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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
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第166話 雷(いかずち)は三たび鳴る。(前編)

 丸いノコギリ状の円盤『ソーサー』の群れと対峙するさやか達……メタルノイド並みの実力を持つ強敵に苦戦を強いられる。アミカが捨て身のファイナルモードによって敵を排除したものの、ソーサーをここまで輸送したコンテナが逃亡をはかる。


 ミサキがコンテナを両断すると、そこから飛び出した発光体がフラフープのような形状となり、さやか以外の三人を締め付けて無力化する。

 少女が悲嘆に暮れていると、それを見計らったようにブリッツが歩き出す。


『全てあのお方の作戦通り……ソーサーで連中を疲れさせる事……コンテナに仕掛けたトラップで三人を無力化する事……戦いによって体力を消耗した赤城さやかと俺を戦わせる事……全てだッ!!』


 今までの流れが、上司の思惑通りに運んだ事を明かすのだった。


『さぁ数えようか……死へのカウントダウンッ!!』


 そう口にする男の瞳がギラリと怪しげに光る。積年のうらみを果たせる喜びで、全身の血がにわかに沸き立つ。テンションが最高潮に達したあまり、鼻歌をうたいながら踊りたい気分になる。


 二度も敗れて命すら奪われた男にとって、少女はまさに仇だった。

 彼女を殺す事だけを……それだけを楽しみに、今日まで生きてきた。

 彼女が無残な死をげるイメージを頭の中に思い描いただけで、胸が踊った。

 それを現実のものとするためなら、どんな命令でも聞くつもりだった。


 今ついに宿願を果たす機会が訪れた事に、男は言葉で言い表せないほどの感動に打ち震えていた。


「……許せない」


 喜ぶブリッツとは対照的に、さやかがそう小声でつぶやく。


「アンタがどれだけ復讐にこだわってるかなんて、知ったこっちゃない。そんなに一対一の勝負がしたきゃ、好きなだけ相手してあげてもいい。でもそのために私の仲間を巻きえにした事だけは、絶対に許せないッ!!」


 敵の卑劣な行いに対するいきどおりを声に出してぶちまけた。

 家族のように大切に思う仲間を傷付けられた少女の怒りは凄まじく、荒ぶる感情で全身の血が炎のように煮えたぎり、爆発寸前にまでなる。


「アンタは私がブチのめすッ! 二度と……いや三度と復活できないよう、バラバラに打ち砕いて、永遠の地獄に叩き落としてやるッ! 再び私の前に姿を現した事を、一生後悔させてやるわッ!!」


 気迫に満ちた言葉と共に敵の方へと振り返った。その口調には一切の迷いが無い。何としても因縁の敵を消し去るのだという決意に溢れている。


「ブリッツ……勝負ッ!!」


 拳を強く握ると、さやかはすぐさま敵に向かって駆け出す。


『フハハハハァッ! 第一ラウンド開始と行こうかッ!!』


 ブリッツも数秒遅れて、少女を迎え撃つように走り出す。ほど再戦できた事が嬉しいのか、楽しそうに笑う。


『赤城さやかッ! ついでに言っておく! 今回生き返ったのは、俺一人ではないぞッ! もう一人だけいるッ! 貴様との再戦を楽しみに待ちびているヤツがな! だがそいつが誰かは教えてやらん! 貴様は俺と戦って、ここで死んでくたばって、あの世へ行くのだぁっ!!』


 走り続けたまま、思わせぶりな台詞セリフを吐く。


(何……っ!?)


 相手の言葉に少女が一瞬激しく心を揺さぶられた。復活した人物が誰なのか問いたい気持ちが湧き上がり、かすかに足が鈍る。

 だが本人が教えないと言っている以上、聞いても答えるはずが無いと冷静に思い直して、再び走り出す。


 そもそも男の言葉が真実かどうかも分からないのだ。敵を動揺させようと口から出まかせ言っただけかもしれない。信用にる根拠など何も無かった。


『死ねぇぇぇぇぇぇええええええええっっ!!』


 ブリッツが大声で叫びながら、全力で殴りかかろうとする。クレーンに吊り下げられた鉄球のごとき剛拳が、少女めがけて突き進む。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 さやかが負けじと勇ましくえながら、右拳による渾身のパンチを繰り出す。

 互いの拳が激突すると、ドォォーーーーンッ! と大地を揺るがすほどの爆発音が鳴り、そこから発せられた衝撃波によって両者が共に後方へと弾き飛ばされる。


『ヌゥゥウウウッ! なかなかやりよるッ! 復活した俺は以前の数倍強くなったが……赤城さやかッ! 貴様はその俺と互角に渡り合えるほど強くなったというのかッ!!』


 ブリッツは咄嗟に両足に体重を乗せてその場に踏みとどまりつつ、相手の強さに舌を巻く。

 前回より格段に能力強化された彼は、少女の力が当時のままなら確実に勝てる計算があった。だが想定を遥かに越えて少女が強くなっていた事に、素直に驚いた。


(……ならば)


