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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
196/227

第194話 少女から託された願い

「うわあっ!」


 ……そこで夢が終わり、さやかが大声で叫びながら目を覚ます。

 突然現実に引き戻された事にビックリするように、簡易ベッドから慌てて飛び起きた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 恐ろしい夢を見て疲れたように呼吸が荒くなる。体中寝汗でびっしょりしていて、ほのかにベトつく。相当体力を消耗したのか、全身が気だるくて、猛烈な倦怠感に襲われる。かすかに頭痛もする。


「一体何だったの? 今の夢……」


 そんな言葉が口から飛び出す。


 彼女にしてみれば訳の分からない話だった。見も知らぬ少女たちが戦う夢を突然見せられたのだ。しかもそれは夢というにはあまりに克明こくめいで、内容を具体的に覚えてしまえるほどハッキリしていた。

 少女は一瞬、これがバロウズによる新手の精神攻撃ではないかと疑いすらした。


 車内を見回すと、仲間たちは気持ち良さそうに寝息を立てて熟睡している。さやかがあれだけ大きな声で飛び起きたにも関わらず、起きる気配が全く無い。何ともおかしな話だった。


 時計は朝の二時を指している。日が昇るにはまだ数時間早い。

 すっかり眠気が飛んでしまったので、少女は一旦汗を拭いて別の服に着替えると、気晴らしに夜風に当たろうと車の外に出る。


 外の景色は夜の闇に包まれており、遠くまで見渡す事は出来ない。満月のあかりも、辺りを完全に照らしはしない。時折吹き抜ける風が草木をカサカサと揺らし、鳥が鳴く声がホゥーーホゥーーと聞こえる。


「……」


 涼しい夜風に吹かれながら、さやかはさっき見た夢の事を思い出す。

 彼女にはあれが何だったのか、いまだに分からない。夢に出てきた人物や光景には全く見覚えが無い。にも関わらず、細部まで内容を記憶してしまえるほど映像は鮮明だった。

 ただの夢で終わってしまえるならそれにした事は無いが、彼女はそう受け取ってしまって良いのか悩んだ。本当はあれが、誰かが見せようとした記憶であり、大事なメッセージだったのではないかとかんぐる。


 けれども、いくら悩んでも明確にこれだと言える答えは見つからない。様々な憶測が頭の中を駆け巡り、正解の出ない疑問だけが増す。少女はストレスで気がおかしくなりかけた。


(あのシズクって子……ちょっとだけ私に似てたかも)


 少女がふとそんな事を心の中で思った時……。


(さやかちゃん……さやかちゃん……)


 何者かが彼女の頭にテレパシーのような声で直接語りかける。


「誰!?」


 謎の声に呼ばれて、さやかが慌てて周囲を振り返る。

 すると彼女の目の前で、蜃気楼のような何かがボヤーッと浮かび上がる。それは次第に人の形を取っていく。半透明にうっすらとけたそれは、あたかも幽霊のようだった。


「かすみ……ちゃん……」


 浮かび上がった少女の姿を目にして、さやかが思わずそう口にする。

 彼女の前に現れたのは、夢の中に出てきた『かすみ』という名で呼ばれた赤い服の少女だった。


 彼女が今こうして目の前に現れた事実は、さっき見た夢が、ただの脳内記憶による妄想ではない事を如実にょじつに表していた。


「かすみちゃんっ! 貴方、かすみちゃんって言うんでしょ!」


 さやかが何度も念を押すように問いかける。夢の内容が真実であったかどうか確かめようとする。

 彼女の問いに、少女が肯定するようにコクンとうなずく。


「私……ほむらかすみ」


 そして自己紹介するようにフルネームを名乗る。


「そっかぁ……焔かすみって言うんだ。良い名前だね。あっ、私は赤城さやかって言うの。今後ともヨロシクね」


 相手の名前を聞いて、さやかもニッコリ笑いながら挨拶あいさつする。とてもフレンドリーな態度からは、相手が幽霊かもしれない恐怖心は一切感じられない。

 彼女のサバサバした性格に、かすみと名乗った少女も緊張が解けたように表情が和らぐ。


「それでかすみちゃん、今日は私に何か用?」


 一通りの挨拶を終えると、さやかが自分の前に現れた用件を問う。


「……」


 彼女の問いに、かすみは顔をうつむかせて、手を後ろに回したまま言いにくそうに体をモジモジさせる。言うべきかいなか迷った様子だ。

 だがやがて決心が付いたように、顔を上げて口を開く。


「さやかちゃん、お願い……私の友達を救ってあげて」


 神に祈るように両手を組んで頼み事をする。他に頼れる相手がいないのか、わらにもすがる思いとばかりに真剣な表情をしている。彼女のせっ詰まった様子からは、一刻のゆうもならない状況である事がうかがえた。


