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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
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第164話 人類抹殺計画

 バロウズに捕まった村人達を新兵器の実験台にしようとするメタルノイド……それはかつてさやかに倒されたブリッツだった。新兵器『ヒューマン・デストロイヤー』の殺傷能力は凄まじく、野生の鹿はあっという間にバラバラの肉片にされてしまう。


 行為の残虐さに、村人達の中にいた娘の父親が声を荒らげていきどおる。

 ブリッツはあざけるように笑いながら、彼の娘を処刑しようとする。

 いたいけな少女に悪魔の凶刃が迫った時、赤い影が現れて、処刑を阻止した。


『きっ、貴様は……ッ!!』


 その者の姿を目にして、ブリッツが声を上擦うわずらせた。因縁の宿敵と再会した喜びに、全身をいかずちで貫かれたような衝撃を覚えて、歓喜の震えが止まらなくなる。


 幼い娘の命を救ったのは、他ならぬエア・グレイブ赤城さやかだった。車での移動中、村人が処刑され掛かっているのを知って慌てて駆け付けたのだ。


「さやかーーーーっ!」


 他の仲間も遅れて到着する。ゆりか、ミサキ、アミカ……みな変身済みだ。博士も一緒だった。


 さやかは腕に抱えていた少女を、そっと地面に下ろす。娘は最初状況が飲み込めず、ポカンと口を開けたまま突っ立っていたが、すぐに父親のいる方へと走り出す。


「パパァーーーーーーッ!!」


 大声で叫びながら父親に抱きつく。


「パパ……怖かったよお」


 胸に顔をうずめたまま、ヒックヒックと声に出して泣きじゃくる。よほど怖い思いをしたのだろう……おびえる子猫のように肩が震えている。


「えり子……っ!!」


 父は絶対に離さないとばかりに強く抱き締める。怖がる娘の不安を和らげようと、頭を優しくでる。もう二度と娘に辛い思いをさせまいと決意を胸に抱く。


「貴方がたのおかげで、えり子の命が助かりましたっ! ありがとうございます! 本当に……本当に、ありがとう……うっうっ」


 娘を抱いたままさやか達の方へと向き直ると、何度も頭を下げて、心から深く感謝する。愛する家族の命を救われた事がとても嬉しかったのか、最後は声を詰まらせてむせび泣く。


「まっ、とーぜんの事したまでよっ! なんたって私たち、正義のヒーローですからっ!」


 さやかは腰に手を当てて誇らしげなドヤ顔になりながら鼻息を吹かせる。使命を果たせた満足感に胸を張る。


「それより、いつまでもこんな所にいたら危険よ。あのノコギリ刃とでかいロボットは私たちが食い止めるから、ここから離れてっ!」


 サッと態度を切り替えたように真剣な顔付きになると、今の状況を瞬時に把握して、親子に逃げるようにうながす。


「博士っ! 彼らを一刻も早く避難させて下さいっ! お願いします!」


 この場にいる村人全員を安全な場所まで連れて行くよう、博士に頼む。一人の犠牲者も出したくない少女の切実な思いが伝わる。


「分かった……任せてくれッ! 必ずや全員無事に送り届けると約束しよう!」


 仲間の気持ちをみ取り、博士も強い調子で承諾する。何としても村人を助けたい使命感に駆られた。ここで彼らを助けられなければ、何のために今までやってきたのか……そう思わずにいられなかった。


「あそこに車がめてある! みんな、それに乗ってくれ! 自衛隊の駐屯地まで、私が案内する!」


 博士は離れた場所に停めてあったキャンピングカーを指差して、村人達を先導する。足がもつれて地面に倒れていた男も起き上がり、彼らの後に続く。

 全員が乗ったのを確認すると、博士は運転席に乗り込み、すぐに車を走らす。そのまま荒野の彼方へと姿を消した。


「ふぅーーっ……」


 村人が無事に逃げ延びたのを見届けて、さやかが安堵のため息を漏らす。新たな惨劇を食い止められた事にひとまず安心する。


「さて……と」


 まだやらなけれならない仕事があると思い直して、敵のいる方角へと振り返った。


 視界の先にブリッツが立つ。さやかにとっても因縁深き相手だ。まさか二度も復活するとは思っていなかったが、さすがに一度目ほど驚きは無かった。


『赤城……さや……か』


 男がうわ言のようにその名をつぶやく。展示されたマネキンのようにただボーッと突っ立っていたが、やがてせきを切ったように喋りだす。


『ヒッ……ヒヒヒヒヒッ! ヒヒャハハハハハァッ!! 会いたかった……赤城さやか、会いたかったぞぉっ!』


 歓喜と狂気が入り混じった言葉が漏れ出す。薬物中毒患者のように体をブルブル震わせて、イヒヒヒッと下品な笑いを浮かべて、両手の指でボリボリと頭を激しくむしる。目の焦点が合ってない。完全に正気を失った者の取る行動だ。