 近接戦闘ではが悪いと判断したのか、数メートル後ろへと下がって大きく距離を開く。


『これでも喰らうがいいッ!』


 そう叫ぶや否や右肩の装甲が展開して、そこに収納されていたミサイル・ポッドから、四発の小型ミサイルが少女に向けて一斉に放たれる。ブリッツお得意の戦術だ。

 ミサイルは前回のようなドリル形状になっておらず、着弾すれば爆発する標準タイプに見える。


「今更そんなモノ、効きはしないッ!」


 さやかがそう口にしながら腰を深く落とし込んだガニまたになると、左肩に一丁のビームキャノンが出現する。


「おららららららぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 気迫の篭った掛け声と共に、砲台から赤く光るビームがフルオートで連射される。ビームは四発のミサイル全てに命中し、ミサイルは少女に触れる前に空中で爆発する。


 だが爆散したミサイルから大量の粉塵ふんじんのようなものがかれて、少女は一瞬にして砂煙に巻かれる。


「ゴホゴホッ!」


 謎の粒子を吸い込んで、さやかが慌ててき込む。ミサイルに仕込まれていたものが敵の策略ではないかと気付き、すぐに息を止めて、両腕をぶんぶん振って砂煙を吹き飛ばしたものの、既にある程度吸ってしまっていた。

 彼女は内心「しまった」と、ミサイルを軽はずみに迎撃した事を悔いた。


 少女が周囲を見回すと、ブリッツは彼女の真後ろに立っていた。手を伸ばせば触れるほど近い距離に……。


「おらぁっ!」


 さやかはすぐに後ろへと振り返り、間髪入れずに殴り付ける。渾身の力を込めた拳が分厚い装甲に叩き付けられて、鈍い金属音が鳴る。少女はその瞬間、敵が吹っ飛ばされる事を疑いもしなかった。だが……。


『フフフッ……』


 ブリッツがニヤリと不気味に口元をゆがませる。最初からこうなる事が分かっていたと言わんばかりに不敵に笑う。

 男は一ミリも後ろに下がりすらせず、平然と立っている。先ほどと同じ力で殴られたにも関わらず、微動だにしない。


「そ、そんなっ!」


 さやかは何が起こったのか全く理解できず、声に出して慌てふためく。敵が強くなった訳でも、自分が弱くなった訳でもないのに、何故いきなり攻撃が効かなくなったのか? 頭の中に湧き上がった疑問に、彼女は納得行く答えを導き出せなかった。


 だがあれこれ考えているひまは無い。敵が目と鼻の先にいる以上、棒立ちになっていれば反撃される事は目に見えていた。


「うららららららぁぁぁぁああああああっっ!!」


 野獣のごとき雄叫びを発しながら、両手を駆使した拳のラッシュを放つ。ガトリングの弾のように高速で繰り出されたパンチが敵の装甲に触れるたびに、ドガガガガッと激しい衝突音が鳴る。削岩機でコンクリートの大地を削ろうとするような振動が、辺り一帯に響き渡る。それが時間にして一分半ほど繰り返された。


「はあ……はあ……はあ……」


 少女が体力を使い果たして疲労困憊する。呼吸が荒くなり、長距離マラソンを終えたように全身グッタリさせる。目がうつろになり、ひざを曲げて姿勢が低くなる。手足がガクガク震えて、立っているのすらおぼつかない。


 殴られた当のブリッツは、全くの無傷だった。何十発、何百発もの拳を叩き付けられたはずの装甲は、少しもへこんでおらず、かすり傷すら付いていない。修繕を終えた直後のようにテカテカ光っている。


「……」


 もはや少女は言葉も出なかった。たとえ致命傷にならずとも、傷の一つぐらい付いてもおかしくないのだ。少なくとも先ほどぶつかり合った時は、二人とも弾き飛ばされたのだから。

 にも関わらず、今の相手には手傷を負わせられない。どういう事なのか思考が全く追い付かず、彼女はパニックにおちいりかけた。


『クククッ……残念だったなぁ』


 ショックのあまり茫然ぼうぜんと立ち尽くしたさやかを眺めながら、ブリッツがニタァッといやらしそうに笑う。策略が上手くいった嬉しさで興奮して鼻息が荒くなる。


『……フンッ!』


 かつを入れるように一声発しながら、ここぞとばかりに全力の裏拳で少女を殴り飛ばす。


「うぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーーっっ!!」


 ゴミのようにあっけなく吹き飛ばされた少女が悲痛な声で叫ぶ。強い衝撃で大地に激突して数メートル引きずられた挙句、地面に体が半分めり込む。彼女が引きずられた大地は巨大な竜の爪でえぐったようなあとになっていた。


