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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
218/227

第215話 ラストバトル(中編-2)

 エリアル・グレイヴの真の力……それは仲間の技を全て使えるというものだった。

 仲間の技を駆使して敵を追い詰めるさやかだったが、その事にバエルが怒り心頭になる。まだ自分に隠された能力があると明かし、少女の態度を思い上がりに過ぎないと説く。


「後悔するがいい……私に奥の手を使う判断に踏み切らせた事をッ!!」


 そう口にする魔王の瞳がグワッと見開かれた。技の出し惜しみをせず、持てる力の全てを出し切って少女を確実に殺す決意を固める。

 彼にとってこの戦いはもはや強者と弱者の対決ではない。目の前にいる相手は自分以上の強者かもしれず、むしろ自分こそが挑戦者となって壁に挑んでいく心境にすらなる。


「アンタがどんな手を使おうと、私は絶対負けないッ!!」


 さやかが自信満々な口調で言い返す。全力で挑む覚悟を聞かされても一切ものじしない。自分の力に絶対の自信を抱き、どんな技が来ようと返り討ちに出来ると確信を抱く。


 少女の余裕ありげな態度を目にして、バエルは内心「しめた」と思った。

 彼女がもし危機感を抱いたなら、大変やりにくい状況だった。だが今彼女は圧倒的有利な状況である事に気を良くして、警戒心が薄れている。それは彼にとって好都合だ。


「そうか……ならば、これを喰らうがいい!!」


 ニタァッと邪悪な笑みを浮かべると、口からプププッと細長い金属製の針を無数に発射する。およそ二十本程度の針が少女めがけて飛んでいく。


 さやかは咄嗟に手のひらを正面にかざして、バリアを張って相手の攻撃を防ごうとする。金属の針はバリアにぶつかると、キキキキンッと音を立てて弾かれる。

 だが無数の針のうち一本だけがバリアを通過して、彼女の左脇腹へと突き刺さる。


「うぐっ!」


 少女が左脇腹に広がる痛みに思わず声を漏らす。傷口をかばうように両手で押さえたまま背中を丸めてうずくまる。

 さやかは脇腹に刺さった針を慌てて手で抜こうとしたものの、針は体の奥まで深く刺さっており、簡単には抜けそうもない。内側から肉で押し出すにしても時間が掛かりそうだ。


「クククッ……」


 少女が針の処置に手間取る姿を見て、バエルが意味深に含み笑いする。


「赤城さやか……貴様ならそう来ると思ったぞ。必ずバリアで防ごうとするだろうと予測して、バリアを貫通する針を一本だけまぎれ込ませておいた。私がこれから行う技の下準備には、一本でも当たりさえすれば良いのだからな……フフフッ」


 何らかの技を使おうとしている事、その発動条件として針を命中させる必要があった事、そのために相手を一杯食わすたくらみをした事などを明かす。計画通りに事が運んだ嬉しさでニッコリ笑う。


「針が刺さった者は、この技からは逃れられん……絶対圧縮爆裂アブソリュート・ディスラプトッ!!」


 男がそう口にしながら両腕を左右に広げると、針を起点として巨大な光が発生し、少女が一瞬にして飲まれる。光は少女を飲み込んだまま球状に圧縮されて、みるみるうちに小さくなっていく。やがて野球ボールくらいの大きさになると、フワリと宙に浮かんで上空二十メートルの高さへ移動する。


「……サイッ!!」


 バエルが大声で叫びながら両手のひらをバンッ! と合わせると、球が大爆発して粉々に吹き飛ぶ。天を焦がさんばかりの炎が轟音と共に噴き上がり、黒い砂が破片となって地面に降り注ぐ。少女の姿は影も形も見えない。


「さっ……さやか君ーーーーーーーーっっ!!」


 ゼル博士が悲痛な声で叫ぶ。恐ろしい惨劇を見せ付けられて、嫌な考えが頭をよぎり、今にもえつを漏らして泣きそうになる。何が起こったか分からないものの、仲間が命を奪われた事は疑いようがない状況だ。


 他の観衆も気持ちは皆同じであり、にわかに顔が青ざめた。英雄の死を予感して恐怖のあまり体の震えが止まらなくなる。

 恐れおののく人々を前にして、バエルがニヤリと口元を歪ませた。


「フフフフフッ……フハハハハハハァッ! 見たか……これこそ我が最大火力の一撃、絶対圧縮爆裂アブソリュート・ディスラプトッ! 相手を高密度のエネルギー体に圧縮し、内部から爆死させて分子レベルの崩壊を引き起こす技ッ! 邪神オーズですらこの技を喰らったらチリも残らず消滅したのだッ! ましてや生身の人間ごときが生きてなどいられるはずがないッ!!」


