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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
204/227

第201話 最終決戦の地

 メタルマンを倒したさやか達は、ついに玉座の間へと通じる扉の前に立つ。


「おらぁっ!」


 さやかが威勢の良い掛け声と共に、鉄製の扉を足で蹴って開ける。

 五人が足を踏み入れると、そこは中世ヨーロッパの城のような内装をしていた。部屋の奥には王が座る玉座があり、床には入口から玉座に向かってレッドカーペットが敷かれている。


 そして玉座には、少女たちが見覚えのある男が座っていた。


「……バエルッ!!」


 男の姿を目にして、さやかがその名を口にする。

 玉座に座っていたのは、騎士の鉄仮面を被り、全身をローブで覆い隠した男……まぎれもなくこの要塞の主、バロウズ総統バエルに他ならなかった。


 彼は侵入者が部屋の中に駆け込んでも、慌てる様子を全く見せない。大股開きで椅子に腰掛けたまま、「フッフッフッ」と声に出して笑う。椅子から立ち上がろうともしない。

 とても追い詰められた者の取る態度ではない。少女たちを嘲笑う余裕すら見せている。


「すぐに笑えなくしてやるッ! この悪党ッ!!」


 さやかがそう口にするや否や、敵に向かって一直線に駆け出す。男の態度がよほど腹にえかねたのか、余裕を消し去ってやろうと息巻く。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 気迫の篭った雄叫びと共に、右拳によるパンチを繰り出す。

 だが少女の放ったパンチはバエルの体をスゥッと通り抜けて、彼が座っていた玉座を殴り付けてしまう。殴られた衝撃で椅子がバラバラに吹き飛んでも、バエルは何も無い空中に座ったままだ。


「!?」


 さやかは何が何だか、まるで訳が分からなかった。バエルは目の前にいるのに、触れる事が出来ないのだ。いくら手で触ろうとしても、スッスッと通り抜けてしまう。少女は一瞬バエルが幽霊になったのかと錯覚した。


「さやかッ! そこにいるのは立体映像だッ! 本物じゃない!!」


 ミサキが大声で仲間に真実を伝える。

 さやかが彼女の言葉に従い、目の前にいる男をよく見てみると、うっすらと半透明にけている。少女が注意深く部屋の中を見回すと、すみっこにいたクモのような小型のメカが、バエルの立体映像を空中に投写していた。


「こんのぉっ!」


 さやかは腹立ちまぎれに一声発すると、部屋の隅へと駆けて行き、八つ当たりするようにクモ型メカを思いっきり踏み付けた。

 その直後、部屋の床全体が突然ゴゴゴッと音を立てて七色に光りだす。クモ型メカを踏む行為が、トラップを作動させる仕掛けになっていたようだ。


 床から放たれた光はとても直視できないほどまぶしく、少女たちはたまらず目を閉じたり、手で顔を覆ったりする。


「しまった! 罠かっ!」


 ミサキが後悔の言葉を口にするが、すでに遅かった。

 光はさらに強くなっていき、やがて少女たちを部屋もろとも飲み込む。


「うわぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 彼女たちの意識が視界と共にホワイトアウトして途切れていく……。


  ◇    ◇    ◇


「うっ……」


 いつの間にか気を失って床に倒れたさやか達が目を覚ます。


「うう……ここは何処ですの?」


 マリナがふらつく頭を手で抑えながら言う。棒で強く殴られたように頭がガンガンして、まいがして思考がまとまらない。目が覚めたばかりで視界がボヤけており、ここが何処かすぐには分からない。


「少なくとも玉座の間では無さそうだ」


 ミサキが冷静に周囲を見回しながら口にする。おぼろげながらも少しずつ視界がはっきりしてくると、自分達がさっきまでいた場所とは全く違う景色である事が分かる。

 少女たちを呑み込んだ光は、彼女たちを別の場所へとワープさせるトラップだったように思えた。


「ここは……ッ!!」


 やがて視界が鮮明になった時、目に映った光景にゆりかが驚愕する。


 彼女たちがいた場所……それはスポーツの試合をり行うような、円形のスタジアムだった。規模は東京ドームより小さく、それなりの広さだ。天井は存在せず、上を見上げればれいな青空を拝む事が出来る。