「さやかぁぁああああーーーーーーっ!」


 輪っかに縛られたまま動けずにいたゆりかが、負傷した友の身を案じる。

 他の二人は仲間を助けに向かおうと必死に体を動かすものの、輪っかはビクともしない。イモムシのように地べたをいながら観戦する事しか出来ない。


 仲間の危機に、自分は何も出来ないのか……ミサキは無力さに打ちひしがれて、悔しさのあまり涙が溢れ出た。


「ううっ……」


 さやかがだらしなく大の字に寝転がったまま、辛そうにうめく。体中の骨が砕けたような感覚があり、痛みで意識を失いかけた。手足の指先を動かして起き上がろうとしても、体が全く言う事を聞かない。


 それでもこのまま倒れていればとどめを刺される危機感から、気力を振り絞って立ち上がろうとしていると、ブリッツが彼女の方へと歩いてくる。

 やがて倒れた少女の前に立つと、勝ち誇ったように見下ろしながら口を開く。


『ついさっきまで互角だったのに、何故急に攻撃が効かなくなったか……知りたくはないか? フッフッフッ』


 そう言っていやらしそうにニヤつく。早く種明かししたくてウズウズしているようだ。


『教えてやろう……貴様がミサイルを撃ち落とした時にかれた粉のようなもの……あれはちり状の猛毒ガス兵器ッ! 常人なら、吸えば数秒と持たず死に至るシロモノッ! むろんナノマシンで肉体強化された貴様らには致死量にならんが……それでも体を弱らせる程度の効力はあるッ!』


 少女が懸念した通り、ミサイルに罠が仕込まれていた事を教える。


『貴様はそれを吸い込んだために、身体機能が数分の一に低下した……分かるかッ!? もはや俺と互角に戦える能力は、貴様には無いのだよッ!!』


 少女が急に弱体化した理由を明かすのだった。えて包み隠さずに教える辺りからは、知られても対策の取られようが無いという自信が表れていた。


「……ッ!!」


 衝撃の事実を告げられて、さやかが思わず絶句する。

 敵は最初から彼女がガスを吸って弱体化するのを狙っていたのだ。

 そもそも二度も自分を殺した相手に、何の対策も立てずに真正面から力勝負など挑むはずが無かった。にも関わらず、敵のたくらみを見抜けなかった浅はかさを少女は深く悔いた。


『赤城さやかッ! すでに勝敗は決した! もはや貴様には、一パーセントの勝機も無いッ! ここで死に、ブザマに朽ち果てるのだぁっ!!』


 ブリッツがそう口にしながら両手のひらを少女に向けると、手のひらからガスバーナーの発射口のようなものが飛び出す。


『六千度の火炎放射に焼かれて消しずみになるがいいッ! 喰らえッ! イグニッション・ファイヤァァアアアアーーーーーーーーッッ!!』


 技名らしき言葉を大声で叫ぶと、発射口から巨大な炎の嵐が吹き荒れる。ドラゴンのブレスのごとき業火に呑まれて、少女が一瞬にして火だるまになる。


「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーっっ!!」


 全身炎に包まれて、さやかが悲鳴を上げてもがき苦しむ。断末魔の叫びとすら思えるほど痛ましい絶叫が、辺り一帯にこだまする。

 少女は咄嗟に地面に倒れると、横向きにローラーのように転がる。地面の砂で火を消そうとして取った、無意識下での行動だった。その判断が功をそうしたのか、少女を包んでいた炎がやがて鎮火する。


「……うぐぅ」


 さやかが地べたに倒れたまま、今にも消え入りそうにか細い声でもだえる。火は消えたものの、体のあちこちに黒い焦げ跡が付いており、そこからブスブスと白煙を立ちのぼらせた。殺虫剤をかれて死にかけた虫のように手足をピクピクさせる。


 何処かから飛んできたテントウムシが尻にまっても、それを振り払う気力すら残っていない。全身を強打した上に六千度の炎で焼かれて、もはや少女は虫の息だった。


『俺たちの長きに渡る因縁に終止符を打とう……むろん俺の逆転大勝利という、ウルトラハッピーなエンドでな。はっははは』


 自らの勝利を確信したブリッツが、地べたに倒れた少女へと、余韻を味わうように一歩ずつ迫ってゆく。このまま彼女が起き上がれなければ、とどめを刺される事は目に見えていた。

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