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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
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第168話 雷(いかずち)は三たび鳴る。(中編-2)

 二度目の復活を果たしたブリッツ……他の三人を罠によって無力化し、さやかに一対一の勝負を挑む。積年のうらみを晴らさんと意気込む彼を迎え撃とうとするさやかだったが、ミサイルに仕込まれていた毒ガスを吸ってしまい、身体機能が低下する。敵の策にまんまとはまり、一方的に痛め付けられる。


 ブリッツが意気揚々ととどめを刺しかけた時、少女が颯爽さっそうと立ち上がる。思わぬ反撃にい、男が動揺する。

 少女はその身に受けた毒を自力で克服していた。それは執念が起こした奇跡だったとでもいうのか。


『フッフッ……フフフッ……フハハハハハハァッ!!』


 形勢逆転したかに見えたが、ブリッツが突然大声で笑い出す。


『……馬鹿めッ! 毒を克服した程度で、もう勝ったつもりでいやがるッ! 俺がたったそれだけの備えで、わざわざここまでやってきたと、本気で思っているのかッ!? 赤城さやか! 残念ながら、これで終わりではないのだよッ!!』


 まだ自分には手札が残っている事を、得意げに明かすのだった。

 自信に満ちた口調からは、根拠のある勝算を抱いただろう事がうかがい知れる。もしハッタリだとしたら、一流の役者だ。


『思い知るがいい……ここから先が、本当のゲームオーバーだッ!!』


 ブリッツはそう口にすると、背中のバックパックに収納してあった操縦桿のグリップのような装置を取り出す。それの上部分に付いたボタンを指で押す。

 押しただけでは何も起こらず、それが何の装置なのかは分からない。


「……ッ!!」


 男の言葉にさやかが一瞬たじろぐ。自身の不注意によりミサイルの毒にやられた後悔から、慎重にならざるを得ない。敵が何を企んでいるか分からない以上かつに飛び込めない気持ちがあり、無意識のうちにジリジリと後ずさる。


 少女の足が三歩後ろに下がった時、何かを踏んだような音がカチッと鳴る。

 不審に感じた彼女が足元に目をやると、半透明のクモのような小型のロボットが、頭部をカチカチと赤く光らせて点滅していた。


「なっ……!?」


 危険を察知した少女は慌ててその場から離れようとしたものの、すでに手遅れだった。次の瞬間クモ型ロボットがまばゆい光を放ちながら自爆して、少女は避けるひまもなく爆炎に呑まれてしまう。


「ぐぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」


 断末魔と思えるほどの叫び声が荒野にこだまする。爆風の衝撃によって吹き飛ばされた少女の体は大地に激突すると、そのままゴロゴロと横向きに転がっていき、やがて停止する。


「ぐぅぅううっ……一体何が……」


 全身を駆け回る痛みにうめき声を漏らしながら、さやかが気力を振り絞って起き上がろうとする。爆風で負った傷は致命傷には達していないものの、体のあちこちに大きなヤケドのあとがあり、深手を負った事は間違いなかった。

 傷口からビリビリと伝わる痛みは、少しでも気を抜いたら悲鳴を上げてのたうち回るほど強烈であり、それをこらえるのに必死だった。


『フフフッ……この一帯には無数の地雷が仕掛けてあるのだよ。貴様との戦いに備えてな……さっき押したのは、それを作動させるスイッチだ』


 負傷した相手を眺めながら、ブリッツが切り札の正体を明かす。少女が踏んで爆発したロボットは、クモ型の地雷という事だった。


『地雷は光学迷彩で姿を消している……視覚でとらえる事は不可能ッ! 起爆スイッチが入った瞬間から偽装を解除し、姿が見えるようになる。スイッチが入ってから爆発するまで猶予はたった三秒……その間に爆風が届かない安全圏まで逃れる事は、何人なんびとたりとも出来やしないのだッ!!』


