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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
第一部 「序」
24/227

第22話 絶望に生きた女(中編-3)

「「覚醒トランスッ! アームド・ギア、ウェイクアップ!!」」


 さやかとミサキは変身の掛け声をほぼ同時に叫び、二人の体がまばゆい光に包まれる。


装甲少女アームド・ガール……その赤き力の戦士、エア・グレイブッ!」

装甲奴隷アームド・スレイブ……その黒き地獄の刃、ギル・セイバーッ!」


 そして装甲を身にまとった戦士ヒーローの姿へと変わり、互いに名乗りを上げる。

 変身を終えて、正面から向き合って対峙する二人の少女……その姿のまま、しばしの間黙り込む。夕暮れの採掘現場に、カラスの鳴き声だけが空しく響き渡る。


「エア・グレイブッ! 今日こそ貴様の首を頂くぞぉっ!!」


 沈黙を破るかのように、ミサキはさやかに刀の切っ先を向けて宣戦布告を行う。その表情は、どんな手段を使ってでも必ず相手を殺すという強い殺意をみなぎらせていた。まるで親の仇でも見るかのような目だ。


「ギル・セイバー……霧崎ミサキっ! 貴方が何の為に戦うのか、力ずくでも教えてもらうわっ!」


 さやかもまた彼女の戦う意思に応えるかのように、拳を力強く握り締めた。たとえ哀れみの感情を抱こうとも、戦いに臨んでは一切手を抜く考えは持ち合わせていない。全力でぶつかっていく事が、相手に対する礼儀だとさえ考えている。


「私が戦う理由……? フンッ、そんなに知りたいなら教えてやる……貴様の墓の前でなぁっ!」


 ミサキはさやかの決意を鼻で笑うと、戦闘開始とばかりに刀を手にして猛然と走り出した。

 それに一瞬遅れて、さやかも前方へと飛び出していく。


「ウォォオオオオオッ!!」

「はぁぁああああっ!!」


 ミサキの斬撃とさやかの拳、互いの全力を込めた一撃がほぼ同時に放たれ、ドォォッという音と共に激しく衝突する。その振動が大気に伝わって、夕暮れの空を舞っていたカラス達がにわかにざわめく。

 刀と拳は負けじとギリギリ押し合っていたが、やがて反発し合う力に耐え切れず共に後方へと弾き飛ばされてしまう。


「ぐぅぅうううっっ!!」

「うわぁぁああああっっ!!」


 吹っ飛ばされて砂ぼこりを上げながら派手に地面を転がる二人であったが、すぐさま起き上がって体勢を立て直す。一瞬でも出遅れれば命取りになるという、焦りと緊張感が彼女たちの中にあった。一度戦って相手の実力を知っている者同士なら、尚更の事だ。


「喰らえぇぇっっ!!」


 ミサキが大声で叫びながら刀を振り上げると、彼女の足元から大地を走る炎のような衝撃波が放たれる。地をう蛇のごとく高速でさやかへと向かっていくその衝撃波は、まさに力の波動……パワーウェイブと呼ぶに相応しかった。


