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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
183/227

第181話 降臨!その名はエア・グライド(前編)

 さやかとマリナのれつな戦いは、さやかの勝利によって幕を下ろす。激闘の果てに心を通わせた二人だったが、それを邪魔するようにベルセデスが襲いかかる。

 敵の攻撃から咄嗟にマリナをかばったさやかは胸を貫かれて絶命する。


『赤城さやかは死んだ……彼女が生き返る事は決して無い。絶対にだ』


 宿敵を討ち果たしたベルセデスが勝利宣言を行う。全ては彼女を殺すために練られたみつな作戦だった。


「Sa……Sayakaaaaaaaaa!!」


 自分を庇ってくれた少女の死にマリナが深く涙する。ここに至ってようやく彼女はさやかこそが探し求めていた人物だったと気付き、自らの鈍感さを心から嘆く。

 ベルセデスに少女を蘇生させるよう懇願こんがんしたものの、それが彼の怒りに火をけた。執拗な拷問を受けて命を落としかけた時、彼女の願いに黒のアームド・ギアが応える。


装甲少女アームド・ガール……天空より舞い降りし桃色の牙、エア・グライド!」


 力を与えられたマリナは、桃色の装甲をまとう戦士ヒーローへと変身をげるのだった。


『なっ……何ぃぃぃぃいいいいいいーーーーーーーーっっ!?』


 ベルセデスが北海道全土に響かんばかりの大声で叫ぶ。あまりに予想外すぎて開いた口がふさがらなくなる。


『どどどどど、どういう事だ博士ぇっ! おおおオマエ一体いつの間に、私にナイショで五つ目のアームド・ギアを作っていた!? ええっ!』


 声を震わせながら慌ててゼル博士に問い質す。目の前で起こった光景が頭で受け入れられず、にわかにパニックにおちいりかけた。


「私は五つ目のアームド・ギアなど作っていない……私が作ったのは、アミカ君が変身している四つ目で打ち止めだ。ベルセデス……貴様にも分かっているだろう。マリナが今変身に使っているのは、まぎれもなくバロウズが作ったアームド・ギアであると」


 博士が淡々とした口調で事実を伝える。この展開は彼にとっても驚きであり、ひたいからは汗が流れていたが、極力冷静さを保とうと心がけた。


装甲奴隷アームド・スレイブに変身する黒のアームド・ギアは私のを見よう見まねで似せた模造品であり、技術的互換性が無い。にも関わらずアームド・ギアは自力で装甲奴隷から装甲少女へと『進化』を遂げた……これは驚くべき事だ。恐らく出力を以前の十倍に引き上げた事によって可能となったのだろうが、それを差し引いても、マリナの思いにギアが応えた事によって起こした奇跡としか言いようが無い」


 一連の現象について推論を交えつつ解説する。少女の思いが奇跡を起こしたのだろうと結論付けた。


 ギアに搭載された人工知能は、常に装着者の欲求をかなえる事を最優先とし、自己進化を行う。その結果、製作者ですら想定しない挙動をする事がある。それは博士だけでなく、組織が生み出したギアであっても変わらなかったというのだ。


「……」


 博士の話を聞いて、ミサキが無言のまま思いを巡らせる。かつて自分が使っていたギアがもたらした奇跡に、不思議な感情が湧く。自分の時に助けてくれなかったもどかしさと、昔の相方が少女を救った誇らしさが入り混じって、複雑な気持ちになる。

 だがそれでも、組織に生み出されたギアが純粋に装着者のために動いた事に、感動せずにいられなかった。


「フゥーーッ……」


 皆の反応をよそに、変身を終えたマリナが軽く深呼吸する。少し戸惑い気味になりながら、自分の体をじっくりと見渡す。願った事とはいえ、装甲少女になれた驚きは隠せない。

 だがすぐ冷静になると、突然何処かに向かって走り出す。その視線の先にはさやかが倒れていた。


『何をする気だ!? その女はとっくに死んだはずだが……』


 彼女が何をしようとしているか全く予測が付かず、ベルセデスが困惑する。


 マリナは倒れた少女の前まで来ると、その場にしゃがみ込んで、右手を上向きに開く。直後まるでパワーを溜めようとするように手のひらに光が集まる。光はだんだんふくれ上がっていき、やがてソフトボールくらいの大きさになる。


