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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
205/227

第202話 黒い剣士、ザルヴァ再び(前編)

 ついに玉座の間へと辿たどり着いたさやか達だったが、そこにバエル本人はおらず、一行は謎の光に呑まれてしまう。

 目が覚めると、彼女たちは要塞の一角にあるスタジアムの中にいた。部屋に仕組まれていた罠によってテレポートさせられたのだ。


 博士やスギタらレジスタンス、捕虜として捕まっていた人々も観客席に集められていた。博士いわく、敵はこの地で最終決戦を行い、一部始終を彼らに見せ付けるつもりなのだという。


 困惑するひまもなく、選手入場用の通路から一人の男が歩いてくる。その者は体が一回り大きいメタルマンのボスだった。かくしてさやかとメタルマンの戦いが勃発する。


 いくら彼らのリーダーと言えども所詮しょせんは量産ロボであり、大した強さではない。さやかが圧倒的な力の差を見せ付けて、敵を追い詰める。

 それでも男が諦めようとしなかった時、背後から飛んできた斬撃が彼を貫いて爆死させる。さやかが呆気あっけに取られると、斬撃を放ったと思しき人物が闘技場に姿を表す。


『ザコはすっこんでな……そいつは俺の獲物だ』


 そう口にしながら堂々と歩いてくる、背丈四メートルで忍者のような外見をした、二刀流の黒い剣士……さやかは彼に見覚えがあった。


「アンタは……ソードマスター・ザルヴァ!!」


 ……その者はかつてさやかに敗れて死んだはずの強敵ザルヴァだった。

 ガイルが忠告した通り、バロウズの蘇生技術によって復活を果たしたのだ。しかも復活前より遥かに強くなっているのだという。


 外見に大きな変化は見られないが、復活時に修繕したのか、左まぶたにあった古傷が無くなっている。以前との大きな違いとして、十字型の手裏剣のような刃物を、左右の両腰に二つずつぶら下げている。それが彼の新しい武器である事は疑いようが無い。


『よォ……相変わらず元気そうだな、ゴリラ女』


 再開の挨拶あいさつとばかりに男が軽口を叩く。それぞれの手に握った刀を一旦背中のさやに収める。


『貴様との再戦を果たすため、地獄の底からい上がって来たぞ……ソードマスター改め、ライジング・ザルヴァとなってな!!』


 ブリッツ同様に復活によって名前を変えた事を明かす。

 再戦の望みが果たせた事が相当嬉しかったのか、全身が喜びで打ち震えている。思わず「フフッ」と笑う声が口から漏れ出す。今すぐ戦いを始めたくて体がウズウズしている。


 望んだのは復讐などではない。宿敵との限界を超えた死闘を求むる彼にとって、自分を殺した相手が目の前にいる事、その者ともう一度戦える事……それにまさる喜びなど無かった。宿敵との再開を果たさせてくれた運命という名の神に、彼は今心の奥底から感謝する言葉を贈った。


「……こっちはアンタと会いたくなかったわ」


 テンションが最高潮に高まるザルヴァとは真逆に、さやかが嫌そうな顔をする。自身にとってトラウマになるほど苦戦した相手に、二度と関わりたくなかったと心底うんざりする。戦闘狂の相手に付き合ってなどいられないと言いたげに、あきれた表情を見せる。


「そんな事よりザルヴァ、今さっきお前が手にかけたメタルマンは、同じ組織の仲間だろう。同僚を手にかけるとは、どういう了見だ?」


 ミサキが男のした行いの真意を問い質す。ハゲマッチョの死には何の感情も湧かないが、それでも彼の行為を許せない思いがあり、ぬぐい去れない違和感を抱く。


『仲間? フッ、笑わせる……』


 ミサキの疑問をザルヴァが一笑にす。何を今更と言わんばかりに鼻で笑う。


『俺に仲間などいない……俺はいつだって一人だ。それは組織に属しても変わらない。仲間だの友情だのにすがるのは、いつでも弱者のする事……俺には必要ない。ヤツではお前たちの相手はつとまらんと判断したから、俺の手で始末した……たったそれだけの事だ』


 自身が孤高の存在である事、メタルマンでは力不足だと判断して抹殺した事などを伝えた。


「フンッ……その自分本位な物言い、死んでも変わらないわね。相変わらずクソみたいな性格してて、聞くだけで吐き気がする」


 ザルヴァの尊大な態度に、さやかが深くいきどおる。少女からすれば、強さでしか物事を決めようとしない男の考え方は、バエルと何ら変わりない。何としてもここで倒さねばならぬ相手だと思いを新たにする。