 先ほど使用した技についての説明を行う。かつて星を滅ぼそうとした邪神を仕留めた技であると明かし、少女の死を確信して大笑いした。


「そんな……」


 魔王の言葉を聞かされて、観衆の一人が悲しみの言葉を漏らす。表情はみるみるうちに絶望の色に染まっていき、椅子にもたれかかるようにガクッとうなだれた。

 少女の生存を信じたい気持ちはあったが、魔王の言葉が真実なら生き延びたとは到底考えにくい。かといって彼がその場しのぎの嘘をついたとも思えない。

 少女の生存を主張できる根拠は限りなく少ない。多くの者が彼女の死を信じて疑わない。


「ああっ……」

「ちくしょう……」


 人々がそんな言葉を口にする。ある者は深く溜息をついて、ある者は声に出してすすり泣き、ある者はショックのあまり棒立ちになる。誰もが少女の死を心の底から嘆く。観客席は悲しみ一色へと染まり、にわかに葬式ムードになる。

 バエルはそんな観衆の姿を目にして、満足げにニタァッと笑う。人々を絶望の奈落へと突き落とせた喜びでテンションが上がりだす。祝いに今夜は宴会だっ! ……そんな事まで心の中で考えていた。


 人々が悲嘆に暮れて、魔王が大喜びする。悪夢のような光景が永遠に続くかに思われた時……。


「ああっ! あれを見ろっ!」


 ゼル博士が大声で叫びながら、闘技場のある一点を指差す。彼が指差した方角に観衆の目が向けられると、床に散らばった黒い砂がモゾモゾと自力で動き出して、磁石で引き寄せられたように一箇所へと集まっていく。砂は一人の人間を形作ると突然まばゆい光を放つ。

 光が消えてなくなった時、そこに人影が立っていた。


「馬鹿な……」


 その者の姿を目にして、バエルが思わずそう口にした。

 そこにいたのは他の誰でもない、赤城さやかその人だった。魔王の技によってチリになったはずの少女が目の前に立っていたのだ。

 彼女は爆破される前の姿のままピンピンしている。最初からこうなる事を予測したように平然としており、疲れた様子は微塵も無い。


「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な、そんな馬鹿なぁっ!! 彼女が生き返るなんて、そそそ、そんなハズは無いッ! そんなハズ無いんだぁぁぁぁぁぁああああああああッッ!!」


 バエルがこの世の終わりを見たように絶叫して頭を抱え込んだ。王としての威厳をかなぐり捨てて大声でわめき散らす。もはやなりふり構っている余裕は無く、完全に気が動転して頭がおかしくなりかけた。


「神を……神を殺した技だぞ!? ただの人間ごときが耐えられる訳が無いんだッ! 赤城さやか! 貴様は……貴様は神をも超えたというのか!?」


 頭の中に湧き上がった疑問をすぐさま相手にぶつける。納得の行かないモヤモヤを解消して、少しでも落ち着きを取り戻そうとした。


「世界を救うためなら、神だって超えてみせる……たったそれだけよ」


 さやかが腰に手を当ててふんぞり返りながら、魔王の問いに答える。とても良い事を口にしたと言いたげなドヤ顔になる。


 少女の返答は男にとって納得の行くものでは無かった。結局彼女が技に耐えられた事に深い理由があった訳ではなく、ただ単に再生能力が想定を上回るものだった、たったそれだけなのだ。

 魔王は真面目に考えるのも馬鹿らしくなったと心の底からあきれる。それがかえって普段の冷静さを取り戻させる事となった。


「……で、どうする? まだやる気? もう奥の手残ってないんだったら、今からアンタをボコボコにするよ」


 さやかが敵を煽るような言葉を吐く。相手の攻撃手段が残っていないかどうか、あえて挑発的な言い回しによって聞き出そうとした。


「クククッ……」


 バエルは特に怒る様子も無く不敵に笑う。技を防がれた時は気が狂うほど動揺したが、今はだいぶ落ち着いている。少女の意図にも気付いている雰囲気だ。


「まだだ……まだ終わらんよ、赤城さやか。私はお前を殺す手札を三つ用意した。そのうち二つは破られてしまったが、まだ一つだけ残っている。その技を破れるか否かによって、勝敗が決まるだろう」


 圧縮爆裂光球エクスプロージョン・ボール絶対圧縮爆裂アブソリュート・ディスラプトに続く最後の技を温存していた事を伝え、それの成否をもって戦いを終わらせようと提案する。三つめの技で殺せなければ、もはや彼女に勝つすべは無いと踏んだようだ。


「ここからが正真正銘、最後の駆け引きになる……もしこの技を破れたらお前の勝ち、破れなかったら私の勝ちだッ!!」

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