「えっ!? 貴方の友達を……私が救う!?」


 突然の頼み事に、さやかがにわかに困惑する。「何故今日会ったばかりの私が?」と思わず声に出して言いかけた。彼女を突き放すつもりは無かったが、二人は今日が初対面だった。縁もゆかりも無い相手に軽々しくするような内容の頼み事ではない。


 何故私が……その疑問が頭に引っかかり、さやかはしばらく考え込む。頭の中で様々な憶測が駆け巡ったが、やがて一つの仮説へと辿たどり着く。


「かすみちゃん……それを私にお願いするって事は、貴方の友達を救う事と、バエルをやっつける事に、何か関係あるって事だよね?」


 彼女なりに導き出した推論をぶつける。


「ねえ、そうなんでしょっ! だったら教えてよっ! 貴方の友達を救う事とバエルを倒す事が、どう関係してるの!? 頼み事するなら隠しっこ無しだよ! かすみちゃんっ!」


 少女を問い詰めるように早口でまくし立てる。頭の中に湧き上がった疑問を解消するために、相手が知っている事を全部聞き出そうとした。


「……」


 今は言えないと言いたげにかすみが口をつぐむ。しばらく気まずそうに顔をうつむかせたまま黙り込んだが、そのまま逃げるようにうっすらと消えてしまう。


「ああっ、待って! 消えないでっ! 貴方にはまだ山ほど聞きたい事がっ! かすみちゃん! かすみちゃぁぁぁぁぁぁああああああああんっっ!!」


 さやかが慌てて大声で名を呼んだものの、少女が姿を現す事は二度と無く、夜の山中に叫び声だけがただむなしく響き渡る……。


  ◇    ◇    ◇


 夜が明けて皆が目を覚ますと、さやかは昨晩見た夢の事、夢の中に出てきた少女と出会った事、それら全てを話す。彼女は最初話すべきかどうか迷ったが、話した方が良いだろうという判断に踏み切る。


「何ィィ!? ほっ……焔かすみだとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっっ!!」


 その名を聞いた途端、ゼル博士が血相を変える。目はグワッと見開かれて、けんにはしわが寄り、ひたいからは滝のような汗が流れて、全身がブルブル震える。まるでこの世の終わりが訪れたような恐ろしい表情になる。


 博士の様子はとても尋常ではない。明らかにかすみという少女について知る者の取る態度だ。


 客観的に見れば、さやかのした話は荒唐無稽だ。本来であれば、ただの夢だと一蹴されても不思議じゃなかった。だが博士の反応は、彼女の話に真実味を持たせるだけの迫力があった。


「博士っ! 何か知ってるんですか!?」


 さやかが咄嗟に問いかける。彼から有益な情報が聞けるかもしれないと期待を抱く。


「フム……」


 博士はあごに手を当てて気難しい表情になりながら考え込んだが、やがて腹をくくったように口を開く。


「さやか君……君が見たという夢の内容、それはかつてこの世界で現実に起こった事だッ!!」


 少女の見た夢が、妄想でも幻でもなく、現実の出来事だと明かす。


「博士っ! かつてこの世界で何が起こったか、かすみという少女が何者なのか、博士は全部知ってるんですね!? だったら教えて下さい! 博士が知ってる事、全部っ!!」


 さやかが身を乗り出して食い入るような目で問い質す。

 他の仲間たちも、興味津々そうな顔をする。


「そうだな……ついに……遂に話すべき時が来たという事か」


 博士が疲れたように溜息を漏らしながら、遠くを見るような目をする。これからする話の重さに、彼自身覚悟を固めようとしているように思えた。


「私が知る過去の話……それを、これから全て話そうッ!!」

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