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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
206/227

第203話 黒い剣士、ザルヴァ再び(中編-1)

 バロウズ要塞内部にあるスタジアムへと転送させられたさやか達……敵の立てた筋書き通りに事は運ぶ。

 困惑する少女たちの前に、かつて倒されたはずのザルヴァが姿を表す。高度な蘇生技術によって復活を果たしたのだ。

 五人の少女は必死に応戦したものの、ザルヴァの力はあまりに強大で、次第に劣勢へと追い込まれていく。


 想定を遥かに上回る相手の実力に恐れおののく彼女たちを、男が嘲笑う。


『貴様ら力の出し惜しみをすれば、確実に死ぬ事になるぞ……何故なら今の俺は、バエルの第一戦闘形態よりも強いッ!!』


 彼の強さが、バエルのバッタ形態を凌駕する事が明かされる。それが真実だとすれば、まさに魔王の前に立ちはだかる最後の試練に相応しい実力の持ち主と言えよう。


「それが……どうしたって言いますのッ!」


 マリナが強がるようにたんを切ってみせた。圧倒的な力の差を見せ付けられてもものじしない。何としても相手の強さに屈するまいと気力で自らを奮い立たせる。


「貴方がいくら強くても、本気を出したバエルより確実に弱いんですのッ! ワタクシ達は、そのバエルを倒しにここまで来ましたのッ! 今更いまさらどんな強敵が目の前に立ちふさがろうと、恐れはしませんのッ!!」


 最強の敵に立ち向かおうとする覚悟に満ちた言葉を吐く。目はグワッと見開かれて、けんにはしわが寄り、ギリギリと音を立てて歯ぎしりする。少女の瞳は熱い闘志の炎で燃え上がっており、決して虚勢を張った物言いでない事が伝わる。


「私の覚悟、見せてあげますのッ! 魔王バエル直伝の奥義……ブレイク・ショット!!」


 そう口にするや否や、両手のひらを相手に向けて光線を放つ。


『馬鹿めッ! そんな攻撃、俺には通用せんッ!!』


 ザルヴァが大声で少女を一喝すると、左手に握った刀を地面に突き立てる。刃の部分に光線が当たると、刃が一瞬キラリと輝いて鏡のように光線を反射する。


 光線は飛んできた方角へと正確に跳ね返されて、発射元であるマリナの足に命中する。


「イ……イヤァァァァアアアアアアッッ!!」


 少女が腹の底から絞り出したような悲鳴を発する。光線が触れた足の指先からビキビキと音を立てて銅化していき、またたく間に下半身全てが銅像になる。このまま何の手も打てなければ全身が固まるのは時間の問題だが、彼女には解決策が見つからない。ただおびえた目をして「ウアア」と声に出してパニックにおちいるだけだ。


「マリナっ! 銅化した部分にいやしの光を当ててみて! ひょっとしたら、銅化が解除されるかもしれないわ!」


 ゆりかが咄嗟にアドバイスを送る。確証が持てた訳ではないが、頭の中に湧き上がった仮説を伝えて仲間を助けようとした。


「分かりましたのっ!」


 彼女の言葉を受けて、マリナが銅化した自分の足に急いで手を当てる。癒しの光を照射すると銅化の進行が止まり、ビデオを逆再生したように体が元に戻っていく。やがて完全に光線を受ける前の状態へと戻る。


「……Phewふう


 マリナが少し疲れたように溜息を漏らす。銅化から解放された安心感で気がゆるんで、手足をだらんとさせる。すっかり気持ちが弱まって、内股で地面にへたり込んだ。

 自分の力なら相手を倒せるという考えが思い上がりに過ぎなかったと気付かされて、戦士としての自信を完膚なきまでに砕かれた。少女は敵の力を見誤った事を、心の中で深く後悔した。


『……これで分かっただろう。俺とお前たちとの間にある、格の違いが』


 ザルヴァが完全に上から目線の物言いをする。じかに力の差を見せ付けられた事に気を良くしたのか、ここぞとばかりに偉そうな態度を取る。それ見た事かと言わんばかりに「フフンッ」と鼻で笑う。

 男は何を思ったのか、それぞれの手に握っていた刀を一旦背中のさやへと収める。


『だが俺の本当の力は、こんなものでは無いぞッ!』


 そう口にした途端、左右の両腰に二つずつしてあった十字型の手裏剣を手で引き抜く。


『……クロスブレイドッ!!』


 武器の名前を大声で叫ぶと、それを少女たちめがけて一度に投げ付けた。

 手裏剣はヒュヒュヒュンッと風を切る音を鳴らしながら高速で横回転して、さやか以外の四人に向かってを描くように飛んでいく。


「くうっ!」


 ガードモードを継続していたアミカが咄嗟に手のひらを正面にかざして、半透明のバリアを張って自らを覆う。ゆりかとマリナも後に続くようにバリアを張って、相手の攻撃に備えようとする。


「ふんっ!」


 四人の中でただ一人バリアが張れないミサキは、刀の側面を盾にして、自分めがけて飛んできた手裏剣を正確に弾く。ギィィインッと鈍い金属音を立てて弾かれた手裏剣が、遥か彼方へと飛んでいく。


「こんなチャチな武器で我々を殺せると、本気で思っていたのか!? 随分ずいぶんめられたものだな、ザルヴァ!!」


 相手の一撃を防いだミサキが大きな声でののしる。彼女にしてみれば子供の遊びのような攻撃手段であり、甘く見られたと感じて深くいきどおる。今までのれつさと比べてひょう抜けするほど簡単に防げた事が、少女の怒りに拍車を掛けた。


『チャチかどうか……すぐに分かる』


 ザルヴァが意味深な言葉を吐いてニヤリと笑う。攻撃を防がれたにも関わらず、動じる様子が全くない。それどころか明らかに余裕があるように不敵な笑みすら浮かべている。


 ミサキには男の真意が全くつかめない。敵には何らかの策があるのではないかと疑念が湧き上がり、にわかに焦りだす。


「ミサキ、右に避けてぇぇぇぇええええええーーーーーーっっ!!」


 その時突然ゆりかが大きな声で叫ぶ。それと同時にヒュルヒュルと手裏剣が高速回転する音が少女の耳へと届く。


 少女の刀に弾き飛ばされた手裏剣は、そのまま空を大きくかいして、少女の背後の斜め上空へと回り込んでいた。とてもブーメランの原理で説明できるレベルの軌道ではない。手裏剣それ自体に意思が無ければ実現不可能な動きだ。


 手裏剣が少女の背中めがけて急降下する。


「ぐうっ!」


 ミサキは咄嗟に右に避けたものの、一瞬反応が遅れてしまい、左腕をわずかに切り裂かれる。傷口から真っ赤な血が噴き出し、ジワァッと焼けるような痛みが広がる。

 仲間の忠告を聞いた『瞬間』に動けば避けられたタイミングだ。少女はその事を深く悔いた。


『フフフッ……見たかッ! これが俺の新しい武器、その名もクロスブレイドッ!! ミサキの刀が、直接手を触れずとも脳波で遠隔操作できるように、この手裏剣も俺の意のままに動く! それも四つ同時にだッ! 避けられるものなら避けてみろッ!!』


 ザルヴァが武器の原理について熱く語る。性能にかなりの自信を抱いたのか、興奮気味に鼻息を荒くする。最後は相手を挑発する言葉で締めくくった。

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