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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
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第165話 死へのカウントダウン

 新兵器『ヒューマン・デストロイヤー』の性能テストのために、拉致らちしてきた村人を惨殺しようとするブリッツ……そこに変身済みのさやか達が駆け付けて、悲劇を未然に防ぐ。

 博士は村人全員を車に乗せて急いで戦場から離れて、四人の少女は悪魔のような男と対峙する。


 ブリッツは新兵器を使って人類を抹殺しようとする計画の全容を明かすと、手始めに彼女たちを餌食えじきにしようともくろむ。


『世界が地獄となる光景を見る前に、ここでバラバラになって、くたばって死ぬがいい! 者ども、かかれぇぇぇぇええええええーーーーーーーーいッ!!』


 自律型兵器ソーサーに、一行の処刑を命じるのだった。

 男の命を受けて、二十枚の空飛ぶ丸いノコギリ状の刃が、少女めがけて一斉に突き進む。ギュィィーーーーンとモーター音を鳴らして高速回転し、相手の肉を切り裂こうとする。


「でぇぇぇやぁぁぁあああああああーーーーーーっっ!!」


 ソーサーが動いたのとほぼ同じタイミングで、さやかが前方へと駆け出していた。

 勇ましい雄叫びを発しながらジャンプすると、眼前に迫っていたソーサーの一体に渾身の回し蹴りを叩き込んだ。

 直後お寺のかねを叩いたような鈍い金属音が鳴り、蹴られたノコギリ刃が地面に落下して、ガランガランと音を立てて何度も跳ねる。


「みんな、今よっ!」


 さやかがそう叫びながら正面に向かって走り出す。敵を排除して開けた空間を通り抜けて、包囲を突破しようとする。

 指示に従い、他の三人も彼女の後に続く。


 だが四人がかこいを抜けた瞬間、地面に倒れていたソーサーが突然動き出して、さやかに真横から襲いかかろうとする。


「しまっ……!」


 完全に相手を仕留めたとばかり思っていた少女は、予想外の方向からの襲撃に驚いて、反応が一瞬遅れた。


「さやかさん、危ないっ!」


 アミカが咄嗟に仲間をかばうように立ちはだかる。


「チェンジ……パワーモードッ! せいやぁぁぁぁああああああっっ!!」


 右腕のボタンを押して攻撃力重視タイプに切り替わると、残り数センチの距離まで来ていたソーサーを、全力のパンチで殴り飛ばした。

 円盤は再び弾き飛ばされて、強い衝撃で地面に叩き付けられたものの、すぐに起き上がって回転しだす。攻撃が効いた様子は全く無い。


「あれだけ強烈な打撃を二発も受けたのに、まるで効いていない……なんて頑丈さなんだッ!」


 ミサキが思わず声に出して驚嘆する。想定を遥かに上回る敵の打たれ強さに、油断ならない相手だと警戒する気持ちに駆られた。並みの量産ロボなら戦闘不能になる威力の一撃を受けたにも関わらず平然としている姿に、当初ザコキャラだと見込んでいた認識の甘さを痛感せずにいられなかった。


『クククッ……そいつらはメタルノイドの装甲と同じ材質で出来ているッ! いくら貴様らの力でも、ただのパンチを一発や二発当てた程度で、簡単に破壊できると思うなッ! それこそオメガ・ストライク級の威力でも無い限りはなッ!!』


 ブリッツが新兵器の強度について誇らしげに語る。自慢するようにふんぞり返って鼻息を吹かせながら、必殺技ならば破壊可能である事を教える。何らかの考えがあってわざとそうしたのか、ただのハッタリかは分からない。


 そうしている間にソーサーのうち一体が、正面からミサキに襲いかかろうとする。


「くっ……こんな電動草刈機みたいなやからに、私の首は取らせんッ!」


 ミサキは腹立たしげに吐き捨てると、一本の刀を両手で握って、敵に向かって一直線に駆け出す。


「我が刀のさびにしてくれるッ!」


 そう口にしながら、円盤を真っ二つに斬り裂こうとする。

 だが少女の振った刀が触れようとした瞬間、円盤がサッと横に動いてかわす。回避機動の俊敏さは目を見張るものがあり、刀による斬撃は空振ってしまう。


「なにッ!?」


 またも予想を上回る相手の動きに、ミサキが深く困惑する。攻撃を空振りして大きなすきを見せたものの、精神的に動揺したために立ち直りが遅れた。

 ソーサーはそれを見計らったように背後に回り込み、縦向きになると、彼女の背中に体当たりする。


「ぐぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」


 少女の痛ましい悲鳴が辺り一帯にこだまする。ナノマシンではがねのように鍛えられた彼女の肉体は、即両断される事は無かったものの、それでも肉がえぐられるような音が鳴り、大量の血飛沫しぶきが舞う。

