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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
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第197話 要塞突入計画(後編)

 バロウズ要塞東門の内側、見張り兵のうち一人が気だるそうにあくびしながら隊長と話していると、突然鉄製の扉が物凄いパワーでブチ破られる。

 血相を変えた兵士たちが慌てて銃を構えると、砂煙の中から一人の少女が姿を現す。


 扉を足で蹴って破壊したのは、他ならぬ少女型アンドロイド『エルミナ』だった。


「悪いおじさん達、私が相手になるよっ! かかってきて!」


 エルミナはそう口にすると、拳を強く握ってボクサーのような構えを取る。

 ここに最終決戦のぶたは切って落とされた。


「なんだとテメエッ! やんのか、オラァッ!!」


 見張り兵の片割れが、敵対勢力が攻めてきたヤクザのようにいきり立つ。としも行かぬ少女が扉を蹴破った事に、心の底からいきどおる。


「ノコノコと敵地に足を踏み入れた事を、あの世で後悔するがいいッ! 死ねぇぇぇぇぇぇええええええええっっ!!」


 死を宣告する言葉を吐くと、アサルトライフルを少女に向けてフルオートで乱射した。ドガガガガッとけたたましい銃弾の発射音が鳴り、秒間十発を超える弾雨が彼女へと浴びせられる。


 だがエルミナの皮膚ははがねのように硬く、放たれた銃弾は豆鉄砲のようにキンキンと弾かれて地面に転がる。弾倉の弾を撃ち尽くしても、彼女には傷一つ付かない。

 メタルノイドのパンチに余裕で耐えられる装甲が、なまりだま程度で傷など付けられるはずが無かった。


「チッ……チクショウ!!」


 攻撃が全く通じない事に、男が地団駄を踏んで悔しがる。腹立ちまぎれに弾切れしたアサルトライフルを床に投げ捨てると、今度は手榴弾のピンを抜いて少女へと投げ付けた。

 だが手榴弾による爆破をモロに喰らっても、エルミナはビクともしない。せいぜい爆風により宙を舞った砂ぼこりがゴミとなって付着しただけで、彼女の体にはかすり傷すら付かない。


 生身の兵士では彼女を殺せないと悟らせるには、それだけで十分だった。


「ふんっ!」


 エルミナが一喝するように声を発すると、両手の人差し指を相手に向けて、指先から細い金属の針のようなものをププッと発射する。


「ぐあっ!」


 金属の針が首に突き刺さって、二人の兵士が一瞬苦しそうにもだえた後、地面に倒れて気絶する。致命傷を受けた訳では無いにも関わらず、一向に起き上がろうとしない。

 男の意識を奪ったのは、対象の命を奪わずに無力化させる麻酔針だと推測できた。


「くっ……こちら東門ッ! 管制室、応答せよッ! 東門に侵入者あり! ただちに増援を求むッ!!」


 胸に階級章のバッジを付けた隊長格と思しき男が、血相を変えながら慌てて何処かに無線で連絡する。

 すると一分と経たずに奥の通路からメタルハウンドとメタルモスキートが、それぞれ十体ずつ駆け付ける。


「ヴァウワウッ!」

「キキキキキィィーーーーーッ!!」


 群れの先頭に立つ一体のハウンドとモスキートが、先陣を切るように少女へと襲いかかる。猟犬はあごの力で、蚊は鋭いクチバシで、相手を突き刺そうとする。


「ふんっ! でやぁっ!」


 エルミナは気迫の篭った掛け声を発すると、真っ先に飛びかかってきた蚊の顔面にジャンプ回し蹴りを叩き込み、返す刀で猟犬の頭部にかかと落としを喰らわせた。


「ブババババァーーーーーッ!!」

「ギャワワワンッ!」


 強烈な一撃を叩き込まれた二体が、共に断末魔の悲鳴を上げる。ゴミのようにあっけなく吹き飛ばされて床に倒れると、数秒間ピクピクした後、死んだように動かなくなる。


「キッ……!!」


 量産ロボの群れが思わずその場に立ち止まる。相手から距離を取るように群れの先頭がジリジリと後退する。先陣を切った二体があっさりやられた事に相当驚いたのか、敵の実力を警戒して、襲いかかる事を躊躇したようだ。


「え……ええいッ! ロボのくせに、何をひるんどるかッ! けしからんッ! やれ! やって、その女をブチ殺せッ! その女には限界稼働時間があるはずだと、バエル様がいつぞやおおせられた! つまりそれまで粘れば、我々の勝ちだッ! おくする事は無い! やれぇぇぇぇぇぇええええええええっっ!!」