「ミス・サヤカ……ワタクシの力を分けて差し上げますわ。どうか、これで生き返って下さいませッ!!」


 そう叫ぶや否や、右手にしっかりとつかんだ光球を、さやかの胸に力任せにグイッと押し込んだ。光球は少女の体に吸い込まれるようにズブズブと沈んでいく。

 次の瞬間少女の全身がまばゆい光を放ち、心臓が動く音がドクンドクンと鳴る。手の指先が一瞬ピクリと動く。


「ううっ……ゲホゲホッ!」


 さやかが苦しそうにき込んで息を吹き返す。胸の傷はふさがり、出血は止まっている。


『ななななな、何だとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーっっ!?』


 ベルセデスが音が割れんばかりの大声で叫ぶ。決して起こらないはずの奇跡を目の当たりにして、まいがして気が遠くなりかけた。


『ばばば馬鹿なッ! 一体ななな何が起こった!? こんな事、絶対ありえない! 起こる訳が無い! 彼女は間違いなく死んだ! 死んだんだッ! まさかエア・グライドには死者を生き返らせる力でもあるというのか!? そんな馬鹿な! そんな事、断じてある訳が無いッ! ある訳が無いのだッ! うわぁぁぁぁああああああッッ!!』


 わなわなと声を震わせて早口でわめきながら、頭を抱え込んでうずくまった。あまりのショックに現実逃避したくなり、これは夢に違いないとか、何かの間違いだとか、小声でブツブツとつぶやく。


 それは彼にとって、決してあってはならない事だった。

 赤城さやかという一人の少女を殺すために、たったそれだけのために努力を積み重ねた。緻密な計画を練って、何度も念入りにシミュレーションして、万全の状態で戦いにのぞんだ。


 確かに作戦は成功した。さやかは心臓を貫かれて絶命し、自力では起き上がらなかった。それで全ては終わった。そのはずだった。

 だが息絶えたはずの少女は今、目の前で息を吹き返した。それはこれまでの彼の努力を帳消しにする行為に等しかった。男にとって到底受け入れられるものではなく、天地がひっくり返って目の前が真っ暗になった気がした。


 困惑するベルセデスとは真逆に、博士はあごに手をえて考え込むような仕草をしながら、冷静に状況を観察する。


「私の見立てが正しければ、マリナ君のいやしの力はエア・ナイトと大差が無い。蘇生が成功したのは、受け手がさやか君である点が大きい。ようするにさやか君はスタミナ切れにより自力で復活できなくなっても、他力であれば復活できた……という事になる。そんな馬鹿なと思うだろう。私もにわかには信じられんよ。だが我々が目にした光景は、そうとしか考えられんのだ」


 さやかが生き返った原理について解説する。マリナに死者を生き返らせる能力があった訳ではなく、さやかのタフさによってたのだと考えた。


 だがそんな博士の言葉も耳に入らないほど、ベルセデスは混乱している。彼は完全に正気を失いかけていた。


「Sayakaaaaaaa!!」


 さやかが息を吹き返すと、マリナがすぐさま彼女に抱き着く。大切に思うひとが生き返った喜びで胸がいっぱいになり、今にも泣きそうになる。


「Oh Sakaya……I’m really sorry……sorry……」


 何度も謝る言葉を口にしながら、少女の胸に顔をうずめたまま、ヒクッヒクッと小声で泣きじゃくる。母親に甘える幼い子供のようになる。


 さやかは一瞬わけが分からず抱かれたままポカンと口を開けたものの、すぐに状況を理解する。装甲が桃色に変化したマリナが新たな力を得た事、彼女の手によって自分が生き返った事などを察した。


「よしよし……マリナちゃんが生き返らせてくれたんだね。ありがとう……本当にありがとう」


 そう言って心から感謝しながら、マリナを両手で包み込むように抱き締めた。子を愛する母のように穏やかな眼差しを向けながら、少女の頭をゆっくりと優しく撫でる。少しでも彼女の責任を感じる気持ちが和らぐようにと思いやる。


(Sayaka……thanks)


 少女の腕に抱かれて、マリナは幸せだった。

 大切な友を失った事に一度は落胆したものの、新たな力によって取り戻せた。

 家族のように大切な仲間と一つになれた今、他に欲しいものなど何も無いという気にすらなった。


『……クソが』


 ベルセデスが唐突に言い放つ。抱き合う二人の少女を前にして、腹立たしげに舌打ちする。想定外の事態になかば頭がおかしくなりかけた彼だったが、怒りの感情で思考が上書きされたようだ。