『……そろそろ無駄話は終わりにしよう。このまま話していてもらちが明かない。結局の所、俺たちは戦って白黒ハッキリさせる以外に……道は無いのだからなッ!!』


 ザルヴァが一方的に話を打ち切ると、勝負の始まりを告げるように背中のさやから二振りの刀を抜いて構える。さやか達も敵の襲撃に備えるように拳をグッと握る。


 静寂に包まれた闘技場にて、五人の少女と一人の剣士が対峙する。双方共に睨み合ったまま一歩も動かない。ただ時間だけがむなしく経過する。そのままどちらとも相手が先に動くのを待っているかに思われたが……。


『……フッ!』


 先に動いたのはザルヴァの方だった。口元にかすかな笑みを浮かべながら、さやかに向かって一直線に駆け出す。


『赤城さやかァッ! まずは挨拶あいさつ代わりだ、受け取れぇぇぇぇええええええッッ!!』


 近接戦の間合いに入ると、右手に握った刀で少女を縦一閃いっせんに切り裂こうとする。


「ぐうっ!」


 縦に振り下ろされた剛剣を、さやかが咄嗟に『真剣白刃取り』で止める。だがザルヴァのパワーは凄まじく、少女は刀を止めた腕ごとギリギリと後ろに押される。このまま何の手も打てなければ、力負けする事は明白だ。


「ザルヴァァァァアアアアアアッッ!!」


 その時さやかが立っているのとは逆の方角から、ミサキが大声で相手の名を呼びながら駆け出す。敵の意識が仲間に向けられているすきを狙って、刀で斬りかかろうとした。


『甘いッ!』


 ザルヴァがすかさず左手に握った刀を横ぎに振って、相手を迎え撃つ。両者の刀が激突して、ギィィィィインッ! と鈍い金属音が鳴る。ミサキは必死に腕に力を込めてパワーで押し切ろうとするが、相手の刀はビクともしない。


 ザルヴァは腰を深く落とし込んで両足で大地に踏ん張ったまま、左右一本ずつの腕だけで、二人の少女を一度に相手する。その姿勢のままギリギリと耐えており、全く押される気配が無い。彼の圧倒的な力はまことに驚嘆すべきものがあった。


『……ムゥンッ!』


 やがてザルヴァが気合を入れるように一声発すると、彼の全身から漂う闘気オーラが激しい突風となって吹き荒れた。するとそれまでかろうじて耐えていた二人の少女が、鼻息で飛ばされたほこりのようにあっけなく吹き飛んでしまう。


「うぁぁぁぁああああああっ!」

「グワァァアアアアーーーーーーッ!!」


 突風に負けたさやかとミサキが、悲鳴を上げながら豪快に宙を舞う。地面に落下してゴロゴロ転がって全身を何度もこすり付けた挙句、仰向けに倒れたまま起き上がろうとしない。体に受けた痛みが相当大きかったのか、「ううっ」とうめき声を漏らしながら何度もその身をよじらせる。


「ザルヴァ、お命頂戴ちょうだいしますのッ!」


 ザルヴァが二人を吹き飛ばしたまさにその一瞬を狙って、マリナが背後から駆け出す。相手の背丈を超えた高さまで飛び上がると、右足を大きく振り上げてかかと落としを見舞おうとする。

 マリナにはこの一撃を絶対にかわされない自信があった。何しろ相手が攻撃に対処するには到底時間が足りないのだから――――。



 だが少女の踵が触れようとした瞬間、ザルヴァの姿がまるでワープしたように消える。渾身の踵落としは空振りに終わってしまい、何も無い地面を踏んでしまう。

 マリナが敵を見失った事に慌てて周囲を見回すと、男は彼女から十メートルほど離れた位置に立っていた。目にも止まらぬ速さで超速移動して、わずか一瞬にして相手の間合いから離れたのだ。


『シィッ!』


 ザルヴァが掛け声を口にしながら、左手に握った刀で大地を斬り払う。その直後、刀で斬った地面から龍のような衝撃波が放たれて、少女めがけて飛んでゆく。闘技場の床をドガガガッと音を立てて豪快にえぐりながら、時速二百メートルを超える速さで突き進む。


「くっ!」


 マリナが咄嗟に横にジャンプして避けると、衝撃波は彼女の背後にあった闘技場の壁に激突する。膨大なエネルギーが結界に衝突して行き場を失ったように大爆発して、大量の砂ぼこりを巻き上げた。

 爆発の威力は凄まじく、もし直撃したら深手を負っただろうとマリナはきもを冷やす。


 ザルヴァが間髪入れず相手に向かって第二撃を放とうとしたせつ……。


「やぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 彼の頭上から、ゆりかが大声で叫びながら落下する。槍を真下に構えており、眼下の敵を串刺しにしようとする。


『フンッ!』


 ザルヴァが鼻息を吹かせながら、左手の刀で頭上の相手を斬り払う。すると少女の姿が霧のように散っていく。その瞬間を見計らったかのように、男の背後からもう一人のゆりかが猛スピードで駆け出していた。


(勝機ッ!!)


