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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
217/227

第214話 ラストバトル(中編-1)

 最終進化形態『エリアル・グレイヴ』へと変身を遂げたさやか……これまで自分を追い詰めた数々の技を破る。

 バエルは骸骨の悪霊を召喚して少女を混乱させると、背後から襲撃して首を絞めようとする。少女はまんまと思惑通りに首をつかまれてしまう。


 このまま魔王に首を絞められて殺されるかに思われたさやかだったが、渾身の反撃を繰り出して首絞めから脱出すると、相手から大きく距離を開ける。


「こっからは……私の反撃ターンよっ!」


 強気な笑みを浮かべながら、反撃の開始を告げるのだった。


「こっからは私の反撃ターン、だとぉ……!?」


 少女の言葉を聞いて、バエルが目の色を変えた。表情はみるみるうちに怒りに染まっていき、けんしわを寄せた鬼のような目付きになって、ギリギリと音を立てて歯ぎしりする。口からは「オオオッ……」と獅子のごとうなり声が漏れ出す。


「……ふざけるなッ! どんな能力を得たか知らんが、思い上がるのも大概にしろッ! 貴様がこの絶対王者たる我に対して、優位に立てた訳では無いという事を、とくと思い知らせてくれる! 身の程をわきまえぬ下等生物……いや、頭の悪いゴリラめッ!!」


 相手の余裕ありげな態度に激高したあまり、湧き上がった怒りを声に出してぶちまけた。彼女の言葉がよほど気に障ったのか、早口でまくし立てながら大量のつばが飛ぶ。


「己の浅はかさを悔いて、あの世へ行けぇぇぇぇぇぇええええええええッッ!!」


 最後は死を宣告する言葉を吐きながら、相手に向かって走り出す。近接戦の間合いに入ると、少女を殴り殺そうと右拳による全力のパンチを繰り出す。


 だがさやかが手のひらを正面にかざすと、手のひらを中心として半透明に赤く光るバリアがドーム状に張り巡らされる。魔王が放ったパンチはバリアに衝突すると、障壁の硬さに打ち負けてしまい、巨大なコンクリートの壁に激突したように後ろへと弾かれる。


「なっ……何ィィィィィィイイイイイイイイッッ!?」


 ボールのように弾かれて体全体が宙に浮かされたまま、魔王が驚きの言葉を発する。攻撃を跳ね返された事よりも、少女がバリアを張った事実そのものに驚く。

 赤城さやかにバリアを張る能力などありはしないのだ。そのはずだった。にも関わらず彼女がバリアを張ってみせた事が頭の中で受け入れられず、にわかにパニックにおちいりかけた。


 バエルは冷静な対処が行えないまま地面に落下して、だらしなく尻餅しりもちを付いてしまう。激しく打った尻をいたわるように手でさすりながら、彼が慌てて起き上がろうとした時……。


「バエル……今度はこっちから行かせてもらうよッ!」


 さやかがそう言ってニヤリと不敵に笑いながら、前方へと駆け出す。


(フンッ……何をするつもりか知らないが、どうせ正面から近付いて拳で殴るだけだろう。赤城さやか、お前にはそれしか能が無いのだからな)


 バエルは二本の足で立ち上がって体勢を立て直すと、相手の攻撃に備えようと身構える。パワー特価型である少女には行動の選択肢が無いとタカをくくった。


「……ッ!?」


 だが次の瞬間目にした光景に、男は目ん玉が飛び出そうな勢いで驚く。


 なんと少女が前方に駆け出した後、四人に増えたのだ。無論本物のさやかが四人いるはずが無く、ビットを生み出した訳でもない。本物は一人だけで、残りは実体を持たぬ残像である事は疑いようがない。

 だとしても少女が残像を生み出す能力を披露した事に、男は深く動揺させられた。

 何故彼女が、この能力を? ……そんな疑問を抱く余裕は与えられない。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっ!」


 四人のさやかが勇ましくえながら、魔王へと迫っていく。このままただボーッとしていたら、本物の攻撃を受ける事は避けられない状況だ。


「グッ……おのれぇぇぇぇええええええッッ!!」


 バエルが怒り気味になりながら大声で叫ぶ。何としても敵の思惑通りにさせてたまるかと激しく息巻く。自らも前方に向かって走り出すと、左足によるヤクザキックを繰り出して相手を迎え撃とうとする。


 男のキックが命中すると、一人目の少女が霧となって消失する。

 続く二人目が左側面からジャンプして襲いかかると、男が左手による貫手を放つ。手刀で貫かれた少女がまたも霧となって散っていく。


 今度は彼の背後から三人目の少女が駆け出す。魔王は慌てて後ろを振り返ると、右手のひらを彼女へと向ける。直後手のひらに空いた穴から赤く光るレーザーが放たれて、少女を貫通する。だがこれも残像だった。


 これまで相手の襲撃に的確に対処してきたバエルだったが、それも三人までが限界だった。これ以上反撃の技が繰り出せない状態へと追い込まれたすきを狙って、正面から本物である最後の一人が猛ダッシュで接近する。


「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁああああああっっ!!」


 さやかは腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、相手の顔と同じ高さまでジャンプして、空中で横回転して右足による全力の回し蹴りを放つ。少女の蹴りは魔王の顔面にモロにヒットして、ドグォッと鉄骨がめり込んだような鈍い音が鳴る。


「ドグワァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」


 魔王が化け物のような悲鳴を発しながら豪快に吹き飛ばされる。強い衝撃で地面に落下して何度も激しく体を打ち付けた挙句、だらしなく大の字に倒れたまま手足をピクピクさせた。

 それでもこのまま倒れている場合ではないと自分に言い聞かせて、彼が急いで立ち上がった瞬間……。


「ブレイク・ショット!!」


 さやかが技名を叫びながら、両手のひらを相手に向ける。直後手のひらから光線のようなものが放たれて魔王に命中すると、彼の体がビキビキと音を立てて足の指先から銅化し始めた。


(何ッ!? これは……)


 銅化の光線を少女が使用した事に、魔王がまたも困惑する。彼女が今披露した技は他ならぬバエル本人がマリナに伝授した技であったが、さやかが使える代物ではない。だが彼女はそれを使ってみせた。


「フンッ!」


 驚くひまは無いと冷静に思い直して、魔王がかつを入れるように一声発する。すると銅化の進行が停止して、ビデオを逆再生したように元の足へと戻っていく。

 銅化を自力で打ち破ると、バエルはあごに手を当てて気難しい表情になりながら考え込む仕草をする。これまでの状況を頭の中で整理して、今何が起こっているのかを理解しなければならないと考えた。


(バリア、分身、ブレイク・ショット……いずれも彼女の仲間が使える技で、彼女自身の技では無かった。それを使ったという事は、今彼女は仲間の技を全て使えるという事になる。仲間の技をコピーする……それがエリアル・グレイヴとやらの真の力という事なのか?)


 今まで彼女が見せた技のラインナップから、今の形態なら様々な特殊能力が使えると結論付けた。

 ただ強くなっただけでも十分厄介だというのに、その上さらに仲間の能力まで使われては始末に負えない。男は「何とも面倒な事になった」と心の中で溜息をつく。


「マサムネ! ムラマサ! 我が手にッ!!」


 魔王が考えに没頭するすきを狙って、さやかが大声で何かに呼びかけながらバンザイするように両手のひらを天に掲げる。するとそれぞれの手にワープするように刀が出現する。それはミサキが使っていたのと全く同じ白と黒の二振りの刀だった。

 少女は一本ずつ刀を握って二刀流になると、敵に向かって一直線に走り出す。


「うららららららぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 勇ましい掛け声を口にすると、刀をやたらめたらに振って、魔王の腕や足をズバズバと切り裂く。体力が尽きるまで相手をメッタ斬りにしようとする。


「ぬおおおおおおっ!」


 傷口から湧き上がる痛みにバエルが苦しげな声を漏らす。斬られた箇所はすぐに再生するものの、それでも痛覚はあり、不快感を覚えずにいられない。むしろ致命傷にならない以上、少女の攻撃はただの嫌がらせに等しい。

 それでも攻撃がれつであったためかつに手が出せず、魔王は両腕をX字に交差させた防御の構えのまま、必死に相手の連撃に耐える。


「……ええい、やめぬかぁぁぁぁああああああッッ!!」


 だがこのまま防御に徹してはらちが明かないと感じて、一喝するように大声で叫ぶと、右腕を大きく振り上げて全力のパンチを繰り出す。

 さやかはサッと後ろに引いて大振りの一撃をかわすと、二本の刀を敵に向かって乱暴に投げ付けた。武器を手放す事に何の躊躇も無い。


「グゥッ!」


 少女が投げた刀は男の両肩に一本ずつ突き刺さり、あまりの激痛に魔王が思わずひざをつく。それを絶好のチャンスとみなして、さやかがヒュンッと音を立ててワープするように高速移動し、相手のふところに飛び込む。


「シャイン・ナックル!!」


 そう叫ぶや否や、魔王の腹に渾身の正拳突きを叩き込んだ。ドガァッと巨大な鉄の塊が衝突したような音が鳴り、悪魔の巨体がフワリと宙に浮く。


「ウッ……ゴルヴァァァァァァアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!」


 男が滑稽な奇声を発しながら物凄い速さで飛んでいく。墜落するように地面に激突して豪快に大地の土をえぐり上げた挙句、体が半分砂に埋もれたまま動かなくなる。両肩に刺さっていた刀は吹き飛ばされた衝撃で二本とも抜け落ちていた。


 だらしなく大股開きで倒れたまま微動だにしない魔王の姿を、さやかが遠巻きに眺める。すぐ起き上がる事を警戒して追撃は行わない。


「どう? 私の能力を見た感想は」


 余裕ありげな言葉が口から飛び出す。腰に手を当ててふんぞり返りながらフフンッと鼻息を吹かす。私の力を思い知ったかと言わんばかりの得意げなドヤ顔になる。しまいには相手を挑発するように鼻歌までうたいだす。


「……クソが」


 バエルはすぐに地面から起き上がると、そんな少女の姿を目にして腹立たしそうに吐き捨てた。


「仲間の技を使えるという貴様の力、確かに厄介だ。以前より強くなった事も間違いない。だが、いい気になるなよ? 私はまだ全ての技を見せてはいない……」


 相手の力を素直に認めつつ、まだ隠された能力がある事を明かす。それを根拠として、自分がいまだ不利な状況に追い込まれていないと主張する。


「後悔するがいい……私に奥の手を使う判断に踏み切らせた事をッ!!」

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