 ミサキは背中を削られたまま何の抵抗も出来ず、ソーサーは彼女を削り殺そうとする。


「このぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーっっ!!」


 ゆりかが仲間を助けようと一目散に駆け出す。ミサキの背中に取り付いた円盤を槍で貫こうとする。

 円盤は即座に攻撃を中断して少女から離れて、間合いを計るように数メートル後ろに下がった。


「ううっ……」


 ミサキが仰向けに倒れしたまま、辛そうにうめき声を漏らす。ほどの激痛に自力で立ち上がれなくなったのか、目をつぶって呼吸を荒くしたまま全身をグッタリさせている。

 背中の肉はかなり深くまでえぐられていて、見るからに痛々しい。傷口から流れた血が大きな血だまりになっていた。


「ミサキ……」


 かよわき乙女が深く傷付いた姿に、ゆりかは胸がいたんだ。何としても仲間を助けたい使命感が彼女の体を突き動かす。

 すぐさま倒れた仲間の元へと駆け寄り、青い光を注いで傷をいやそうとする。


「ギギギィィィィイイイイイイーーーーーーーーッッ!!」


 そうはさせじとばかりに先ほどミサキを切り裂いたソーサーが、加速を付けるように空高く舞い上がり、急降下して二人に襲いかかろうとした。


「させないっ!」


 ゆりかは右手から青い光を照射して仲間の治療を続けたまま、左手のひらを高く掲げて、半透明のバリアをドーム状に張り巡らす。

 円盤は何度も体当たりしたものの、障壁を破る事は叶わず、鈍い金属音と共に弾かれる。やがてバリアを突破する事を諦めたのか、目標を切り替えたように方向転換して、今度はさやか達めがけて突き進んでいく。


「だったら、これでも喰らいなさいッ!」


 さやかがそう叫びながら腰を深く落とし込んだガニまたになると、左肩に一門のビームキャノンが出現する。


「おららららららぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 勇ましい雄叫びを発しながら、砲台から秒間十発のビームがフルオートで発射された。いくら装甲が硬いと言えど、直撃すれば無傷では済まない威力だ。


 だが円盤は縦に傾いて刃の側面を相手側に向けると、回転の中心軸となる部分にあった機器でビームを吸収してみせた。


「!?」


 渾身の攻撃を防がれた事に、さやかが呆気あっけに取られた。まさかそのような機能があるなどとは夢にも思わず、ポカンと口を開けたまま棒立ちになる。


「ギギギッ!」


 ソーサーが不気味に笑う。まるで敵の愚かさをあざけるように金切り声を鳴らして挑発する。

 直後光線を吸収した機器が怪しげに赤く輝きだし、そこから一筋のレーザーのようなものが少女に向けて放たれた。

 さやかは咄嗟に右腕で防ごうとしたものの反応が間に合わず、右脇腹を撃ち抜かれてしまう。


「うぐぅぅぅぅああああああああっっ!!」


 少女が悲痛な声で叫ぶ。脇腹が瞬間的にカーッと熱くなり、ビリビリと体が裂けるような痛みが急激に広がり、危うく意識を失いかけた。あまりの痛さに耐え切れず、両手で傷口を押さえたまま地面に寝転がって、ミミズのように激しくのたうち回る。

 レーザーが通り抜けた箇所からは、缶のトマトジュースに穴が空いたように血がとめどなく溢れ出す。


「さやかさんっ!」


 アミカが負傷した仲間の元へと慌てて駆け寄る。ゆりかのように治癒できないものの、それでも気遣わずにはいられない。


「へへへっ……へーきっ……よ」


 さやかは涙目になりながらも、必死にせ我慢して作り笑いする。後輩に余計な心配させまいとする心遣いが、アミカにはかえって痛ましかった。

 傷口はすぐに自力でふさがり血は止まったものの、体力が回復した訳ではなく、消耗はまぬがれない。


「気を付けろッ! こいつら、ただのロボットとは訳が違うぞッ!」


 回復して動けるようになったミサキが、大声で仲間に忠告する。もはやソーサーを量産ロボと同等などとあなどる気持ちは微塵も無く、全力で立ち向かわなければ命を取られる危険のある強敵だと思い至る。

 無論それはさやか達にも分かっており、メタルノイド並みに警戒すべき相手だという認識が胸の内に広がる。


『クククッ……』


 ミサキの言葉を聞いて、ブリッツが不敵に口元をゆがませる。少女に焦りを抱かせた事がほど嬉しかったのか、笑いが止まらなくなる。


『フハハハハッ……ようやく気付きおったか、この大馬鹿どもッ! 元々ソーサーは、メタルノイド減少による戦力の低下を穴埋めするために考案されたものッ! 二十体もいれば、メタルノイド一体分くらいにはなるッ! それを最初から弱いと決め付けて、戦力評価をあやまった事が貴様らの運のツキよッ!!』


 重大な判断ミスを侵した少女たちの浅はかさを、ここぞとばかりに指摘する。完全に優位な立場になれて気を良くしたのか、上機嫌に早口でまくし立てた。


「くっ……」


 図星を突かれて反論できず、さやかが下唇を噛む。相手の言いぶんもっともであり、慎重に行動していれば余計な消耗せずに済んだかもしれない。その事が自分で分かっていただけに一言も言い返せず、余計に悔しかった。