 ゆりかが胸の内で勝利を確信する。敵の意識が残像へと向けられた事に、作戦が成功した喜びで胸をおどらせた。槍の刃を相手に向けて一気に貫こうとする。


『……馬鹿めぇっ!』


 だがザルヴァが相手を罵倒する言葉を吐きながら、少女が迫ってきた方角へと素早く向き直る。最初からそう来ると分かっていたように冷静に対応する。

 男は右手の刀で槍の一撃をガードすると、その姿勢のまま腕をグイッと押して、少女を力で弾き飛ばしてしまう。


「ああああぁぁぁぁーーーーーーっっ!!」


 ゆりかが悲痛な叫び声と共に、車にねられた猫のように飛んでいく。地面に激突して何度も激しく体を打ち付けた挙句、死んだようにグッタリと横たわる。いつまで経っても起き上がろうとしない。


『貴様のワンパターンな策が俺に通用すると思ったか? 残念だったな。今の俺なら、たとえ目を閉じようと貴様ら五人の位置が手に取るように分かるぞ』


 ザルヴァが、視界をあざむこうとする策が彼には全く通用しない事を明かす。いつどのタイミングで何処から襲われようが……それどころか、姿を消そうが煙幕を張ろうが、彼は常に五人の正確な位置を把握するのだという。


『青木ゆりかッ! まずは貴様の首を頂くとしよう! 死ねぇぇえええいッ!!』


 死を宣告する言葉を吐くと、床に倒れた少女めがけて一直線に走り出す。


「させませんッ!」


 ゆりかに迫ろうとする男の前に、仲間の命をかばおうとアミカが立ちはだかる。


「チェンジ……ガードモードッ!!」


 即座に右腕のスイッチを指で押してモードを切り替えると、両手のひらを正面にかざして半透明のバリアをドーム状に張り巡らす。

 直後ザルヴァの振り下ろした刃がバリアに衝突すると、ギィィインッ! と音を立てて後ろに弾かれた。


『……ッ!!』


 ザルヴァは自身の刀が弾かれた事に一瞬驚いた顔をする。想定を遥かに上回るバリアの硬さに、敵ながら感心して舌を巻く。


『キェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーーーッッ!!』


 だが突然中国拳法の武術家のような奇声を発すると、両手に握った刀を目にも止まらぬ速さで振り回して、眼前にあるバリアをメッタ斬りにする。一度で駄目なら執拗に何度も斬り付けようとした。

 ヒュヒュヒュンッと刀を振る音が高速で鳴り、バリアがギギギンッと何度も切り裂かれる。最初は耐えていた障壁が少しずつ削れていき、表面に小さな亀裂が入りだす。


『……ヌゥゥウウウンッ!!』


 やがてザルヴァが一声発しながら腕に力を込めた渾身の一太刀を振るうと、バリアが亀裂の入った箇所からガラス板のようにあっけなく割れてしまう。そのまま勢いが止まらずに振り下ろされた刃が、アミカの胸元を切り裂く。


「ぐぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 少女の痛ましい声が闘技場内に響き渡る。胸元をザックリ斬られたアミカが激痛にもだえするように地面をゴロゴロ転がり、傷口を両手で押さえたまま辛そうにうめき声を漏らす。

 傷口からは血がどんどん溢れており、五人の中で彼女がもっとも深手を負った事は明白だ。


「アミカっ!」


 その時少女の近くに倒れていたゆりかが慌てて起き上がり、仲間の元へと駆け寄る。彼女の胸元にそっと手を当てると、青い光を注いで傷口をいやそうとする。

 光が注がれると傷口がまたたく間にふさがっていき、出血が止まる。


「……ふうっ」


 痛みが収まって気持ちが安らいだのか、アミカがゆっくりと大きく息を吐く。少し疲れたように全身グッタリしながらも、激痛から解放された嬉しさで表情が笑顔になる。

 ゆりかも仲間の命を救えた事にひとまず安心する。


「ライジング・ザルヴァ……なんて恐ろしい相手ですの」


 五人の中で唯一無傷だったマリナが、敵の実力にきもを冷やす。ガイルからあらかじめ忠告されてはいたが、それでも想像を遥かに上回る鬼神のごとき強さに、恐怖せずにいられない。


 男の強さに驚いたのは、他の四人も同じだった。マリナ以外のメンバーは一度彼と戦った経験があるが、今の彼はそのノウハウがまるで通じない、異次元の強さだった。


『フフフッ……』


 相手の強さに驚愕する少女たちを、ザルヴァが声に出して嘲笑う。さも当然と言いたげに余裕ある態度を見せた。


『貴様ら……この後にバエルが控えてるからと言って、力の出し惜しみをすれば、確実に死ぬ事になるぞ。何故なら今の俺は……ヤツの第一戦闘形態よりも強いッ!!』

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