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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
201/227

第198話 千体合獣……その名はメタル・オロチ!!

 敵要塞に突入したエルミナはザコを蹴散らしながら先に進む。やがて四方をコンクリートの壁にかこまれた一室にて、千体の量産ロボと対峙する。


 彼女が敵と戦おうとした時、部屋の壁に備え付けられたスピーカーからバエルが話しかける。

 要塞の主の指令を受けて千体の量産ロボが合体し、一体の巨大な蛇のロボットへと姿を変えた。


「見たかッ! これが千体合獣サウザンドビースト……その名を『メタル・オロチ』と呼ぶッ!!」


 バエルは自信満々な口調で、蛇のロボットをそう名付けるのだった。


「千体合獣……メタル・オロチ……」


 エルミナが敵の名を口にしながら、ゴクリとつばを飲む。ライオンをひとみにしてしまえる大きさの蛇を前にして、無意識のうちに足が後ろへ下がる。ひたいからは汗がとめどなく流れ、手足の震えが止まらなくなる。胸がドクンドクンと激しく高鳴り、息が苦しくなる。


 恐怖……かつてバエルと戦った時にすら抱かなかった感情を、彼女はこの時確かに抱いた。


「シュルルルル……」


 メタル・オロチと命名された蛇が、エルミナを見下ろしながら威嚇するように舌を鳴らす。彼女を『うまそうな獲物』と見定めたようにペロリと舌なめずりした。


「シャーーーーーーッ!!」


 やがて本物の蛇のような声で叫ぶと、目の前にいる少女めがけて大きく口を開けながら突進する。


(……速いッ!!)


 予想を遥かに上回る相手の速さにエルミナが戦慄した。咄嗟に横に動いて、すんでの所で敵の体当たりをかわしたものの、ビュウッと真横を通り抜けただけでも空気がビリビリ振動する感触が伝わり、それだけで相手のパワーの凄さが分かる。

 もし直撃したら、無事では済まない……少女はそう危機感を抱かずにいられない。


 エルミナは一旦後ろに下がって相手との距離を大きく開くと、右腕の装甲にあるボタンを指で押す。


「エクシード・ルミナ……三倍モードッ!!」


 そう叫ぶや否や、少女の全身が一瞬だけまばゆく輝く。全能力が三倍になる代わりに、五分しか戦えないモード……彼女はそれを発動させた。


「でやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 勇ましい雄叫びを発すると、間髪入れず敵に向かってダッシュし、右拳による全力のパンチを叩き込もうとした。

 だが少女が殴りかかろうとした瞬間、蛇が体全体でヒョイッと動いて彼女の一撃を難なくかわす。まるでその一瞬だけ体重が軽くなったかのようだ。


「そんなっ!」


 渾身の一撃をかわされた事にエルミナが深く動揺する。その巨体からは想像も付かない相手の俊敏さに、顔が見る見るうちに青ざめた。


「シャァァアアアッ!!」


 蛇がまたしても雄叫びを上げながら、少女めがけて突進する。彼女がショックで棒立ちになったため、今度ばかりは回避が間に合いそうもない。


「くっ!」


 エルミナが咄嗟に両手のひらを正面にかざして、半透明のバリアをドーム状に張り巡らす。

 だがオロチが衝突すると、少女は張ったバリアごと弾き飛ばされて、部屋の壁にドォーーーンッと叩き付けられてしまう。


「ぐぅぅ……」


 壁から落下して地面を転がりながら、少女が辛そうにうめき声を漏らす。体中を駆け回る痛みに思わず泣きそうになり、殺虫剤を撒かれて死にかけた虫のように手足をピクピクさせた。