 地雷が目では決して追えない事、一度起爆したら確実に爆風の餌食になる事を雄弁に語ってみせた。


「ふん……なによっ! だったらここから動かなければ良いだけでしょ! 簡単な話じゃないのっ!」


 さやかは慌てて立ち上がると、腰に手を当てて得意げなドヤ顔になりながら叫ぶ。してやったりと言わんばかりに鼻息を荒くする。

 自分から進まなければ地雷を踏む事など無くなる、近接戦闘は出来なくなるが、背に腹は変えられない……彼女なりにそう判断した。


 その言葉通り一歩も動かずにいた彼女だったが、再び足元でカチッと音が鳴る。まさかと思いながら視線を向けると、またしてもクモ型ロボットが赤く点滅していた。


「なん……うわぁぁぁぁぁあああああああっっ!!」


 少女は驚くひますら与えられず自爆に巻き込まれる。またも全身に大ヤケドを負いながら吹き飛ばされて、地面に倒れてしまう。


『フフフフフッ……フハハハハハハァッ! 驚いたか!? 馬鹿めぇっ! わざわざ用意した切り札が、そんな安直な方法で攻略など出来るものかッ!!』


 深手を負った少女を、ブリッツが大声であざ笑う。最初からこうなる事が想定済みだったとばかりに大はしゃぎする。


『その地雷は一度作動すれば、わざわざ踏まれるのを待たずとも、あらかじめ設定された目標に向かって自動で接近するタイプ! そして目標に接触すれば、その時点で起爆スイッチが入るッ! たとえ相手が空を飛ぼうとも、高くジャンプして目標を追尾するッ! これぞ自走式ステルス地雷……その名も『死の蜘蛛(フェイト・スピナー)』だっ!』


 待ちの戦法が通用しない事を、兵器の名と共に明かす。クモのような形をしていたのも、自ら目標に近付くためであろう事は想像にかたくない。


 ブリッツは地雷と呼んだものの、その性質は特攻自爆型のドローンに近かった。これもソーサー同様に、メタルノイド減少による戦力低下をおぎなうために発明されたように思える。


 バエルは自分以外のメタルノイドが全滅しても、無人機による世界侵略を行えるよう画策していたのではないか? ……ゆりかは戦いを眺めながら、そんな事を考えていた。


『地雷を回避する手段は無いッ! 貴様はなすすべなく自爆に巻き込まれて、ここで死ぬ運命だったのだッ!』


 揺るぎない勝利への確信を抱いた男が、少女に逃れられない死という現実を突き付ける。もはや彼にとって自分が負ける可能性など一パーセントもありはしない。


「まだ……だっ!」


 それでもさやかは勝利への執念を捨てていない。痛みをせ我慢して立ち上がると、両足に気合を入れて踏ん張る。


「待ってもダメなら……進むしかないッ!」


 そう口にすると、敵に向かって一目散に駆け出す。当然進む先には大量の地雷が配置されており、それは彼女も想定済みだ。いっその事そのまま走り抜けて、三秒の間に爆発の圏外に逃れてしまおうと考えた。

 その場にとどまっていればすぐに自爆されかねない、一刻の猶予も無い状況下において、他に考えが浮かばなかったのだ。


 だがたった三秒で安全圏まで逃れられるはずもなく、少女はあっさり爆発に巻き込まれてしまう。


「うわぁぁぁあああああっ!」


 爆風の威力によって吹き飛ばされた少女が悲鳴を上げる。その勢いに任せて正面に転がっていき、ブリッツの足元へ来た所で止まってしまう。


「ま……だ……っ」


 それでもさやかは全身ヤケドまみれになってなおも立ち上がろうとする。体中の皮膚が使い古した雑巾ぞうきんのようにボロボロになっており、見るからに痛ましい。本来なら即気を失ってもおかしくない、とても正気を保っていられないほど激痛に見舞われたはずだった。今こうして気を失わずにいられるのは、ひとえに彼女の気迫の賜物たまものだった。


 少女は一歩も動けずにいたが、それでも決してものじしない。えた狼のように低くうなり声を発しながら、威嚇するように敵を睨み付ける。たとえ体は折れようとも、心は折れまいと強烈にアピールするように……。


『なんだその目はぁぁぁぁああああああっっ!!』


 それがしゃくさわったのか、ブリッツが語気を荒げながら、少女の腹を足のつま先で蹴飛ばす。


「うぶわぁっ!」


 腹を思いっきり強く蹴られて、少女が奇声を発しながら吹き飛ばされる。地面をゴロゴロ転がって体中泥まみれになりながら、蹴られた腹を両手で押さえたまま苦しそうにゲホゲホッとき込む。自力で立ち上がる力を完全に失い、横向きに倒れたままダンゴムシのように背中を丸める事しか出来ない。


『今度こそ、本当に終わったな』


 もはや虫の息となった少女の元に、ブリッツが悠然と歩いていく。自らとどめを刺そうと息巻く。

 メタルノイドに踏まれても反応しないのか、地雷が爆発する気配は無い。


 敵が目の前に立っても、さやかは起き上がろうとしない。手足の指先をかすかに動かしはするものの、力が及ばないのか体を起こすには至らない。彼女の生き死には男の判断にゆだねられる形となった。

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