼女の中に、湧き水のごとく希望が溢れ出る。

 だがその希望をへし折るかのようにムラマサはボッキリと真っ二つに折れて、さらに砂のようにもろく崩れ落ちて、風と共に空しく散っていった。


「あっ……あああぁぁっ……」


 頼みの綱であったムラマサの見るも無惨な姿に、ミサキが情けない声を漏らして呆然とする。

 戦う手段を失った事実に心を強く打ちのめされて、ショックのあまり頭が真っ白になる。顔は絶望と恐怖と混乱の色に染まっていく。

 逃れられない敗北という二文字を突き付けられて、彼女の戦士としてのプライドは粉々に砕かれたも同然だった。


 戦意を喪失して一人の無力な女と化した彼女に、さやかが一歩ずつ前に踏み出すように近付いていく。とても真剣そうな眼差しは、惨めな敗者となったミサキの姿をしっかりととらえて離さない。

 そんな彼女の目を、ミサキはまともに見られなかった。


「やっ……やめろぉ……そんな目で……私を見るなぁ……殺せぇ……いっそ殺してくれぇ……煮るなり焼くなり、好きにしろぉ……うっ……ううっ……」


 恥ずかしがるように両手で顔を隠して、今にも消え入りそうな声ですすり泣く。完全に哀れな負け犬と化した今の自分の姿を見られたくないあまり、すぐにでもこの場から消えてしまいたい気持ちになっていた。

 さやかにみっともない、惨めな女だと思われる事に、とても耐えられなかったのだ。それは思春期の男子中学生が、ベッドの下に隠していたエロ本を、片想いしていた女の子に見られたに等しかった。


「……」


 哀愁を漂わせるミサキの姿を、さやかはあえて何も言わずにただじっと見下ろしていたが、やがて意を決したように彼女の前に来てしゃがみ込むと、両腕で包み込むようにそっと優しく抱きしめた。


「……っ!」

「好きにして良いんでしょ? だったら……好きにするよっ! 貴方はもう私の物だもんっ! だから生きて……私のために生きてよっ! 私、貴方に生きて……幸せになって欲しいからっ! だから私のために生きて……幸せになってよぉっ! うわぁぁあああああんっっ!!」


 こみ上げる思いを全てぶちまけるように叫ぶと、ミサキを抱きしめたまま子供のようにわんわんと大声で泣き出した。抱きしめる腕にはぎゅっと力が篭もり、触れた肌越しに彼女のじっとりした汗と体温が直に伝わる。

 それは長年心の奥底で求め続けていた、人肌の温もりと優しさだったのか……さやかに抱きしめられて、ミサキの目にもとめどなく涙が溢れ出す。



 ああっ……もうダメだぁ。

 もう幸せへの未練は断ち切ると心に誓ったはずなのに……。

 誰かが私のために泣いてくれる事が……。

 誰かに、こんなにも大事に思われる事が……。

 これほど……これほど心が満たされる事だとは……っ!



 ……気が付いた時、ミサキは自分でも無意識のうちにさやかを抱きしめ返して、溢れる感情のままに声に出して泣いていた。さやかの言葉に感激するあまり、胸の奥から湧き水の如く溢れ出る喜びを抑える事が出来なかった。もう彼女を殺して自分も死のうなどという考えは、忘れてしまったかのように何処かへ吹き飛んでいた。


 互いに強く抱き合って泣いている二人を、ゼル博士とゆりかは遠くから眺めていた。


「……無事に終わったようだな」


 そう呟いた博士の顔には、安堵の笑みが浮かんでいる……正直二人が分かり合えるなどとは、想像もしていなかった。

 博士の中では、ミサキは決して心を通わせる事の出来ない敵という認識しか無かったのだ。だからこそ、自身の想像を超えてそれを見事に成し遂げたさやかに対し、けいの念を抱かずにはいられなかった。

 彼女が装甲少女になってくれて、本当に良かった……そんな思いが心の内にはあった。




 ひとしきり泣き終わると、さやかとミサキは互いに肩を貸し合いながら、ゆっくりと立ち上がる。二人共すっかり力を使い果たしており、とても自分の足では寝泊りする場所まで帰れそうもない。


「さやか、すまない……私は……」


 ミサキが謝罪の言葉を口にしながら、申し訳無さそうに目を背ける。これまで彼女にしてきた仕打ちに対する後悔の念が湧き上がり、とても顔を合わせられなかった。彼女の気が晴れる為なら、何でも出来るという心境にさえなっていた。


「気にする事ない……ミサキちゃんは何も悪い事なんて、してないよ」


 罪悪感のあまり悲しげに顔をうつむかせるミサキに、さやかは許すように穏やかな笑みを浮かべて首を横に振った。彼女の境遇を哀れんで、心から救いたいと願ったさやかにとって、これまで受けた仕打ちを恨む気持ちなど皆無だった。


 そうして二人が言葉を交わしながら歩いていた時……。



『クククッ……ミサキよ。ご苦労じゃった……』



 一瞬、ミサキの頭の中にそんな声が流れた。

 彼女にとって聞き覚えのある声に驚いて周囲を見回した直後、遥か頭上から巨大な円状のおりが落下してきて、そのまま二人を閉じ込めた。


「なっ!?」


 巨大な檻に幽閉されたミサキとさやかが共に困惑していると、檻の外側に小型のブラックホールが発生して、一体のメタルノイドが姿を現す。

 そのメタルノイドを一目見て、ミサキが憎々しげに叫んだ。


「貴様……ドクター・ブロディっ!」

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