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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
184/227

第182話 降臨!その名はエア・グライド(中編)

 ベルセデスの執拗な拷問を受けて命を落としかけた蛟神こうがみマリナ……わらにもすがる思いで祈った時、黒のアームド・ギアが彼女の願いに応える。新たな力を得たマリナは桃色の装甲少女アームド・ガールエア・グライドへと変身をげる。

 それはギアに搭載された人工知能が、組織よりも少女の願いを優先させた事によって起きた奇跡だった。


 マリナはいやしの力によってさやかを蘇生させると、襲いかかってきたベルセデスに全力のかかと落としを見舞う。ベルセデスは相手の一撃をモロに喰らい、地面に頭から突っ込んでしまう。


「ベルセデス……お覚悟はよろしくてッ!!」


 マリナは自信に満ちた口調で、相手の命を奪う事を宣言した。


『グヌゥゥウウウ……』


 大地に頭が深くめり込んだベルセデスが、うめき声を漏らしながら頭を引っこ抜く。地面に両手を付いたまま、首をブンブンと左右に振って砂ぼこりを払う。軽く脳震盪のうしんとうを起こしたものの、まずは二本の足で立ち上がり、後ろに下がって相手との距離を開く。

 体制を立て直すと、ベルセデスは腹立たしげに少女を睨む。


(やれやれ、面倒な事になった……)


 男は内心そう思った。

 相手のパワーが自身の想定を遥かに上回っていたからだ。それが装甲少女へと『進化』した事によるものか、それともテンションの高さが能力を引き上げたのかは分からないが……。


「フフッ……どうしたんですの? すっかり腰が引けてますわ」


 警戒心を抱くベルセデスを、マリナがクスクスと小声で笑う。余裕を見せ付けるように右手の指先で髪の毛をクルクル巻いて遊びながら、楽しそうに鼻歌をうたいだす。空に顔を向けながら目だけ相手の方を見て、見下すような眼差しを向ける。


『ゴミめ……大人をめた口いてると、痛い目を見るぞ』


 ベルセデスがドスの利いた口調になる。平静をよそおいながらも、言葉の節々からよどみなき殺意のようなものをにじませた。


『……一撃喰らわせた程度で思い上がるな、このケツの青い小娘がぁっ!! 私を誰だと思っている! バロウズの元帥マーシャルだぞッ! そう簡単にやられると、本気で思っているのかッ! 私には貴様を殺す手段がいくつも残っている! 見ていろ……貴様を地べたにいつくばらせて、五体をバラバラに引き裂いて、はらわたを引きずり出してやるッ!!』


 胸の内から湧き上がる怒りを声に出してぶちまけた。相手をおちょくるような態度を取られてよほど頭に来たのか、やたら早口でわめきながら、口から大量のつばが飛ぶ。最後は全力を尽くして相手の命を奪う事を宣言した。


『我が力、とくとその目に焼き付けるがいいッ! 奥義……光輪捕縛ルミナス・リングッ!!』


 そう叫ぶや否や、ベルセデスが拝むように両手をバンッと合掌させる。手と手の隙間を開くと、まばゆい光を放つボールのようなものが生まれる。エネルギーの集合体らしきそれは直径一メートルの大きさになると、マリナの頭上へと飛んでいき、フラフープの形状へと変化する。そのまま真下へと落下して少女を輪っかの中に包むと、内側に縮んで少女を締め上げようとする。


「ああっ! あれは……」


 見覚えのある技を目にして、ゆりかが顔面蒼白になる。他の仲間たちもにわかにざわつく。

 それは現在進行形で彼女たちが縛られている拘束リングと全く同じものだった

 ここに至って、やはりこの技が男の能力にるものだと判明したのだ。


『このリングはオメガ・ストライクの十倍の威力をもってしても破壊できない、宇宙最強の硬度を誇るッ! 一度とらわれたら、メタルノイドどころかテトラ・ボットでも脱出できない究極の技ッ! バエル様と同等のパワーが無ければ、力ずくでは壊せないシロモノだッ!!』


