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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
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第184話 三人の男たち

 バロウズの基地と思しき建物……その内部にある、コンクリートの壁で覆われた体育館くらいの広さの部屋で、三体のメタルノイドが何やら小声で話している。


 三体ともゴツゴツして角ばった岩のような装甲をしており、土のような暗めの茶色に塗られていたが、リーダーと思しき一体だけが背丈六メートルで、他の二体はそれより一回り小さい背丈四メートルだった。遠目からだと、ゴーレムと呼ばれる神話の怪物のように見える。

 それぞれ左胸に名前の頭文字らしき『M』『Z』『B』が刻印されている。


『ザザ、ボーグル……二人とも分かっておろうな。ナンバーを剥奪されたお前たちが現場に復帰できるのは、俺のおかげだという事を忘れるなよ』


 リーダーらしき男が他の二体に向かって言う。その口ぶりから、彼らの中で一番高い地位にいている事がうかがい知れる。


『はっ! 五回の敵前逃亡をしたボーグルと、バナナの皮を床に捨ててバエル様を転倒させたこのザザ、役職無しとはいえ現場復帰するチャンスを与えられたのは、ひとえにメリクリウス様のり成しがあったればこそっ!』


 男のうち一体が、上司に感謝の言葉を述べる。自らの犯した失態と、それを帳消しにしてくれた上司の取り計らいに対する礼を言う。


『もし貴方様のお言葉が無ければ、我々は庭の草むしりと、バエル様の銅像磨きと、テーブルにぶちまけた豆をはしで一粒ずつ小皿に移し替える作業を、死ぬまでやらされたでしょう』


 残るもう一体が、これまでやらされていた仕事を明かす。戦士としての誇りとかけ離れたつまらない雑用は、バエルが如何いかに彼らを冷遇したかが容易に感じ取れた。


 リーダー格の男はメリクリウス、残る二人はそれぞれザザ、ボーグルという名だった。これまでの話によると、組織内で幹部として扱われているのはメリクリウスだけで、他の二人は降格処分を受けた身のようだ。


『安心しろ、二人とも。この作戦は必ず成功する。そのあかつきには、バエル様もお前たちを許して下さるだろう……ナンバー有りに復帰できる日も近いぞ』


 メリクリウスが頼もしい言葉で部下を励ます。よほど自信のある作戦なのか、俺に任せろと言いたげに自分の胸を握った拳でドンッと叩く。


『装甲少女を抹殺するために、我々は恐ろしい技を編み出した。この連携は四人が力を合わせても絶対に破れないシロモノだ。ヤツらは脱出不可能なおりとらわれたまま、焼け死ぬ運命なのだ……フフフッ』


 自らの勝利を確信して不敵な笑みを浮かべる。少女が無惨な死をげた姿を想像してワクワクが止まらなくなる。


『さすがです、メリクリウス様ッ!』


 ボーグルが上司の策を称賛する。二人は高まったテンションのあまり、手と手を繋いでクルクル回りながら「ヒャッホーーーーイ!」と声に出して叫ぶ。もうすでに勝った気でいる。


『あのー……お二人さん』


 喜ぶ二人と正反対に、ザザが顔をうつむかせたまま言いにくそうに口をモゴモゴさせる。


『ええと……あの……大変申し上げにくいのですが、装甲少女が一人増えて、今は五人になってるそうです。それでベルセデス元帥閣下がお敗れになられたとか。昨日メリクリウス様がヤボ用だったので、私が代わりに呼ばれたんですが、その時バエル様から伝えられました』


 祝勝ムードに水を差すような発言をする。上司の機嫌を損ねるかもしれないと不安を抱きつつ、このまま黙っている訳にも行かない。一人増えた事を知らぬまま実戦におもむいたら、パニックにおちいる事は目に見えていた。


『はっ……はぁぁぁぁああああああっっ!? アイツら、一人増えたの!? えええええっ! ウソだろ、オイ! マジかよっ! ってかお前、そういう事は先に言っとけよっ! バカヤロウ! 知らずに大はしゃぎした俺が馬鹿みたいだろっ! コノヤロウ! コンチクショウ!!』


 案の定、事実を知らされたメリクリウスがにわかに慌てふためく。それまでの余裕は一瞬で消し飛び、深い焦燥感にさいなまれる。最後は八つ当たりするように、連絡を遅らせた部下を叱責した。


『はっ! 申し訳ありませんっ! 以後気を付けます!!』


 ザザが反論できず平謝りする。日頃から失態を犯していたのか、謝り慣れた様子だ。三人の中ではこのザザという男が、一番間の抜けた印象を与える。


『はぁーーっ……一人増えたって、マジかぁーーーー』


 メリクリウスが落胆したようにガックリと肩を落とす。深く溜息を漏らしながら、頭を手でボリボリとく。ボーーッと天井を眺めて物思いにふけたり、腕組みしながら「ムムムッ」と声に出して気難しそうな顔になる。


 敵は四人である前提で作戦を組み立てた。そして四人ならば決して破れぬ策を思い付いた。それが彼に勝利への確信を抱かせる根拠ともなった。

 敵が一人増えた事実は作戦を根底からくつがえしうるものであり、これまでの努力が水のあわになるかもしれなかった。


 しばらく今後について考えたメリクリウスだったが……。


『だがまぁ……いいか』


 何を思ったのか、突然そう言って一人で納得する。理由を聞かないとヤケを起こして開き直ったようにしか見えない。


『本当のきずなというものは、仲間になって数日やそこらで生まれやしない。いくら交流を深めた所で、こればかりは踏んだ場数がモノを言う。仲間になって日の浅いヤツが、いきなり四人と心を一つになど合わせられるはずが無い。それが出来なければ、到底破れない技なのだからな……だからまぁ、大丈夫だろう』


 恐れを抱かなくて良くなった理由について明かす。五人が完全に心を一つにしたら破られるかもしれないが、そうならないから大丈夫という理屈だった。


『なるほど……確かに』


 ザザが上司の言葉にうなずいて納得する。ボーグルが「ほほーーっ」と声に出して感服する。最後は二人して「さすがですね」と相手をたたえる。

 男の理屈にはそれなりに説得力があるように思えた。二人の中にあった、敗北するかもしれない懸念を吹き飛ばす材料として十分だった。


『ヨシッ! それじゃ今から早速さっそくヤツらをブチ殺しに向かうぞッ! それが成功したら、今夜はパーティだッ! 何でも好きなものおごってやるから、お前ら楽しみにしとけよッ!!』


 不安が払拭された所で、メリクリウスが意気揚々と出発を宣言する。部下の士気を盛り上げようと報酬を約束し、太っ腹な所を見せ付ける。


『オオーーーーーーッ!!』


 ザザとボーグルが拳を天に向かって突き出し、勇ましく歓声を上げる。

 三人は揺るぎない勝利への確信を抱くと、のっしのしとガニまたで部屋から出ていく。上機嫌のあまり、酒を飲んで酔っ払ったように歌をうたい出す。


(アイツら、大丈夫か……?)


 一連のやり取りをカメラしに見ていたバエルは不安でしょうがなかった。

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