『……もう作戦などどうでも良い。確かにさやかが生き返った事も、マリナが装甲少女になった事も、何もかも驚きだ。だがそれがどうした? 二人とも今この場で殺してしまえばよい。簡単な話ではないか。いくら生き返ったと言っても、さやかに戦う力など残っていない。マリナ一人で私を殺せるはずなど無いのだからな……』


 少女を抹殺する方針に変更が無い事を告げる。今の彼女たちに自分を倒す力などありはしないのだと冷静に思い直した。揺るぎない勝利を確信した事で、落ち着きを取り戻したように見えた。


「……」


 ベルセデスの言葉を聞いて、マリナがゆっくりと顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃに濡れて真っ赤になったものの、表情は真剣そのものだ。さやかに抱かれたまま後ろを振り返り、怒りに満ちた瞳で敵をキッと睨む。何としても友を殺させまいとする覚悟が表情に浮かぶ。


「ミス・サヤカ……貴方はここで見ていて下さいませ。あんな悪党、私一人で十分ですの」


 マリナはそう言って右腕で顔をぬぐうと、少女から離れて、二本の足で力強く立ち上がる。


「ヒーローとして生まれ変わった私の初陣……とくとご覧遊ばせッ!!」


 決意に満ちた言葉と共に、拳を強く握って構えた。


『フンッ……何を言い出すかと思えば』


 ベルセデスが小馬鹿にするように鼻で笑う。


『貴様一人で十分だと? 小娘が……私の力を見くびるなッ! このベルセデスがバロウズの元帥マーシャルである事、忘れたとは言わせんぞッ! 装甲少女が四人がかりで挑もうと、私を倒す事など出来ん! それを貴様一人でどうこう出来るものかッ! 思い上がるな、この虫ケラ以下の大バカタレがぁぁぁああああッッ!!』


 自分と少女との間に圧倒的な戦力差があるのだと、早口でわめき立てた。何としても相手の鼻を明かしたい思いに駆られて、興奮気味に体をウズウズさせる。少女の顔が絶望に染まっていく様を想像して胸を高鳴らせる。


 願望を現実のものとするべく、相手に向かってドスドスと音を立てて走り出す。


『四つんいになってブザマに命乞いしろッ!! 小生意気なメスガキがァッ!!』


 大声で叫びながら右腕のこうからリストブレイドを飛び出させて、相手を串刺しにしようとした。


「フンッ!」


 マリナが一喝するように声を発すると、自分に迫ってくる刃めがけて右足を高く蹴り上げた。足のつま先が正確に刃を狙い打って、ガキィィーーーンッと鋭い金属音が鳴る。直後リストブレイドが真っ二つに折れて、刃先がクルクルと回転しながら何処かへと飛んでいく。


『何ィッ!?』


 武器を折られた事にベルセデスが驚愕する。予想外の展開に冷静に対処できず、思わずその場で棒立ちになる。


「ヤァァァアアアアッ!」


 この機を逃すまいと、マリナがすかさず垂直ジャンプする。相手の頭を越える高さまで飛び上がると、気迫の篭った雄叫びを上げながら、右足によるかかと落としを繰り出す。

 少女の全体重を乗せた踵がロボットの頭に命中して、ドガァッと鉄球が激突したような音が鳴る。


『グォォォォオオオオオオッッ!!』


 ベルセデスが化け物のような悲鳴を発しながら、前のめりに倒れる。鋼鉄の巨体が大地に激突して、ドォォーーンッという音と共に大量の砂ぼこりが舞う。男は落下の衝撃により地面に頭から突っ込んで、豪快に埋まってしまう。


 必死に頭を引き抜こうとジタバタもがく相手を眺めながら、マリナが口を開く。


「貴方こそ見誤らないで下さいませ……ワタクシ、こう見えてとても強いんですのよ。サヤカ以外の相手になんて負けませんわ」


 余裕ありげに敵を見下しながら、前髪を右手でかき分けてわきを強調するポーズを取る。馬鹿にし返すようにフフンと鼻息を吹かせた。


「ベルセデス……お覚悟はよろしくてッ!!」

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