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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
219/227

第216話 ラストバトル(中編-3)

「ここからが正真正銘、最後の駆け引きになる……もしこの技を破れたらお前の勝ち、破れなかったら私の勝ちだッ!!」


 魔王が最後の勝負に打って出る宣言を行う。残された手札が一つしかないと明かし、それの成否によって勝敗を決しようと意気込む。

 もはや彼にとっても一か八かの賭けと呼べる状況だった。もしこの技が通用しなければ、その時は命を失ったとしても仕方ないと腹を決めていた。


「……現界げんかいッ!!」


 男がそう叫びながら握った拳を天に向かって突き上げると、彼の全身がオレンジ色の光に包まれる。光は体の表面をバリアのように覆ったまま、いつまで経っても消えない。光るオーラをまとってギラギラと輝き続ける魔王の姿は見るからに異様だ。


「しかと見届けるがいい……『究極』を超えて『無限』へと至る道。これこそ限界突破した私の、正真正銘の最強形態……その名もバールゼブブ、インフィニティフォーム!!」


 さらなる進化を遂げたバエルが、誇らしげに自己紹介する。新たな姿になった自分は無限の領域に到達したのだと、自慢げに言い張る。

 今の彼がどのような力を持つかは分からないが、以前より格段に強くなった事は疑いようがない状況だ。


「そのムゲン形態とやらがどんなものか、確かめてやろうじゃないッ!」


 魔王が新たな形態になっても、さやかは全く恐れを抱かない。まずはお手並み拝見とばかりに敵に向かって走り出す。どんな能力を持つか結局は戦ってみなければ分からないという考えが頭の中にあった。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっ!!」


 勇ましくえると、右拳によるパンチを繰り出す。必殺技ではないただのパンチも、今の彼女が放てば通常オメガ・ストライクをゆうに十倍は超える威力だ。無論命中すれば魔王とて無事では済まない。

 だが凄まじい威力を持つはずの少女の一撃は、魔王の腹に命中した途端ボムッと音を立てて弾かれる。分厚いクッションを殴り付けたような感触があり、ダメージを与えた形跡が全く無い。


「なっ!?」


 自身の攻撃が全く通用しない事に、さやかが驚きを隠せない。完全に予想外の結果に思考が追い付かず、ポカンと口を開けたまま棒立ちになる。


「フンッ!」


 そのすきに乗じるように、バエルが強く握った拳を横ぎにブゥンッと振って、少女の顔面に全力の裏拳を叩き込んだ。ボグシャァッと聞くだけでも痛そうな音が鳴り、殴った衝撃で大地が激しく揺れた。


「うぼぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」


 強い力で顔を殴られたさやかが、滑稽な奇声を発しながらあっけなく吹き飛ぶ。ハエ叩きで叩かれたハエのように飛んでいった少女の体は闘技場の壁に激突して、全身を強打した挙句床に落下してうつ伏せに倒れたまま手足をピクピクさせた。


「ぐぅ……どうして……攻撃が効かない」


 それでも痛みをこらえながら慌てて立ち上がると、胸の内に湧き上がった疑問を口にする。本気の一撃を叩き込んだのに手傷を負わせられなかった事に違和感をぬぐいきれない。


「フフフフフッ……」


 納得行かなげな少女を目にして、バエルが声に出して笑い出す。想定通りに事が運んだ喜びで胸がおどりだす。


「パワーと素早さの半分、他の全ての特殊能力を代償として失う事によって得られる力……それがインフィニティフォーム!! 形成されたバリア・フィールドは外部から受ける物理衝撃によるダメージを『力の逆位相』によってゼロにするッ! たとえ地球を破壊する規模の隕石が衝突しようと、この形態ならば無傷のまましのげるッ!!」


 自身の新たな特性について誇らしげに説明する。

 インフィニティフォーム……それは多くのものを犠牲にして発動させた、まさに究極の受け身と呼べる戦術だった。あえて敵に教える辺りからは、知られても攻略のしようが無いという自信の強さがうかがえた。


「赤城さやか……貴様のその形態エリアル・グレイヴはエアロ・グレイブと同様に十分しか変身が持たないと、インフィニティフォーム発動前に解析済みだ。その残り時間はすでに二分を切っている……つまり二分の間、完全無敵となった私が貴様の攻撃を耐え切り、変身が解除された貴様をぶん殴れば、私の勝利が確定するッ!!」


 少女の変身時間が有限である事、そのタイムリミットが迫っている事、時間切れになるまでねばってから相手を殺すつもりである事を明かす。好戦的な彼の性格にそぐわない、臆病チキンとも受け取られかねない慎重で後ろ向きな作戦は、それだけ彼が追い詰められていた事が感じ取れた。


「アンタの思い通りになんかさせない! そのバリアがどれだけ凄かろうと、必ずアンタをボコボコにしてやるッ!!」


 敵の企みを知ったさやかが、そうはさせまいと激しく息巻く。新形態の恐ろしさを知らされても一切ものじしない。何としても残り二分の間に戦いを終わらせねばならないと決意を固くして、敵に向かって一直線に駆け出す。


「おららららららららぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」


 腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、両手を駆使した拳のラッシュを放つ。秒間百発を超える速さで撃ち出されたパンチが魔王の腹に衝突して、ドガガガガッとガトリングの弾を発射したような音が鳴る。

 手応えが無かろうとお構いなしだ。さやかはいつかダメージが通るだろうと確信して、がむしゃらに敵の腹を殴り続けた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 だが先に彼女の体力が尽きて、敵を殴る手が止まってしまう。ゼェハァと肩で激しく息をして、ひたいからは滝のように汗が流れ出て、両ひざがガクガク震えてまともに立っていられなくなる。敵を前にした危険な状況でありながら、無防備な姿をさらけ出す。


「フンヌッ!」


 バエルはかつを入れるように一声発しながら左足でヤクザキックを放ち、疲労困憊こんぱいした少女の腹を思いっきり蹴飛ばす。


「ぐぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」


 さやかが悲痛な声で叫びながら弾き飛ばされて地面に落下する。横向きにゴロゴロ転がって全身を何度もこすり付けた挙句、うつ伏せに倒れたまま起き上がれなくなる。強く蹴られた腹をかばうように両手で押さえたままゴホゴホッと声に出して苦しそうにき込む。


「フフフッ……どうやらねんの納め時のようだな、赤城さやか。このまま時間切れまで待ってやっても良いのだが、どうせ何をしようと我を倒す手段などありはしないのだ。この私自ら貴様の首をねてやろう」


 魔王がニタァッといやらしい笑みを浮かべながら、のっしのしと自信ありげな足取りで少女に向かって歩き出す。華々しい勝利を飾ろうと鼻息を荒くする。

 少女は相変わらずダウンしたままだ。このまま起き上がらなければ、とどめを刺される事は目に見えていた。


(何か……何か無いの!? アイツに攻撃を当てられる方法は……何でもいいッ! せめて……せめて一撃だけでもッ!!)


 さやかが必死に痛みをこらえてせ我慢しながら、相手の弱点を見つけようとする。こんな所で諦めてたまるかっ! と意固地になり、脳細胞をフル稼働させて敵を倒す方法を探し出そうとした。だがいくら考えても妙案が浮かばない。頭の中で候補が挙がっては、それでは無理だと抹消されていく。


 良い解決策が思い付かず、最後は「やはり駄目なのか……」と心が折れて希望を失いかけた。

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