 隊長格の男が必死に大きな声で命令する。エルミナの力に限界がある事を伝えて、何としても相手を仕留めるのだと、のどを枯らして叫ぶ。



 ……そうして男が量産ロボに指示を出していると、通路の奥から彼の部下と思しき一人の男が慌てて駆け込んでくる。


「たたた大変です、隊長っ! 西門が破られました! ヤツらが……装甲少女が攻めてきたのですッ!!」

「な……何ぃぃぃぃいいいいいいーーーーーーーー!?」


 部下の報告を聞いて、隊長は目ん玉が飛び出るほど驚く。ショックで気が動転して、目の前が真っ暗になった心地がした。


  ◇    ◇    ◇


 ――――その頃、西門にて。


「ギギギッ……!!」


 一体のメタルモスキートが、床に倒れたまま苦しそうにジタバタとあがく。最後は何者かに頭をグシャッと踏みつぶされて、ぐったりして活動を停止させる。


「さーーてと、そんじゃ私たちも派手に暴れるとしますか」


 蚊を踏み潰したさやかが、強気な笑みを浮かべて拳をゴキゴキ鳴らしながら前に出る。敵地に足を踏み入れたのだから、当然戦士ヒーローに変身した姿だ。


「フッ……存分にザコを蹴散らすとしよう」


 同じく装甲少女に変身した姿のミサキが、不敵な笑みを浮かべながら仲間の横に立つ。高まったテンションを持て余すように、右手に握った刀をヒュンヒュンと振り回す。

 やはり変身済みのゆりか、アミカ、マリナが二人の後ろに立つ。


 五人の前にはハウンドとモスキートからなる量産ロボの群れ数十体がいたが、少女たちの力を恐れたのか、一定の間合いを保ちながらジリジリと後退する。


「バエル……今日がアンタの命日よ。首を洗って待ってなさい!!」


 さやかがそう叫ぶや否や、敵の群れに向かって突進していく。それから数秒と経たずに、猟犬と蚊の断末魔の悲鳴が、建物の中にこだました。


  ◇    ◇    ◇


 ――――そして南門。


 ゼル博士が二十人ほどからなるレジスタンスの一団を先導しながら、要塞の中を進む。彼の手には万が一敵と遭遇した時のために、ショットガンが握られている。

 まず博士が一人で先行して、敵がいない事を確かめてから、後方で待機するレジスタンスに自分の元まで来るように合図を送る。それを何度も繰り返す。


 博士たちが侵入した南門には敵が一人もおらず、完全にもぬけのカラだった。

 博士は一瞬敵の罠かと疑い、辺りを慎重に調べたものの、罠が仕掛けられた形跡は見当たらない。遠くでの戦いの余波か、時折建物全体がズシィッと音を立てて揺れたものの、彼らの周囲は静寂そのものだ。


「さやか君たちは、うまく敵を引き付けてくれたようだな……」


 博士が安堵の笑みを漏らす。敵戦力を分散させる策が功をそうした事に、思わず胸がおどった。


「博士、作戦は成功ですッ! こうなれば我々のもの、一刻も早く人質の救出に向かいましょう!!」


 同じく勝利を確信したスギタが、博士に牢屋へと向かうよううながす。


「うむ、そうだな! みんな、私に続け!!」


 彼の提案に従い、博士が皆に指示を出す。

 博士がスタスタと早足で廊下を歩き、レジスタンスが彼の後に続く。そうして一行は人質を救出すべく、目的地へと向かった。


  ◇    ◇    ◇


 エルミナの突入開始から五分が経過した頃……要塞内部にある、体育館くらいの広さで四方をコンクリートの壁にかこまれた一室、そのすみっこにエルミナが立つ。


 彼女の前には、メタルハウンドとモスキートからなる量産ロボの大群がいる。

 その数……およそ千体ッ!!


 けれども、彼らは数の暴力を頼みとせず、警戒するように少女から距離を取る。

 それもそのはず、少女の足元にはすでにロボの残骸が無数に転がっており、彼女には傷一つ付いていないのだ。


 最初彼女がこの部屋に来た時、量産ロボは全部で千百体いた。だがそのうち百体は一分と経たずに蹴散らされた。力の差は歴然としていた。


「貴方たちじゃ、絶対私に勝てないよ……あきらめて」


 エルミナが自らの勝利を確信しながら、前に一歩踏み出そうとした時……。


「ハハハハハハハッ!!」


 部屋の壁に備え付けられたスピーカーから、何者かの笑い声が響く。


「その声は……バエルっ!」


 聞き覚えのある男の笑い声を耳にして、エルミナが怒った表情で叫ぶ。

 スピーカーから発せられたのは、まぎれもなくこの要塞の主、バロウズ総統バエルのものに他ならなかった。彼は要塞各所に設置された防犯カメラで、事の一部始終を見ていたのだ。


「エルミナ……貴様は確かに強いッ! それは素直に認めよう! だからこそ、こちらも要塞防衛の切り札を使わせてもらう! これを見るがいいッ!!」


 バエルがそう口にするや否や、何かのボタンを押したらしきポチッという音がスピーカーから鳴る。


 すると千体のハウンドとモスキートが天に向かってえるような仕草をした後、突然一箇所に集まりだす。磁石で引き寄せられたように互いの体がくっついた後、ガシャガシャと音を立てて変形して、巨大な一つのかたまりへと変化していく。

 やがてそれは猟犬でも蚊でもない、全く別の『何か』に変わった。


 ……千体のロボットが合体して変形したそれは、銀色に光る巨大な蛇のロボットだった。外見はまさしく蛇そのものだが、大人のライオンを丸呑みにしてしまえるサイズのそれは、もはやドラゴンと呼んでも差し支えが無いほどの迫力があった。


「……ッ!!」


 突如目の前に現れた蛇の化け物に、エルミナがたじろぐ。緊張で呼吸が荒くなり、無意識のうちに足が後ろへと下がる。

 千体のロボが合体した姿ではあったが、彼らを個別に相手するより数倍……いや数十倍は強そうに感じた。これがバエルの口にした『要塞防衛の切り札』である事は疑いようが無い。


「フフフッ……」


 スピーカーの向こうからバエルが不敵に笑う。これまで温存していた切り札を披露できた事に、ご満悦の様子だ。


「見たかッ! これが千体合獣サウザンドビースト……その名を『メタル・オロチ』と呼ぶッ!!」

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