 ベルセデスが技の特性について語る。少女には攻略不可能な技だと確信して胸を張る。


「ぐううっ……!!」


 マリナが輪っかに締め付けられて、苦しそうにもがく。湧き上がる痛みに苦悶の表情を浮かべて、苦しみから逃れようと体を激しく揺り動かす。ひたいからは大量の汗が流れ出て、呼吸は荒くなる。

 少女が技を破れそうにないと見て、ベルセデスが顔をニンマリさせた。


 勝った! 男がそう確信した時……。


「……Слуминоу……Охал」


 激しく暴れていたマリナが唐突に動きを止めて、呪文のような言葉を口走る。聞こえるか聞こえないかぐらいの小声でボソボソとつぶやく。かろうじて聞き取れる範囲では、地球では聞かない言語のようだ。


 次の瞬間、少女の全身が眩い光を放つ。その光が輪っかに吸い込まれていき、輪っかが暗めの茶色へと変色する。


「フンッ!」


 マリナがかつを入れるように一声発しながら両腕に力を込めると、彼女を縛っていた輪っかがブチブチと音を立てて、いともたやすく千切れてしまう。切断されたひものようになったリングは、バラバラと少女の足元に落下して散らばる。


『なっ……何ぃぃぃぃいいいいいいーーーーーーーーっっ!?』


 渾身の技をあっさり破られた事に、ベルセデスがまたも大きな声で叫ぶ。


『こここ、これは一体どういう事だ!? 何が起こった! ありえんッ! こんな事は絶対ありえんのだッ! 宇宙最硬度だぞッ! それがこんな簡単に破られるなんて、絶対あってはならん事だッ!』


 予想がくつがえされた驚きのあまり、全身がわなわなと震えだす。顔からサーッと血の気が引いて、まいと吐き気がして、手足の力が抜けていく感覚すら覚えた。絶対に破られないと確信した技が破られたショックで、正気を失いかけた。


『ええいッ! 蛟神マリナ! あえて問おう! 貴様、この技をどうやって破った!?』


 どうしても納得が行かず、戦闘中である事も忘れる勢いで問い質す。


「……簡単な理屈ですわ。分子配列を組み替えるブレイク・ショットの原理を応用して、光子リングをただの紐に変えてやりましたの」


 マリナが技を破った原理について説明する。

 それは力ずくでは決して破れない技を、力とは別の能力によって突破する、彼女にしか出来ない芸当だった。


(何という事だッ!!)


 彼女の話を聞いて、ベルセデスが思わず頭を抱え込んだ。技を破られた理由についてはに落ちたものの、かつてバエルが彼女に教えた戦闘技術が、今自分に向けられている構図に、深く後悔する念に駆られた。

 彼女をスカウトすべきでなかったと思わずにいられなかった。たとえそれが、スーパーコンピュータが成功率百パーセントと呼んだ作戦だったとしても……。


(まだだ……まだ終わらんぞッ! まだ私は負けてなどいない! 何故なら彼女を殺す手段が残っているからだッ!)