 観客席に人がいた。満席と呼ぶには程遠く、人影はまばらだったが、それでも全体として数百人はいた。

 彼らの反応は様々だ。ただひたすら恐怖におびえる者、何故自分がここにいるのか分からず、周囲を見回す者……いずれにせよ試合の観戦を楽しむムードではない。彼らも何処かから、この場に連れてこられたようだ。


 客席の一番手前に、さやか達の見覚えがある人物がいた。


「ゼル博士っ!」


 さやかが大声で名を呼びながら、猛ダッシュして駆け寄ろうとする。博士の隣にはスギタもおり、さらに二人の後ろにはレジスタンスと思しき男の一団がいた。少女はひとまず彼らが無事だった事に安堵した。


 だがさやかが競技場と客席をへだてる壁に触れようとした瞬間、バチッと小さな電流が走る。


「さやか君、その壁に触れてはいかん! これを見るんだ!」


 博士はそう言うと、白衣のポケットから卓球に使うピンポン玉を取り出す。それを壁の真上にある何も無い空間に向かって投げ付けた。

 ピンポン玉は壁の真上を通り抜ける事が出来ず、目に見えない何かにぶつかったようにポーンと跳ね返って客席に転がる。何かに触れたらしい箇所は感電したように黒く焦げている。


「目に見えない強力な結界が、競技場と客席をさえぎっているんだ! 試しにショットガンやロケットランチャーを数発撃ち込んでみたが、結界を全く壊せなかった!」


 博士が、双方を物理的にできない事を伝えた。競技場での戦いの流れ弾が飛んでくるのを防ぐためか、単純に戦いの邪魔をされたくないのか、結界は凄まじい強度を誇っていた。もしかすればオメガ・ストライクにも数発程度なら余裕で耐えるかもしれない。


「それよりも博士、どうして貴方がここに!?」


 さやかが、何故彼らがこの場にいるのか問う。

 博士はレジスタンスを率いて牢屋にとらわれた人質の救出に向かったはずだった。作戦通りなら、今頃はとっくに人質を解放して要塞から脱出しているはずなのだ。


「我々も貴方がたと同じです。人質を牢屋から連れ出そうとした瞬間床が光って、人質もろとも観客席へと飛ばされたのです。今この場にいる観客は全員、囚われた人質なのです」


 スギタが自分の身に起こった出来事を語る。


「バエルは、我々をこの場に集めるよう仕組んでいたッ! ヤツはここを最終決戦の地と定めて、戦いの一部始終を我々や囚人に見せ付けるつもりのようだッ! 自分が世界征服を成し遂げた後、歴史の生き証人とするために……我々は最初から、まんまとヤツに出し抜かれていた事になるッ!!」


 博士が敵の首領のたくらみについて、推測をまじえながら語る。作戦がうまく行ったつもりで、裏では完全に相手の狙い通りに動かされていたと知って、無念そうに下唇を噛んだ。


「そんな……」


 博士の言葉を聞いて、ゆりかが悲嘆に暮れていた時……。


「みんな、あれを見ろっ!」


 ミサキが突然大声で叫びながら、競技場の壁を指差す。

 彼女が指差した方角に皆の視線が向けられると、選手入場用らしき通路の扉が開いて、そこから一人の男が歩いてくる。


 その者はついさっきさやか達が倒したメタルマンに酷似していたが、全身銀色に光っており、体が一回り大きくてゴツい。左胸には彼らの隊長である事を表すらしき『KINGキング』という文字が刻印されている。頭がハゲているのは相変わらずだ。

