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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
216/227

第213話 ラストバトル(前編)

 バエルに心臓を貫かれて息の根を止められたさやかだったが、過去に世界を救った魔法少女『ほむらかすみ』の助力によって命を取り戻す。

 心臓が再生して息を吹き返すと、さやかはすぐに変身の構えを取る。


 光の中から現れた姿……それはこれまでの二つの強化変身をあわせ持つものだった。


「超変身……エリアル・グレイヴッ!!」


 変身を終えると、少女が即座に名乗りを上げる。


「超変身……エリアル・グレイヴだとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっ!?」


 少女が口にした名を復唱するように叫びながら、魔王が困惑する。彼女がまたも新たな力を得たらしい事実に焦燥感を抱かずにいられない。

 彼にしてみれば、少女が生き返っただけでも絶対ありえない事だ。その上さらに強化変身まで遂げられるなど、完全に想定の範囲外だった。

 決して起こらないはずの出来事が立て続けに起こったあまり、男は頭がクラクラしてまいすら覚える。


(エアもエアロもエリアルも、意味はだいたい一緒だッ! この大バカタレがッ!!)


 思わず声に出して言いかけたツッコミを、我慢してグッと飲み込む。目の前にいる脳筋ゴリラ女にそれを言っても無駄だという考えが頭の中にあり、必死に自分を抑え込んだ。


(フンッ……まあ良い。どれだけパワーアップしたか知らんが、こっちにはまだ奥の手が残っている。負ける事など、絶対にありえはせんのだ。絶対にな……)


 多少気持ちが落ち着いて、いまだ自分が有利な状況になると冷静に思い直す。


「赤城さやかッ! 新たな力を得たのなら、もう手加減する必要はあるまいッ! ここからは全力でやらせてもらうッ! ビット、やれぇぇぇえええええいッ! その女をバラバラに引き裂いて、はらわたを引きずり出してやるのだッ!!」


 互いの実力差がほぼ無くなったと判断して、本気で立ち向かう事を宣言する。相手を指差して、後ろに控える二体のビットに彼女を処刑するよう命じた。


「ウオオオオッ!」


 彼の命を受けて、左にいた一体が真っ先に前方へと飛び出す。少女めがけて一直線に走っていき、力任せに拳で殴り飛ばそうとした。


「うらぁっ!」


 さやかがかつを入れるように一声発しながら、相手の腹に全力のパンチを叩き込む。ドガァッと巨大な鉄の塊が衝突したような音が鳴ると、悪魔の巨体がポーンとあっけなく吹き飛ばされる。


「ギャアアアアアアッ!」


 悲鳴を上げながら飛んでいったビットの体が、ドォォーーーンッ! と音を立てて闘技場の壁に激突する。直後殴られた箇所から全身に亀裂が入っていき、爆発して粉々に吹き飛ぶ。


 あれだけ苦戦したビットを、たった一撃でほふるとはッ! ……観衆は誰もがそう感じて心から驚く。少女が以前より圧倒的に強くなった事に、ゴクリとつばを飲む。彼女ならやってくれるかもしれないと期待に胸をおどらせた。


「ヌオオオオオオッ!」


 観衆が驚く間に、二体目のビットが少女へと襲いかかる。背後に回り込んで、首を絞めようと両手を伸ばす。


「フンッ!」


 さやかは即座に後ろを向いて、その場でしゃがんで首絞めを回避する。直後ガラ空きになった男の腹に、左手による貫手を放つ。鋭い剣のようにぎ澄まされた少女の指先は、敵の胴体を豆腐のように突き抜ける。


焦熱しょうねつ獄殺ごくさつけんッ!!」


 技名らしき言葉を叫ぶと、少女の手が赤い炎のようなオーラをまとう。その炎が相手の体へと吸い込まれると、敵の体が一瞬赤く光った後ダイナマイトのように爆発して木っ端微塵になる。

 焼け焦げた鉄クズがバラバラと降り注いだ後には、貫手を繰り出した構えのさやかが立っていた。


(あの技は、かすみ君の……ッ!!)


 見覚えのある技を目にして、博士が思わず身を乗り出す。それは他ならぬ、かつて世界を救った魔法少女の炎による技だった。今のさやかが彼女の力を借りている事は明白だった。


 少女が技を出したまま立ち尽くすと、最後に残る一体である本物のバエルがついに走り出す。


「赤城さやかァッ! 我が手の内で息絶えるがいいッ!!」


 死を宣告する言葉を発しながら、両手をグワッと開いて相手につかみかかろうとした。

 さやかは相手の襲撃におくする事なく、正面にブンッと拳を突き出す。


(イカンッ!!)


