第222話 青木ゆりかのレポート
私の名は青木ゆりか……バロウズの地球侵略を阻止する為に戦った装甲少女の一人。
ゼル博士は、私たちの戦いが記録として残り、後世の人々に読まれるだろうと言っていた。その為に補足のレポートを数枚書いたとも。
だから私も書こうと思う。あれからみんながどうなったか、世界の状況がどう変わったか、それを伝えるために。
知ってもらいたい。世界を救った私たちの、その後の未来を。
◇ ◇ ◇
まず肝心の、『敵』がどうなったかについて話す事にする。
バエルの遺体は自衛隊の基地に預けられた後、ゼル博士が処分を任される事になった。博士は遺体をチェーンソーでバラバラに解体した後、砂粒状になるまで細かく粉砕して、太平洋の海にバラ撒いたそうだ。遺体を物理的に回収できなければ、蘇生は不可能だろうとの判断からだった。
遺体の取り扱いに関して、各国首脳や一部の研究者からは、氷漬けにして厳重に封印すべきとか、貴重な研究材料として保管すべきなどの声が出たが、博士と国防長官の雷同平八さんはそれらを全て却下した。少しでも魔王が復活する可能性を取り除いておきたかったのだ。残存勢力に遺体を回収されるリスクも避けたかった。
バエルが復活するかもしれないなんて、考えただけでもうんざりだ。メタルノイドの侵略なんて二度とごめんだ。せっかく取り戻した平和を壊されるような事になって欲しくない。
さやかにとってもバエルの存在は忌避すべきトラウマとして焼き付いた。
カエルと聞いただけで「バエル!?」と反応して驚くし、「バールのようなもの」とニュースで聞くたびに『バエルのようなもの』と聞き違えるらしい。
バエルのコスプレをして歩く変なおじさんを見かけた時、慌てて変身しそうになったほどだ。
さやかは魔王の復活に備えて、日夜筋トレを欠かさない。百キロのベンチプレスを余裕で持ち上げるようになったし、暴走した大型トレーラーを片足だけで止めたし、最近羆と素手で格闘するようになった。
ますますゴリラっぷりに磨きが掛かる。再戦の準備は万端という訳だ。
あえていつ魔王が復活しても大丈夫なように準備しておく事が、彼女なりのトラウマへの向き合い方なのかもしれない。
バエル亡き後、旭川のバロウズ基地は自衛隊に制圧された。量産ロボは全て破壊されて、協力者に加わった者のリストも押収された。
国内にいたバロウズの協力者は全員逮捕されて、国外へと脱出を企てた者も身柄を確保された。日本から彼らの勢力は完全に一掃された事になる。
彼らは犯した罪、組織に加わった理由如何によって、下す処分が決定される。
もちろん殺人を犯した者は重い刑罰に処されるが、罪が軽い者、止むに止まれぬ理由で組織に属した者は極力刑罰を軽くしたいと平八さんは考えている。
組織に加わった者の中には、家族の病気を治したい者もいたからだ。
バエルは卑劣な性格だが、交わした約束は必ず守るようにしていた。たとえ悪魔の力でも、それによって命を救われた者がいた。私たちにとっては善悪の判断の難しい所だ。
大切な誰かを救おうとする心に勝るものなど無いのだから……。
十年前の東京襲来時、各国の主要都市を同時多発的に襲来した複数のメタルノイドがいた。アドミラル・D・サンダースを倒した直後に平八さんが言った言葉だ。
一都市につき四~五体、それが十を超える都市を襲来し、全部で数十体という計算だ。実の所、地球を襲来したメタルノイドはおよそ百体にも上るのではないかとも言われている。
日本国外を襲来した連中の狙いは、人類側の戦力を分断させ、日本への救援を向かわせない事にあった。
バエルが倒されたという報せが届いた時、彼らは相当慌てたと伝え聞いている。地球側にバエルを倒せる戦力があるなどとは想像もしていなかっただろうし、組織をまとめ上げる司令塔がいなくなれば、組織の弱体化は免れないからだ。
国外で活動するメタルノイドの約半数が、自分たちに勝ち目なしと判断して降伏勧告に従ったとある。残りの半数は「主君の仇を討つべし」と、討ち死に覚悟で徹底抗戦する構えのようだ。
だが支部間の連携が取れておらず、残党は衰退の一途を辿っているという話だ。
博士は残党勢力が一掃されるのに一年と掛からないだろうと見ている。
各国は残党狩りを名目に軍備を増強している。日本の技術は国外に漏れていないが、各国が独自技術で装甲少女や少女型アンドロイドを作る、新たな動きも見せ始めている。次なる戦争の火種にならなければ良いのだが……。
今の所、私たちに残党狩りの救援要請は出ていない。
その当の私たちは、今は普通の高校生活を送っている。一時期こそインタビューを受けまくったり、テレビに出ずっぱりだったりしたが、それも沈静化して現在は何事もなく平穏に暮らしている。
目覚まし時計に起こされて、朝ご飯を食べて、慌てて電車に乗り、学校に通って勉強して、宿題を忘れて先生に怒られる……何も事件が起こらない、平凡な日常。
ブリッツが攻めてくるまではごく当たり前にあったはずの『それ』を、私たちはようやく取り戻せたのだ。
ミサキとマリナは私たちの学校に転校してきた。今は一緒のクラスだ。二人とも大人しくする性格ではなく、何とも賑やかで騒がしい。マリナはライバルと自称してさやかに何でも勝負を持ちかけるし、ミサキは思い込みが激しいクールな天然ボケだ。彼女たちのやり取りはコント番組のようで、毎日が楽しくなる。
さやかも彼女たちと同じクラスになれて嬉しそうだ。いつも一緒になってワイワイ遊んでいる。私はツッコミに回るので忙しくなったが……。
エルミナはアミカが通う中学に転校してきた。今は同じクラスだ。ロボットである事は周囲に隠している。学校に通ってみたいと本人が希望したんだとか。
常識に疎い彼女の面倒を、アミカが見てあげている。二人はとっても仲良しだ。エルミナはまだ猫だった頃の癖が抜けきっていないらしい。
闘技場での戦いの一部始終は、レジスタンスの一人がビデオカメラに録画したらしい。その動画がネットにアップロードされて、人々に知れ渡る事となった。
特にザルヴァを撃破し、バエルを撃破寸前にまで追い込んださやかの奮戦ぶりは人々の胸を熱くさせて、彼女は世界を救ったヒーローとして讃えられた。
ただ校内では私、さやか、ミサキ、マリナの四人で常に並んで歩いたため、謎のオーラみたいなものが放たれて、ファンは誰も近寄ろうとしない。たまに勇気を出して握手やサインを求める者がいれば、その子は勇者扱いだ。そのおかげでかチヤホヤされる事は少ない。
校外では変質者がいないか監視するドローンを博士が飛ばしたため、盗撮被害に遭う事はなく、プライベートは保持されている。得られた名声に反して、私たちの平穏な暮らしはしっかりと守られていた。
ただネット上では、さやかを愛好する非公式のファンサイトが作られた。サイト名は『ゴリラの鼻くそ』だ。彼女を書いたイラストや小説が投稿されたり、彼女について語る掲示板がある。足がどれだけ臭いかについて考察するページもある。
「ゴリラの鼻くそって、何よーーーーっ!」
さやかはそう叫んで顔を真っ赤にして怒りだし、サイトの閉鎖まで要求したが、サイトくらいはあってもいいだろうと博士に窘められた。
私は結構良いサイト名だと思うんだけどなぁ……ゴリラの鼻くそ。
私のレポートはまだ続く。