「せぇぇえやぁぁああああっっ!!」


 さやかが気迫の篭った雄叫びと共に全力で地面を殴り付けると、爆発音のような轟音と共に大地が割れて、地を這っていた衝撃波を割れ目で食い止めた。

 空に巻き上げられた大量の粉塵によって、互いに相手の姿が見えなくなる。

 その粉塵が晴れた瞬間、タイミングを見計らっていたかのようにミサキがジャンプして斬りかかってきた。


「死ねぇぇえええっっ!!」


 殺意の篭った叫び声と共に、全体重を乗せた強烈な一撃が振り下ろされる。

 だがその刃がさやかの頭に届きかけた瞬間、刀の動きがビタッと止まった。彼女が両手で真剣白刃取りをしていたのだ。


「白刃取りだと……? 馬鹿な……よくもこんな古典的な手をっ!!」


 ミサキが驚きといらちが入り混じった複雑な表情を浮かべる。昔の時代劇でしか使わないような古臭い技を、今更実戦で使われるなどとは思ってもみなかった。

 意表を突かれるあまりすきだらけになっているミサキを見て、さやかは咄嗟に彼女の腹にひざ蹴りを叩き込んだ。


「がはぁっ!」


 全力で腹を蹴られた痛みに、ミサキが化け物のような悲鳴を上げる。少しでも気を抜いたら、胃の中の物をぶちまけてしまいそうな勢いだった。

 彼女がひるんでいる隙にさやかは何かを探すように周囲を見回すと、採掘現場の崖下へと走っていく。そこには直径5メートルの巨大な岩が転がっていた。


「ふんぬぅぅうううううっっ!!」


 さやかは鼻の穴をおっぴろげて、まるでゴリラのような馬鹿力で大岩を持ち上げると、それをミサキに向かって力任せに投げつけた。

 巨人の足のように大きな石の塊が、全力で押し潰さんとミサキに迫るっ! こんな物を投げ付けられたら、たとえメタルノイドであろうと、ひとたまりもない。


 だが大岩が眼前に迫っても、彼女は少しも慌てるそぶりを見せなかった。それどころか、まるで相手を見下すかのように冷たい表情を浮かべている。


「こんな野蛮な戦術で、私を倒せると思っているのかっ!」


 ミサキは一喝するように叫ぶと、刀を一振りして巨岩をいともたやすく両断してみせた。何という切断力か。

 刀の純粋な切れ味と、刀を自在に使いこなす彼女の技量とが一体となり、さやかでも簡単には砕けない硬さの岩を、まるで豆腐のように難なく切り裂いたのだ。彼女は紛れもなく剣術の天才だった。


 縦一文字に切り裂かれて二つに割れた岩が、彼女を避けるように左右へと落下する。

 だが岩が地面に激突した直後、ミサキが周囲を見回すとさやかの姿が何処にも見えない。


「ヤツは何処に行ったっ!?」


 そう言いながら慌てて彼女の姿を探していると、岩の頭上からさやかが勢いよく飛び込んできた。最初からこの時を狙っていたかのようなタイミングだった。


「やぁぁああああっっ!!」


 威勢の良い掛け声と共に渾身の飛び蹴りが放たれ、ミサキは避けるひまもなくその蹴りを食らってしまう。


「ぐぁぁあああっ!!」


 顔面に蹴りを入れられて、きりみ回転しながら豪快に吹っ飛んでいく。

 ……さやかはただ考え無しに岩を投げつけた訳ではなかった。ミサキが両断する事を予測した上で、岩の陰に隠れて奇襲するつもりだったのだ。


 敵から普段ゴリラだの脳筋だのと呼ばれて馬鹿にされているさやかも、常に無策でいる訳ではない。彼女なりに敵の意表を突こうと考えて戦っていた。どちらかと言えば、彼女は『賢いゴリラ』だったのだ。


「フフッ……」


 うつ伏せに倒れたミサキは、辛そうにゆっくり体を起こしながらも不敵に笑う。

 前回の戦いの最後で甘さを見せたさやかだが、それでも一切手を抜かずに全力で自分にぶつかってきてくれている……その事に、心の何処かで高揚感のような物が芽生えていた。

 

(互角の力を持った者同士の戦いとは、こういう物なのか……)


 ……そんな思いが、彼女の中にはあった。


「良い一撃だったぞ……エア・グレイブ。本音を言えば、お前との戦いを楽しんでいる自分がいる。不思議な感覚だ……これまで多くの敵と戦ってきたが、こんな感情が芽生えたのは初めての事だ。だからこそ……私の用いる技を全て出し切って、全力で完膚なきまでにお前を叩き潰すっ!!」


 そこまで語ると、ミサキは刀を逆手に持ち替えて槍投げをするような構えを取った。何かの技を放とうとしている前動作のようにも見える。


「エア・グレイブ……お前は確かに強い。だがいかに強くとも……これは避け切れまいっ!」


 自信に満ちた声で叫ぶと、直後ミサキは空中に向かって力任せに刀を放り投げた。

 刀は一度空中でピタッと止まった後、ヘリコプターのローターのように高速で横回転を始め、それ自体がフリスビーのような形状となってさやかに襲いかかる。

 さやかはそれをすんでの所で避けるものの、脇腹をかすってしまう。


「ぐうっ!」


 斬られた箇所から真っ赤な血が噴き出し、傷口がジワァッと急速に熱くなる。

 さやかが傷を負った姿を見て、ミサキが勝利を確信したかのようにニヤリと不敵に笑う。


「見たかっ! 我が奥義……リモート・ブレイドッ!! 我が意のままに動く刃は、かまいたちのように貴様を何度でも、死ぬまで切り裂くっ! エア・グレイブっ! お前にこの攻撃を防ぐ術はないっ! 観念して死ぬがいいっ!」


