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装甲少女エア・グレイブ  作者: 大月秋野
最終部 「Ø」
163/227

第161話 戦慄っ!地獄将軍ロスヴァルト(中編-2)

 刑務所の囚人を解放しようとした一行は、監獄の支配者ロスヴァルトと戦う事になる。彼の未知なる力に圧倒され、窮地へと追い込まれるさやか達……彼の魔剣から発せられる特殊な磁場が、少女たちの力を一般人レベルまで弱めていた。

 敵の強さの秘密が分かっても、一行には対処のしようが無かった。


 倒れた少女たちの中でただ一人起き上がったさやかは、敵の投げた剣に腹を貫かれて壁に突き刺さってしまう。身動きが取れないまま出血多量になり、心臓の鼓動が停止する。


 勝利の喜びに沸き立つロスヴァルトだったが、彼が剣を引き抜こうとした時、死んだはずの少女が突然動き出した。


「……うぁぁぁぁああああああーーーーーーーーっっ!!」


 串刺しにされたまま手足をバタつかせて暴れる姿に、男がにわかに動揺する。


『なっ、何故だッ! 何故だッ! 何故なんだぁっ! ききき、貴様は間違いなく死んだ! そのはずなんだ! なのに何故生き返った!』


 完全にとどめを刺されたはずの少女が生き返った事に、とても冷静ではいられず、危うくパニックになりかけた。頭を抱え込んでうずくまったまま、「なぜだ」とうわ言のようにわめく事しか出来なかった。


「ふんぐぬぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおーーーーーーーーーーっっ!!」


 さやかがたけり狂う野獣のごと咆哮ほうこうを上げる。剣の刃のはしを両手でガシッとつかむと、力任せに自分の腹から引き抜こうとする。

 少女は死にかけたとは思えない怪力を発揮し、彼女の腹に刺さっていた剣がズブズブと音を立てて抜けていく。やがて刃が完全に抜け切ると、少女は剣を思いっきり地面にブン投げた。


「はあ……はあ……はあ……」


 剣を引き抜き終えたさやかが、辛そうに肩で息をしながら、ガクッとひざをつく。表情には疲労の色が浮かび、目はうつろで、ひたいからは滝のような汗が流れる。

 自由に動ける身にはなったものの、体力の消耗が激しく、気を抜いたら今すぐ倒れてしまいそうだ。とても戦う力が残っているようには見えない。


 そもそも生き返った事が奇跡なのだ。そこからさらに敵と戦おうなど、普通に考えれば絶対不可能な事だった。


「どぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっ!!」


 だが少女の頭に、それを不可能などと考える発想は無い。自身にかつを入れるように腹の底から絞り出した雄叫びを発すると、両足に気合を入れて立ち上がり、ゴリラのようにどっしりしたガニまたになる。


 直後、彼女の体から赤いオーラが炎のように噴き出す。直視できないほどまばゆい光を放ち、足元の土をブスブスと焦がすほどの熱量を発する。

 その場にいた者たちは皆、あまりのまぶしさに目を背ける事しか出来ない。ロスヴァルトもただ呆気あっけに取られて眺めているのが精一杯だった。


 次の瞬間、それは起こった。

 剣で刺された傷口かられ落ちて、地面に血だまりを作っていた少女の血液が、ビデオを逆再生したように傷口へと吸い込まれていく。そして見る見るうちに傷口がふさがっていく。辺りを覆う眩い光が消えてなくなった時、少女の腹は剣に刺される前の状態に戻っていた。


「はあ……はあ……」


 腹の傷が完全にえてもなお、さやかが呼吸を荒くする。傷口が塞がっても体力は回復していないのか、全身ぐったりさせている。それでもさっきより幾分いくぶん落ち着いたのか、二本の足でしっかりと大地に立つ余裕を見せた。


(……さっきから何が起こっているというのだ? 全くもって、訳が分からん。私は夢でも見ているのか? 普通に考えればありえない事だらけだ。まるでゲームか漫画の中にでもいる気分だ。私が今体験しているのは、まぎれもなく現実空間で起こった出来事だというのに……ッ!!)


 目の前で起こった奇怪な現象に理解が追い付かず、ロスヴァルトが深く困惑する。彼の視点では、殺した相手がその場でコンティニューしたように生き返ったのだ。その事実が到底受け入れられなかった。


(だが落ち着け……いいか、落ち着くんだ。一度生き返ったからといって、すぐに二度も生き返れるとは限らん。生き返るにもそれなりに『力』を消耗するはずだ。つまりもう一度殺せば、今度こそあの女は完全に死ぬかもしれんのだ)


 それでも極力冷静になるよう自らに言い聞かせて、思いをめぐらす。少女が疲れている事を根拠として、復活は無限ではないと仮説を立てた。


(……であれば、特に問題は無い。再び殺すなど造作ぞうさも無い事だ。何しろ赤城さやかの身体能力は、魔剣の力によって低下しているのだからな……)


 自らが絶対的優位な状況に立てている事に変わりは無いのだと確信を抱く。少女が復活した直後こそ取り乱したものの、力関係が揺らいでいない安心感で、だいぶ落ち着きを取り戻した。


 ロスヴァルトが合図するように右手を高く掲げると、地面に落ちていた剣がひとりでに宙に浮いて、彼の手へと戻っていく。

 魔剣を手にすると、男は再度とどめを刺すべく少女に向かって走り出す。


『のこのこと殺されるために生き返るとは、頭の悪い女めッ! ならばお望み通り死をくれてやるッ! 二度と生き返らぬよう、その首をねてやろうッ!!』


 死を宣告する言葉を吐きながら、少女めがけて剣を振り下ろそうとする。


 だが剣の刃が触れようとした時、少女の姿がワープしたように一瞬で消える。


『ッ!?』


 敵の姿を見失った事に動揺しながら、男が後ろを振り返ろうとした瞬間……。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーっっ!!」


 彼の背後に回り込んでいたさやかが、勇ましい雄叫びを発しながらジャンプして、体を横回転させた豪快な回し蹴りを放つ。

 彼女の蹴りはロスヴァルトの顔面を直撃し、分厚い鉄板が大きくゆがんだような鈍い音が鳴る。


『グワァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!!』


 狼男が悲鳴を上げながら弾き飛ばされる。思わぬ反撃を喰らった事に困惑したあまり、咄嗟に受身を取る事もままならず、大地に激突して全身を強打した。その衝撃でうっかり剣を手放してしまう。


 それでもすぐに起き上がり、慌てて体勢を立て直す。


『馬鹿な……今のは一体どういう事だ!? どう見ても、普通の女子高生がやれる動きでは無かった! 魔剣から発せられる磁場の影響を受けたはずなのに……ッ!!』


 ロスヴァルトが思わず声に出して焦りだす。

 本来の力を発揮できないはずの少女が、自分を圧倒する実力を見せた事に驚きを禁じえない。


『……赤城さやかのパワーが、十万分の一になっていないッ! 磁場の干渉による能力低下が、発生していないという事なのかッ!?』


 ……それは狼男にとって、決してあってはならない事だった。

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