 少女の拳が顔面と一ミリしか離れていない距離まで迫った瞬間、バエルが反射的に後ろへとジャンプする。両ひざを抱えてダンゴムシのように丸まったままクルクル縦回転しながら飛んでいき、そのまま落下して地面を数メートル転がりながら後退した後、二本の足でスタッと立ち上がる。


(ハァ……ハァ……あ、危ない所だった。コンマ一秒でも退くのが遅れたら、あの女の拳が顔面を直撃し、場合によってはそのまま命を落としただろう)


 魔王が疲れたように全身グッタリさせて、ゼェハァと激しく息を切らす。大きく体力を消耗した訳でもないのに、凄まじい疲労と倦怠感に襲われる。死の危険を身近に感じて、全身の血が冷えるような感覚に襲われた事が、彼の精神を大いに疲れさせた。


 男がわずかでもすきを見せれば、少女は容赦なく命を奪いに来る強敵と化したのだ。もはや一瞬の予断も許されない。


「おっ……おのれぇぇぇぇぇぇええええええええっっ!!」


 少女が自分をおびやかす存在となった事実に、魔王が烈火のごとく怒り出す。自分こそが宇宙最強であるべきだと考える彼にとって、肩を並べる存在が現れた事は決して許せるものではない。何としても取り除かねばならない思いに駆られた。


 男は床に落ちていた鉄パイプを拾い上げると、それを右手でしっかり握ったまま少女へと向かっていく。


「くたばれ、この糞ゴリラめッ!」


 汚い言葉を吐き散らしながら、相手の頭めがけて鉄パイプを振り下ろす。

 魔王の全力を込めて振り下ろされた鉄の棒は少女の顔面に触れると、熱で溶けたあめ細工ざいくのようにグニャアッと折れ曲がる。彼女に痛みを与えた様子は全く無い。


「何ィィィイイイイイッ!?」


 予想外の結果に、バエルは目ん玉が飛び出そうな勢いで驚く。以前の彼女なら軽々と吹き飛ばせた一撃がかすり傷すら付けられない光景に、つい「そんな馬鹿な」と声に出して言いかけた。


「オラァッ!」


 さやかはケンカする不良のように叫ぶと、茫然ぼうぜんと立ち尽くす男の手から折れ曲がった鉄パイプを力ずくで奪い取る。腕力でグイッと真っ直ぐに引き伸ばすと、それを木刀のように振り回してバエルの顔面をぶっ叩く。


「オブルゥゥゥゥァァァァァァアアアアアアアアッッ!!」


 バチィィーーーン! ととても良い音を鳴らして顔を叩かれた魔王が、滑稽な奇声を発しながら弾き飛ばされる。豪快にきりみ回転しながら宙を舞った挙句、地面に落下して何度も激しく体を打ち付けた。

 さやかは「こんなものいらない」と言わんばかりに鉄パイプを床にポイッと捨てる。


「クソッ、ゴリラマッチョ女めッ! よくも……よくもやってくれたなぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」


 バエルが腹立たしげにわめきながら、慌てて立ち上がる。顔面を殴られた事によるダメージは決して大きくなかったが、屈辱を与えられた思いがあり、ますます相手を許せない気持ちになる。


「やれぇッ! 死の蜘蛛(フェイト・スピナー)ッ!!」


 大声で叫びながら右手の指をパチンと鳴らすと、またも少女を取りかこむように十匹のクモ型地雷が出現する。クモは一斉に彼女へと飛びかかっていき、全身にまとわり付くと、次々に連鎖するように起爆する。


 鼓膜を裂くようなけたたましい爆発音が鳴り響いて、辺り一帯を焦がさんばかりの激しい炎が噴き上がる。爆心地から吹き荒れた突風によって大量の砂ぼこりが舞い上がり、人々の視界を覆い隠す。

 ビュウビュウ吹く砂嵐をその身に受けながら、少女が深手を負ったと確信したバエルだったが……。


「……ッ!?」


 視界が開けた瞬間目にした光景に、驚くあまり口をポカンとさせた。


 少女は腰を落とし込んだガニ股になって両腕をクロスさせたまま、攻撃に耐えるように立っていた。体の表面がかすかに焦げただけで、深手を負った様子は無い。その焦げ跡もすぐに修復されて、何も無いれいな肌に戻る。


 さやかは防御の構えを解くと、腰に手を当てて仁王立ちしながら得意げなドヤ顔になる。相手の驚く表情を見てニヤニヤしながら、自分の打たれ強さを自慢するようにフフンッと鼻息を吹かせた。