 見た目だけなら、彼らより確実に強そうだ。


「俺ハ、メタルマンノ ボス……偉大ナ バエル様ノタメニ、貴様ラヲ ココデ処刑スル……ッ!!」


 現れた男が自己紹介する。闘技場においてさやか達を倒すために差し向けられた一番手のようだ。


「ハゲのキングが何体現れたって、私たちは絶対負けませんッ! いつでも相手になりますよッ!!」


 アミカが鼻息を荒くしながら拳を強く握って、ボクサーのようなファイティングポーズを構える。あえて敵の力をあなどり、さっさと倒してしまおうと息巻く。


「みんなは後ろに下がってて。こんなヤツ、私一人で十分よ」


 さやかが右手をサッと横に振って、メタルマンと戦おうとする仲間を制止した。

 彼女の言葉に従い、他の四人は数歩後ろに下がって待機する。彼女一人に任せても大丈夫だろうと仲間の力を信頼する。


「メタルマンのボスとやたら……ノーダメージで蹴散らしてやるわ」


 さやかはそう口にすると、軽く肩慣らしするように拳をゴキゴキ鳴らしながら前に一歩踏み出す。


「赤城サヤカッ! 俺ノチカラヲ甘ク見ルト、後悔スル事ニナルゾォォオオオッ!!」


 実力を過小評価されたと感じて腹を立てたのか、メタルマンが大声で怒りながら大地を強く蹴って走り出す。


「ムゥンッ!」


 気迫の篭った声を発すると、右拳によるパンチを繰り出す。

 だがビュウッと風を切る音を鳴らしながら放たれた剛拳を、さやかが片手だけで受け止める。男がいくら腕に力を込めても微動だにしない。ゴリラのような握力でガッシリつかんで、離そうとしない。


 少女は相手の体を、掴んだ拳ごと軽々と片手で持ち上げる。


「おらぁっ!」


 勇ましくえると、空に向かって勢いよく放り投げた。


「ヌォォオオオオッ!」


 空に投げ出された男が声に出して慌てふためく。重力に任せて落下しながらおぼれたように手足をバタつかせて必死にあがく。そのまま何も出来ず地面に激突して、全身を強く打ち付けた。

 だらしなく大の字に倒れたままピクピクしていたが、すぐに起き上がって体勢を立て直す。


「マダダッ! 本番ハ、コレカラダッ!!」


 負け惜しみのような言葉を吐くと、仕切り直すように少女に向かって走り出す。


「ヌォォォォオオオオオオッ!」


 大声で叫ぶと、またもパンチを繰り出そうとした。何としても負けまいとする意思の表れか、さっきよりも腕に力が入っている。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 さやかも負けじと腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、今度は自分も全力のパンチを放って、相手を迎え撃とうとする。

 互いの拳と拳が正面から激突して、ドガァァアアアッ! と何かが爆発したような凄まじい音が鳴る。その衝撃で突風が吹き荒れて、競技場の床に積もっていた砂ぼこりが宙に舞い上がる。


「グアアアアアアッ!」


 拳の衝突に打ち負けたメタルマンが、悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。派手に地面をゴロゴロ転がって全身をこすり付けた挙句、大股開きになって仰向けに倒れた。衝突した右腕は装甲が砕けて、内部の骨格が剥き出しになる。その骨格も、風で飛ばされたビニールかさのようにバキバキにへし折れている。


 衝突に勝った当のさやかは拳を突き出したままピンピンしている。負傷した様子は微塵も無く、不敵な笑みを浮かべて「フフンッ」と鼻息を吹かす余裕すら見せていた。もはや力の差は一目瞭然だった。


「マッ……マダダ……マダ俺ハ……」


 それでもメタルマンが勝負を諦めずに立ち上がろうとした時……。



 それはわずか数秒の出来事だった。

 彼の背後にあった選手入場用の通路から、三日月状のかまいたちのような物体が放たれて、男を一瞬にして貫いたのだ。

 かまいたちが通り抜けた箇所が切断面になって、男の体がバックリと二つに割れていく。


「ナッ……何故ダ……ザル……」


 メタルマンが無念そうに何かを言いかけた瞬間爆発して、木っ端微塵に吹き飛ぶ。黒く焦げた部品が床に散乱して、男の無惨な死を印象付けた。


 さやか達は何が起こったのかまるで訳が分からず、ポカンと口を開けたまま突っ立っていると、かまいたちが飛んできた通路から何者かが歩いてくる。


『ザコはすっこんでな……そいつは俺の獲物だ』


 そう口にしながら、ドスッドスッと音を立てて歩く背丈四メートルの男……全身を黒一色に塗られた忍者のような外見をしていて、左右の手には一本ずつ刀が握られている。


 まず間違いなくメタルノイドであろうと思われる男の姿に、さやかは見覚えがあった。


「アンタは……ソードマスター・ザルヴァ!!」

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