 バリアしであったため軽減されたはずの衝撃を受けてもなお、彼女はかなりの激痛を負わされたのだ。


「フフフッ……どうした? 貴様の力はそんなものか。降伏するなら、今からでも我が配下に加えてやらん事も無いぞ」


 スピーカーから発せられた声が少女を嘲笑う。戦況が自分側に有利なのを良い事に、完全に上から目線の物言いになる。


「まっ……まだまだっ!」


 エルミナが負けん気な台詞セリフを口にしながら立ち上がる。母親譲りのガッツを見せ付けるように歯を食いしばって、相手をキッと睨む。


「これでも喰らえっ!」


 そう叫びながら両手のひらを相手に向けると、手のひらから赤い光線のようなものが放たれる。光線は蛇の横っ腹に命中し、ジジジッと音を立てて装甲を焼く。

 だがオロチの装甲は非常に分厚く、並みのメタルノイドなら一撃で粉砕する威力のレーザーでも、表面を焦がすので精一杯だった。


「くっ……だったら!」


 レーザーでは致命傷にならないと悟り、エルミナは覚悟を決めたように下唇を噛むと、今度は敵に向かって全速力で駆け出す。


「おららららららららぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーっっ!!」


 近接戦の間合いに入ると、腹の底から絞り出したように大きな声で叫びながら、両手を駆使した高速のラッシュを放つ。ガトリングの弾のように繰り出されたパンチが、蛇の顔面をドガガガガッと何発も殴り、それによる衝撃で部屋全体が激しく振動する。その光景がおよそ十秒以上も続いた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 やがて体力が底を尽きたのか、エルミナが疲れた表情を見せる。それまで秒間何発も繰り出していたパンチが急に止まり、手足が震えて棒立ちになる。やがて姿勢を保てなくなり、ガクッとひざをつく。

 口からはハァハァと激しく息を吐いて、ひたいからは滝のように汗が流れて、ボタッボタッと床にこぼれ落ちる。完全に疲労困憊こんぱいした状態になる。



 殴られた当のオロチ本人は……全くの無傷っ!

 凄まじい威力のパンチで殴られたにも関わらず、装甲にはかすり傷すら付いていない。まるで何事も無かったかのようにツヤツヤしている。

 蛇は攻撃が効かなかった事をアピールするように、チロチロと舌を出して遊ぶ。少女の努力が無駄に終わったと嘲笑って、小馬鹿にしている。


「シィッ!」


 やがて短く一声発すると、あっち行けと言わんばかりに首を横に振って、目の前にいる少女をバチーーーンッと音を立てて弾き飛ばす。


「うああああああっ!」


 鼻息で飛ばされたホコリのようにあっけなく吹き飛んだ少女が、悲鳴を上げながら宙を舞う。強い衝撃で天井に激突して全身を強打すると、さらに床へと落下して体を激しく打ち付けた。


「ぐぁ……あ……」


 あまりの激痛にエルミナが白目をく。口が半開きになり、「ウァァ」と声にもならない声が漏れ出す。体中の神経がズタズタに引き裂かれたような感覚を味わい、危うく気が遠くなりかけた。


「……ざまだな」


 深手を負った少女を眺めながら、バエルがスピーカーしにつぶやく。劣勢に追い込まれた彼女を心から見下す。


「エルミナ……貴様は確かに強い。それはかつて戦った私自身が認める所だ。だが貴様の力をもってしても、メタル・オロチには到底勝てぬ。それが地球人類の科学の……そして貴様の限界だというのだ。分かったら、諦めてこうべれて、我に服従せよ。それ以外に生きるすべは無い。貴様に与えられた選択肢は服従して生きるか、あらがって死ぬか、そのどちらかしか無いのだ」


 少女と蛇の間に圧倒的な力量差がある事を伝えて、無駄な抵抗をやめて降伏するよううながす。あえて即座に殺さず服従する機会を与えた辺りからは、彼女の力を評価したがゆえに、失う事を惜しいと感じたらしい心情がうかがえた。


「服従なんて……絶対しない」


 エルミナがそう口にしながら、ゆっくりと立ち上がる。

 すでに体のあちこちの機械がビシビシと音を立てて悲鳴を上げている。関節部分からは火花を散らせており、あと一撃喰らえば機能停止におちいってもおかしくない状態だ。

 だがそれでも少女は立ち上がった。


「ママだったらこういう時、絶対諦めない……だから私も、絶対に諦めない。だって私は……ママの娘だからっ!!」


 さやかのように、揺るぎない勝利への執念を抱く事を宣言する。

 少女にとって、『赤城さやか』という存在は絶対だった。血の繋がりなど無くとも、本物の母親のように愛し、心の底から尊敬した。彼女のように不屈の闘志を持った、強い戦士になりたいと願った。