 彼女が以前より格段に強くなった事が改めて証明される形となった。もはやクモ型地雷ごときではまともなダメージになりはしないのだ。その事実に観衆がさらに沸き立つ。


「おのれぇッ! ならば、これでどうだッ!!」


 バエルがなかばキレ気味になりながら、右手に青い光を集束させる。光は次第に圧縮されて野球ボールくらいの大きさの光球になる。さっき少女を殺した技を放とうとしている事は一目瞭然だ。


圧縮爆裂光球エクスプロージョン・ボールッ!!」


 大声で技名を叫びながら、手のひらに凝縮させた光球を少女めがけて闘気弾のように発射する。男の手を離れた光球は音速を超える速さで一直線に進んでいく。


「フンヌッ!」


 さやかは鼻の穴おっぴろげたゴリラ顔になると、自分に向かって飛んできた光球を、サッカーのゴールキーパーのように手でキャッチする。光球は彼女の握力でガッシリつかまれており、それ以上先に進めない。


「私に同じ技は二度と通用しないッ! オラァッ!!」


 そう口にするや否や、手にした光球を魔王めがけて力任せに投げ返した。


「ウオッ!」


 思わぬ反撃に驚きながら、バエルが慌てて右に避けると、光球は彼の背後にあった闘技場の結界に衝突して爆発する。爆風により飛び散った砂を浴びながら、男はもうこの技では彼女を殺せないとだろうと確信する。一度受けた技ゆえに速度や弾道を見切られた事が、手で防がれた原因だと推測した。


 魔王はしばらくどうするべきか思案したが、やがて考えが固まったのか、突然両手を組んで人差し指を垂直に立てると、怪しげな呪文を唱えだす。


「アブドーラ、ガンダーラ、ボルボルギルヘム、ガルガンゾーア……フェムブフ!!」


 男が呪文を唱え終わると、少女の周りに上半身だけの骸骨が無数に浮かび上がる。彼らはうっすらけてフワフワと宙に浮いており、見るからに悪霊らしい風貌だ。

 悪霊のような骸骨どもは少女の周囲を飛び回ったり、体にまとわり付いたりする。時折からかうように歯をカタカタさせて笑う。


「うっ……うわぁぁぁぁぁぁああああああああっっ!!」


 さやかが恐怖のあまり大声で叫んでパニックになる。彼女はお化けが苦手ではないが、それでも幽霊にまとわり付かれて正気を保てなくなる。お化けを振り払おうと手をブンブン左右に振ったが、彼らは立体映像なのか幻覚なのか、実体が無く手で触れる事が出来ない。


 そうこうしている間にバエルが彼女の背後に立つ。そして首を絞めようと両手を真っ直ぐ伸ばす。

 さやかは敵の気配に気付いて咄嗟に後ろを振り返ったものの、回避が間に合わず首をつかまれてしまう。

 男は相手の首を掴んだまま体を高く持ち上げて、少女の両足が地面から離れる。そのまま腕に力を込めて彼女を絞め殺そうとする。


「うぐぅぅぅぅううううううっっ!!」


 さやかが苦しげなうめき声を漏らしながら、手足をバタつかせる。相手の腕を何度も叩いて拘束を振り払おうとしたものの、腕の力は一向に緩まない。それどころかますます強くなる。

 魔王の鍛えられた上腕二頭筋による握力が、いたいけな少女の首をギリギリ絞める。メリメリと骨がきしむ音が鳴り、脳の酸素が急激に奪われて、意識が遠くなる。口からブクブクと泡が噴き出る。

 バエルは彼女が苦しむ姿を見てニタァッと邪悪に笑う。このまま男の腕の中で少女が息絶えるかに思われた時……。


「……うらぁっ!」


 さやかが勇ましくえながら右足のつま先を大きく振り上げて、男の腕をドガァッと下から強く蹴る。残された力を振り絞って放たれた渾身の一撃は、魔王の腕にビリビリと電流のような激しい痛みを与える。


「ぬうっ!」


 予想外の反撃にバエルが思わず声に出して痛がる。腕の力が緩んで首絞めが解かれると、少女の体が地面へと落下する。大地に両足がつくと、さやかはすかさず全力でダッシュして相手から十メートルほど距離を開ける。

 その時には、魔王が呼び出した骸骨の霊は全て消えていた。


「せっかく与えられた命……こんな所で無駄になんて出来ないッ!!」


 さやかは敵の方へと向き直ると、決意に満ちた言葉を吐く。たとえ全てを出し切っても魔王を倒すのだと思いを新たにした。


「こっからは……私の反撃ターンよっ!」

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