『貴様を殺すッ! そのためだけに俺は今一度、地獄から舞い戻ったのだッ! ブリッツ・リボーンズとしてなぁっ!!』


 自ら名乗りながら、因縁の宿敵を抹殺する事を高らかに宣言した。


 戦いの始まりを予感し、さやかが拳を握って身構える。ゆりかとミサキも攻撃に備えようと武器を手にして警戒し、アミカは右腕のボタンに触れようとする。


 ブリッツが少女たちに向かって駆け出そうとした瞬間――――。


『よせ……ブリッツ』


 とてもドスの利いた声が、頭の中に響く。

 男性が発したと思われる声は、ブリッツだけでなく、その場にいる全員に聞こえるように流されており、テレパシーの一種と思われた。

 さやか達は声の主が何処かにいるんじゃないかと慌てて周囲を見回すものの、それらしい人影は見当たらない。


『ここで貴様に暴れられては、周到に準備した作戦が台無しだ……くれぐれも私に言われた通りにやれ。貴様はそのために生き返らせたのだからな……逆らえば命は無い。貴様の体には爆弾が埋め込んである……私がボタン一つ押せば、貴様の体はバラバラに吹き飛ぶのだという事を、決して忘れるな……ッ!!』


 事前に立てた計画通りに動けと、強い調子で釘を刺す。作戦の失敗を恐れたからか、脅迫じみた言葉を部下に浴びせる。


『……』


 上司と思われる者の忠告を聞いて、ブリッツが急に黙り込む。

 それまで薬物中毒患者のような狂人ぶりを見せていたのに、首根っこをつかまれた猫のように大人しくなる。

 しばらく無言のまま立っていたが、恐る恐る口を開いた。


『了解しました……ベルセデス元帥閣下』


 少し不満そうに言葉を重くしながら命令に従う。好きなように暴れたくても、それが出来ない苦悩をにじませた。処刑の可能性を突き付けられて、完全に正気を取り戻したようだった。

 ふんっ! と悔しまぎれに鼻息を吹かせながら、数メートル後ろに下がる。


『今すぐ戦いたいのはやまやまだが、ここで爆死する訳には行かん……赤城さやか、その仲間たちよッ! 貴様らの相手をするのは俺じゃないッ! こいつらだッ!』


 一行から大きく距離を開けると、合図を送るように右手を高く掲げる。

 直後、二十枚の空飛ぶ丸いノコギリ状の刃が、少女たちを一斉に取りかこんだ。


「これは……バロウズの新兵器か!?」


 先ほど村人を殺そうとした物体を前にして、ミサキが戦慄する。

 見るからに殺傷能力の高そうな姿に、油断してはならない相手だと恐れを抱く。

 未知なる存在に警戒したあまり、無意識のうちにジリジリと後ずさる。ひたいから一筋の汗がこぼれ落ちた。


『ノコギリ型の無人兵器ソーサーと、それを輸送するコンテナ……それらをひとまとめにして、ヒューマン・デストロイヤーという呼び名だ』


 ブリッツは一度村人にした説明を、さやか達にも律儀に行う。


『教えても良いとバエル様に言われたから、教えてやる。降伏勧告に従わない国の主要な都市にヒューマン・デストロイヤーを投下して、そこの住人を見せしめに皆殺しにする……それが、あのお方がなさろうとしている計画。あと二ヶ月で、世界中に配備できる数が整う。日本から採掘されるゼタニウム鉱石は、その動力源として必須だった』


 バロウズがやろうとしている人類抹殺、その恐るべき全容が明かされた。


「なんて事を……ッ!!」


 計画を聞かされて、さやかが深くいきどおる。ギリギリと音を立てて砕けそうになるほど強く歯ぎしりする。

 作戦が実行されれば、目を覆う惨劇が引き起こされる事は疑いようが無い。多数の罪なき命が奪われて、大地が真っ赤な血に染められて、この世は阿鼻叫喚の地獄と化すのだ。そのまわしい事実に、全身の血が煮えたぎりそうになった。


「そんな事、絶対させないッ! アンタらの下らない野望は、私がこの手で打ち砕くッ!」


 何としても計画を阻止するのだと、決意に満ちた言葉で宣言する。


『クククッ……出来るものなら、やってみろ! 貴様らがどうあがこうが、ソーサーの刃からは逃れられんッ! 世界が地獄となる光景を見る前に、ここでバラバラになって、くたばって死ぬがいい! 者ども、かかれぇぇぇぇええええええーーーーーーーーいッ!!』


 ブリッツが一行を指差しながら、早口で処刑を命じる。

 指令が下されるや否や、ノコギリ刃がギュィィーーーーンと音を立てて高速回転し、少女たちめがけて突き進んでいく。


 ……新たなる戦いの火蓋が今、切って落とされた。

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