 ママならこういう時、どうするか……常にそう考えて行動する少女が、バエルの降伏勧告に従わないのはもっともな話だった。


「フゥーーーッ……くだらんざれごとだ。耳が腐るわ。生身の人間と機械は、どうあがいても本物の親子になどなれんというのに……馬鹿げている」


 少女の決死の覚悟を、バエルがくだらないと吐き捨てた。話にもならない、聞いて損したと言わんばかりに、つまらなそうに溜息を漏らす。


「良かろう……ならば望み通り、ここで死ぬがいいッ! オロチ、やれぇぇぇぇええええええっっ!!」


 彼女を部下に引き入れる事を諦めると、蛇に処刑を命じた。


「シャーーーーーーッ!!」


 男の命を受けて、オロチが大きく口を開けながら突進する。深手を負った少女にとどめを刺そうとする。


 だが蛇の頭が触れようとした瞬間、エルミナが目にも止まらぬ速さで横に動いて、すんでの所で敵の体当たりをかわす。その動きはとても死にかけた少女のものとは思えなかった。


 まだこんな力を残してあったのかっ! ……バエルはそう心の中で驚愕した。


 エルミナは一旦仕切り直すように、後ろに下がって相手と距離を開く。


「平八のオジサンには、一分しか持たないから使うなって言われたけど……ゴメン!」


 謝罪の言葉を口にすると、右腕の装甲にあるボタンを再度指で押す。


「エクシード・ルミナ……十倍モードッ!!」


 大きな声で叫ぶと、またも少女の全身がまばゆい光に包まれる。さっきは一瞬だけだったが、今度は常に光り輝いている。


 エルミナには二十分戦える通常モードと、五分しか戦えない代わりに三倍の強さになる強化モードがあった。だが今彼女が発動させたのは、本人の発言を聞く限り、一分しか戦えない代わりに十倍の強さになる究極形態ファイナル・モードだ。それは勝負を一瞬で終わらせなければ、逆に彼女自身がやられる捨て身の戦法だった。


 十倍モードを発動させると、エルミナの右手のこうから、青白く輝く光の剣が出現する。それは刀身が真っ直ぐに伸びていき、五メートルの長さになる。バチバチと光を放って、いかずちのように放電する。


「シャァァアアアッ!!」


 少女が新たな力に目覚めたらしき姿になっても、オロチはひるむ事なく突っ込んでいく。この一撃で全てを終わらせようと息巻く。


「レーザーブレード……オメガ・エンド!!」


 技名らしき言葉を叫ぶと、エルミナは光の剣を水平に構えたまま、背中のバーニアを噴射させて、敵に向かって一直線にぶ。直後わずかに横にずれて相手の体当たりを避けた位置に来ると、蛇の顔面に刃を突き立てたまま前進する。


 レーザーブレードの切れ味は凄まじく、頑強なる蛇の装甲を、豆腐のようにたやすく切り裂く。


「ギェェェェェエエエエエエエッッ!!」


 体を横一文字に切り裂かれて、オロチが化け物のような悲鳴を上げる。やがて上と下半分ずつに分かれると、床にドォッと倒れて全身をピクピクさせる。そのまま元の量産ロボに戻る事なく、静かに息絶えた。


「……」


 要塞防衛の切り札が倒された事にバエルが沈黙する。反論する言葉が見つからなかったのか、素直に負けを認めたのか、スピーカーの回線が切れる音がブツッと鳴った。


「ママ……私、やったよ……量産ロボ、いっぱいやっつけたよ……」


 敵を完全に仕留めると、エルミナが仕事をやり遂げた事に満足したようにニッコリ笑う。よろよろとおぼつかない足取りで、部屋のすみにある柱まで歩く。


「ママ……後は任せたよ。がんばって、世界救って……ね……」


 人目に付かないよう柱の影に座ると、ゆっくり目を閉じる。そのまま眠りにいたように動かなくなる。

 さやかに全てを託し、彼女が必ずやバエルを倒してくれると信じて……。

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