(……このままじゃいけない)


 一連の状況を目にして、アミカが何とかしなければならない使命感を抱く。

 攻め手を欠いたままじわじわと削られれば、この後に控えるブリッツとの戦いで勝ち目が無くなるという考えが、彼女を焦らせた。この場で取るべき一番損耗そんもうの少ない選択肢を導き出そうと躍起やっきになる。


「エア・ライズ……ファイナルモードッ!!」


 捨て身の覚悟を決めると、右腕にある三つのボタンを全て同時に押す。

 全身が金色の光に包まれると、百倍に跳ね上がった速さで敵に向かって一気に駆け出す。


「……シャイン・ナックル!!」


 大声で技名を叫びながら、ソーサーのうち一体に全力のパンチを叩き込んだ。

 殴られた箇所からビシビシと音を立てて円盤に亀裂が走り出す。食べかけたカステラのようにボロボロともろく崩れていく。亀裂はまたたく間に全身に広がっていき、ソーサーは爆発してバラバラに吹き飛んだ。


「シャイン・ナックル……ガトリング・ショット!!」


 アミカは光のような速さで戦場を駆けながら、残り十九個ある円盤に、一体ずつ順番に拳を叩き込む。殴られた円盤が次々に爆発して砕けていく。

 やがて五秒が経過した時全てのソーサーは破壊され、後にはズタズタに千切れた金属片だけが残されていた。


「はあ……はあ……はあ……」


 力を出し尽くして、アミカが疲労困憊する。目はうつろで、呼吸は荒く、手足がガクガク震えている。全身から滝のように汗が流れ出す。気力を振り絞らなければ、立っているのすらやっとの状態だ。


 彼女は強敵ソーサーを無力化するためなら、自分一人が戦えなくなっても……残りのメンバーでブリッツを倒せるだろうと、そうリスク計算をしたのだ。


 その時、ソーサーをここまで運んできたコンテナが突然宙に浮き上がる。ごまを全て失って戦う手段が尽きたかのように、何処かに飛び去ろうとする。


「逃がさんッ! 冥王秘剣……断空牙ッ!!」


 ミサキは両手で握った一本の刀を天に向かって突き上げて、全力で縦に振り下ろす。ブォンッと風を切る音を鳴らしながら、三日月状の斬撃がコンテナめがけて発射される。


 斬撃に貫かれたコンテナは左右真っ二つになり、地面へと落下する。その光景を目にしてミサキがしてやったりとほくそ笑んだ。


「……!?」


 だが次の瞬間起こった出来事に、少女たちが目を丸くした。

 片方のコンテナの断面から、白い発光体のようなものが飛び出したのだ。


 発光体は途中で三つに分かれて小さくなり、フラフープのような形状へと変化する。ゆりか、ミサキ、アミカの頭上に落下してスッポリと輪っかの中に包むと、急激に内側に締まり出す。


「うぁぁぁあああああっっ!!」

「ぎゃぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 ギリギリと物凄い力で締め付けられて、三人の少女が悲鳴を上げる。ミシミシと骨が砕けるような音が鳴り、輪っかが食い込んだ肉から血がにじみ出す。


「みんなっ!」


 一人だけ拘束を免れたさやかが心配しながら駆け寄る。必死に指で引き剥がそうとしたものの、輪っかはとても力ずくでは壊せないほど頑丈で、何の手助けにもならない。


「ううっ……」


 彼女が何も出来ずにいる間に、締め付けられた仲間たちがグッタリする。痛みによって立ち上がる気力を失ったのか、力なく地面に倒れ込む。三人を無力化させて役目を果たしたのか、輪っかもそれ以上は締まらなかった。


「みんな……」


 さやかが今にも泣きそうな顔になる。仲間を救えなかった自身の不甲斐なさと、一人だけ取り残された孤独感にさいなまれて、胸が苦しくなる。


『クククッ……』


 少女が途方に暮れていた時、そのすきに付け入るようにブリッツが彼女の元へと歩き出す。最初からこうなる事が分かっていたと言わんばかりに含み笑いする。


『全てあのお方の作戦通り……ソーサーで連中を疲れさせる事……コンテナに仕掛けたトラップで三人を無力化する事……戦いによって体力を消耗した赤城さやかと俺を戦わせる事……全てだッ!!』


 ここまで彼の上司が立てた筋書き通りに事が運んだ事を明かす。


『舞台は整った……俺とお前、一対一の決闘だ。もう誰の邪魔も入らん。心ゆくまで恋人のように殺し合おうじゃないか……フフフッ。ようやく長年の宿願が果たせる。貴様をバラバラに引き裂いて殺すという、俺の宿願がな』


 ついに復讐を遂げられる嬉しさから、歓喜で言葉を震わせる。


『さぁ数えようか……死へのカウントダウンッ!!』

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