 勝機は十分に残っていると自分に言い聞かせて、必死に落ち着きを取り戻そうとする。


『蛟神マリナ……光輪捕縛を破った事はめてやるッ! だが如何いかに貴様と言えど、この技は防げまいッ!!』


 冷静に立ち返ると、相手に人差し指を向けて挑戦的な台詞セリフを吐く。直後ベルセデスの左胸に開いた直径一センチ程度のレンズ穴が赤く光りだす。


『跡形も無く散れぇぇえええっ! イグニッション・デルタ・ビィィーーーーーーーームッッ!!』


 技名らしき言葉を叫んだ瞬間、左胸のレンズ穴から赤熱する一筋の閃光が少女に向けて放たれた。

 それは太陽光を圧縮した高出力のレーザー砲だった。かつてデルタ・トライヴンが使用した技だ。テトラ・ボットも同じ技を使用した。


「ぐうううっ!」


 マリナが咄嗟に右手のひらを正面にかざしてレーザーを受け止めた。バイド粒子のバリアを張って防いだのか、手のひらが桃色に光っている。


 だが決して余裕だった訳ではなく、表情には焦りの色が浮かぶ。左手で右腕をガシッとつかんで、腰を深く落とし込んだガニまたになって、ギリギリと音を立てて歯を食いしばる。

 右手に全ての力を集中させているのか、「ンンンッ」と声に出して体を踏ん張らせている。


『馬鹿めッ! 宇宙最強硬度の物質を、わずか数秒で融解させる威力だぞッ! 吸収するならまだしも、物理的に防げなどするものかッ! そのままドロドロに溶かされて、一瞬にして蒸発するがいいッ! ハハハハハッ!!』


 ベルセデスが光線を発射し続けたまま、少女の抵抗を無駄な行為と断ずる。自らの勝利を確信した喜びで笑いが止まらなくなる。少女が無惨な死をげた姿を想像して胸がワクワクしだす。


「……」


 さやかが不安そうに状況を見守る。他の仲間たちも重苦しい表情を浮かべたまま、目の前の光景を凝視する。少女が負けるかもしれない恐怖心と、何としても勝って欲しいかすかな希望が入り混じる。

 みなが自分の非力さにもどかしさを感じつつ、祈りを捧げる事しか出来ない。


 誰もその場から動けないまま一分が経過し、エネルギーが尽きたのかレーザーが次第に弱まっていく。



 ……やがてレーザーが完全に消えて無くなった時、少女は変わらずそこに立っていた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 かなり体力を消耗したのか表情に疲労の色が浮かび、呼吸は荒い。ひたいからは滝のように汗が流れて、ボタッボタッと地面にれ落ちる。だが余力は残してあるのか二本の足でしっかりと立てており、ひざをついたりしない。


『なっ……何だとぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーっっ!!』


 ベルセデスが何度目か分からない奇声を発する。


『馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ! そんなそんなそんなハズは無い無い無いのだぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!』


 のどが割れんばかりの大声で叫びながら、両手で頭を激しくむしった。意味不明な言葉を口走りながら、何度も地面に顔を打ち付けた。リングを破られた時以上にパニックにおちいって、完全に頭がおかしくなりかけた。

 それは彼にとって、決してあってはならない事だった。夢ならいっそめて欲しい……そう願わずにいられなかった。


「フゥーーッ……」


 絶望に打ちのめされた相手を眺めながら、マリナが疲れたように溜息を漏らす。渾身の大技を防いだ事に安堵したように一呼吸して落ち着く。


「これまでドーム状に張り巡らせていたバリアを、ビームを受ける一点に集中させて、防御力を増したんですの。もっともこれは、どっちのエネルギーが先に尽きるかの賭けでしたけれど……ワタクシの勝ちでしたわね」


 誰に聞かれるでもなく、技を破った原理について自ら解説する。

 それは彼女にとって一か八かの大勝負だった。ひらめきはしたものの成功する保証の無い賭けに、あえて打って出たのだ。他に生き延びる手段が無いからこそ取れた、捨て身の策だった。


(マリナ……っ!!)


 少女が生きていた事に、さやかが深く感激する。他の仲間たちも喜びに湧く。

 純粋に少女の生存が嬉しかっただけでない。彼女の非常に高い戦闘能力、ずば抜けたセンスに、感情がたかぶらずにいられない。


 少女が負けるかもしれない不安は完全に吹き飛ぶ。

 ヒーローとして生まれ変わってからの初陣を、彼女は間違いなく勝利で飾るだろう……そう確信する気持ちの方が強くなった。

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