 自身の技について得意げに語る。

 自在に宙を舞う巨大なブーメランと化した刃は、敵の命を奪わんと執拗にさやかに襲いかかる。

 さやかは自分に向かってくる刃を毎回かろうじてかわすものの、そのたびに掠り傷を負わされ、いたぶるようにじわじわと追い詰められていく。

 そのあまりに一方的過ぎる戦いは、まるで公開処刑を行っているかのようであった。


「ハァ……ハァ……」


 体中に切り傷を負わされ、さやかが呼吸を荒くする。大量の血を流した事と、生物の本能が死を予感した事から来る緊張感で、心臓がドクンドクンと激しく鼓動し、胸がにわかに締め付けられる。これまでの疲労と負傷が重なり、体力を急激に消耗している事は一目瞭然だった。

 それでもさやかの目は、まだ勝利への執念を捨ててはいない。


「フゥーーッ……」


 精神を集中させるように大きく息を吸い込んで深呼吸すると、ミサキの方を向いたまま腰を深く落とす。そして両手をググッと強く握ると、さやかの顔が一瞬にして真剣な表情に変わる。


「これなら……どうだぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 喉が張り裂けんばかりの声で叫ぶと、彼女の左肩にワープして現れたかのように大型のキャノン砲が出現し、赤く光るビームをミサキに向かって何発も撃ち続けた。

 もし直撃すれば、たとえギル・セイバーと言えども無傷では済まない。


「ムラマサっ! 私を守れっ!」


 ミサキが指令を送るように手をかざしながら叫ぶと、刀は回転したまま彼女の前へと飛んでいき、縦に傾いて風車のようになり、彼女を攻撃から守る盾となった。

 放たれたビームが刀に当たると瞬時に大きな爆発が起こり、その衝撃で粉塵が高く巻き上がられて視界がさえぎられる。


「しまったっ! ヤツはこれを狙っていたのかっ!」


 さやかの姿が見えなくなった事に、ミサキが慌てて狼狽する。まんまと敵の策にはまった事を悟り、心の中に焦りが募り出す。

 彼女を見つけ出そうと必死に周囲を見回したが、何処にも気配を感じない。


「まさか……逃げたのかっ!?」


 そうつぶやいて、一瞬うろたえて集中力が途切れた時だった。

 ミサキの背後の粉塵が突然ブワッと巻き上がり、物凄い速さでさやかが迫ってきた。


「貴様……っ!!」


 彼女の接近に気付いて振り向こうとするミサキであったが、時すでに遅し……さやかが腰に手を回すタイミングの方が、わずかに早かった。


「これで……終わりだぁぁぁああああああっっ!!」


 気迫の篭った叫び声が響き渡る。さやかはミサキの腰を両腕で捕まえると、彼女の体を一気に持ち上げて、豪快なバックドロップを決めた。

 ミサキの体が地面に叩き付けられると、その衝撃で大地が一瞬ズゥーーンッと音を立てて振動する。彼女の体が叩き付けられた地面は、威力のあまり亀裂すら入っていた。


「ぐぁ……あ……っ」


 ミサキが声にもならない声を発する。脳みそがき回されそうな程の強い振動に目をぐるんと丸くさせて、体中の力が急速に抜けていく。少しでも気を抜いたら、すぐに意識を失いそうになる。

 それでも宿敵に負けられない戦士としての誇りと意地(ゆえ)か、かろうじて意識を保たせると、気力を振り絞って両足を奮い立たせた。


 ……そんな満身創痍のミサキを、さやかは仁王立ちしながら見下ろすように眺めていた。


「……まだやるの?」


 そんな言葉が口から漏れる。もう勝敗は決したと言わんばかりの態度だ。

 さやかの態度が気に入らなかったのか、ミサキが怒りをあらわにする。


「クッ……赤城さやかぁっ! 勝者を気取るなぁっ! まだだっ! まだ終わっていないっ! まだ私には最終奥義が……っ!」


 そう叫んで刀を振り上げようとした時、ミサキの体が電流が流れたように一瞬ブルッと震えた。

 直後に彼女の手から刀が力なくこぼれ落ち、地面に膝を付いたかと思うと、全身がガタガタと冷蔵庫のように震えだす。


「ぐっ……ぐぁぁああああああっっ!!」

「ミサキっ!?」

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